ザ・グレート・展開予測ショー

横島忠夫奮闘記 63〜ザンス入国〜


投稿者名:ぽんた
投稿日時:(05/ 2/19)

件の標的の名はエウリュアレー、潜伏場所はザンス王国、それは解った。だが幾つかの疑問は残る。

「何でザンスだとヒャクメの千里眼ではっきりと見えないんだ?」
「精霊達の気配が強すぎて遠見を妨害されるのねー」

ヒャクメによれば魔界から逃亡しても本来の力を標的はまだ取り戻していない。魔界とのゲート付近に
いれば自然と回復するがそこは同時に最も見つかり易い場所でもある。次善の策として無属性の精霊の
力を取り込むのが早道という事らしい。人界に呼び出された精霊自体には善悪など無く召喚者の意に
従って力を振るうのみ。そこで召喚してからそのエネルギーを吸収する事によって徐々に回復してるらしい。

「なるほどね、じゃあまだ本調子じゃない訳だ。後は何で俺が特に気にしなきゃならないんだ?」
「アイツが真っ先に狙う可能性があるのがお前だからだ」

横島には訳が解らない。顔も知らないような相手から命を狙われるような覚えはあんまり無い。はずだ。
ワルキューレの説明によればその脱走魔族には他にも姉妹がおり姉は別の場所に収監されている。
だが妹は神魔界の手配を逃れ自由に行動していた。そしてこの姉妹間には強烈な感情であれば互いに
感応する事があるそうで、例えば断末魔の瞬間に見た光景などは距離等に関係無く伝わるそうだ。

「断末魔の瞬間に見た光景って?」
「例えば自分を殺した相手の顔だな」

確かに殺される瞬間の無念の気持ちは最も強い感情だろう。そして目の前に自分を殺した相手がいれば
どれほど強い恨みを込めて見るだろうか。その光景を受け取ったのであれば絶対に忘れられないだろう。

「奴がこの一年で口にした言葉の中で出て来た固有名詞はただ一つ、“ヨコシマ”だ」
「はあ? ちょっと待てよ。 そんな奴から恨まれる覚えなんか無いぞ?」

まるで身に覚えの無い濡れ衣を着せられたような気がして思わず反発の声があがる。

「そうか? ソイツの妹の名は“メドーサ”と言うんだが、それでも覚えは無いか?」
「なっ?」

覚えが無いどころではない、魔族とはいえ自分の手にかけた唯一の“女”だ、しかも二回も。
後味が悪くはあるが後悔はしていない。一度目は美神を守る為、二度目は“彼女”の身を呈した
牽制を無駄にしない為に躊躇無く殺した。それを恨んでいるのであれば確かに相手にはその権利がある。

「なるほど? 妹を殺された姉ちゃんが復讐の為に脱走したって訳か?」
「まさか、そんな姉妹愛などがあいつらにあるものか」

復讐では無く汚名返上らしい。人間如きに遅れをとった妹のせいで自分までが軽く見られたりしない
ように行きがけの駄賃代わりに横島を殺そうとしている。殺すための脱走ではなく偶然脱走出来た
後のついで程度だそうだ。妹を殺した相手を自分が殺して自分の方が上位である事を証明する。
何とも身も蓋も無い言い草だがその三姉妹の過去の悪行がそれを裏付けるそうだ。

「つまり放っておいてもお前を狙いに日本までやって来る。待ち伏せも可能になるがどうする?」

ワルキューレが試すように問い掛けて来るが答は初めから決まっている。

「何時来るか解らない襲撃を待つような度胸は俺には無いよ。それに狙われるよりも
狙う側の方が立場は強い、速戦即決で行こう」

横島が最も恐れるのは不用意に時間を掛けすぎて他に犠牲が出る事だが、それを言うとまるで自分が
正義の味方のようでこっぱずかしいし、先の発言部分は本音でもある。居場所が解っている以上は
先手を取った方が優位に立てるのは間違い無い。逆に罠を仕掛けられる可能性もあるが、それを言ったら
何も出来なくなってしまう。同じだけの危険があるなら攻勢に出た方が心理的にも楽だ。

「ふむ、では私はザンスに先入りして待っていよう。お前らが到着次第合流する」

そう言い残すとワルキューレの姿がかき消えた。転移したのだろうか。
そうであれば三人もグズグズはしていられない。すぐに行動しなければ。

「老師様、どうでしょう? ここと下界とを亜空間ゲートで繋いでは?」

突然小竜姫がそんな事を言い出した。妙神山への道のりが楽になるのは歓迎だが小竜姫が
言い出した理由が解らない。当然の如くその理由を問い質した処意外な理由だった。

「私は是非六道さんを徹底的に鍛えたく思います。それだけの可能性が彼女にはあります。
その為にも下界との距離と時間を短縮したいのですが」

まさかそこまで小竜姫が冥子の事を見込んでいるとは思いもよらなかったが妙神山への
道のりが楽になるのは願ったり叶ったりだ。ここは尻馬に乗るべきだろう。

「じゃあ、六道除霊事務所に繋げたら良いんじゃないスか?」

事務所と妙神山を繋げばそれこそ近所感覚で来れるようになる。
雪之丞も同意見のようで無言のまま何度も頷いている。後は張本人の承諾だけだ。

「私が〜強くなれば〜たくさんの人を守れるように〜なるのかしら〜」

冥子がここまで強くなった原動力がはっきりと解るような質問だった。守られるだけでなく
力の及ぶ範囲で大切な人を守る。その範囲を広げる為に強さを欲した。ある意味横島と
似たような出発点だ、その問いに対して小竜姫は無言の頷きを返していた。

「だったら〜冥子がんばる〜、お願いしますね〜小竜姫様〜」

冥子の同意もあって話はまとまった。小竜姫の修行時の過激さを良く知る横島としては
若干心配な面も残るが本人が決めた以上は口出しするつもりは無い。
斉天大聖の力で亜空間ゲートを繋ぎ、通過出来る人間の霊体コードの登録になった。

「老師様ー登録はこの三人だけで良いのねー?」

技術担当のヒャクメからの質問に対し斉天大聖の答は直球ではなかった。

「他にも何人かおるじゃろうが、気を利かせんかい」

斉天大聖の答は解り難い、いっそ誰と誰を追加しろと言えばヒャクメも助かるのだろうが
そこまで言うつもりはないようだ。結局ヒャクメは熟考の末、タマモのみを追加した。

「ふうむ、横島の弟子はワシの孫弟子でもあるんじゃがのう、まあ良かろう」

その言葉を聞いてヒャクメが焦ったような顔で横島の方を見るが別に文句を言うつもりは無い。

「あの二人はいつか力を付けて正面から鬼門の試しを突破する。その時で良いから
二人のコードも追加登録してくれるかヒャクメ?」
「解ったのねーその時は私が責任を持って登録するのねー」

結局六道除霊事務所とのゲートを通れるのは事務所メンバープラスタマモになった。
三人がゲートを通って帰って行った後で小竜姫が斉天大聖に尋ねかける。

「老師様、貴方の分身と闘えたのであれば三人は勝てますよね?」
「さてどうかのう? ワシの分身は本気で闘ってはおらんからの」

斉天大聖は自らの分身に自身の半分程度の強さを与えはしたが本気で闘わせた訳ではない。
三人に自信をつけさせる為にまぎらわしい言い方をしただけだ。

「それでは過信して却って危険ではありませんか?」
「過信? 横島がか?」

小竜姫は弟子の身を案じて師匠に苦情を言うが、確かに横島が“過信”するのは考え難い。
自分の実力を過小評価しがちな横島であれば、その方が良いのかもしれない。

「まあ負ける事はあるまいよ、無傷かどうかは解らんがな」

斉天大聖の言葉を聞いて、後は黙って待つしかないと肝に銘じつつ無事を祈る妙神山の面々であった。




事務所に帰りついた三人は互いに顔を見合わせていた。

「結局俺達どんくらい修行してたんだ?」

雪之丞の問いを受けてテレビをつけたり電話を掛けたりした結果、ほぼ一日という事が解った。
後はザンスへと渡航する準備をするだけだ。パスポートは全員が持っているのでチケットの手配のみ。

「ザンスって誰でも入国できたっけ?」
「それは無理だけど〜六道の名を使えば〜何とかなるわ〜」

一時の鎖国のような状態こそ脱したものの誰彼かまわずに入国できる訳ではない。
不法入国の手段が無い訳ではないが、避けられるなら避けるべきだろう。
冥子があちこちに電話しているのをボケッと見ていると、手配が終わったらしく
三人で夜中に空港に集合する事になった。

「んじゃ一旦パスポート取りに帰るか」

そう言って解散しパスポートを取りに家に帰る事にした。全員海外への渡航経験があり
まだ有効期限内だった為、面倒は無かった。横島と雪之丞が家に帰り着いた時、まだタマモは
学校から帰って来ていなかった為、食事の準備だけして一休みする事にした。(雪之丞は見ていただけ)

やがてタマモが学校から帰って来て三人で夕食にした。(銀一は仕事)
その後お茶にして寛いでいる時にタマモが話し掛けて来た。

「でも夜中に空港で待ち合わせって便があるの?」
「さーな、時差の関連もあるし所長が言うんだから大丈夫だろ」

時間に関しては確かに気になってはいたが冥子が言う以上は大丈夫なのだろう。
二人共冥子ほど海外渡航に慣れている訳ではない。
結局ほど良い時間まで三人で歓談した後、空港へ向かう事にした。

「絶対に無事に帰って来てよ」
「心配すんな、俺達は無敵だ」
「帰って来たらおキヌちゃんがご馳走作ってくれるってさ。楽しみにしてろよ」

タマモの見送りの言葉にそれぞれが力強く応え出掛けて行った。
空港に着くと冥子が出迎えてくれてそのまま案内された。
てっきり航空券でも渡されるのかと思っていたらそのまま出国手続きを済まさせられた。
そして目の前に小さ目のジェット機が鎮座ましましている。機体の側面には“六道”の文字が入っている。

「おい横島、これってまさか」
「ああ、六道家ってのは何でもアリだな」

どうやら六道家所有の飛行機らしかった。いったい何処まで金持ちなのやら、庶民派の
二人には想像もつかない。僻んでも仕方が無いのでせいぜい寛ぐ事にした。
機内にはホームシアターも完備されていてメイドさんまで控えており至れり尽せりだ。
贅を尽くした食事などが出てきたが味覚を封じられたままなので相変わらず味は解らなかった。

「あ〜しまった、老師に味覚戻してもらうの忘れてたな」
「まあ死ぬ訳じゃねえし、帰ってからで良いだろ」
「でも〜早く美味しいご飯が〜食べれるように〜なりたいわね〜」

結局味わう事もできぬまま腹を満たし、後はひたすら眠っていた。
ひたすら眠り、体力を回復させた頃ザンス空港に到着し、すぐに入管を抜けた。
合流する予定のワルキューレを探しているといきなり黒服の集団に囲まれてしまった。

「失礼、ミス六道とそのお連れの方ですね。主がお待ちですのでこちらへおいで下さい」

突然囲まれた挙句に随分勝手な言い草ではあるが、入国早々揉め事を起こすのは本意ではない。
それに自分達を囲んでいる相手の動きは集団として統制が取れており、軍か警察のような匂いがした。
そしてそんな思考と関り無くのほほんと素直な人もいる。

「解りましたわ〜案内して下さいな〜」

冥子が決めた以上は従うしかない、二人は後について行ったが無論の事気は抜かなかった。
車に乗せられる時に目隠しをされそうになったので抵抗しようとしたが、肝心の冥子が
アッサリと従っていたので二人も渋々とおとなしくしていた。
そう遠くない場所へと連れて行かれ目隠しを外されると室内には10名以上の女性と中央に
その主らしい人物が座っていた。横島にとっては因縁のある女性、キャラット王女である。

「六道サン、礼を欠いた招待を受けていただいて感謝します。ザンス王女キャラットです」
「いいえ〜とんでもありませんわ〜、こちらから事前に連絡していた件でしょうか〜?」

日本から何かをザンス王室宛に連絡していたらしい。一時期鎖国状態だったザンスにまで
太いパイプを持っているとは流石は六道家といった処だろうか。
冥子の方から来訪の目的を事前に告げておりザンス国内での行動の自由を要求していたそうだ。
ザンス側としても異存は無いそうだが一つだけ条件を付けてきた。即ちザンス人を何名か
同伴して行動するようにとの事だった。王女の発言を受けて2名の女性が進み出て来た。

「初めまして、私は王女付き親衛隊長のレジャー・ソリスです」
「同じく親衛隊副長、ジェイン・ランドールです」

「六道サン、この2名を貴女方に付けます。ザンス内では一緒に行動してもらいますカラ」

「えっと〜お心遣いは〜ありがたいんですけど〜危険ですから〜」

冥子の言葉は歯切れが悪い、王女付きの親衛隊の幹部ともなればそれなりに腕は立つだろうが
魔族が相手では気休めにもならない。さりとてダイレクトに言えば角が立つ。
なんとか穏便に断りたかったのだがその思惑をブチ壊す人間は幾らでもいる。

「危険を恐れては騎士の務めなど果たせません」
「さよう、この地に魔族が跋扈しているのを放置したとあっては精霊騎士の名折れ」

「ん〜っと〜そうじゃなくって〜」
「はっきり言ってやったら良いじゃねえか所長、足手纏いはいらねえってよ」

思考の硬直した騎士とデリカシーの持ち合わせのないバトルジャンキー、この組み合わせの
前に冥子の気遣いは木っ端微塵になった。ある意味当然の帰結ではあるが。

「なっ?」
「我々を侮辱するつもりか外国人?」

レジャーとジェインが気色ばんで詰め寄って来るが雪之丞は何処吹く風だ。

「ああ? 足手纏いを足手纏いと呼んで何が悪い? 雑魚の出る幕じゃねえんだよ」

言い方は乱暴だがこれは雪之丞なりの気遣いだ。見た処確かにそれなりに腕は立つのだろうが
魔族と闘えるようなレベルにある者など一人もいない。ついて来た数だけ死体になるのがオチだ。

「異国の方よ、騎士の同行がなければザンス内での行動は認められませんカラ」

場を取り成すように王女が口を挿むが雪之丞には関係無い。ワルキューレと落ち合う約束は
してあるし竜神の装具を用いて空を飛んで撒いてしまえば良いぐらいにしか考えてない。

「王女、俺が同行する事で代わりにする事は出来ませんか?」

険悪な空気を解消する為に横島が口を挿んだ。騎士の同行が条件なら横島も資格を満たしているはすだ。

「久しぶりですね横島サン、貴方は騎士資格を譲渡したという報告を受けていますが?」

ナルニアでの件が耳に入っているのだろう王女から否定的な答が返って来た。

「セアラさんから聞きましたか? ならば義務まで返上してはいない事も聞いているはずですね?」

横島としてもここは退けない、何とか三人だけでの行動を認めさせなければ余計な犠牲が
出かねない。だが横島の心配りは当の相手から引っくり返される事になる。

「貴様が自ら進んで騎士資格を返上した愚か者か」
「そんな男に騎士としての行動など認められる訳がないだろう」

口々に語られる横島への侮辱に本人以外から怒気が立ち昇るがここで激発されたら台無しだ。
仕方無く相手の怒りが一身に向かうように挑発する事にした。相手から進んで喧嘩を売らせる
のは得意中の得意だ。淀み無く相手を激怒させる言葉が横島の口から流れ出る。

「いやそんな事言われてもな〜、ぶっちゃけアンタら全員よりも俺一人の方が強いし」
「決闘を挑まれたと解釈して良いんだな!?」

こんな侮辱を聞き流せるようでは騎士など務まらない。名誉やプライドを重んじるような
輩には真っ向からそれに泥をかけてやれば良い。身近にいる貴族気取りの公務員への対処で
横島はその事を学んでいた。尤も当の公務員はここまで簡単には挑発には乗らないが。

「横島サン、無意味な挑発は控えて下さい。外国人と精霊騎士の私闘など許可できませんカラ」

王女の言葉に親衛隊の面々が悔しそうに唇を噛締めている。王女の言葉は絶対なのか
それ以上不平を洩らそうとはしないようだがそれでは元の木阿弥だ。もう一段階怒ってもらう。

「騎士同士の手合わせなら問題無いでしょう? これは私闘じゃなくて指導ですよ、未熟者に対するね」

ここまで言われて我慢が出来る訳が無い。親衛隊の面々は口々に王女に闘う許可を求めていた。

「本当に挑発がお上手ですね、解りました。貴方があの戦役で果たした役割は大体聞いています。
正直今の貴方の実力には個人的に興味もあります、実戦形式の稽古という事で許可しますカラ」

キャラット王女は横島の記憶にある姿より数段大人びているようだった。初めて外の世界を
知り、王国の危険を経験して急成長したのだろうか。

王女の計らいで騎士の修練場に移動して対戦する事になった。最初は隊長・副長の二名と
闘うように言われたが一度で済ませたかったので全員(12名)で掛かって来るように言い放って
念入りに挑発しておいた。最早完全に逆上しているので初手から全力で来てくれるだろう。

(おい横島テメエ一人で美味しい処持って行きやがって、俺にも噂の精霊獣とヤラせろよ)
(あのなー怪我させると後々マズイだろ? 俺の方が手加減巧いんだから今回は譲れよ)
(本当よ〜痛くないように〜優しくしてあげてね〜)

移動途中の内緒話であるがこんな内容を聞かれた日には頭から出る湯気が噴煙に変わっただろう。
修練場にて対峙する、相手は親衛隊総勢12名。全員が既に精霊獣を出している、横島にとっては
願ったり叶ったりだ。そもそも精霊獣とは精霊の力を鬼神の形に具現化したものであり
実際の操作は使役者の霊波によって行う、ある意味式神との共通点も多い。

「それでは、これは飽くまで稽古という事を忘れずに遺恨を残さない事」

王女から最後の念押しが為されるが殊勝に頷く隊員達と違い横島は大きく欠伸をしている。
ここまでワザとらしいと良い加減気付きそうなものだが一旦逆上して視野狭搾に陥ると
そんな事も解らないらしい。流石に隊長と副長は気付いているようだったが。

「はじめ!」

王女の掛け声と共に一斉に精霊獣達が襲い掛かって来る。こうなると隊員達に引き摺られる
ような形で幹部も参戦せざるをえない。同時に全方位攻撃をした方が効果的なのは間違い無い。
上下前後左右から押し包むような一斉攻撃、逃れる術は無いはずだった。彼女らの知る限りでは。

「霊波の流れを断ち切らしめよ、急々如律令」

横島にとっては至極簡単な事、かつて六道邸において暴走しかけた冥子から一時的に式神の
制御を奪ったのと同じ技。使役者からの霊波を遮断して制御不能に陥らせ使役不能にする。
これなら誰一人として怪我人など出ない。だがこのまま返してまた挑み掛かられても面倒なので
相手に返さずに一時的に封じる事にした。懐から霊符を取り出す。

「永遠の静寂より来たれ、氷精召喚」

浮遊している状態の精霊獣達を氷付けにして封じておけば横島達の仕事が終わるまではもつだろう。
親衛隊一同は声も無い、機械文明に毒された国からやって来た外国人が精霊を使役して
自分達の力を封じたのだ、彼女らの常識ではありえない事だった。全員顔色が悪くなっている。

「それまで、勝負ありです」

王女の声にも誰も反応する者すらいない。

「え〜っとこれで納得してくれたかな?」

根こそぎプライドを砕いておいて納得もクソも無いのだが当然ながら誰からの返事も無い。

「ザンス王女キャラットの名において貴方達三名の行動の自由を保証します。
対魔族戦でも武運がありますように、汝等に精霊の加護があらん事を」

唯一キャラット王女のみが反応して横島の欲しかった確約をくれた。これでもう用は無い
のではあるが親衛隊の余りの落ち込みように流石に気の毒になってきた。

「なあレジャー隊長だっけか? アンタら騎士ってのは何の為に存在するんだ?」

唐突とも言える横島の問いに律儀に答を返して来る。

「我々は王家を守る盾となり、民衆の為に剣を振るう、それこそが騎士の誉れ」
「要は適材適所って考えてくれないかな?」

横島としてはなけなしのフォローだけでも入れておこうというお節介だ。

「俺達は魔族相手のエキスパートだ。アンタら騎士は国の為に闘い、俺達プロは
金の為に闘う。そして何が相手だろうが必ず勝つ、そういうもんだと割り切ってくれ」

横島としてはこれ以上言い様が無い、他に何を言えば良いのか思いつかないし言うつもりも無い。
初対面の人間にこれ以上気を遣うよりも用件を済ませて日本で心配しながら待っている者達を安心
させる方が優先だ。自分はこれ以降さぞや嫌われるだろうが二度と会う事も無いだろうから問題無い。
後はワルキューレと合流して標的を仕留めるだけだ。それが一番難しいという話もあるが。




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(あとがき)
進みませんでした、超難産です。ザンスでの話がここまで書きにくいとは。
あと前話でのコメントで強さのインフレという話がありましたが一応南極での
対パピリオ戦を参考にしてあります。あの時前衛を務めたのが雪之条・ピート・マリア
これは今の横島と雪之丞で充分以上に代用可能。守りに関しては防御ではなく回避に
重点を置いて残りの力は総て攻撃に廻すので行けるんじゃないかなと思いました。
如何でしょう?

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