ザ・グレート・展開予測ショー

吟詠公爵と文珠使い16


投稿者名:アース
投稿日時:(05/ 2/18)

後ろからかけられた声。
振り向いてみると、ステッキを片手に、穏やかな微笑を浮かべる老人。この周辺に住んでいるのだろうか。
話している言語はドイツ語らしいので、やむなく『訳』の文珠を用いて通訳する。

「ええ、ちょっと気になりますね。なぜフードで顔を隠しているとか、鎖が巻きつけられているのとか、名前が無いこととか・・・・」
この魔神の像についての、奇妙な点を述べる横島。

「さあ・・・・・詳しいことは存じ上げませんが、この魔神を造る担当だった彫刻家は、どうしてもこの魔神の顔が、思い浮かばずにやむを得ず、フードで顔を隠し、また鎖をつけたのは頭の中に、そういったイメージが浮かんだためだと聞いております。加えて、名前が削り取られているのは、発狂した彫刻家が名前を削り取ってしまったためだとも・・・・」老人は、変わらず、柔和な人好きのする笑みで答える。


「ご親切に、ありがとうございます。ところで、貴方は・・・・」礼を述べると同時に、相手のことについて、尋ねてみた。

「ちょっとした旅行で、こちらの方へ足を運びました。神々の伝説といったことをたずね歩くことを、老後の趣味にしております」頭に乗せていた黒帽子をチョコンと上げて挨拶する。

成程、旅の途中で『魔神教会』の噂を聞きつけて、やって来たというわけか。

「そうでしたか。俺は、何となく魔神の像に呼ばれたような気がしたんですよ」横島は、率直な感想を口にする。

そう、まるで自分の中から、声が響いたようだった・・・・・

「ほう、それは凄い。一説にはこの魔神は、ソロモンの魔神の中でも指折りの実力者で、時には七つの大罪の一つを背負う魔王の一人にも数えられるとか・・・・」老人は、穏やかな微笑を浮かべながらも熱を持った声で応じる。やはり、神々の伝説に関する話は興味を隠せないのだろう。


そんな会話を繰り広げる二人を横目に、タマモは彼の魔神の像を見上げた。フードに隠れて、顔は鼻から下の部分しか見えないが・・・・・

(この魔神の鼻からあごにかけての輪郭、横島に似ているかな・・・・)
横に立っている彼を見上げる。やはり、どことなく似ている。

同時にどこか、悲しみをまとった空気も。

(まさかね・・・・・・)
いくら何でも『そんなこと』はありえないだろう。だが、彼女の考えは見事に的中していたのだが・・・・・


一方、老人と会話しながら横島は・・・・・

『お前は何を求めているのか・・・・』

目の前の魔神の像から、いや自分の中から、沸きあがってくる問いに困惑していた。

(俺は何のために生きるのか・・・・・誰と共にありたいのか)

それはあの戦い以降、『彼女』を失ってから度々起こる疑念。それが、この場でも問われている。

『俺は―――――』
心の中で、葛藤が続く中・・・・・

「・・・島、横島!!」
気遣わしげにかけられる声で我に返る。

「どうしたの。顔色が真っ青で、汗びっしょりよ!!」
自分達が、無理に連れ出したせいでは無いかと、心配するタマモに対し・・・・


「ああ大丈夫だよ・・・・」安心させるように、笑みを浮かべる。もっとも、その笑みも引きつったものにしかならなかった。

「空気が悪いのかもしれません。外に出て空気を吸ってこられては?」老人からも、心配げな声がかかる。

「そうですね。ご心配ありがとうございます。これで失礼しますんで」横島は
タマモと共に、一礼する。
老人も、黒帽子を胸の前において礼を返した。



(俺は、一体どうするのか・・・・)
答えが出るのだろうか。それはわからなかった。



さて、二人を見送った後、残された老人は・・・・・

「あれが、横島忠夫か・・・・・ゴモリーの奴が気に入るわけだな」
先程とは打って変わった口調。いつの間にか姿も、老人から、大体二十代の男のものへと変わっていた。
今日、ここへ来た目的は『旧友』の墓参りだったのだが・・・・・思いがけず、面白い存在に出会えた。

ヒュウンッ 

ステッキも、一瞬で銀色に輝く大鎌に変わっていた。
それなのに、周りの人間達は全く気づいていない。これでも、魔界の最高検察官、ほいほい見破られることは無い。

「さて、アシュの奴を祭ってるとこなんて、ここ以外無いからなあ・・・・」魔界でも、アシュタロスは大勢に刃向かう反逆者であり、墓を建てるなど許されることでは無かった。

人界に、このような教会があると聞き、激務の合間をぬってやって来たのだが・・・・

幸いなことに位置関係から言っても、フードの魔神とアシュタロスの像の場所は近く、大した手間も無く、アシュタロスの像を見つけることが出来た。

『恐怖公』の像を見上げる。像は、左手に蛇を、右手に剣をそれぞれ持ち、地獄の龍にまたがって彼を見下ろしていた。


「全く、『アイツ』に続いて、お前まで居なくなりやがって・・・・腹を割って話せる奴が少なくなったぞ、今の魔界は・・・・それと、お前の娘二人は、元気にやってるよ・・・」懐かしげに愚痴を叩き、近況を述べる。べスパとパピリオの処遇について決定したのも、彼だった。

今日は、べスパからも彼に花を供えてほしいと頼まれたのだ。

(花を供えるなんぞ、柄じゃないんだが・・・・) 
それでも、花を用意している辺り、この魔神の性質がうかがえる。

ちなみに『アイツ』とは、フードの魔神のことなのだが・・・・・

(そういや、俺の像もあったんだよな・・・・もうちょっと格好良くしてくれても・・・)
彼自身も、ソロモンの魔神の一柱として、自分はあんなに不細工では無いと抗議したいところだった。


「あと横島の知り合いには、優秀なネクロマンサーがいたんだったな。そっちの方にも興味あるな・・・・」

魔族の中では珍しく、彼は優秀なネクロマンサーだった。魔族と人間のネクロマンサーは、細かい点で異なるのだが・・・・

(今回はちょっと会うのは無理か・・・・・また今度でいいか)


今回は、墓参りに来ただけだし、魔界で拘留中の『彼女』についての処遇も決定しなければならない。

既に、そのことについては、軍の情報部から引き抜いた新しい部下のジークを向かわせている。

(あのまま死なせるには、惜しいからな。出来れば引き入れて密偵として働いてもらいたいが・・・)

彼女がなぜ、アシュタロスに与したかの理由もつかんでいる。これを前面にだして、司法取引を持ちかけるか・・・・彼女のプロ意識を刺激するか・・・・

思案に暮れていると・・・・・

ふと、愛用の銀の懐中時計を見れば、もう時間が迫ってきていた。

「ああ、もうこんな時間か。早く戻らんと・・・・」

そして彼の姿は、いつのまにか煙のように掻き消えた。

彼が去った後・・・・・・

アシュタロスともう一柱の魔神の像の前には、花が一輪ずつ供えられていた。




後書き ジークフリード大出世。一介の少尉から、最高検察官直属の秘書官へ・・・・姉より出世しています。
そして、ただの老人ではありませんでした。『彼』は後にネクロマンサー繋がりでおキヌちゃんと重要な関わりを持ちます(彼女には、これからの戦いで強くなってもらわねば・・・)彼の正体は、わかる方にはバレバレです。魔界の最高検察官とか、ネクロマンサーとかで・・・・・ついに、蛇女復活の兆しが・・・・(コギャルバージョンがいいかな) 


ちなみに『彼』の持つ大鎌は、武器にもなり、ネクロマンサーにも使われます。(別名『死霊の横笛』)キルバーンの『死神の笛』みたいな奴です。



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