ザ・グレート・展開予測ショー

吟詠公爵と文珠使い15


投稿者名:アース
投稿日時:(05/ 2/18)

目の前の光景に一同思考停止。横島が、見知らぬ女に膝枕されている。

ここで、各人の反応(人じゃ無いのもいるが)
動揺し、戸惑いまくる女性陣。ガッツポーズを密かにとる某公務員。

女性陣の中で、最も早く立ち直ったのは、強欲が代名詞のボディコンGS。

「丁稚の分際で、女を垂らし込んだかあ――――!!!」
(いや、こいつにそんな甲斐性無いって)そんな作者の突っ込みも意に介さず・・・・

ブオオオオオン!!
神通鞭が空気を切り裂く。

表向きの理由は、丁稚が犯した不順異性交遊への制裁(彼女的に大決定)、本当は小学生以下の嫉妬心から、美神は神通鞭を振り上げ・・・・・しかし、それと同時に、砂川は側に置いてあった魔剣を抜き放ち、一瞬で間合いを詰め、美神の手から神通鞭をはじき落とした。さらに美神の喉元に、魔剣を突きつける。


「何するのよ!!!」激昂する美神に対し・・・・
「それはこちらの台詞だ。自分を助けに来て、これ程の傷を負った者に対する仕打ちがそれか?」
砂川の声は、あくまで静かだが、魂を底冷えさせるような冷たさがあった。
心なしか、二人の時間を邪魔されて、怒っているように見えるのは気のせいだろうか。

シ-―――――――ン
数秒間、炎と氷がぶつかるような重圧が押し寄せるが・・・・・


砂川の言っていることは正論であり、グウの音も出ない美神。美神が黙ったのを見て、彼女は魔剣をしまう。既に、美神に背を向けて、見向きもしない。

(助けに来てもらったのは、ありがたいけど、気に食わないわ。あの女)
ある意味、魔鈴と同等に気があいそうに無い。しょっぱなから、彼女達の仲は険悪となっていた。


一方の砂川は、気遣わしげに横島の様子を見た後、自己紹介の為に、おキヌ達の方へ歩いていった。




砂川との自己紹介を済ませたおキヌ達は・・・・・

「凄いでござる。美神殿を封じた無駄の無い動き、剣の技。拙者、感服したでござる」素直に砂川の見事な動きに、感心するシロ。

(この砂川志保って女。只者じゃないわ、恐らく頭も相当切れる)
声には出さないが、相手の底知れなさを認識するタマモ。

(この人、凄い。美神さんと真っ向から渡り合ってる。私にはあんなこと出来ない。それに、とても綺麗でスタイルも良くて・・・・)
美神と互角以上に渡り合える女が、百合子以外にいたことに驚愕し、様々な意味で劣等感を抱くおキヌ。


確かに、彼女の美貌には文句のつけ様が無い。腰まで届く薄茶色の艶やかな髪。切れ長のはっきりした目。スタイルも抜群で、モデルといっても通用するだろう。さらに、黒いスーツを完璧に着こなし、ギスギスした雰囲気も無い。

(横島さんとの関係は・・・・・私達の知らない二週間の間に何があったんだろう)
またも、暗い思考に陥りかけるおキヌに・・・・・

「それはそうと、横島にヒーリングをかけてやらなくていいのか? 生憎、私は治療系は専門外で、応急措置しか出来ん」

思考の迷宮に陥りかけたおキヌを助けたのは、落ち込む要因となった砂川の声。

「あ、はい。すぐに行きます!!」
既に、横島にヒーリングを行っていたシロタマに続き、慌てて駆け寄る。

(ごめんなさい。横島さん、私達の為に、こんなに傷だらけになって・・・・・助けに来てくれただけでも嬉しかったのに・・・・)
暗い霧を振り払うかのように、ヒーリングを施すおキヌ。


(いい娘だな・・・・横島は心配無いだろう。後は・・・・)

砂川はそんな彼女から、美神と西条の方へ視線を移した。
「とにかく、日本に戻ったら、先生が令子ちゃんとじっくりと、『親子の語らい』をしたいそうだ」一部分を強調する西条。
「そんな、嫌よ!! 今回は準備も抜かりなくやったわ!! 事故が重なって仕方無かったのよ」往生際の悪い自己弁護を続ける美神に対し・・・・・

「先生は、不用意に依頼を受けて、その為に他の仲間を危険に晒したことに怒ってるんだよ」静かに告げる西条の声にも、僅かに怒気が混じっている。

ここは美神の兄役として、キッチリしておかなくてはならないところだった。甘やかすだけでは、『お兄ちゃん』の資格は無いし、その先に進むなど話にならないのだから・・・・

美神は西条の胸に顔をうずめて、泣きじゃくる。西条は美神の頭を撫で、背中を軽く叩いた。まるで、子供をあやすように・・・・・または妹を励ますように・・・・

そんな二人を冷静に観察する砂川。

(どうやら、横島が絡む時だけ、おかしくなるらしいな、この男の場合)
思えば、部下に対する面倒見も良く、横島とのイザコザさえもレクリエーションじみたところがある。最初は、ガラス細工のように、脆い男だと思っていたが、どうやら違うらしい。

いや、ガラスはたとえ砕けても、熱で溶かせばまた使える。そうやって、何度でも立ち直る。

『不屈のガラス細工のような男』。それが、砂川が西条に下した結論であった。


そんな中、横島のヒーリングも終わり、Gメンの隊員達が、用意した担架に彼を乗せ、運び出していく。横島は担架の上で、のんきにも寝息を立てている。


そんな彼の姿を見て、一同から笑いが漏れる。どれほど、彼の存在が大きいかがわかる。


何にせよ、『ブレジ銀山事件』は解決した。鉱山内の主とも言えたグレーターデーモンを、圧倒的に上回った『何か』の正体については謎のままであったが・・・・・・


そして、この事件こそが、横島や砂川を始めとする者達の運命が変わる序曲でもあった。


事件解決から、二日後。大事を取って休養し、明日には帰国しようという日の朝。

美神達旅行組も、横島達が宿泊したホテルに部屋を取っていた。部屋割りは、美神とおキヌ。シロとタマモ。そして、横島と西条の男二人。砂川のみが一人部屋であった。


一同、揃っての朝食の席でのこと。
既に、この時点で全快しているのは、犬神族のシロタマコンビ。本来は魔神である砂川。そして、人外の生命力を持つ横島であった(ある意味、こいつが最強なのだが・・・・)


「ソロモンの魔神の像をまつった教会? 珍しいものがあるのね-――」パンを頬張りながら、美神が呟く。
「ソロモンの魔神ってなんでござるか?」純和風(微妙に違う)のシロにしてみれば、知らなくても無理はないかもしれない。
「二千年以上前に、ソロモンっていう王様が、七十二柱の魔神を封じたり、使役したりしたのよ。その魔神達のことよ」苦笑交じりに、美神が答える。

「凄い方が居たのでござるな-――」
彼女達の会話に反応する者が一人。無論、当の魔神ゴモリー。

(確かに、奴はとんでもない男だったが・・・・)
無論、昔を懐かしむ砂川志保であった。

本来ならば、教会に魔神の像を置くなど、暴挙もはなはだしかった。そうなった経緯としては、ある魔神崇拝の秘密結社が、当時随一の彫刻家達に造らせたのだが、余りの出来栄えの見事さ故に、同結社が当局に摘発された後に教会が引き取ったということだった。

「見てみたいでござる。ここ二、三日、退屈でたまらなかったでござる」退屈さに飽き飽きしていたシロ。
「そうね。私も興味あるなあ・・・・」クールな口調ながら、興味を示すタマモ。

二人とも、どちらかと言えば東洋系であり、魔神というものが珍しいのだろう。

そこで、彼女達の気分転換の意味も込め、先に挙げた四人で、その教会に出向くことになった。その教会は、このホテルから距離にして数キロ程の所に位置していた。残りのメンバーは、日本にいる夜叉を忘れようと現実逃避ために、惰眠を貪る某守銭奴。霊剣の手入れや書類整理などに没頭する某公務員。

そして、荷物整理に追われる天然ボケ気味の死霊使い。
なんだかんだ言っても、平和な一時である。(一部、違う)




一方、一時間ほどバスに乗り、少し歩くこと数分。

横島と砂川、そしてシロタマコンビは、当の教会に到着していた。近所の者達からは、畏怖と恐れを込めて『魔神教会』と呼ばれているらしい。


「大きな教会でござるな-――」シロが感心したように呟く。
「教会っていうより博物館に見えるわ」タマモは、率直な感想の意味も込めて、相槌を打つ。
「まあ、入ってみようぜ」
横島の言葉を合図とするように、四人は教会内に足を踏み入れた。現在は、教会ではなく本当に国有の博物館として、観光名所となっているらしかった。

確かに、自分達の他にも数名の姿が見える。

建物内部は、、構造としてはアルファベットのHの形になっており、左右の区画それぞれに三十六柱ずつ祭られていた。見学するにあたって、二人一組として回ることになった。
組み合わせとしては、左の区画(1〜36)に横島とタマモ。右の区画(37〜72)に砂川とシロ。(番号は封印された順番)

ちなみに、「いつもは先生と一緒に―――」のシロは、砂川と戦国大名の話で盛り上がり、意気投合していた。
さらに、そんなシロの目を盗んで、タマモは横島の腕に抱きついていた。(はにかむ笑顔付き←さあ萌えろ)



右の区画
シロと砂川は、戦国大名の話をしながら、魔神達の像を見て行った。

ああ、こいつのここは違う。だが、ここは良く出来ている)
砂川は、シロの言葉に相槌を打ちながらも、同胞たる魔神達の像を見て、密かに批評を加えていた。何しろ、中には魔界でよく会う連中もいるのだ。彼らが、ここの存在を知ったら、どう思うだろうか。

「拙者は、上杉謙信が一番で・・・・あ、この方だけ女性でござるな」シロは、途中で言葉を切り、ある魔神の像の前で立ち止まった。

その魔神はラクダの背に横座りし、腰に公爵の冠を抱え、優雅な衣の上にベールを羽織り、三叉の槍を携え、優しげな瞳で二人を見下していた。

「英語、日本語とドイツ語で説明が書かれているな」砂川が、シロにそう説明しながら、その部分を見た。


《Gomory 魔界で二十六の軍団を率いる偉大な公爵の一人。七十二柱の中で唯一の女性であり、別名は吟詠公爵。未来や過去を占い、隠された黄金の在り処や男女の愛について教える。堕天前は、レヴェナと呼ばれた月の女神。一説には夜魔の女王リリスの妹とされる》

何のことは無かった。ある意味、一番知っている自分自身のことではないか。

(しかし・・・・・)
はっきり言って、ここまで詳しく正確に記述してあるとは思っていなかった。特に、自分のかつての名前やほとんど知られていない姉との関係までも・・・・

はっきり言って、もう姉とは千年近く会っていない。生き方、性格や容姿まで何もかもが、違っていた。
(さて、今頃は何をしているやら・・・・・)
仲が悪いでもなく、ただ何となく、疎遠になり確執が生まれていた。


「しかし、月の女神というと拙者にはアルテミス様といった印象が強いでござる。何処が違うんでござろう」フェンリルの一件から無理もないだろう。思案顔で首をひねるシロに対し・・・・砂川は苦笑しながら・・・・

「はっきり言ってしまえば、出自の違いだな。アルテミスはギリシア方面。レヴェナは、中東方面だ。キリスト教などに駆逐された古き神々は、世界を去るか、または魔に堕ち、新しい神々と敵対するかだった。アルテミスは前者を、レヴェナは後者を選んだということだ」

正直、自分のことを、他人事のように話すのは妙な気分だったが・・・・・

そう、あの《神魔大戦》の時、自分は戦う道を選んだ。古き月の女神から吟詠公爵へ。手に持つ物は綺麗な花束から血まみれの槍へ。同時に、共に堕ちたはずの姉とも決別し、自分は軍に入った。



「そうだったんでござるか。魔神にも色々な方がいるのでござるな」
「ああ、彼らも、元々は大部分が崇められた存在。全てが望んで堕天した訳ではない」
そう言いながら、シロの頭を撫でる。

声には、なんとも言えないものが宿る。



「あったかくて、気持ちいいでござる。まるで先生に撫でられてるみたいでござる」
「そうか・・・横島も同じ事をするのか・・・」
砂川は、穏やかに微笑んだ。

(昔は、こうして慕ってくれる人間や獣もいたな・・・)



それも、遠い昔の話に過ぎなかったが。
どうしようもなく、空しいものが胸の中を通り過ぎていった。


同じ頃、左側の区画

横島とタマモは、並んで魔神の像を見て行った。タマモは、横島の腕から既に手は離している。

なぜなら、横島は見向きもしないのだ。

(女として見られてないの・・・・あたし)
せっかくのチャンスだというのに、これでは惨め過ぎる・・・・・シロが聞いたら、「先生に何するでござる。女狐!!」と言ってきそうであるが。

コツコツと二人の靴音のみが響く。

(それに、何だか横島無言で怖いし・・・・)

こちらの区画に入ってから、ずっと横島は無言なのだ。

ちなみに、二人の構図は、良家のお嬢様と彼女を護衛する執事に見えなくもない(周りの女性からの視線が、横島に向いていたが、全く気付いていない)

(砂川さんと横島はお似合いっぽいなあ・・・・)
タマモの中で、横島を巡る最強の敵は、彼女だと確信していた。女性としての魅力。戦闘での隙の無い動き、頭の回転の速さ。どれをとっても、彼女と自分の戦力差は歴然だった。

(はあ・・・・せめてもうちょっと胸があれば・・・)
少なくとも、シロやおキヌよりはあるのだが・・・・・

そんな彼女の気持ちを知りもせず・・・・・・彼は先へ進んでいく。
(置いてかないでよ・・・・)

慌てて、彼女は小走りで追いかけた。

コツンと横島の足が止まる。

彼は、ある魔神の像を食い入るように見つめていた。

その魔神の像は軍旗の垂れ下がった槍を持ち、両肩の部分には牡牛と牡羊の頭蓋骨がそれぞれ乗り、側に控えているのは凶暴そうな龍。さらに腰には剣を挿していた。


(なぜ、そんなに見てるの・・・・・)
横島につられるように、タマモは視線を件の魔神の像に転じた。

すると、奇妙な点がいくつもあることに気が付いた。

その魔神には牙や翼は無く、顔も鼻の上からフードに覆われ、うかがい知ることが出来ない。さらに手足に何重にも巻きつけられた鎖が、囚人を思わせる。極めつけは、名前を示す部分が削り取られていること。まるで、存在を消し去ろうとするかのようだった・・・・・・・


「その魔神の像が気になりますかな?」

「ひゃうっ!?」
「誰だ?」
突然、後ろからかけられた声にタマモは動揺しながら、横島は平然と、それぞれの態度で振り返った。



後書き 修羅場は案外あっさりと・・・・・傷ついた横島には、ちょっと酷でしょう。不満な方、ごめんなさい。
さて、ある魔神とは《あの御方》です。まだ名前は出てきませんが・・・・・さて、明らかになったゴモリー様の過去。彼女が月の女神という設定は、ぜひ使いたかった設定だったので組み入れました。(公式かどうかは別として) かつての彼女は、花束を作ったり、本を読むのが好きな穏やかな女神だったんですが、戦わざるおえなくなって、今のようになったんでしょう。横島の方でも、ある意味、自分自身と向き合っています。何処で区切るか微妙でしたが、この辺で・・・・・ちなみに《神魔大戦》とは、『明けの明星』(後のサッちゃん)が反乱を起こしたあれです。

砂川様は、「伊達政宗が好みらしいです」

あと作中に出てきた『魔神教会』は存在しません。(本気にしないで)

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