ザ・グレート・展開予測ショー

プレゼント狂想曲


投稿者名:純米酒
投稿日時:(05/ 2/17)

誕生日というのはとても特別な日だ。

特に、恋する乙女たちにとっては……



美神令子の気分で事務所が突然休みとなってしまったある日。
事務所の雑務や家事全般、学校の宿題さえも終わらせていたおキヌは、
唐突に訪れた自由な時間を、どのように過ごそうか少しばかり迷っていた。

だが、ふと目にしたカレンダーを見て思い立つ。

赤いペンで印をつけた『特別な日』まで、そう余裕が無かった。
おキヌは慌てて身支度を整えると、財布をつかんで駆け出した。



買い物に向う途中でアレコレ思案する。

料理を作ってあげるだけでは押しが足りないと解ってきたおキヌは、横島に相応しいプレゼントを考えていた。
一応GSとして、それなりの給料を貰っている横島だが、いまだに貧困に喘いでいるような生活をしている。

その理由として考えられるのは、彼のムダ使いの一言に尽きるだろう。特に煩悩を満たす為の。

雑誌やらビデオのコレクションに費やした金額のうち、半分でも生活のために利用すれば、余裕の有る生活ができるはずだった。

その所為か、はたまた自分を着飾るという事に興味が無いのか、彼のもっている服は少なかった。
高校の制服と、いつものジーパンジージャン。そして両親が『何かあったときに』と残していった安っぽいスーツ。
いつかのクリスマスの時のセーターも、ボロボロになったから捨てたというのだ。

(もうちょっとかっこいい横島さんを見てみたんだけどなぁ……できれば見るだけじゃなくてかっこいい横島さんと一緒に……)

好きな人にはすこしでも格好よくいてもらいたい。そんな思いは誰にでもあるだろう。
想像に浸って顔が赤くなって居るのが自分でも解った。だが、これでプレゼントは決まった。





「さてと……何か横島さんに似合いそうな服は……」

辺りを見回しながら暫く店内を歩き回る。
着飾った彼を想像しながら服を選ぶのは、思ったよりも楽しいものだった。

「あ、あれなんか横島さんに似合いそう」

そうして、一枚のシャツを掴んだ時、反対側からもその服を掴む手が見えた。

「あ、おキヌさん……」

「え? こ、小鳩さん?」

不意の遭遇でお互いが面食らっていた。

「どうしておキヌさんが、男物の服を?」

「小鳩さんこそ何故ですか?」

そこまで問いかけると、二人は瞬時に理解する。

あぁ…この人も私と同じなんだ、と。

お互いが同じ人物に好意を抱いてることは、周知の事実。その気持ちにお互いが譲れない事も。

「これは私が先に見つけたんです!」

掴んだシャツを引っ張る。

「掴んだの私のほうが早かったです!」

負けじと引っ張り返す。

手にしたシャツで綱引きが始まってしまう。
普通ならこの時点で店員がこの場をいさめに来るのだが、二人の放つオーラに誰も近づけないで居た。

恋する乙女は偉大なのだ。


だが、そんな二人に近づく人物がいた。

「あら? …確かにおしゃれなシャツですね」

突然横合いからした声に二人は驚く。

「魔鈴さん!?」
「い、いつの間にっ!?」

声を掛けた人物は、二人の間で引っ張られているシャツをしげしげと見ている。

「お二人がこのシャツに手を掛けた辺りからですね……シャツが破れそうになったので止めようと思って」

「「………………………」」

この言葉には二人とも黙ってしまう。何せお互いが意地になって力一杯引っ張り合っていたのだ。

「どうでしょう? ここは一つ穏便に収める為に、じゃんけんで決めてはいかがでしょうか?」

年長者らしい発案に、多少冷静になってきた二人が頷く。

「恨みっこ無しですからねっ!」
「それはコッチのセリフです。貴女は元幽霊ですからね……」

妙に気合の入ったじゃんけんが始まる。

「「じゃ〜んけ〜ん……ぽん!!」」

お互いの手はパー。

もう一度、と気合を入れる二人だが、良く見るといつの間にか差し出されたチョキが。

「私の勝ちですね♪」

満面の笑みを浮かべる魔女が、二人から素早くシャツを奪い取っていた。

「え? え!? どうして魔鈴さんがじゃんけんに参加してるんですか?」
「そ、そうですよ! これは私とおキヌさんの問題じゃないんですか?」

「私もこのシャツが欲しかったからですよ。
 お二人がじゃんけんに夢中になってる間に黙って持っていっても良かったんですが……
 それでは、納得できないでしょう?」

確かに黙って持っていかれては、たまったものではない。だが、いつの間にか参加されるというのも割り切れるものではない。
そして、彼女が男物の服を欲しがる理由も分からなかった。

「もしかして西条さんへの贈り物ですか? だったらもっとこう……」

小鳩がそこまで言いかけたところで、またも二人は気が付いてしまった。

三人で取り合ったシャツは、西条に贈るにしては相応しくない、若い人に似合う。そういう物だということ。
そして、彼の誕生日パーティーを魔鈴のレストランで行う為に前もって予約がはいっていたということも。

「ま、まさか……」
「魔鈴さんも?」

「ええ。折角の誕生日パーティーなのですから、お料理を出すだけでは味気ないと思いまして」

二人の疑問に答えながらも、戦利品のシャツの会計を済ませてしまう。
これでおキヌと小鳩は別のプレゼントを探さざるおえなくなった。
同じものをプレゼントするのは女のプライドが許さない。
もっと彼に似合いそうなものを! と気合を入れて店内を駆け巡る事になったのだ。





そして、誕生日パーティー当日――――――

おキヌと小鳩は、見覚えの有る――ちょっとイヤな思い出の残る――シャツを着た横島を見ることになる。
だが、それは彼に良く似合っていた。
あの時の自分の見立てが間違っていなかったことに少し安心して、もっと格好良く見えるはず! と選んだ服をそれぞれ手渡す。

手渡したプレゼントに涙を流して喜ぶ横島をみて、二人は笑っていた。









だが、彼女達がもっと注意深かったら気が付いたはずだ。












横島は『パーティーが始まるまえから』あのシャツを着ていたということを。

そして、今日は彼の誕生日の『一日後』だということを…………

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