ザ・グレート・展開予測ショー

前を向いて歩こう


投稿者名:HF28号
投稿日時:(05/ 2/17)



――――西暦2087年某日20世紀そして21世紀を生きた伝説的GS美神令子没。

――――翌、2088年某日同じく伝説的GS、美神(旧姓:横島)忠夫没。

    認知症になること事も無く穏やかな最後だったらしい。



 横島忠夫(仕事の都合で横島姓で活動していた)の49日が明けた朝。闘龍寺の先代――間もなく先々代――の弓雪之丞は暖かな縁側で

コーヒー片手に日向ぼっこをしていた。

(っつ〜やっぱきっついぜ)

 若い時分はどうってことなかったカフェインとアルカリのダブルパンチが老いた胃をキリキリ刺激する。
 いつもいつもミルクを入れてから飲めとか、食事を摂ってからにしろとか、小言を言う妻も今日はばかりは一切口を出さないでくれた―

―昔のような濃いブラックを彼女も同じように側らで飲んでいた。

 メギッズギギャガガガンッ


「おっと、もうそんな時間か」
「もう9時過ぎですもの」


 慣れ親しんでいた本堂が軒を連ねた道場が重機で壊されてゆく。ここで産まれて、ここに婿に来て、ここで父に鍛えられ、ここで義理の

ママができて――ここで、友を彼岸に送った。掛け替えの無い、唯一無二の友を。

 そして、その唯一無二の友たちは・・・・




























「ども!横島忠夫っ戻ってまいりました!!」
「軽すぎるわよヤドロク!!」




 共に魔族となって今、目の前に戻ってきていた。


「早すぎじゃボケ―――――――――――――――――――――――――――――――ッ!!」

「なんですの!?なんなんですのッッ説明を、ギブミ――――――――――――――――――――――っっっ!!」

 判っているが高齢の弓夫妻。いかに鋼の心臓を持っていても後少しで心不全。

 聞けば、生前の悪行が祟って先祖返りしちゃった美神令子が、同じく負の感情、煩悩で霊力を積極的に生み出した時期があったせいか魔

に成り易かった横島忠夫を夫婦特権(あるらしい)で、てへっと魔族化。

 サッちゃん大喜び!キーやんゲッソリ。


「それで?何か理由があんだろ?俺とかおりに会いに来たのは」

 脈を整え深―――――――い深呼吸をしてから横島に問い掛けた雪之丞。しかし横島は


「いんにゃ無い。ただの報告だな」


 そんな腑抜けた答え。


「ほう。言いたくない、と?」


「いやあ、はっはっはっはっは。それは令子に聞いてくれ。俺は何も知らん」

 全身全霊で修行という名で闘ったあの頃のように殺気を孕んだ鋭い眼を向けられ冷や汗ダラダラ。たとい魔族になってちょっぴり人間よ

か強くなっても怖いもんは怖いっ!!


「ま、それもそーね。アンタ魔族になって日が浅いしね」

 肩を竦めた美神がフォローを入れる。



「で、何で会いに来たのかってことだけど」

























「とうとう土台だけになったか」
「あっけないものね」

 工事の雑音がピタッと止まった。南中高度が本日最大、昼飯時らしい――2人も息子夫婦が持ってきてくれた支援物資のお弁当を既に食

べ終えている――。この後は、燃えるゴミ燃えないゴミをより分けてかつての我が家は焼却炉行きだ。築250年、時代遅れのそのまた遅

れの本堂は、横島忠夫がこの世を去って僅か6日後に起きた東海大震災の震度7強の揺れに耐え切れず現世に残せない程壊れてしまった。

ご神木も根こそぎ倒れ、寺に導く石積みの階段もまるで雪崩を起こしたように崩壊している。


「良かったんですの?」

 ぼうっと生家跡に視線を止めたままかおりが呟く。

「何を?」

 保温ボトルを傾け食後の1杯を飲もうとしていた雪之丞の手が止まる。注ぎ終えたのだ。

「ですから・・」

 焦れた口調。

「ホントは2人に付いて行きたかったんじゃないのか、と」

 雪之丞は、ぞんざいにコーヒーを啜った。




















―――2人共、過去に興味は無い?

「「過去??」」

 意外な言葉にオウム返しでハモる。

「ええ。私達は神族のような霊的拠点を持って居ないけど、随分昔から人間界に常駐して魔族犯罪者を取り締まっているの」

 国際治安維持機構(Intemationl Pease Preservation Organization)―IPPO―本部

はフランスのリヨンだ。おもな活動は、3界犯罪者(特に魔界と人界)に関する情報の収集と交換、逃亡犯罪者の所在発見と国際手配の発

行等。国際刑事警察機構―ICPO―とほぼ同じ組織の魔族版と言えば判りやすいだろうか。美神と横島はこれから過去に行ってその下部

組織の組織員となることが上の決定で決まっていた。

「今年・・・という言い方は変ね。私達が時間移動した年からIPPOの日本支部が開設される予定になっているのよ。オカGの日本支部

が出来たときも、初っ端から人員が足りていたわけじゃないでしょ?だ・か・ら」


 一緒に来る気は無いかしらってね。


「・・・」

 押し黙るかおりと雪之丞。

「ぶっちゃけちゃうと、2人はあとちょっとで寿命を終えるわ。ほーら死神さんもこのとーりっ」

 美神が手で示した先に、お決まりの衣装を着込んだ死神さんが魂の刈り取りを今か今かと待ちかねていた。

『まだか?まだなんか??ああ、楽しみだぞちくしょーっっっ』

 愛用の大鎌をしゃりんしゃりん、棒状のヤスリで研ぐ死神。

 彼はいかにも切れ味が良さそうな刃にぬったり不気味な笑みを写すと1拍置いて

『―――ケーッケッケッケッケウケッウケケケケケケケケッッッ!!』

 一層ヤバげな逝っちゃった目で高笑いしていた。

「・・・あんなんに刈られるのか?俺ら」

「我慢しろ俺もアイツだった。悪い奴じゃねーんだが、刃物を持つと性格が変わるんだと」

「最悪じゃねーか」

 話題の死神は自己陶酔で笑いすぎひきつけを起こしているっぽい。

「で、でも、私達はもう」

「年齢のことなら心配要らないわ。魔族になっちゃえば、私みたいに見た目や体力が若返るから」

 ぼんきゅっぼん。ナイスなバディの魔族・美神を見ればその言葉にウソは無いと誰にだって判る。

「それに、こっちに混ざれば雪之丞の好きな血沸き肉踊る命がけのバトルが嫌になるくらい出来るわよ」

 マニアな血が年甲斐も無く疼く。だが――・・・だが、雪之丞は何か言いかけて口を噤む。
 かおりも、若い体の誘惑に靡きかけて―――でも、と心の中で浮かんだ言葉を言いよどむ。

(あーあ・・・いっちょ助けてやっか?)
(ダーメよ。あんたは口出すんじゃないの!)

 横島の思惑を見抜いた美神は、アイコンタクトで静止をかけた。

「悪い話じゃないと思うんだけどどう?」



「そうだな――」と、雪之丞が言う。

「『今』の生活に未練が無ければ」


 悪くない。

「未練・・・ねえ」

「俺は、このジジイ生活も結構好きなんだぜ」

 満足そうに、ふっと口元を緩めた横島――かつての、そしてこれから先だってライバルで親友の男――が視界に写った。それは直ぐに、

元のへらっとした顔に戻ったけれど


(ああ、そうか)


 この男『知っていた』な――美神の旦那と共謀して『自分は何も知らされていない』と俺とかおりに思い込ませた事全てを。見た目が初

めて会ったときと大差無いせいで、うっかりしていたらしい。


「それにな――――」

 これだけは何があろうと何年経とうと譲れない。




「俺は、かおりが大好きなんだぜ」



 ポンッと一瞬で茹蛸のように真っ赤になったかおり。まさかまさか、この歳になってそんな言葉を言ってもらえるなんて夢にも思ってい

なかった。好きだ惚れた愛してる・・・結婚して数年間だけ頻繁に聞いた言葉だけれど。

「皺くちゃになって、若い頃のような柔らかな肉体が無くなって―――それがどうした?本質も魂も出会った頃から微塵も変わっちゃいな

い。それに孫が13代目闘龍寺当主になるって時だ。この先が短くても、俺の勝手でこの場でくたばるつもりなんざさらさら無い」

 だから、と付加える。

「俺はこれでもかってくらい、今の生活に未練がある」

 ひたすら残念そうに、心から悔しそうに『見えるよう』美神が溜息を零す。

「成る程、雪之丞は仕方ないわね。それじゃ、かおりさんはどうかしら?」

(ぃ好き、大好き、大好き大好き大好き大好き大好きだいすきだいすきだいすきだいすき・・・)

 かおりさんは―――うん。ちょっと声を掛け辛いわね・・・・。

「残る気満々ね」

「みたいだな」

 戻ってこない彼女を見た横島も苦笑混じりでそう言うと、鎌を仕舞い正気に戻った死神に

「やっぱダメっぽい。悪かったな、無駄足させて」

『仕方あるまい。私は、強制はしないでな』

「忙しいところ済まなかった。こんな面倒事に付き合ってくれてありがとうな」

『かまわん。これも仕事だ』

 横島のお墨付きを貰える程『いい奴』な死神は、ボロボロの外套を気障っぽく掴むと光の粒子となって空に溶けた。これがもし、任務一

筋法律一筋の四角で直線バカな本来のこの地域担当だったらなら

(こうはいかなかっただろうなあ・・・)

 アジア担当の死神――ユリ子ちゃんを見逃した奴の後任――が、先の地震で多くの死者が出たせいで仕事に出ていて、たまたまこの死神

が休憩室に居るのをたまたま偶然に見つけなかったらこんな穏便に事が進まなかっただろう。いやマジで。運が良かったのだ、今回は。

「さーって、死神もいっちゃったし説得も出来なかったし・・・」

 仕切りなおしだと言わんばかりに腕をうーんっと伸ばす美神。

「そろそろ行くわよ」
「了解ッス!!」

 美神の時空震、横島の文珠による因果律の改竄。同時に発生した2つの力で、2人はこの時代から完全に存在を切り離した。


















「おおっユッキー発見!!」

 故・美神夫妻の孫の孫に当る、双子の片割れの男の子が、工事車両も通れるくらい被害の無かった車用連絡路の入り口で嬉しそうな声で

言った。その後から、もう1人双子の姉まで姿を表すと、ナニぞ勝負でもしていたようで、弟を抜かんばかりに走る、走る、そんでもって

神通棍で―――えいやっ!


「ふっ勝ったわ」

 倒れ伏す弟を躊躇い無く踏みつけそんなことを言い放つ小学3年生。手に持った神通棍は子供も使えるショートサイズなのが心憎い。

「ずりいっ!ズルイぞ姉ちゃん!!」

「GSにズルイもぬるいも無いわ。世界の常識よ」

「なんじゃそりゃあああっ!!」

 そんな姉弟(きょうだい)に、食後のタバコを吸っていた工事関係者も思わず顔を上げて頬を緩めて眺めている。雪之丞も楽し可笑しい

2人を見とめるとカップを置いて「よおっ」てな感じに片手を上げた。かおりも「あらあら」と微笑む。

「相変わらず仲が良いなお前ら」

「「まあな(ね)」」

 先ほど神通棍でぶちのめされた忠雄君はすっかり傷が癒えてるらしい。
 さすが同音の名前を受け継ぐだけのことはある。怪物じみた回復力だ。


「それにしても、何度見てもここが壊れたのは寂しいわね」

((何度見ても??))

 聞き逃しそうなくらい自然に言った玲子ちゃんの言葉に疑問が湧いた弓夫妻。記憶が正しければ、震災後にこの子達がココへ来るのは今

が初めてのはずだけれど。

「人工幽霊一号は無事だったからなー。元々、術的処理が限界だったっぽいから壊れるべくして壊れたんだけど・・・なんだかなー」

「連絡路を霊的にも物理的にも強化しておいて正解ね。もし、何もしていなかったら思いっきり孤立しただろうし」

「今度のは死津喪姫ん時と違ってふっつーのプレート地震ってIPPOもICPOも断定してるし・・」

「ま、まさか」

 双子の会話を遮りうめく様な声を絞り出す雪之丞。そんなバカなと思いつつ、バカであって欲しいと思いつつ。

「お、まえら・・・横島と美神の旦那!?」

「「ぴんぽーん」」

 大正解!ぱちぱぱちぱち〜☆ちょっとバカにした風に手を叩く双子ちゃん。

「危うく死産だったかんな。合法的に戸籍を取るのにちょこっと」

「擬態は魔族の専売特許だからね。バレない自信ならたっぷりあるわよ」

 確かに、春桐魔奈美なワルキューレと始めて会った時、彼女が魔族だと見抜けなった過去があるのだけれど。

「念のため文珠で『人化』してるから、たとえDNA鑑定をしようが血液検査をやろうが無問題(モーマンタイ)!」

「勿論、『私達』も『この頃』まーったく気付けなかったって『実感』と『実績』があるから効果は保証済みよ」


 ソウダネー。

 オノレらは、最近死んだ人間の横島と美神の旦那が魔族になちゃったんだもんネー。

 テメーらは過去に行って、ようやくこの時代に『還って来た』んだから、人間の時の記憶や体験を覚えていても変じゃないよネー。孫の

孫と面識があっても可笑しくないってことだもんね!

 ちょっと理不尽?つーか・・・


 フザケンな!!って感じ?


 あはははははははははは。


「何呆けてんだ?ユッキー。いつもの悪意がねーぞ」

「ボケてねーッ!!オドレらに驚いてるんだっっっ!!!」

 トリップしちゃった思考を手繰り寄せてからふざけた事をぬかす男の子の頭をポカッと殴って怒鳴る――と、『雪之丞おじいちゃんこわ

〜ぃ』なぞ、極悪な小細工をしやがる玲子ちゃん。それがまた可愛いもんだから余計に頭を抱えたくなる。

「まーまー落ち着け雪之丞。かおりさん、ちょっと魂抜けかけてるぞ」

「テメーらのせいだろ――――――――――――――――――ッ!!
 ああああああっ逝くなかおり―――――――――――――――――――――――――――――――ッ!!」

 雪之丞必死の蘇生(魂掴んで、入れ戻し)で、6文を支払おうと財布を出したかおりがなんとか戻って来た。

「は!?コ〇ボイは!?メガト〇ン様は何処ですの!?」
「何の話だっっ!!」

 三途の川にはイロイロなバージョンがあるようだ。

 彼女はどこぞの戦争に――何故かデ〇ロンサイドで――巻き込まれる可能性があったということ・・・か?

「でも、どうして今になって正体を教えて下さるんですの?このまま明かさずに、過ごした方がメリットが多いのと思われますのに」

「強ぇえ・・・さすがだぜかおり」

 一旦、現実を受け入れてしまえば最早どうって事無いとばかりに、さらっと元の冷静さを取り戻していたかおり。加齢による図太さとは

ひと味違うとんでも無い神経の持ち主らしい。まあ、GSに登場する連中に関われば『繊細』なんて言葉はどっか逝くだろうが。


「確かにこのまま隠れ住めば、人間から迫害される事も、順調にGSになる事も出来るだろうけど」

 それじゃ、ダメなのよ。

「ダメってどうしてですの?」

 玲子は逡巡する。ここで話して構わないだろうか、と。心配そうな彼女を意識的に無視する形で忠雄が話しを続ける。

「俺とレイコがIPPOとして『魔族にも良い奴が居て、悪い奴を取り締まる機関がある』と下地を作った今の日本だけど最後の一押しが

必要なんだ」

「それが『魔族』GSの誕生。
 確かに、妖怪――シロとかタマモね――がGSになった前例があるにはあるけど、そこからまだ進んでいない」

「戯れにGS資格を得た神族が山のように居るのに、表裏一体の存在の『魔族』がなぜ資格を得られない?認識の硬直したままの20世紀

末でもハーフバンパイアのピートが試験を合格したのにだ」

「メドーサがGS協会を裏側から牛耳るつもりで門下生を送り込んだ『前例』があるから?」

「けれど、それ以降88年間、そんな愚行を犯した魔族は誰も居ない――面倒な上、成功率が恐ろしく低いからな。むしろ、神族の極一部

が、似たようなことをしようとして、オカルトGメンと世界GS協会によって免許の集団剥奪と神界への永久追放が何度かされている。そ

れに、能力を生かした仕事に就ければ、たとえ魔族でも人界で人と同じように暮らしてゆけると、日本GS協会とオカルトGメン内部には

十分過ぎるほど認識させた」

「期は熟したわ。あとほんの一歩だけ。だから」

「バラす。徹底的に」

 学校にも家族にも協会関係者にも。言下に聴こえるその言葉、揺ぎ無い想い。

「そう。そこまで明確な目的があるのでしたら私は何も言いませんわ。けど」

――――何かあったのですの?過去に戻ってから今までの間に。

「・・・まあな」

「ええ、ちょっと」

 何『が』じゃなくて、何『か』――あったと判っても深く探るつもりは無いと言う意思表示。こんな彼女だからこそ、2人は親より何よ

りも先に正体を打ち明けようと思えたのだ。互いの性格を熟知する仲とは言えかなり勇気が必要だったけれど。


「そうそう『さっき』聞いたよなユッキー」

「ユッキー言うなっ何処のデフォだ!!」

「俺がなんでお前らに『会いに来た』のかって。その『理由』が何かって」

 さっき、と言ってもここの居る横島は88年以上前に言ったそれを覚えていた忠雄だけれど。

「雪之丞とかおりさんならそんな簡単に魔族に堕ちないからさ」

「「!」」

「言ったろ?人員が足りないって。上層部の意向は『人の常識を持っているか、人間出身で力に振り回されない信頼の置ける魔族を人間社

会に送り込む。なるべく沢山』だ。雪之丞、お前は3界で唯一魔に堕ちる事無く魔装術を極めた。これほど、判りやすい形で条件に合致す

る奴なんて滅多に居ないじゃないか。だから上はお前を引き込む為に魔族になって日が浅いがお前自身と長期にわたる親交がある俺達をこ

こへ送り込んだ。断らせない為に。けれども、ああ哀しいかな。バトルマニアな心と乙女の若さへの渇望を擽ったり、角度を変えて情に訴

えても2人は『魔に堕ち無い』。ダメだダメだこんなに元気な肉体を持った2人じゃ例え死神でも魂を切り離せ無い。我らの本質を知るG

Sであらせられても、魂から嫌がっているじゃないか。ほらほら、大声で叫んで怒っているではないか!引き止める俺達を振り切って、す

ごすご帰ってゆく死神。これではもう諦めるしかない―――そして、説得を失敗した俺達は、その責任を取って今再び日本潜伏任務に付い

たわけだ」


「というのが建前よ」

 雪之丞とかおりはずっこけた。『真剣に聞いていたのにっ』とか呻き声に混じって聞こえる。


「唯、知り合いに会いたかった・・・。『死んで』から1年ちょっと、ずっと魔界に居たからね私は」


 『人』恋しかったのね、きっと


「で、ホントのとこは?」

 忠雄の合いの手。

「脱税」

「その心は?」



「億万長者よ再び!!くたばれ国税庁っっ!!」



 って

「何言わすか―――――――――――――ッッ!!」

 ばっこ―――――んっ←空へ吹っ飛ぶ忠雄君9歳。杉の木よりクレーンよりも高く高く――――上がって放物線の頂点に。

 工事のメンツが唖然としてるぢゃないか!落ちながら忠雄は思った。

 べちゃっ。←あ、地面激突。

「死ぬかと思ったやないか、姉ちゃん!!」
「なんで生きとるかオノレわっ」

「あーと、つまりは、潜伏中に脱税するのを・・・」

「私達が居ると邪魔されると思ったから―――ですのね、お姉さま」

「うん。とっても」

 清々しく、爽やかに。輝く笑顔で言い切っちゃう姉に弟は乾いた笑いを漏らすしかない。

「ま、そういう事にしとけって。あの『美神さん』だぞ」

「そーだな。そういうことにしとくさ」

 建前が本音、本音が建前。強情で素直じゃない、天邪鬼で猟奇的。でも時々可愛くて―――それでこそ美神令子。

「やっぱ、『今』の生活はやめらんないわ、俺」

「だろ?」

 横島は楽しそうに笑った。











 おまけ


「で?お前が会いに来る気になった『理由』ってのは何だ?さっきのは俺達に接触する『目的』しか話してねーだろ?」

「ちっ誤魔化されておけばいいものを」

 本気の舌打ち。

「理由っつってもなー。弓家は美神家よか、GS協会の裏を操れるからお得・・」

「それも、『目的』だな」

「細かいこと気にすると老けるぞ」

「十分老けてるから気にせん」

 100歳を軽く越えているもんな、雪之丞。

「それだったら、俺も106歳+91年ぐらい過ごしているから・・・おおっ197!四捨五入で200じゃん!」

「だから、誤魔化すな」

「あー・・・」

 忠雄は頭を掻き毟り渋々口を開く。

「ライバルだからさ、今までも、これからも」

「・・・・」

「これって理由になるか?けど、これ以上言い様もねーし・・・」

(だってなあ、雪之丞がこのまま何の障害も無く魔族になってくれれば、技術が拮抗してるから、向こうでも・・・」

 ぶつぶつ言ってる姿は小学生としてはあまりに不自然だけど、『好敵手』としてはこの上無く自然だ。

「あ、その時の名前ってやっぱ『ダテ・ザ・キラー』?」

「なんでそうなる!!」

「はっしまった!声に出ていたっっ!!」

 若気の至りだ気にするなっ。

「いやみにしか聞こえねーッっての!!」

「そうかそうか。今からでも若返ってレッツエンジョイ魔族ライフっをしたいんだな!そうなんだな雪之丞」

「んなわけあるか―――――――――!!せめてこの人生終えてからだ―――――――――――っ!!」

「なら、かもーんっ死神君っ」

『ヘイ、だんな』

「よーし、やっちゃえスパッと後腐れなくっっ」

『ご命令とあらば直ぐにでも・・・キエエエエエエイッ』

 アジア担当の死神は実は横島と気の知れた仲っぽい。つーかむしろ部下?

「だーっやめんか!!」

 ブンブンブン鎌が飛ぶ♪

 振りまわされる鎌、なんとか避ける雪之丞。

『はーっはっはっはっ命令一筋云百年ッ!!真面目なオレは世界いち――――――――ッ』

「意味わかんねーんだよッ!!つーか横島―――――――――っなんとしろ――――――――――――ッ!!!!」



 収拾つかないんでこの辺で。

 あ、かおりさんは、玲子ちゃんとお茶請けのチョコワッフルを食べてます。

「平和でなによりですわ」

「そうね」

 

 ほんとにね。

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