吟詠公爵と文珠使い14
投稿者名:アース
投稿日時:(05/ 2/17)
文珠の結界が消え、勝利か死への十分間が始まる。
横島は、魔剣を水平に構え、悪魔と対峙する。相手もそれに合わせるかのように、爪を動かす。
一瞬の後、黒と黒が交差した。
ガキイン!!
剣と爪が火花を散らす。横島は、力で押されるが、敢えて逆らわず後ろに下がる。
相手が、踏み込んできた時に生じた、一瞬の隙に飛び上がり、丸太のような腕に降り立つ。
さらに、爪の攻撃を避け、再び飛んで頭を踏みつけ、丁度真後ろに着地。
一撃も攻撃を喰らわない。
黒き青年と獣の舞踏は始まったばかり。 あと八分。
頭を踏みつけられ、激昂する悪魔。口から霊波砲を発射するが、精霊石二個で相殺される。腕を鉄棒のように突き出す。横島は、体をひねってかわし、さらに、その反動を使って回転斬りを繰り出す。
ザシュウウ!! 回転した勢いも加わり、右腕が切り裂かれ、紫色の血が滲む。あと六分。
「人間があっ!!」
「その人間に、倒されるのさ。てめえは」
薄笑みを浮かべて挑発する。危険は覚悟のうえ、何としても彼女から注意をそらさねば・・・・
一方、戦いが始まった直後。
砂川は、悪魔からは死角になる離れた所で、槍の柄の部分に付いていた琥珀色の宝玉を外す。
(できれば、使いたくは無いが・・・・)
彼女としても、人間形態でこれを使うのは初めてだった。
琥珀色の宝玉は、ドクンドクンとまるで、心臓の様に脈打ち始め、中にガサガサと蠢く影。それは、次第にハッキリと形を持ち、禍々しい朱色のサソリの姿となった。
(いつ見ても、嫌なものだ)
この蠍は、彼女が堕天した際に生じた魔の衝動そのもの。それを宝玉に封じ込め、抑え付けていた。ある意味、自分自身と言えるので、制御できないことは無いし、『衝動』が実体化したものなので、魔力もゼロに等しい。よってGメンに気付かれる可能性も無い。
それなのに、使用をためらう理由は三つ。
一つ、人間の状態での使用は、初めてで制御出来るか、下手をすれば自分や横島に襲い掛かる危険性もあった。
二つ、サソリを実体化させるのに、時間が最低でも十分間かかる。横島が稼ぐ時間はそんなギリギリの時間なのだ。
三つ、心情的な理由だが、自分の凶暴な部分を見せてしまうようで嫌なのだ。特に、何故か横島には見て欲しくなかった・・・・
(ベルゼブルの時には使うまでも無かったが・・・・)
以前、使ったのはアシュタロスと戦った時。それでも、彼の動きを数分間しか止められなかった。それでも、今の敵を倒すには十分すぎるほど・・・・
魔神状態での開放ならば、何の不安要素も無いのだが・・・・・
元々、格上の相手と戦う時にしか用いないのだ。そうこうしているうちにも、サソリは実体化し始め、徐々に巨体が輪郭を帯びてくる。 完全な実体化まであと六分。
(持ちこたえてくれ・・・・)
砂川は、出来ることなら敵であるはずの主に祈りたい気分だった。
再び横島サイド
前半は翻弄できていたが、身体能力の差が出て、追い詰められてきた。
既に、精霊石は無い。致命傷は負っていないものの、スタミナも限界が近づいてきた。スーツのあちこちが裂け、血も滲んで来ている。
(まだか・・・・・ゴモリー)
まるで、時間がカタツムリになったかのように感じる。
バキイ!!
「ゴフッ!!」
腕のなぎ払いを受け、弾き飛ばされる。慌てて、剣を地面に突き立て勢いを殺し、後ろの岩壁に激突するのを防ぐ。しかし、出血で目眩がする。
ふと腕時計を見る。戦い始めてから、九分三十秒経過。残り三十秒。
その三十秒がきつい。
(あともう少しだってのに・・・・・)
「よく粘ったなあ・・・・その魔剣、どこかで見た気がするが。まあいい、その剣は貴様を殺して頂く。相棒の女も探し出して、嬲った後に喰らってやろう」既に、勝利を確信した声で、悪魔は下卑たことを口にする。
(指一本動くまで、抵抗してやるぞ)
横島は、傷だらけの体を引きずり魔剣を構える。既に、顔の左半分を流れる血で、左目がふさがれ、視界が半分ぼやけている。
(ルシオラ・・・・まだ、俺は死ねないんだ。お前の命も、俺は背負ってるんだ。何のために生きているのか、それが俺は知りたい)
『私の心は貴方と共に――――』
過去にそう言ってくれた『彼女』の声が、頭の中に響くとほぼ同時に・・・・
悪魔が、鋭い爪を装備した腕を振り上げる。
(死んでたまるかあ!!!)
「ガアアアアアア!!!!」血だらけの体で、横島は吼えた。
その瞬間、意識が途切れ、デミアン戦以上の『闇』があふれ出る。
ガキイイイイイン!!
振り下ろされた爪と横なぎの魔剣がぶつかり、その瞬間、剣から黒い炎が吹き上がる。
その様子は、正に黒い龍の如く、悪魔の左腕を舐めた。
(こ、この気配は・・・・・それに、あの剣は、まさか・・・・)
目の前の人間が放つのは、紛れも無く『魔神』の気配。
霊力は人間のものであるのに、威圧感は魔の最上位のそれだった。
その為に、焼かれる腕にも気付かず・・・・
冷たい殺気を纏い、突進してくる。その様子は狂った黒い牡牛を思わせた。
心なしか、彼の瞳が、人ではありえぬ金色に見える。それは、死を招く月の光の様で・・・・
恐怖を与える側だったはずの悪魔が、恐怖した。
ドズウウウウッ!!
魔剣が、悪魔の喉を貫く。
「ゲバアッ!!」
たちまち、紫色の噴水が湧き出る。苦し紛れにもがき、腕を振り回す。それすらも、無駄なあがきだった。
とうとうタイムリミット。死刑執行。
「横島!! 離れろ!!」
素早く、魔剣を突き立てたままで、後ろに飛ぶ。
砂川の叫びと共に、実体化したサソリが、喉笛に魔剣を突き立てられ、獄炎に焼かれる悪魔に貪りついた。毒の尻尾を振り上げ、獲物の胸に突き立てる。
「ギエエエエエ・・・・た、助け・・・」
グシャ、バリボリボリ・・・・
こうして、一分と経たずに、悪魔は下卑たステーキにされ、蠍の餌になるという自業自得とはいえ、悲惨な末路を遂げた。
ドサッ
勝負がついた瞬間、横島は、力尽きたように崩れ落ちる。
「お主、しっかりしろ!!」慌てて分身体たる蠍を呼び戻し、彼に駆け寄る。
手を彼の口にあてる。
スゥゥゥ・・・スウ・・・
彼の息使いが確かめられ、安堵する。
「来い。ゲヘナ」
さらに、悪魔の残骸に突き刺さっていた魔剣を呼び寄せる。
カシャンという音と共に、魔剣が彼女の手に収まる。剣を鞘にしまい、地面に置いた。
(それにしても・・・・)
横島が放った殺気と気配。あれは紛れも無く『彼』の物だった。第一、この魔剣の名の由来ともなった黒い獄炎を操るなど、普通は不可能なのだ。そう、この剣が主と認めた者以外には・・・・・
果てしない『闇』を抱えながらも、戦っていた彼。
そのくせ、一人で全て抱え込み、誰よりも優しかった彼。
今でも、最後にかわした言葉が頭をよぎる。
『泣くなよ、ゴモリー。また、いつか会えるさ』最後の時でさえ、彼の顔に悲壮感は無かった。
あの時の自分は、泣いていたのに、意地を張って泣いてないと言い張ったのだ。
『彼』が、居なくなって初めて自分の気持ちに気付いたのに・・・・
そして、二千年前のあの日から、七十二柱の中で『剣の公爵』の座は空席となった。
遥かな時を超えて、彼は、『自分と再会する』という約束を守ってくれたのだろうか。
「横島、お前はアイツなのか・・・?」直接、彼の名前を口にするのが怖い。答える声は無い。
寝息を立てる彼の頭を優しく抱え、膝に乗せる。手で静かに、彼の髪を梳いた。
もっとよく顔をよく見ようと、口付けが出来そうな距離まで顔を近づける。
まるで、今の彼女は魔神ではなく、堕天前の≪月の女神≫のようだった。
(そういえば、初めて会った時も似たようなことをしたな・・・・)
『彼』も、外見は二十代未満の少年と変わりなかった。
彼には、他の魔神達のような牙や爪も無かった。ただ、月光のような光を宿した瞳と計り知れぬほど深い『闇』が多くの神魔を畏怖させた。
(二度と会えないと思っていた・・・)
もし、『彼』が横島と同じ魂の持ち主ならば、《造物主》も粋な計らいをしてくれるものだ。
もし、そうではないにしても、横島に惹かれている自分がいる。
(結論を出すのは、まだ早いか・・・)
彼女の中で、二千年前の万魔殿で止まった時計が動き出したのかもしれない。
だが、そんな二人の時間も終わりを告げる。
バタバタ・・・・トテトテ
「こっちなのね、西条さん」「ああ・・・そだ」
「先生は・・・拙者がお助け」
(ん・・・? 何だ)
数名の足音と声が近づいてくる。
そして・・・・・
「先生――大丈夫でござるか!?」単純人狼。
「馬鹿犬、騒ぐんじゃないわよ!!」捻くれ妖狐。
「横島さん、どこですか?」天然ボケ死霊使い。
「ま、助けに来てくれたんだから・・・・給料について考えてやっても・・・・」守銭奴雇い主。
「令子ちゃん、待ってくれよ」キザ公務員。
こちらの強敵の気配が消えたことと、その強敵以上のとてつもない気配を感じて、心配の余り、駆けつけて来た美神達が見たのは、見知らぬ美女に膝枕をされる横島の姿であった。
次回、修羅場と化す。(オイ)
後書き 微妙なところで終わる。ゴモリー様は、横島=『彼』だということにまだ疑問を持っております(微妙な乙女心でしょうか)当初の予定では、もっと後に気付き始める予定だったのですが・・・・デミアン戦とやや状況がかぶってますが・・・ルシオラの声を切っ掛けとして逆転。
飄々としていたゴモリー様の心の傷と『過去』が出てきました(姉との確執もこの先・・・・)膝枕前後は、恋愛シーンっぽくなってるでしょうか(自信ないです) 次回、神通鞭と霊波刀、狐火、死霊盆踊りのカルテット、横島の運命は?(ちょっとやばいかも・・・・) もう少し先の話ですが、魔界の方で、某蛇女は復活します。
今までの
コメント:
- 最後の美神達の表現がシックリ来て面白いです。
修羅場と化す場面早く読みたいと思います。
頑張ってください! (K.M)
- 修羅場だ、そう、これによって横島はどうなるんでしょうか? (アガレス)
- どんだけ頑張っても報われないな〜横島は・・・
次回、救出した相手からボコられるんだろうな〜
何か横島に救いの手を・・・(^^) (ぽんた)
- こうなると、むしろあの悪魔にもっと横島に深刻なケガでもつけておいてもらったほうが身の安全が確保できるよーな(汗)。それなら膝枕のこと言ってる場合じゃなくなるから。
・・・・敵より味方のほうが怖いよ。 (九尾)
- やっぱり横島は報われそうもないですね。
いや美人に膝枕してもらってるからイーブンかな?
誰か横島に愛の手を。 (夜叉姫)
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