ザ・グレート・展開予測ショー

永遠のあなたへ(7)


投稿者名:馬酔木
投稿日時:(00/ 5/24)

「はあ・・・?令子、もう一回言うワケ!!」
美神令子と並んで業界一、二を争うGSのオフィス。
後ろにいる強面(こわもて)の、異様なまでに大柄な少年(とゆーか見た目ははっきり言って恐い大男)−−−助手のタイガーが、彼女のあまりの見幕にビビっている事など全く気にせずに、エミは電話口に向けて大声で言った。
『・・・だーかーらー、冷静に聴きなさいよ。ピートが昨日から行方不明なのっ!』
「・・・・・・」
電話の相手は、商売敵であると同時に、商売の域を越えたライバルでもある美神令子。
受話器を一旦耳から離し、しばし見つめてからエミは、今度こそ、突拍子もない大声で聴き返した。
「・・・はあーーーーーーーーっ!?何ですってええええっ!?」
タイガーが、エミのその大声に思わず卒倒しかける。しかし、最早エミは他人を眼中に入れておらず、さらに声のトーンを上げて言った。
「昨夜から!?おたく、どーしてもっと早く言わないワケよッ!!」
もとろん、エミの所にも昨夜、唐巣からの電話はあった。好きな相手の事ではあるし、気にしてはいたのだが、まさか本当に行方不明になっているとは思わなかったのだ。
『あんたに言うと無駄に騒ぐんじゃないかと思って黙ってたのよ!誘拐の線が濃いって事で、西条さんも協力して捜してくれてるけど、まだ何もわかってな−−−』
「おたくらは今どこにいるワケ!?すぐに行くから教えるワケ!!」
中程から先端にかけて、パーマをあてたようにもともとふくらんだようなクセがある長い黒髪を、いきり立った猫のようにさらにふくらませながら尋ねる。
そして、令子から現場の場所を聞き出すと、エミはすぐさま出かける準備に取り掛かった。
「どこの誰だか知らないけど、私が目ェつけたオトコに手を出そうなんて・・・思い知らせてやるワケ!」
「エ、エミさん、もう少し穏便にですノー・・・」
「お黙りっ!さっさと行くワケ!!」
日本最高の呪術師であるだけに、思い知らせてやると言う言葉が口先だけですむとは思えず、少しなだめようとしたタイガーを一喝して黙らせると、車に乗り込む。
そして、車の運転席に乗り込んだ直後、怒りに燃えていたエミの表情は、不意にニヤッと緩んだ。
美人ではあるが、少々タレ目気味な目の目尻を、さらにニマッと下に下げて、妄想モードに入る。
「・・・もしピートが誰かに捕まってて・・・それを私が助ければ・・・「ありがとうエミさん!」「こんなの、ピートのためなら何でもないわ」「エミさん、貴方って人は・・・ありがとうございますっ!貴方に一生ついて行きますっ!」「それでいいのよ、ピート!まずは、二人の門出を祝ってこの婚姻届にハンコ押してね!!」・・・なんちて、なんちてーっ!!キャーッ!!!」
「エ、エミさーん!!前を見て運転して下さーいっ!!」
「うふ・・・うふふ・・・うふふふふふふふふふーっ!!」
タイガーの悲鳴も気にせず妄想に浸りながら車を走らせるエミの、運転自体はまともなものだったが−−−
にやにやとだらしなくニヤけながら車を運転しているボディコン美人の姿は、他の車とすれ違うたびに対向車線のドライバーをビビらせたのであった。


ピートの外見は、いわゆる『容姿端麗』な『美少年』だ。
光に映えて鮮やかに輝く金髪、青く澄んだ瞳、色白な肌。
一般に、東洋人よりいくらか年上に見えると言われる西洋人にしては童顔だろう。表情をキッと引き締めていると格好良く、大人びて見える事もあるが、きょとんとしていると丸きり子供っぽい感じになる所が可愛らしい。それに加えて成績優秀・スポーツ万能、おまけに性格も真面目で律儀、かつ誰に対してもフレンドリーと、何でも完璧なように見えて実はオンチと言う欠点があったり、コンプレックスを抱えていて悩んだりしている面もある事が、女性の「守ってほしい」と言う被保護欲と、「守ってあげたい」と言う母性本能の両方を引き付けるらしい。
本気でピート個人に惚れ込んでいる者から、「彼氏はいるけど別なの」と言うアイドル感覚で憧れている者まで。想いの深さや表現方法は様々だが、女子からの人気は抜群であり、それは学校内だけに留まっていない。
文化祭の時に学外から来た人に写真を撮られたり、そういう女子を相手に自分の写真を売っている男子がいる事は、ピートも一応知ってはいたが−−−
さすがにこれだけの量の自分の写真を一度に見せられた場合、彼が写真恐怖症に陥ったとしても、誰も文句は言えないだろう。
そう断言出来るほどの量のピートの写真をそこら中に並べた部屋の中で、加奈江は嬉しそうに笑っていた。
大きく引き伸ばしてパネルにした物から、切手ぐらいの大きさしかない切り抜き写真を数枚ずつ集めて写真立てに入れた物まで。恐らく、軽く千枚は越えているだろう。
文化祭、体育祭、日常の教室風景など、学校での写真が主だが、教会まで行って撮ったとしか思えない物もある。
特定の個人を数ヶ月の間に写した物としては、信じられないぐらいの枚数の写真が、そこに存在していた。
パネルに引き伸ばされている物の中には、全く無防備な寝顔の写真まである。
それは昨日、ピートを御札に封印して連れて来た直後の写真だった。
吸印された時の衝撃で眠っているピートの寝顔は実に穏やかで保護欲をかき立てられるものであり、そして、綺麗だった。
「・・・永遠って、やっぱりとても素晴らしいものなのよ」
昨日、ピートから脱がせた学生服の上着をそっと撫でて、加奈江は彼の寝顔の写真を見つめながら呟いた。
「貴方を見てるとわかるわ。だって、貴方はそんなに綺麗なんですもの・・・」
陶然とした表情でピートの写真を見つめ、学生服に顔をすり寄せながら言う。
一昨日では遠くから見つめるだけだった彼が、今は自分のそばにいる。
それを実感するように、加奈江はピートの学生服をその腕に抱きしめた。

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