ザ・グレート・展開予測ショー

剣の王の過去


投稿者名:アース
投稿日時:(05/ 2/14)

―――自分は何者なのかと問うことがある―――

答えなど決まっている。自分は魔神、魔の頂点たる者の一柱。だが、少々『飽きた』

滅びたいわけでも無い。ただ、飽きたのだ。

自らの生き方に。そして、何千年経とうと変わることの無い魔界のこの風景に。

万魔殿を離反する時に、言われたこと。
「訳がわからんで、お前」
そう言って、サタンは彼を睨み付けた。
「お前が行くというなら、ワイは止めん。一度去った者を迎え入れるなど、こっちの連中は甘くないで」
「それでもいい。どの道、古巣のゾロアスター系の連中の顔を見るのは嫌気が差した」どこか、吐き捨てるかのような口調。彼にしては、珍しかった。


(そんなに嫌いか・・・・古巣の連中が・・・)

「では、そろそろ行こう。滅多に会えなくなるのは残念だが」
「ああ、達者でな」

別れの言葉もあっさりしたもの。
『そこ』から出て行くときの彼を、青い月と紅い月が見下ろしていた。

遠い昔の話だった。





「何故、そこまで人間に肩入れする。アスモ」
そう、彼に尋ねたのは古い馴染みの魔神の一人。その名をアシュタロス。
彼にとっても、アシュタロスは良き理解者だったが、彼の『闇』の深さを理解しきれず困惑しているところがあった。
そのくせ、彼は恋愛には一度本気になるととんでもないことを平気でする。

例えば、人間の娘に恋をし、七人もの人間の男を殺したときのこと。魔界では知らぬ者の無いほど有名な話だった。
「何故、すぐに連れ去らなかった」
言外に、その為に神界の介入を招いたというのにという意味を込めて・・・
「ラファエルに本当の意味で、負けたとは思っていない。事実、牢に入れられた後も脱出して見せただろう?」彼は薄く笑う。

だが、アシュタロスには理解できない。普段の彼は、そこまで残虐なことはしない。少なくとも、自分の知っている限り・・・・

『以前』の彼はどんなだったか・・・・・

闇・・・いや、それを闇と言っていいいのか。だが、他に例えようも無く・・・

彼の中には、同族でですら理解できぬ程、深く凍えるような『闇』があった。
だが、どこか、彼が人間に憧れているのも事実。

「はっきり言おう。アスモ、君が憧れているのは人間の持つあがこうとする気持ち。一言で言うなら、『悪あがき』というものだ」アシュタロスは、嘆息しながら告げた。

「ほう・・・」
彼、アスモデウスは興味深い様子で、声をあげる。心なしか、彼の発する瘴気が強くなったような気がする。気を抜くと自分さえも、奈落の底に落とされそうな・・・・

彼は、外見から言って、魔族らしくない。まず、体格は自分よりも細身で、華奢だ。これで、自分よりも上の腕力を持つのだから恐れ入る。その上、魔族にありがちな角や牙も翼も無い。顔も、自分よりも若く、少年か青年といった方がしっくりくる。

外見で、唯一、人間と違うのは満月のような金色の瞳。

それと、身にまとう黒い瘴気と絶大な魔力。

この三つさえ無ければ、全く人間と変わらない。しかし、これらによって、彼は多くの神魔に恐れられてきた。


「そういえば、以前、私の過去について聞いてきたことがあったな」彼は、苦笑しながら話題を振ってきた。だが、声の調子から言って、話したくは無さそうだった。

『過去』・・・それは、彼がアシュタロスやゴモリーと出会う前・・まだ、彼が、悪神アエーシェマだった頃。


「それは既に捨てた名だ。ゾロアスターの連中から離反する時に」

「豊穣神や女神、天使だった君達とは違う。私は、悪神。人々に災いをもたらし、忌み嫌われる神だった」

滅多に本心を見せず、あらゆる敵を破ってきた彼が、こぼした弱さ。

善神と言われた時期もあった、それもわずかな時間・・・・・生まれてより、ほとんどの時を闇に住んでいた自分。

だからこそ、破壊衝動に襲われる一方で、光に憧れる自分が居る。
以前、苦笑気味に話してくれた『過去』

ゾロアスターから離反したのは『過去』を忘れたかったから。結局、『過去』は忘れられず、悪神が魔神に変わっただけだった。

万魔殿を去ったのは『闇』を捨てたかったから。結局、『闇』は捨てられず、自分は魔に属する者だと思い知っただけだった。

挙句の果てに、暗い衝動を抑えきれず、『彼女』を失った。

それでも死ぬ気にはならなかった。信じて、いや、縋っていたかった。自分は変われるのだという思いに。


(私よりも遥かに重い物を抱えてきたのか・・・・)
アシュタロスは、居たたまれない気持ちになった。自分はかつて、豊穣神だった。人々に愛されていた時期があった。一神教に追われるまでは。しかし、彼は――――

彼が、女性に対して本気になれない理由もそこにあるのだろう。

『失う』ことを恐れているのだ。彼は―――

今、アシュタロスの目の前にいるのは、自分よりも強大な魔神ではなく、自らの運命に抗いながらも、怯える少年の姿だった。

(だからこそ、脈のある相手。ゴモリーの想いにも気付かないのか)
もっとも、ゴモリー自身、自分の気持ちに気付いてはいないらしいが・・・



(私とは似ているようで違う。=というよりも≒と言うべきか)
運命の手から《逃れたい者》と《抗いたい者》の違い。


そんなことを考えながら、アシュタロスが去った後・・・・



「いつか、本当に共に歩める相手を見つけたいものだ」彼が、漏らした一言。

それこそが、悪神でも魔神でも無い偽りなき彼の本心。






だが、その望みも、『彼』の手から零れ落ちていく。まるで、蛍の涙のように――――



後書き
く・・・・暗い。なんだこの暗さは・・・・彼、アスモデウスの過去と彼が抱える『闇』の一端の理由がちょっと出てきました。私は時々、発作的にダーク物を書きたくなる時があります。(妹に言わせると、この程度ダークじゃないそうですが) 本当はもっと、明るい話だったのに・・・・横島とアスモデウスの共通点が「色欲」以外にもあるというのを示すのが目的だったんですが・・・最後の『彼』はどちらでしょう。 ちなみにアスモデウスはアシュタロスをニックネームではアシュ(または単に君)と呼んでいたらしいです。どうも、過去編は暗くなるなあ・・・・


アスモデウスの姿が別物に・・・・・資料を見ると、三つの頭を持つ・・・・無理。書けません、そんなもの。ということでイメージとしては短い黒髪をした少年か青年ってイメージでいいと思います(オイ) 少々短いけどこんなところで・・・・一日四作投稿大丈夫かな(実は、ネットにつなげないこの一週間書き溜めてました)



今までの コメント:
[ 戻る ]
管理運営:GTY+管理人
Original GTY System Copyright(c)T.Fukazawa