吟詠公爵と文珠使い9
投稿者名:アース
投稿日時:(05/ 2/14)
第三戦「計り知れない『闇』の目覚め」
―――暗い闇――一光りも射さない空間。
横島は、そこに落ち込んでいた。妙神山への移動に文珠をほとんど使いきり、しかも霊力も底を尽いた状態での戦闘。しかし、相手の狙いが自分である以上、逃げるわけにもいかなかった。
戦闘の真っ只中。地中を通して、デミアンの触手が伸び、背中を貫いた。出血と疲労。意識が遠のいていく。
「横島・さん!!」
「小僧!!」
共に戦っていたマリアとカオスの声が耳に響く。
「終わりだな、グハハハハ!!!」デミアンの嘲笑。
魔剣を杖代わりにして、立とうとするが、力が入らず・・・・
横島は意識を手放した。
(闇・・・・・俺は・・・)
同じ闇でも、温かく包み込んでくれた「彼女」のものとは違う。計り知れないほど冷たく、凍えるような『闇』。それが、冷たい霧のように自分の心を覆ってゆく。まるで人の心が消えて行くかのように。
マリアは、体の随所に内蔵された兵器を用いて、デミアンの触手を吹き飛ばす。だが、本体の入ったカプセルを破壊しない限り、勝利は無い。
「ワハハハハ、貴様は普通の人間とは違うようだが、無駄なこと。私の本体はこの肉の塊の奥にある。そんな程度の攻撃ではびくともしないぞ」マリアが自動人形であることはわからないデミアンでは、あったが、そんなことは大した問題ではなかった。
「クッ・・・!」
自分の方の攻撃も相手にヒットしてはいるが、肉の壁が厚すぎて本体に届かない。いずれ、手持ちの兵器が尽きたら、攻撃も防御も出来なくなる。そうなれば、自分だけではなく、後ろに控えているカオスもやられる。
(横島・さん・マリア・心配・・・)こんな状況下であっても
先程、倒された横島のことが気になってしまう。他人のことを気遣うことができるのは彼女の良さだったが、戦闘においては隙にしかならなかった。
ビュバッ!! ガギイン、ベギイッ!!
触手が唸り、マリアの両腕両足を吹き飛ばす。体を支えきれずに、地面に転がる。
「マリア!!」
悲鳴を上げるカオス。
文珠で若返ったカオスの胸からの怪光線を受けても、デミアンは平然として・・・・
「なかなか手間取ったが、これで終わりだ」残虐な笑いを少年の顔で浮かべ、触手を振り上げる。
だが、彼の余裕もそこまでだった。
(何・急激な・エネルギー反応)
感情が希薄なはずの自分が「怖い」と認識している
ろくに動かない体を無理に動かした先に、マリアが見たものは右手に黒い炎を吹き上げる魔剣を持つ『彼』の姿だった。
(な、何だ・・・・この圧迫感は・・・)
辺りを覆う得体の知れない圧迫感。その源は先程、倒した文珠使いの少年。
彼の周りを取り巻く黒い霧。霊力も人間のものと変わりない。それなのに・・・・・
(こいつは本当に人間なのか・・・・・)
伝わってくる重圧は人間が、いや魔族でさえ萎縮してしまう程。まるで、黒い霧のように辺りを浸食していく。
(横島・さん・・・・)
この重圧に気おされているのは、マリアとて同じ。
見れば、カオスも顔を引き攣らせている。
『彼』が、一歩間合いを詰める。抜く手も見せず、迫ってきた触手を切り飛ばす。
「な、何だ。こいつは!!・・・・・・そ、それ以上、近づくなあ」
半ば恐慌状態に陥りながら、デミアンは触手を向ける。その全てが、魔剣で切り払われ、黒い炎で焼かれていく。
そして、デミアンの操る肉塊の胴体(らしき)部分に辿りつく。
「さあ、どうする。私の本体を傷つけることは・・・・」
あくまで、虚勢を張ろうとするデミアンに対し・・・・・
横島は、無言のまま酷薄な笑みを浮かべ、魔剣をデミアンの胴体に突き立てた。
ドズッ!!
「イギャアアアア――――!!!」
突き刺された部分から、内部にまで黒炎が広がる。
(このままでは・・・・・本体も黒焦げに・・・)
残った力を振り絞って、本体のカプセルを少年の姿の分身に持たせ、脱出する。
(どこかに隠れねば・・・・・)
最初の余裕も既に無く・・・・
「わしを忘れるでないわ!!」
逃げ惑う彼を、カオスの怪光線が直撃した。
「グググ・・・・」よろめく体を必死に支えようとするが、左半身が崩れてしまい、それもままならず・・・・少年はカプセルを取り落とした。
目の前には、魔剣を手にした『彼』の姿。
一歩進むごとに、相手の荒い息が返る。大した感慨も沸かず、ただ手にはっきりとした重さを伝える剣を携え、瀕死の敵のもとへと向かう。こつんと靴音を止めて、剣先を下に、敵を見下ろす。彼の顔に、表情は無かった。ただ黒い霧をまとい、怯える獲物を見下ろした。
そして、ただ一言酷薄な声で、告げた。
「死ね、デミアン」
ドスッ ゴオオオオッ
カプセルに魔剣が突き刺さり、黒炎が吹き上がる。
「イヤダアアアア――――!!!」
斬られる痛みと焼かれる痛み。二重の痛みを味わい、デミアンは、消滅した。
戦闘が終わり、横島は膝をついた。
同時に彼の周りを覆っていた黒い霧も霧散する。
重圧から解き放たれたカオスが、動けないマリアを担いで駆け寄る。
「小僧、大丈夫か!?」
「ああ、大丈夫だ。背中が痛いけどな」
見れば、彼の背中を貫く傷。幸い、大事な臓器は傷つけていないらしいが・・・・
「ゆっくり休んだ方がええじゃろう。しかし、小僧お前のまとっていた黒い霧は何じゃ」先程の戦闘で、デミアンだけでなく、自分達をも、怯えさせた黒い霧。あの時の横島は、霊力こそ人間のもの、だが、中身が人間以上の『何か』に思えた。
「俺もわからねえよ。ただ、何かに突き動かされて戦ってたという感じはあるんだけどな・・・」横島自身もあれが何なのか、わからなかった。ただ、少なくとも自分の中の『何か』が力を貸したことだけは分かった。
「何にせよ、戦いは終わりじゃからな。他の連中の所に帰るとしよう」
この後、同じく戦闘に勝利した他のメンバーと合流。ハヌマンに挨拶をした(ハヌマンは、助太刀の必要があれば、出る予定だったが、その必要はなかった)
この後は、魔鈴の店で祝勝会だ。
下山していく一同を見送り・・・・・ハヌマンは
「あの小僧、とんでもない運命を背負わされておるのかのう・・・・」妙神山の主として、黒い霧のことには感づいていたが、それが何か分からない以上、うかつに手出しはできそうも無い。
どうやら、別空間で戦っていた砂川達は気付かなかったようだが・・・・
ゴモリーが横島に手渡した魔剣、それは普通の人間では、黒炎を出すことは不可能。それにも関わらず、横島は黒炎を出し、使いこなしていた。
(あれ程の魔剣、並大抵の人間が使えるものではない。まして黒炎を出し、操るなど・・・)
古強者たる武神の考えを読み取る者は無かった。
後に、横島は自分がかつて何者だったかを知ることになるのだが・・・・・・
『戦士達の宴』
魔鈴の店では、大宴会となり、何故かいた西条と横島が斬りあいを演じたり、酔っ払った若い姿のままで、神父が魔鈴に愚痴を言ったり(主に美神親子関連) カオスがわけの分からない発明品を出したり、エミがピートに絡んだりなどして、夜は更けていった。
ちなみに、神父の教会は、ベリアル達の賞金で、全部とは行かないまでも修復のメドが立つそうだ。そのことでも、神父は涙を流し、十字を切っていた。
異界空間にある魔鈴の家のベランダ。
砂川志保こと魔神ゴモリーは、酔いを覚まそうとベランダに出てきていた。元々、酒は強い方なので、そうそう酔いつぶれたりはしないが・・・・
(夜風が心地いい・・・)
吹いてくるのは異界の風なのだが、心地良いことには変わりが無く・・・・
「ゴモリー、何やってんだ。こんなとこで?」
横島が上がってきた。自分と同じく酔いを覚ましにやって来たらしい。
自分の横に彼が並ぶ。そんな状況にほんの少し、胸が高鳴る。
(どうしたのだろうな・・・・)
もっとも、そんな感情のさざなみも、一瞬で収まり・・・残ったのは言いようの無い懐かしさ。
「風が気持ちいいな」
「ああ・・・・・」
横島の呟きに何となく答える。
昔、似たような状況があったような気がする。
だが、考えるのは面倒だった。今はただこうして懐かしさに身を任せていたい。
彼女が、真相を知るのはもう少し後の話・・・・・
後書き
戦闘描写がいまいちです。(特にベリアル戦) 原作で、神父が戦ってるところはあまり無いもので・・・・精進が必要ですね。 あと横島とゴモリーが夜風に当たるシーンは「少しは恋愛っぽいものを入れろ」という周りからの声に後押しされる形で、プロットを組みなおして入れましたが、恋愛っぽくなってるでしょうか。次からは、いくらかほのぼのになります。 ようやく、美神たちが復帰。 舞台はヨーロッパです。
今までの
コメント:
- 1話にまとめた方がいいんじゃないですか?
(NEET)
- 一話に纏めてしまうと、中途半端に余計に長くなってしまう気がしたので、一つの戦い=一話って形にしてみたんですが・・・・うーん、うまくいかなかったでしょうか (アース)
- 『あくまで霊力は人間』でありながら異質な黒炎、というのが某少年ガンガンで連載しているまんがのとあるキャラを思い出しました。武器の能力は『ただの炎』だけど使い手の心の影響で黒い炎が出るとか。
横島は文珠の大量同時使用で一番消耗してたぶん一番追い詰められてましたね。おかげで『何か』が引き出されてしまったようで。でも意外と邪悪とか暴走とかそんな感じじゃなくて安心しました。戦いが終わっても悪影響ありませんし。やはり馴染むんですかね? (九尾)
- 長さが気になるなら、神父のトコに師匠を殺される回想シーンと、その後の修行風景をチラッと入れても良かったかも。それぞれボリュームがあればいいわけですから。
戦闘シーン3つ。、お疲れ様でした。 (MAGIふぁ)
- MAGIふぁさん、助言ありがとうございます、できるだけ今後に生かして生きたいと思います。神父のそういった描写は思いつかなかったです。(戦闘シーンの描写で、精一杯でした)
それと、『何か』については、まだ一部ですから・・・・今後横島の戦いの中で、少しずつ表面化していきます。・・・某漫画というと・・・あれですねご安心を 拒絶の大悪魔などは出てきません。 (アース)
- せっかく話を分けたのだからもう少し一つの話を掘下げた方が良かったのでは?
これから話の中心になるであろう黒炎の描写やマリアの心情、ゴモリーの能力の描写をもう少し詳しくしても良かったかなと思いました。
あとベリアルをわざわざ堕天使の姿にする必要性をあんまり感じられませんでした。
いろいろ偉そうにしてしまいましたが話の流れが個人的にとても良いですしこれからも応援してます。 (夜叉姫)
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