ザ・グレート・展開予測ショー

夕焼けの中で


投稿者名:浪速のペガサス
投稿日時:(05/ 2/11)



 夕日が眩しいグラウンド。
 昨日まで降ってた雨も止んで、周りは水溜り。
 君は僕の真正面。





 草木は雫を垂らし。
 さっきまで一緒に遊んでいた友達は、もういない。
 僕とあいつの二人だけがいつまでもキャッチボールをしていた。
 周りには誰もいなくて、校舎から伸びる影が、なぜだか凄く幻想的に感じた。
 リアルに感じるものは、ボールが空気を切る音と。




 バスッ!




 ―――――グローブにあたる音だけ






 遠くから聞こえる声は。
 なんだか妙に現実味が乏しくて。

 ――自分の状況
 ――自分の立場
 ――自分の、これから

 そんなものが全て夢なんじゃないかと思わせた。


 夢じゃないものもあるけどね。
 例えばこのグローブの感触。
 例えばボールが離れる瞬間の喪失感。
 例えば返ってきたボールを受け取る確かな痛み。
 そして君。





 「夕日、綺麗だな」



 いつでも唐突な君の言葉。
 その言葉の中には不思議な安心感。
 僕はなんとか苦しそうに笑って。
 頷いた。




 自分の気持ちが言えたらな。
 子供の自分にはどうすることも出来ない。
 もはや決まったことだけど、口にするには怖すぎて。
 少し帽子を深く被り直して。
 自分のこれからのことを考えた。





 僕らはキャッチボールを続ける。
 君は一言言ったきり。
 僕は黙ったまま。
 だけれど、それでも良いと思った。
 その沈黙が、乾いた音だけが響くこの空間が。
 何故だかひどく心地よすぎたから。




 ひゅん



 ぼすっ



 ひゅん



 ぼすっ




 時々君は唐突にボールに変化を加える。
 太陽に届くかのような高くあげたボールや。
 突然の変化球。
 それがキャッチボールの醍醐味だろと、いつだか彼はうそぶいた。
 その時もちょうど。
 突然帽子の鍔をすっと触ると。
 茜色の空に向けて。
 流れる雲に目掛けるように。
 どこまでも高い、高いボールを投げた。




 「どうしたんや?」





 いきなりの変化球。
 同時に紡ぎ出される、君の言葉の変化球。
 僕は取るので精一杯。
 君の言葉に精一杯。
 分かってるさ。
 言わなきゃいけないことも。
 君の変化球の意味も。
 だけどさ、ちょっと急すぎるよ。
 急いで空を見上げるとボールが見えなくて。
 茜色の空が、あまりにも眩しすぎて。
 不意に泣きたくなった。
 意味なんか無いんだ。
 無いったら無い。
 あってたまるか。





 「ん、ちょっとな」




 お返しだ、フォークボール!
 慌てる君の顔は本当に嬉しそうに、少し心配そうに。
 変化球には変化球のお返し。
 所詮ごまかしなのは、僕もよく分かってる。
 それでも僕らはボールを投げ合う。
 変化球の応酬がしばらく続く。



 分かってるさ。



 渡されたボールは、変えさきゃ。
 キャッチボールだもんな。



 いつしかボールはストレートだけになって。
 僕らは言葉を再び無くした。
 キャッチボールは話さなくても出来る。
 僕の心は君の心に届いてる。

 だけどそんなのやっぱり間違いで。
 君に少しは伝わったけど。
 よくは伝わらない。





 ―――――想いは言葉にしないと伝わらない






 キャッチボールみたいだな。
 うん。
 僕らの関係はキャッチボールだ。


 上手くなって少しずつ離れてくけれど。
 突然の変化球。
 突然の言葉。
 少しずつ慣れてくけれど。

 だけど心は離れない。
 心は、少しずつ近づいてく。


 なんだ。君に伝わってるじゃないか。
 だから君は声を出したんだろ?

 ボールを僕に投げたんだろ?
 変化球もストレートもみんなみんな僕のため。
 僕も、返さないとな。




 ひゅん



 ぼすっ



 「うんとさ」
 



 ひゅん



 ぼすっ



 「俺、東京に行くことになったんや」





 ―――――夏子の事も…好きなんや


今までの コメント:
[ 戻る ]
管理運営:GTY+管理人
Original GTY System Copyright(c)T.Fukazawa