15年後の二人
投稿者名:銀
投稿日時:(05/ 2/10)
「ただいま〜…お?」
横島大樹が会社から帰宅すると、玄関に見慣れない小さい靴があるのに気づく。
もしかしてと思い、急いで居間に向かう。すると
「おじーちゃんおかえりなさい」
可愛らしい女の子が大樹にぺこりと頭をさげる。
「おお蛍〜来てたのか〜」
たちまち顔をにやけさせる。そして抱きしめ頬ずりをする。
「おひげがいたいです〜」
「ああ、ごめんな〜」
しかし頬ずりは止めない。
そんな様子を台所で夕食を作りながら苦笑して見ている百合子。
以前は遊び人であった大樹も今ではすっかり孫バカのおじいちゃんになっている。
ひとしきり孫を愛でた後、普通ならいるべき二人がいない事に気づく。
「そういえば一人なのか?忠夫達はどうしたんだ?」
「おとーさんとおかーさんは『りこんするんでほたるのしんけんをかけてけっとうするからしばらくここにいなさい』だそうです」
「そうかそうか、よしそれじゃあご飯が出来るまで一緒にお風呂に入ろうなぁ」
もうすぐ5歳の幼児から語られるには随分ショッキングな事をあっさり流す。
「おーい百合子、夕食はちゃんと蛍の好きなのにしてやるんだぞ」
「わかってるわよ。それよりちゃんと蛍洗ってあげるのよ」
その日の夕食はいつもよりずっと賑やかだった。
同じ頃、都庁地下にある訓練ルームにて美神と横島は完全武装で対峙していた。
「ふっふっふ…とうとうあんたとの腐れ縁も今日で終わりのようね。きっちり引導渡してあげるわ!」
「そりゃこっちの台詞だ!今までの数々の非道、身をもって悔い改めるがいい!」
「じゃあ始めるわよ〜」
かなりどうでもいい感じで美知恵が開始の合図をだす。
その後ろにはひのめや雪之丞、ピート、タイガーといった面々が立会人として呼び出されていた。
全員面倒くさそうな顔ではあるが。
「とっととくたばれこの宿六!」
「往生せいやこの強欲女!」
口汚いののしりあいと共に壮絶な、しかし低レベルな夫婦喧嘩が始まった。
「お姉ちゃん高いお札随分と使ってるわね〜…あ、精霊石まで、いいのかな?」
「頭に血が上ってんのよ、後で絶対後悔するんだから」
「横島の奴はますます体術に磨きがかかってるな」
「そうですね…うわ今の斬撃鋭いですね」
「それをかわす美神さんもさすがジャノー」
「遅くなりました〜」
「あ、おキヌさん今晩は〜」
「お弁当作っていたから遅くなっちゃって…皆さんよかったら食べてください」
「お、ありがてぇ。やっぱこういうのにはせめて食い物がないと盛り上がんねえからな」
その後も『そういえばエミさんはお元気?』とか『魔理の奴がおキヌさんに会いたがっとりましたノー』
『ひのめちゃん六道女学園にはいったんだって?おめでとう』『えへへ、ありがとうございま〜す』
等といった会話が続く。
何だかんだで皆忙しくなり、顔を合わす機会が減っているのでこの二人の喧嘩は定期的に近況報告をするのには丁度良かった。
その間も二人の戦いは続いている。
互いに手の内は知っているため中々決定打はだせない。
そのため力任せではなく高度な駆け引きや、持久戦を考えた体力配分等一瞬の油断が命取りになる戦いが続いていく。
「いつまでも若いと思ってんじゃねぇぞ!少しは年相応の格好しろ!」
「いい加減可愛い娘見るたびにちょっかい出すのやめなさい!あと妄想癖も治せ!」
戦闘はとてつもなくハイレベルではあったが、口げんかはどこまでも低レベルだった。
そしてざっと1時間は過ぎた
「ふーっふーっ………さ、さすがね…私をここまで手こずらせるなんて…」
「ぜーっぜーっ………お、お前こそ…ここまでやるとは…計算外だったぜ……」
さすがに二人とも疲労の色が濃い。
「けどそれもここまで…次の一撃で決めるわ!」
「それはこっちの台詞だ!」
お互い消えかけていた闘志に火がともる。
ロウソクの最後の一燃えのように今までで最大の霊力が膨れ上がる。
「どっちも余力ないわね、次で決まりそうね」
盛り上がってる二人とは対照的に見物人達は食後のお茶などすすりつつのんびりと見ていた。
美神はここ数年の間に編み出した神通棍二刀流を、横島は自力で出せるようになった対アシュタロス戦でだした二文字の文珠―双極文珠を構える。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
「ぬぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!!」
どちらも極限まで集中し霊力を限界まで高める。
そして常人には見切る事すら不可能な速さで一気に間合いをつめぶつかり合う!!
ズドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンンン!!!
すさまじい爆発音と衝撃が特訓ルーム全体を揺らした。
もうもうと立ち込める煙が晴れ、ゆっくりと様子が見えてくる。するとそこには
「ううう…」
「おおお…」
全身ボロボロで倒れてる二人の姿、大方の予想通り相打ち、ダブルKOとなった。
お互い体力、霊力ともに完全に使い切ったようで指一本まともに動かせない。
「や、やるじゃないか…」
搾り出すような声を出す横島。
「あ、あんたもね……初めて会った頃は才能のカケラも無かったくせに…」
「ふ…結構頑張ったからな…お前に追いつき、追い越したくてな…」
「結局追い越せてないわね…まぁ追いついたってのは認めてあげるけど…」
「ぬかせ…」
「何よ生意気ね…誉めてあげたのに…」
「ははは…」
「ふふふ…」
殴り合って理解を深めあった、一昔前の不良漫画のような状態になっている。
「さ〜終わった終わった。じゃあ帰りましょうか」
そして、そんな二人には目もくれず美知恵達はさっさと帰り支度を始めていた。
「おいピート、タイガー帰りに飲んでいかねえか?」
「お〜付き合いますケ〜」
「僕は明日仕事なんで、早めに切り上げますよ」
「ねぇママ、せっかく新宿まで来たんだから買い物して帰ろうよ」
「明日は学校でしょう。まっすぐ帰るの」
「ちぇっ」
集まってるのは皆GS関係者だ。二人の全力の戦い、これだけは一応一見の価値はある。
が、それが終わればこの場にいる意味は無かった。
「あ、あのちょっと?…お〜い皆〜俺たち動けないんだけど〜」
「マ、ママ〜?ひのめ〜?ちょぉっと手を貸してくれたら嬉しいんだけどな〜」
「…大丈夫よ、疲れきってるだけで怪我はそれほど酷く無いから。ほっといても動けるようになるわ」
二人を見下ろしながら言う美知恵。その目はどこまでも冷たかった…
『そんな〜』
声を合わせ涙する美神と横島
そして用は済んだとばかりに皆帰っていく。
だが唯一人、おキヌだけは二人のもとに駆け寄った。
「美神さん、横島さん大丈夫ですか?」
「ああ、おキヌちゃん。君は、君だけは来てくれると信じてたよ」
「うう、昔から私たちのこと本当に理解してくれてるのはおキヌちゃんだけだったわ…」
感涙にむせぶ二人。
そんな二人を見ておキヌはにっこりと笑い
「これお弁当です、動けるようになったら食べてくださいね」
どんと二人のそばに重箱に詰めた弁当をおいた。
「………」
「………」
「重箱のほうは後で洗って届けてくださいね。それじゃあ私も明日早いのでこれで」
ペコリと頭を下げて出口に向かっていく。
遠くから『風邪ひかないでくださいね〜』という声とともに扉が閉まる音がした。
「おキヌちゃんも…強くなったな…やっぱり母親になると違うのかな…」
おキヌもお見合いで結婚し、昨年元気な赤ん坊を産んでいる。
「変わんないの…私達だけかもね…」
精神的成長がまるでないとも言う。
そして照明も消され、非常灯のみになり薄暗くなった地下に放置される二人であった・・・
その頃蛍は大樹と百合子に挟まれ川の字になって寝ていた。
その寝顔はまさに天使の寝顔だった。
「しかしあの二人の子供とは思えないほどよく出来た娘だよな」
「反面教師ってやつでしょう。マイナスとマイナスを掛け合わせればプラスになるしね」
「まぁあいつらも落ち着くまで後10年、20年はかかるんだろうな、俺達みたいに」
「そうね、まぁそれまでは蛍の面倒見てあげるぐらいの事はしてあげましょう」
それなりには息子夫婦に理解のある大樹と百合子だった。
「…美味しい…わね…」
「……ああ…美味い…」
そして半日以上たち、ようやく動けるようになった美神と横島はどちらからともなくおキヌの残してくれていった弁当を食べはじめていた。
予測していたのか時間がたっても美味しいものばかりが献立になっている。
「食べ終わったら…蛍迎えにいって家に帰るか…」
「………そうね…」
弁当は確かに美味しかったが、ちょっぴり涙でしょっぱい気がする二人だった。
「そんじゃ蛍預かっててくれてありがとう」
「ご迷惑おかけしました」
ペコペコと大樹と百合子に頭を下げる。
「おう、こっちはいつでも構わんぞ。蛍〜いつでもくるんだぞ〜」
「今度はちゃんと三人で遊びに来るのよ」
『それじゃあ』と蛍を連れて帰る二人。
「そういえば今日の夕食当番はあんただったわね。何にするのよ」
「カレー」
「またカレー?ワンパターンなんだから」
「俺の得意料理だぞ、それに蛍には好評だ。なぁ蛍〜?」
「うんおとーさんのかれーすき〜」
「この子はあんたの料理は何でも美味しいっていうじゃない。私のには結構文句言うくせに…」
「おかーさんのはんばーぐほたるだいすきだよ」
「そ、そう?じゃあ明日はハンバーグにしてあげるわね」
「わーい」
夕日の中三人は手をつないで家路についた…
おしまい
前に書いた10年後の二人が思ったよりも良かったので書いた続編です。
感想で書いていただいた子供をめぐっての二人にガチンコ、というのをもとにして書きました。
本当はシロやタマモ、エミ、冥子あたりも出したかったけど長くなるんで削りました。
次はそういったキャラもだした物を書きたいです。
ちなみにこの横島と美神は仕事の都合上夫婦別姓という設定です。
それではご意見ご感想お待ちしております。
今までの
コメント:
- すっごく面白かったです!それとまず最初に言うことが。二人が変わってないと言いますが、横島の態度は随分変わってますよ。対等ですもん。
これが大樹の言葉だと10年か20年で落ち着くそうですが、それはつまり蛍が孫を産む、少なくとも男ができるころって頃合ですかね?確かに相手にかまけてる場合じゃなくなりますよね、その状況じゃ。
子はかすがいとはよく言ったものです。 (九尾)
- はじめまして、とおりと申します。
10年〜と合わせて読ませて貰いました。
面白かったですー。あー、この2人ならこーだろうなーって感じで。
キャラが生き生きしてるのが、いいですよね。 (とおり)
- ある意味、最強のバカップルですね。(笑)
さんざん周りを巻き込み、最高の技を繰り出しながら、やることは犬も食わぬ夫婦喧嘩。
背景で行われている同窓会がまた、笑いを誘います。
あっても不思議でない情景で、いい感じだと思います。
以下余談。
美神と横島が結婚しても夫婦別姓というネタはよく見ますが、日本では特にそういう制度があるわけではないので、戸籍上は他人(つまりは未婚同士)になります。
まあ、それ自体はどうでもいいのですが、問題は娘。
愛娘が非嫡出子として扱われる事実に、果たして横島は耐えられるのか・・!?
・・・て、よくよく考えたら、この二人なら結婚してから離婚、くらいの裏技は使うか。 (キリュウ)
- 結婚離婚騒ぎだけじゃあきたらず、娘をかけての真剣勝負の決闘…
実の子までが慣れてしまってるなか、ホント進歩とか成長とか(人間的に)無縁なふたりが…なにやってるんだかw
そんな恒例行事なふたりの揉め事に、巻き込まれ慣れてしまった、達観した感じの周りの皆さんが何とも言えずイイ感じですw (偽バルタン)
- >美神と横島が結婚しても夫婦別姓というネタはよく見ますが、日本では特にそういう制度があるわけではないので、戸籍上は他人(つまりは未婚同士)になります。
戸籍上はどちらかの姓に入るけど対外的には旧姓を名乗るってパターンもあるらしいので、そのパターンかもしれませんね。
それはそれとして、面白かったです。いやー、前作と合わせていい感じですね。 (柿の種)
- おもしろい!これはもう、ある家族の日々として残していくしか!(マテ
蛍 初めての反抗期とか、入学式とか・・・ダメ?(汗 (ユキナリ)
- うわ〜、前話での感想がそのまま話になってる〜(^^
今回一番良かったな〜と思ったのは、おキヌちゃんの
弁当置いてさようなら攻撃でしたね〜、そのくせ時間が経っても
美味しい物で構成しているあたり最高ですね〜。
次は何時の時期の話になるんでしょうか?
蛍の初運動会での父兄参加競技とか?周りの参加者を殲滅しながら
一位を目指して走った挙句娘に顰蹙を買ったりして・・・ (ぽんた)
- 仲良くしてほしいですね、あの二人。
子供のお手本にならなければ・・・・・
もしかして、反面教師ですか!? (太った将軍)
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