ザ・グレート・展開予測ショー

永遠のあなたへ(6)


投稿者名:馬酔木
投稿日時:(00/ 5/22)

ピートがいなくなった翌日の早朝。
前日、横島達がピートと別れた曲がり角の辺りで、中学生ぐらいの女の子が二人、道路にへばりついていた。
片足を大胆に破り取ったカットジーンズを履き、前髪が少しワイルドな感じにフワッとはねているボーイッシュな雰囲気の少女と、肩の部分がキャミソール風になったワンピースを身につけ、髪を幾つもの房にするような感じでポニーテールに結った少女。
二人は道路の上に四つん這いになっており、現場で犯人の臭いを追う警察犬がそうするように、フンフンと鼻を鳴らしている。
傍から見たらかなり異様、もしくは滑稽な姿ではあるが、その二人をはじめ、近くに立っている男女も一様に真剣な顔をしているために、通りすがりにちらと見て行く者達も、その様を笑ったりする事は出来なかった。
「・・・ふーむ・・・争った形跡は無いでござるよ」
やがて、カットジーンズの少女−−−シロが、顔を上げてそう言う。何故かお尻に尻尾があるのは、彼女が本物の人狼だからだ。ちなみに、もう一方のワンピースの少女は、これまた妖狐のタマモである。
そのタマモも、諦めたように首を振りながら立ち上がると言った。
「・・・私も、戦った形跡は無いと思う。強い霊気はピートさんのしか感じないし、それも安定していて高ぶった気配は無いわ。あの辺まで行って、パッと消えてるの」
近くにある電信柱を指して言うと、タマモは、「お手上げ」という仕草をして見せた。
「じゃあピートは、一般人相手に争わずに誘拐されたって事・・・?」
シロとタマモの一応の保護者である令子が首を傾げて呟く。その横には、唐巣から連絡を受けて、令子に連絡を入れた西条が立っていた。
「・・・そうとしか考えられないな。もし強い霊力を持った相手なら、彼女らに感知出来ない筈が無い」
令子の意見を聞き、キリリとした太い眉を持つ端正な顔立ちに、困った表情を浮かべて西条が頷く。長髪が似合う男前の彼は、オカルトGメンと言う公務員版GSを職業とする男であり、対怪奇現象警察官のようなものである。見た目は高校生程度の少年だが、実年齢は七百歳でバンパイア・ハーフと言うピートの特異性を考慮して、唐巣はいきなり普通の警察署に連絡する事はせず、まず西条に通報したのだった。
そこで西条も、まずは霊視による捜査をと、令子の所に居候している犬神コンビを連れて来たのだが・・・
「顔見知りに声をかけられてついて行って・・・ここから離れた所で誘拐されたとか」
「でも、ピート殿の一番新しい霊気はこの辺で途絶えているでござるよ。車に乗せられたんなら別でござるが」
「車か・・・可能性としては考えられるな。唐巣神父が事故にあったから病院まで、とか言われたら・・・」
「・・・引っかかりそうねー」
普段はわりと冷静だが、師匠の唐巣の事となると動転するピートの性格を考えて令子が苦笑する。
「でも、教会が目と鼻の先なのに・・・」
「とりあえず、可能性だよ。何にせよ、ピート君が昨日から帰って来ないと言う事は事実なんだ。彼が唐巣神父にまで何も言わずに行方を暗ますなんてある筈ないし、もし自分から姿を消したとしたら、何か余程の事があったんだろう」
「・・・確かにね」
GSの腕はまだまだ修行中のピートだが、潜在魔力や身体能力的には令子や西条をも軽く凌ぐものを持っている。人間から見れば超能力と言える特殊能力や、異常なまでの回復力など、ある意味では令子達よりもずっと強いのだ。
そのピートが行方を暗ましたとなると、何か、自分達にとっても脅威となり得るものが陰で動いているのかも知れない。
守銭奴であり、金が絡まない限りは動かない令子が今回に限って首を突っ込んでいるのは、そういう心配があるからだった。
「ところで、先生は?今日もどこか捜してるの?」
「ああ。ひょっとしたらどこかで倒れでもして担ぎ込まれてるんじゃないかと、あちこちの病院を回っているよ」
「・・・事故に遭っても倒れるわけないと思うけど」
以前、横島から聞いた話によれば、大剣が胴を貫通しても一時間としない内に回復したらしいのだ。霊的な打撃ならともかく、普通に車にはねられた程度なら次の瞬間には平然と立ち上がるだろう。その辺が、人間である令子達とピートの違いだ。
それでもきっと、唐巣は心配で心配でおたおたしながら都内の病院を回っているのだろう。
(・・・ま、先生らしいわね・・・)
その姿を想像して、令子は少し笑った。


加奈江に誘拐されてきた翌日。
今日は、昨日の三つ揃えよりは普段着向きなデザインの−−−しかし、全てシルクで出来たスーツを着せられ、襟元のスカーフ留めには本物の黄金とトルコ石で出来たブローチを付けられたピートは、昨日に引き続き、自分が閉じ込められているこの部屋の事を調べていた。
壁に耳を宛てると、手で壁を叩いてみて音を聞く。
床はフローリングで、壁も青系の草花模様の綺麗な壁紙が貼られてはいるが、その向こうはどうやらコンクリートのようだ。
ひんやりとした空気の感触や、窓が無い事から考えるに、地下か半地下だろう。昨夜、何度か聞いた加奈江の足音も、やって来る時は階段を下りてくる足音、出て行く時に聞こえるのは上っていく足音だった。
わずかに空気の流れを感じるので通気口はどこかにあるようだが、巧妙に隠されているらしく、目に見える範囲には無い。結界も部屋全体に仕込まれているようで、テーブルの上に椅子を置いて、天窓にも触ってみたのだが、ドアに触れた時のような反発があるだけだった。
トイレやバスはこの部屋からドア一枚隔てて続き部屋になっている隣室に作られており、そちらにも当然結界が張られている。足首の鎖も両足別々に分けて巻かれているため、いちいち外さなくても自由に着替えが出来るようになっていた。
つまり、入浴を口実に部屋から出してもらったり、引っかかって着替えが出来ないと言って精霊石の鎖を外させる事は、不可能と言う事だ。
「・・・」
八方塞がりになってしまい、ベッドの端に腰掛けると、しばし黙考する。
しかし、ピートにはまだまだ余裕があった。
もともと精神力は強いし、まだまだ未熟な感じではあるが、少年の姿をしてはいても一応七百歳なのだ。
ピートには、加奈江の気持ちを考える余裕すらあった。
(・・・あの人・・・永遠とか言ってた・・・)

−−−貴方にここにいてほしいの。私には、永遠を持った貴方が必要なの・・・

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