ザ・グレート・展開予測ショー

10年後の二人


投稿者名:銀
投稿日時:(05/ 2/ 9)

そのリビングは重苦しい空気が支配していた。
二人の男女がテーブルを挟んで向かい合って座っている。
どちらも長い時間押し黙り目の前に置かれた紙切れを見ている。
その緊張に耐え切れなくなったのか、女―美神令子はふとテレビの上に飾ってある写真たてに目を移す。
照れくさそうな、でも嬉しそうに笑ってる自分たちの結婚式の写真。
そんな写真も今は虚しいだけ…
その時男―横島は意を決したかのようにペンを取った。
そして迷いを振り切るかのように一気に自分の名前を紙に書く。
その様子を見てため息をつき自分もペンを取る。
そしてしっかりと自分の名前を書いた。
「私達…これで良いのよ………ね………」
力なくつぶやく美神。
二人の間に置かれた一枚の紙切れには『離婚届』そう書かれていた。


そっと家を出る美神、手には簡単にまとめた荷物だけ。
ガシャーン
おそらく横島が八つ当たりに何かを投げつけたのだろう、背後からガラスの割れる音がする。
その音に一度だけ足を止める。
しかし振り返りはせずにまた歩きはじめた…


ピンポーン
呼び鈴が鳴る。
こんな時間に誰だろう…そろそろ寝ようと思っていた美知恵は首をかしげながら玄関に向かった
そっとドアの外をうかがい、そこにいる人物を確認するとあわててドアを開ける。
「令子、どうしたのこんな時間に?」
「ママ…私別れてきちゃった…」
そこには寂しそうな顔をした長女が立っていた。

美知恵は令子を居間に通しお茶を出してくれた。
「ひのめは?」
ソファアに座りながら尋ねる。
「もう寝てるわ」
「そう…」
良かったと思う。
これから話す事はまだ小学生の妹には聞かれたくない話だったからだ。
出されたお茶を飲むと冷え切った体と心に染み渡る。
「美味し…」
少しだけど笑みが出る。
美知恵も自分の分のお茶をついで対面に座る。
しばらく無言の時がすぎる。
母親からは決して何も聞いてこない、それを美神はありがたいと思った。
「…直接の原因はね、これといってなかったと思うの…」
やがて俯きながらぽつり、ぽつりと語り始めた。
「小さなことの積み重ね、徐々に広がっていく隙間…気づいたときにはもう手遅れだった」
湯飲みを握る手に力が入る。
「お互い近づこうと努力しなかった訳じゃないの。でも…もう二人の歩く道が交わらないんだって分かっただけ」
美知恵からの返答は無い。
「あいつの事が別に嫌いになった訳じゃ無い、でもこうする事が一番じゃないかと思ったから…」
やはり美知恵からの返答は無い。
「お互い傷つけあうだけだから、疲れきってしまう前にこうしようって…二人で決めた…の…」
搾り出すような声だった…
しかしやっぱり美知恵からの返答は無い。

「…ってママ?」
そこまで話して、あまりの反応の無さに俯いていた顔を上げた美神の目に映ったのは

「あ〜ちゃんと聞いてるわよ、続けていいわよ」
煎餅をかじりつつ、読んでいる雑誌から目を離そうとしない母の姿だった。
「何よその態度は!娘の一大事なのよ、母親なら少しは真面目に聞きなさいよ!」
「母親だから我慢して聞いてあげてるんじゃない。これが赤の他人ならとっくに寝てるわよ。何時だと思ってるのよ…」
いかにもだるそうに欠伸をする美知恵。
「その態度に文句があるの!真剣に聞いてって言ってるのよ!」
その言葉に三白眼になって娘を睨む美知恵。
「な、なによ…」
「あんたねぇ、これで何度目だと思ってんのよ」
その迫力に思わず声が小さくなる
「こ、今回は本気なのよ!間違いなく…」
「前回も、前々回も、その前もその又前も更にその又前も同じ事言ってたわよ!」
「だ、だから今回こそは本当に本当なのよ!離婚届にもちゃんと判押したし!」
「ふ〜ん、じゃあこれで3度目、いや4度目だっけ?。役所の人も大変ね同じ夫婦の婚姻届と離婚届を何回受理しなきゃいけないんだか」
今まで実際に離婚も何度かしている、どれも数日で復縁しているが。
「それにしても今回は『特に理由は無い』ですって?前回のチャンネル争いのほうが分かりやすくてまだましよ」
「あれもあいつが悪かったんだから!すっごく楽しみにしてたドラマだったのよ!?」
三十路に入り美神も大分オバサン化が進んだようだ。
「あとシリアスに決めてるようだけど、似合わないからやめなさい。所詮ギャグキャラで汚れなんだから」
「娘つかまえて汚れ言うな!」
「まったく…珍しく一年近く何事も無かったから大丈夫だと思ったのに、油断してたわね」
「人を災害みたいに言わないでよ!それに今回は絶対だって言ってるでしょう。もう復縁は無いの!」
「どうだか…」
完全に信用してない言い方だった。
結婚初めの頃の喧嘩にはそれこそ親身になって相談にのったものだ。
だがそれもこれだけ回数が重なるといい加減馬鹿らしくなってくる。
それにいくらこっちが仲直りに奔走しようと、最後には本人達にしか理解できない理由で仲直りするのだからやってられない。
「喧嘩するほど仲がいいもいい加減にしてほしいわよ、まったく…」
「も〜〜、うるさいなぁ。何騒いでるのよ〜?」
と、眠そうな声とともに奥の部屋から10歳くらいの女の子がパジャマ姿で来る。
「あれ?お姉ちゃん?…あ〜さては又お義兄ちゃんと喧嘩したの?よく飽きないわね〜」
「子供は黙ってなさい!」
「何言ってんのよ、喧嘩するたびに実家に戻ってきてママに愚痴こぼしてるお姉ちゃんのほうがよっぽど子供っぽいわよ」
「な、何ですってぇ!?ひのめ!あんた最近年長者に対する態度がなってないわよ!」
「お姉ちゃんの精神年齢が低いだけでしょう?」
「言ったわねぇ!?」
20も年の離れた妹と本気で口げんかを始めた長女を見て美知恵は大きくため息をついた。
「忠夫君…はやく迎えに来てくれないかしら………」


丁度その頃、横島は弓雪之条(旧姓伊達)を呼び出し行きつけの飲み屋で飲んだくれていた。
「だからな、俺は、令子を愛してるんだ、でもな、それだけじゃ駄目な時も、あるんだ、よ。わかるか?え!?」
「あ〜わかったわかった。とにかく今日は飲め」
こういう場合はとにかく飲ませ早いところつぶしてしまうのが一番楽、さもなくば夜通しうっとおしい泣き言を聞かされるだけだ。
今までの経験からひたすら強い酒をすすめる雪之条。
「ったくピートにタイガーの野郎め、うまく逃げやがって…貧乏くじ引いちまったぜ」
「聞いてんのかぁ!?雪之条!?」
「あ〜聞いてる聞いてる。お前の言いたいことはようくわかる…だからとにかく飲め」
(今回はどっちがおれるか知らないが早いとこ仲直りしてくんねぇかな。どうせ今回もくだらない理由で元サヤに収まるに決まってるんだから…)
雪之条も飲まなきゃやってられなかった。


ちなみに付け加えると今回の喧嘩は周りの予想よりも長く、2週間の長きに続いた。
つまりそれだけ周りに迷惑をかけまくったのである。
ただ今回の仲直りの理由だけは周りにもハッキリと分かった。
美神の待望の妊娠が判明したためであった…


めでたしめでたし(?)







こちらでは初めまして銀と申します。
久しぶりに書いた新作のSSです。
上手く書けているかどうか自分では分かりませんのでよろしければ感想お聞かせください。

宜しくお願いします。

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