ザ・グレート・展開予測ショー

横島忠夫奮闘記 59〜二人目は雪之丞〜


投稿者名:ぽんた
投稿日時:(05/ 2/ 6)

月曜の朝、氷室キヌは学校へと向かいながら色々と考えを巡らせていた。
前日の夜、妙神山から帰って来たシロから興味深い話をたくさん聞かされたからだ。
最も驚いたのは横島の実年齢だ。知らぬ間に27歳になっていたなどとは思いもしなかった。
だが一緒に話を聞いていた美神には納得出来る話ではあったらしい。出鱈目なまでに突き抜けた
強さ、大きく様変わりした戦闘スタイルなど、どれも短時間で出来るようになる訳が無いそうだ。
おキヌ自身も心当たりはあった。最初に見たのはタマモと初めて出会った直後で強力な幻術を
あっさりと破ってみせた。今から思えば陰陽術だろう。あの時も疑問に思ったが後で説明する
と言われそのままになってしまっていた。

外見年齢が変わっていない事に関しては何とも言えないが、文珠を使えば一時的にではあるが
若返る事も可能と考えられるらしく、その作り手であればそのような事が出来る可能性はある
というのが美神の判断だった。いくら美神といえど文珠が絡むと解らない事が多すぎるとの事だ。
それにヒャクメの証言があったというのも大きい。ヒャクメは性格的には色々と問題があると
美神は思っているようだがその能力は疑うべくもない。おキヌはある意味人間の中ではヒャクメの
真価を最も知る者と言って良い。南極でパピリオに勝てたのは借り受けた心眼に依る処が大きい。

アシュタロス戦役の真相を横島がシロに話したというのも驚きだった。最初はやっとフッ切れた
のかと思ったがルシオラの事に関しては何も詳しい話をしていないと聞いて早とちりだったと解った。
詳しく知りたがるシロの質問をタマモが遮ったらしいので、未だに傷は癒えていないのだろう。
だがそれも当然と思える、おキヌと美神は”あの瞬間”を目の前で見てしまったのだ、その後の
横島の魂の慟哭も。見ているこちらが身を裂かれるようだった。あれ程の傷が簡単に癒えるなど
ありえない、だが横島が自分からルシオラの名を出せたという事は彼なりに少しづつでも前を
向いているのだろう、自分達はそれを見守るしかない。出来れば誰よりも近くで見守りたいとは
思うのだがそこまで思い切るだけの勇気を出せないでいた。

ルシオラに関してシロが詳しい説明をおキヌと美神にねだったが、どうすれば良いかおキヌには
咄嗟に判断出来なかった。シロの願いを叶えてやりたい気持ちはあるがこの話は重すぎる。
横島が話さなかった理由は無論未だに話題にするのが辛いというのもあるだろうが、シロの事を
気遣った面もあるはずだ。彼は目下の者には限りなく優しい、美神を見るとやはりシロにはまだ
早いという判断のようで小さく首を振っている。結局質問を封じた上で厳重に口止めしていた。
尊敬する横島の偉業を誰かに伝えたいという気持ちとルシオラに関する情報を同時に封じられて
随分むくれていたが、最後は美神からの「肉抜き」の一言で陥落していた。

おキヌの物思いを破ったのは周囲のザワめきだった。何時の間にか校門の近くまで来ていたが
人の流れが普段と違っていた。門柱の片側を避けるように大きく迂回しているようだった。
見ると学生服姿の少年がそこに立っており、それはおキヌの良く知る人物だった。

「横島さん? どうしたんですか? こんな朝から」
「おはようおキヌちゃん、実は伝言を頼みたくってさ」

一瞬自分に会いに来てくれたのかとドキリとしたが肩透かしをくってしまった。
だが横島からの頼みなら大概の事は引き受けるつもりだった。自分に頼むと言う事は伝える
相手は弓か魔理だろうが昨日の件と考え合わせると魔理の方が可能性が高い。タイガーが
修行を無事終えた事はシロから聞いていたので今日は魔理と会えるだろうと思い安心していたのだ。

「ひょっとしてタイガーさんの事ですか?」
「うん、そうなんだ、一文字さんに伝えて欲しいんだけど」

横島の話によればタイガーの修行は終わっているが今日中は妙神山で休養するそうだ。
これは一種の超回復のようなもので昨日限界まで霊力を出し尽くした為、神気に溢れた妙神山で
休養する事によって山の霊気を取り込むと修行が終了した時点より微量ではあるが最大霊力が
上がるそうだ。これはヒャクメの提案だそうで昨日疲れてうたた寝していたタイガーを視て
霊力の枯渇した状態に気付いて言い出したそうである。

「じゃあ下山するのは明日ですか?」
「うん、多分真っ先に一文字さんに会いに行くんじゃないかと思うんだ。 それと、あの・・・」

伝言の内容は終わったのだろうが、何か他にも用件があるらしい。しかも言い難いものが。
何だろうかと想像してみる、個人的に何か自分に対する用件だろうか、それなら嬉しいのだが
例えばデートのお誘いとか。だがこれは妄想にしても無理があり過ぎる、誘うなら自分からだ。
ならば昨日の事絡みだろうか、もしそうなら高確率で予測出来るものがある。

「もしかしてシロちゃんの事気にしてます?」
「何で解るの?」

ここで何時も貴方の表情を目で追っているからです、と言えれば事態も何らかの進展を見せるのだろうが
生憎とおキヌにそれが出来るぐらいならとっくの昔にどうにかなっている。更に言うならそこまで言っても
横島の場合は、俺の顔に何かついてる?、ぐらいのボケはかましてくれそうだった。向けられる好意には
とことん鈍い男である。誰か周囲の友人が忠告してくれたら良いのにと思う。雪之丞では無理だろう、
ある意味彼も同類だ。ピートやタイガーも朴念仁で不器用な部類に入るので期待できるのは幼馴染の彼か。

「シロちゃんには詳しい話はしてませんよ、まだ早過ぎると思いますから。美神さんも同意見です。
それにあの件に関しては厳重に口止めしてあります、美神さんが”肉抜き”で脅してましたから大丈夫ですよ」

正直な話シロどころか自分にも重過ぎる話だと思う、だが目の前で見てしまった以上は無かった事になど
出来はしない。受け止めて向き合うのが横島に対するせめてもの贖罪だった。無論横島に対してあの瞬間の
話題を向ける等と言う訳では無く、自分なりに痛みを感じて少しでも相手の心に寄り添いたかった。
横島の気持ちが解るなどというおためごかしなど口が裂けても言えない。あの気持ちが解る人間など
いる訳が無い、世界と恋人を天秤にかけさせられた人間など三界を探しても横島一人だろう。

それでも今の横島は前を向いて行こうとしている、ならせめて少しでも近くに寄り添って同じ時間を歩みたかった。
これから先、あの剥き出しの魂が傷付かないよう力になり、守る手助けがしたかった。
多くの時間を皆で穏やかに笑い合えるように。

「ああ、ありがとう、多分大丈夫だろうと思ったんだけどね。アイツがあの話聞いたら
絶対泣くだろうと思ってさ、それはもうちょっと先の方が良いんじゃないかと思って」
「もう少し私達の事も信頼して下さい、シロちゃんを可愛がってるのは横島さんだけじゃないんですよ?」

イタズラっぽく笑いながら言うと照れたような顔で謝りながら、その場を去って行った。
急ぎ足だったのは自分の学校に遅刻しそうだからだろう。教室に着くと疲れたような顔で
弓と魔理が既に来ていた。横島からの伝言を伝えると魔理の表情は目に見えて明るくなったが
それも束の間で次には若干不満そうな顔へと変化して行った。

「どうしたの? 明日には元気な姿が見れるのに」
「いやそうなんだけどさ、安心したら急に今度は一日が待ち遠しくなっちゃってさ、勝手だよね」

確かに三週間以上行方不明だった居場所が解ったのだ、あと一日ぐらいは何でも無いと思えない事も無い。
だが知らなかった時の一日と、知ってからの一日では同じ一日でも感じる長さが違うのだろう。
魔理は一見ガサツに見られがちだが芯の部分は女らしい。今は恋する乙女心全開なのだろう。

「明日には間違い無く会えるんだから我慢出来るでしょう? 子供じゃないんだから」
「うるせえな、アタシだってわかってるよ、けど気になるんだから仕方無いだろ?」

弓の指摘にムキになって言い返しているが照れ隠しなのがミエミエだった。

「真っ先に一文字さんに会いに来るだろうって横島さんが言ってたからもうすぐですよ」
「そうかなあ、やっぱ仕事で迷惑掛けたエミさんが先じゃないのかな?」

「そんな事ないですよ、横島さんが言ってたんだから大丈夫です」
「本当にそうだと嬉しいんだけどね」


魔理としてはおキヌがそこまで断言してくれるのなら信じたくなってしまう。それが自分の希望通りの
未来なら尚更だ。それにしてもおキヌの横島に対する信頼は今更ながら絶大だ。感心してしまう程に。

「なあおキヌちゃん、あの横島 さんって結構良いとこあるよな」
「結構じゃありません、いっぱいです」

タイガーの現状を知らせてくれたのは素直に嬉しかったのでおキヌへの感謝の意味もこめて
横島への評価を上方修正したのだが、それでは全然足りないらしかった。

「そもそも氷室さんから見た横島さんとはどういう人なのです? 私には今ひとつ把握出来ません」


弓にとっての今の横島は不可解の一言だ。強いのは解った、見た目程単純な人間じゃないのも解った。
だがそれだけだ、まだ何か自分の目には見えていない部分が多そうな気がしたので最も付き合いの長い
おキヌの意見を聞いてみたかった。雪之丞からの話では強さにばかり重点が置かれているので
それ以外の部分の人間性などはあまり伝わって来ない。その部分にこそ興味があった。

「う〜ん・・・どういう人って改まって聞かれると、どう言えば良いのかな〜」
「まとまった意見じゃなくて構いません、見たままを教えて下さい」

かえっておキヌの主観でまとめられた見解よりも事実の羅列の方が解り易いような気がした。

「え〜と、じゃあ言いますけど、私の見た横島さんは強くて逞しくて楽しくて優しくて頼りになります」
「ふ〜ん、ベタ褒めなんですのね」

良い評価が連なるだろうとは思っていたが予想以上の高評価だった。

「はい、それと、弱くて脆くて寂しくて哀しくて放っておけない人です」
「ちょっ、ちょっと待って下さい、さっきと正反対ではありませんか」
「そうだよおキヌちゃん、矛盾してるぜ」


おキヌとしては言われた通りに今までに見たままの事象を語っただけなのだが矛盾するのは仕方が無い。
何せ対象たる横島自身が矛盾の塊のようなものなのだ。それを語れば自然と矛盾を含む表現になる。

「じゃあ横島さんは強いけど弱くて、逞しいけど脆くて、楽しいけど寂しい人という事ですか?」
「それに哀しい人だけど優しくて、放っておけない処があるけど最後には頼れる人って事かい?」
「あっそれです、正にそう、最後には必ず何とかしてくれる人なんですよ」

我が意を得たりとばかりに頷いて見せるが、余計に友人たちの混乱を招いたようだった。
だが確かに自分だけでは無く、多くの者達がそう思っていたはずだ。横島がいれば大丈夫、
あいつがいれば何とかなる。その無邪気な信頼が彼に究極の選択を強いる破目になるなどと思わずに。
今なら解る、何故彼なら信じられるのか。今の彼は喪う事の哀しみを誰より知っている。だからこそ
二度とそんな思いをしない為にあそこまで強くなれたのだ。どんな女性なら彼の横に立てるのだろうか。

「なあ弓、ひょっとしてアタシ達の目って物凄く曇ってたのかな〜」
「不本意ではありますが、そんな気が猛烈にしてきました」
「だったら直接会ってみません? 今日の午後は授業に来るはずだし放課後は修行で居残りのはずですから」

今の二人なら横島の本質をダイレクトに見てくれそうな気がしたので提案してみた。
横島の評価が好転するのは何より嬉しい。イメージアップ作戦が見事に失敗して好感度アップ
どころか恐怖の対象になってしまったので尚更だ。地道に布教活動を続けてはいるが誰も耳を貸してくれない。
それどころかイタイ人扱いされかけているので身近な人から理解してもらえるなら言う事無しだ。

「う〜ん、そうすっか聞いてみたい事もあるし」
「私はどうせ雪之丞との修行がありますから会う事になりますし」

二人の同意を得たので放課後三人で会いに行く事になった。今日は朝にも会えたし何となく
嬉しくなってしまった。そうなると一刻も早く放課後になって欲しいと思うのが人情ではあるが
さりとて授業が減る訳でもない。もどかしい思いをこらえながらも真面目に授業を受けやっと放課後になった。
中等部の校庭の片隅に向かうと雪之丞も一緒になって中学生達に修行をつけていた。

「あれ? おキヌちゃんどうしたの?」
「どうもしませんよ? 顔が見たくなっただけです」

思い切ってそう言ってみると、最初面食らったような顔をしていたが照れたような表情で
明後日の方向を向いて頬をかいている。好意を向けられるのは相変わらず苦手のようだ。

「あ〜横島さん、伝言聞いたよありがとうな。お陰でホッとしたよ」
「そりゃ良かった、明日学校が終わったら真っ直ぐ会いに来ると思うよ」


横島は昼休みの出来事を思い出しながら魔理に伝えた。明日の放課後タイガーが魔理に
すぐ会いに行けるようにエミに頼む為、電話をしたのだ。相手が電話に出た後現状を説明
してからタイガーの時間を融通してもらえないか聞いてみるつもりだった。

「そういう訳で明日下山して学校に来ると思うんですけど、エミさんにお願いが・・・」
「ああ、じゃあタイガーに伝えて欲しいワケ、心配かけた彼女に謝ってからじゃないと
ウチの事務所には入れないワケ」

こちらが頼もうとしていた事をあっさりと先回りするように言われてしまった。
さすがは小笠原エミ、自分の本命と被らない限りは恋する女の味方らしい。

「でもタイガーだって仕事持ってるし、そっちが先じゃないのかな?」
「大丈夫だって、明日タイガーの一番大切なものが解るよ」

横島にとっては答の解ってるクイズのようなものだ。ズルをしているような気もするがタイガーと
魔理の仲が上手く行くなら許されるだろうと思う。これが西条のようなエセ好青年に対してなら
真逆の結果を祈るだろうが、かつて共に血の悔し涙を流したタイガーであれば素直に幸せを祝福できる。
大切な女性と共に幸せになる、自分には出来なかった事だけに友人への助力を惜しむつもりは無い。

「それがアタシの事だったら、う〜んちょっと嬉しいカナ」
「はいはい、喜んでなさい、それよりも横島さんに聞きたい事があるんです。
雪之丞がどうしても教えてくれなかったので」

弓が明るい表情になった魔理を押しのけるようにして横島に質問してきた。
雪之丞に答えてもらえなかった、横島に関する疑問なのだろうか。

「あのパピリオという魔族の事です。罪を問われずに妙神山に保護されているのは理解しました。
ですが貴方の身内同然というのがどうしても不思議なのです、何故魔族が身内同然なのです?」
「あっ!」

弓の言葉を聞いておキヌが、しまった、というような顔になっている。おそらくパピリオについて
詳しく話せばルシオラについても言及せねばならず、今迄弓に対して言い出せなかったのだろう。
雪之丞が教えなかったのも同じ理由だろう、この二人はその程度には横島の事を気遣ってくれている。

「う〜んと俺って人外の存在から好かれ易いみたいなんだよね。好かれたら俺だって嬉しいし
人界で他に頼れる相手もいないだろうから身内同然に接してるんだけど、変かな?」
「相手は魔族ですよ? 変に決まってるじゃないですか?」
「変じゃないです! 横島さんは優しいから、神魔妖の区別なんかしないんです」

弓の言い分は大多数の人間に共通する認識だろう、おキヌが反論してくれているが横島の方が
規格外なのは事実だ。普通は中々理解出来ないだろうし無理にさせようとも思わない。
例え少数だろうが雪之丞やおキヌのように共感してくれる仲間がいればそれで良い。
大半の人間は人外の存在などと深く関わらずにすごしているのだ。

「まあその辺は個人差って事で納得してくれないかな? 理屈で説明出来る事じゃないし」
「そういうこった、横島の器は並みの奴じゃ測れねえ。とりあえず納得しとけ」

雪之丞も言葉を添えてくれたので渋々ながらも納得してくれたようだった。

「それより横島よ、何か俺に言いたい事があんじゃねえのか? さっきから変だぜ」

雪之丞に魔族討伐の件で協力を申し出ようと思っていたのだが、どこまで事情を話せば良いかで
悩んでいたのだ。特に今は弓や魔理もいる、余計に言い難かった。だが相手から切り出して
くれた以上は話した方が良いだろう、ケルベロスの件は後で直接言えば良い。

「大した報酬は約束出来なくて悪いんだが力を貸して欲しい。相手は魔界の軍刑務所を
脱走した奴でかなり危険だ。最低でも中級、老師が言うには多分上級魔族だろうってさ」

危険どころの話ではない、普通の人間なら間違い無く断るだろう。そう普通ならば。

「そんな美味しい話で除け者にしやがったら後でブン殴ってる処だぜ。面白え!
全力で闘えるって訳だ、クックックッ燃えてきたぜぇ〜、二人でやんのか?」

伊達雪之丞とはこういう男だ、戦場で安心して自分の背中を任せられる。
そんな相手が一人でもいる自分は恵まれていると思う、金で手に入るようなものではない。

「いや、もう一人いないと厳しいってさ、俺達と同程度の使い手が」
「はあ? そんな奴いんのか? 美神の大将は金がねえと動かねえだろ?」

雪之丞も真っ先に美神の事が思い浮かんだようだが、その行動原理は良く知っている。
危険に見合う報酬が無ければ動かないプロ中のプロだ。横島はヒャクメと小竜姫の意見を
伝えた。戦闘力なら唐巣、コンビネーションなら冥子という二択だ。

「そいつぁ悩み処だな、順当に言えば唐巣の旦那だろうが・・・」
「でもどっちにしろ所長の耳には入れとかないと駄目だろ?」

同じ事務所の二人が同時に動くのだ、当然上司である冥子の耳に入れない訳にはいかない。

「それもそうだな、じゃあ所長に話してから考えるか」
「それと悪いんだけど、ちょっと訓練する破目になると思うぞ」

今回は竜神の装具を貸して貰える話になっているので、雪之丞にも超加速に慣れてもらいたかった。
ぶっつけ本番よりは慣れておいた方が良いに決まっている。相手が使えなければそれで勝てるが
甘い見通しは禁物だろう、超加速状態で闘えるようになっておく必要がある。

「超加速か、確か韋駄天の技だよな? お前は使えんのか?」
「文珠無しじゃ無理だな、でも竜神の装具を借りてなら月でやったぞ」
「「「「月ぃ?」」」」

数人の声が重なるが説明するのも面倒臭いので放っておいた。

「とにかく超加速状態じゃ飛び道具は一切使えないから肉弾戦になる。
俺やお前には向いてると思うんだが三人目はどうだろうな」

唐巣は周囲から力を集めて放出する闘い方だし冥子は式神使いだ。どちらも肉弾戦向きとは言えない。
霊力が低ければ超加速に入る事さえ出来ないので基本霊力の高さでいえば冥子になるのだが。

「じゃあ今から事務所に行って所長の知恵を借りてみようぜ、知識面では俺達より
上だし六道家なら何か情報を持ってるかもしれねえからな」
「ちょっと待てよ、まだ修行の途中だろうが」

思い立ったらジッとしてられない雪之丞がせっつくが今日の修行を始めたばかりだ。
いきなりこちらの都合で放り出すような真似は出来ない。

「先生、拙者達なら大丈夫でござる、自分達でちゃんと修行するでござるよ」
「そうですよ、今日からの僕達は今迄と一味違います。安心して下さい」
「魔族相手の準備を優先した方が良いと思うわよ? 皆貴方に死んで欲しくないんだから」

中学生三人がそう言って薦めてくれるので、その言葉に甘えて行動する事にした。
確かに自分が死んでは何にもならない、修行も何も終わってしまう。来たるべき闘いに集中するべきだ。

「じゃあお言葉に甘えて、行こうか雪之丞」
「おう」

雪之丞と二人で急ぎ事務所へ向かおうとしたのだが後からの声に呼び止められてしまった。

「待って下さい横島さん、私もついて行って良いですか? 余計な口出しはしませんから」


おキヌにしてみればこのまま別れるなど出来なかった。自分が闘いの手伝いが出来る訳ではないが
何か少しでも力になれる事があるかもしれない。そう思うとジッとしていられなかった。
弓もおキヌと同様らしく無言のままついて行こうとしている。魔理はそんな二人が気になるのか
同じくついてこようとしている。横島が頷いてくれたので五人で六道除霊事務所に向かう事になった。




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(あとがき)
妙神山に行かなかったおキヌちゃんを出したくて半ば無理やり書いたんですが
内面をちゃんと描ききれたのかが不安です。次話でメンバー編制をきめなきゃ
いけないんですが、どうしようかな〜。話の流れが自然になるようには誰が良いのやら。

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