ザ・グレート・展開予測ショー

『GS美神another story』 No:5「選択肢」


投稿者名:とらいある
投稿日時:(05/ 2/ 6)

布団の中に潜り込んだまま、先程のやりとりを思い返す。
あの後、本当に聞きたかった事について聞いた。ベスパとの闘いの後の経過を。
しかしその話になると、二人は押し黙ってしまった。
何かあったのだと直感的に感じられた。
沈黙が漂う居間に、ルシオラが発した一言が響く。

『体の傷は癒えても、失われた霊気はすぐには回復しないわ。だから今は休んで。完治したら、全てを教えるから』

やや顔を背けながら言ったその姿が、ひどく印象的だった。
パピリオは俯いていたため、どんな表情か分からなかった。
恐らく、というか間違いなく自分絡みでべスパとルシオラ達との間に何かがあったのだろう。
口調から、べスパとルシオラ達との間に微妙な空気が流れているのは想像に難くない
「絆」を守る為闘ったべスパにとって、それが望んだ結果である筈が無い。
自分に責任があるのだから事の顛末を知る必要がある、可能なら3人の関係も修復に尽力したい。
そのためにも

「早く直さなきゃな」

自分に言い聞かせるように呟く。
霊力の大量消耗からくる身体の倦怠感、こんな時は寝るに限る。
実際に眠らなくても、安静にしていた方が霊力の回復は早い。とりあえず目を瞑った。

食事後の満足感もあってか、数分も経つと静かに寝息をたてていた。


                『GS美神another story』


体が揺さぶられ横島は目が覚めた。

「んあ?」

寝ぼけ眼で揺さぶった人物を見るとルシオラだった。

「おはよう、ルシオラ」
「おはよう。ご免ね、寝ているところ起こしちゃって」

横島は半身を起こし、伸びをしながらルシオラの表情を窺った。ルシオラはなにか言いたげな表情だった。

「そりゃ構わないけど。何か用あったんだろ?」
「え、ええ。ちょっとね」

曖昧に答えるルシオラ。横島に向ける笑顔もどこかぎこちない。 
下手に促すより黙って待っていたほうがよいと判断し横島は黙って待っていた。

「これから買い物に行くのだけど一緒に付き合って欲しいの」
「あれ、それだけ?」

自分が考えていた以上に単純な理由だったため拍子抜けしてしまった。だが、

「そうだけど・・・もしかして嫌だった?」
「喜んで行きますとも」

俯き、落胆したような声に横島は慌てて起き上がり、直立不動になって答えた。
するとフフッという声を出しながらルシオラが笑った。

「もう、冗談よ。お前の服と食べ物を買いに行くから誘ったのよ」
「冗談にしては悪質なんだよ」

ちょっと不機嫌そうに横島は言った。

「もう、すぐ真に受けるんだから。じゃあ表で待っているから準備してね」
「ヘイヘイ」

だがそこで横島は自分の今着る服が無いことを思い出し、今来ている着流し以外のまともな服が無いかどうかルシオラに尋ねようとしたが、既に部屋から居なくなっていた。


結局他に服が無い為、着流しのままの格好で出ることにした、勿論下着は装着済みだ。
洗濯機など無いからルシオラの手洗いだったという事実を聞きなんともいえない、どんよりとした気分を抱えながら表に出ると、動力・エネルギー源不明の「今は亡き帝国の独裁者に命じられ、試作・量産された大衆車」の傍に既に先客がいた。

「あ、パピリオ・・・様も行くのですか?」
「私が一緒だと不満でちゅか」

途端不機嫌そうにプクッー頬を膨らませるパピリオ。
だが別に本気で怒っているわけじゃなくて、気分を害しただけのようだった。

「最近ポチは態度がなっちゃいないでちゅ、良い子にしないと折檻でちゅよ」

プリプリと怒っている私服姿のパピリオは怖いというより可愛いらしかった。
横島は心の中で念仏を唱えるかのように、自分がロリコンである事を否定する言葉を心の中で唱えた。

「お待たせ、さあ行きましょう。パピリオもちゃんとその子に餌をあげた?」
「さっき美味しそうに啜ってたでちゅよ。満腹っていってまちた」

それを聞いた横島は、横島は昨日乗ったときから感じていた疑問を思い切ってぶつけてみたが

「な、なぁルシオラ。その車の燃料って・・・いや、やっぱ何でもない」
「?変な横島」

―――――あえなく挫折。



眺める景色が後方へと流れていく。横島は運転をしているルシオラと助手席のパピリオの会話を聞き流しながら車窓から景色を眺めていた。
日はすっかりと落ちかかっていた。
大量に購入された食料品と衣類をものともせず軽快に走るビートル・・・というより秘密な動力源のお陰か。
食料品・衣料品の殆どが横島の為の物だった。
食材の他、缶詰等の保存食やお菓子等の嗜好品。服はGパン・Gジャン・シャツ等と以前とあまり代わり映えのないものだった。
ここら辺は温泉が湧き出るのか浴衣を着た温泉客らしい人達がいた為、横島の姿は然程違和感は無かった。
3人は今、必要な物資を買い終えて秘密な車(?)で秘密なアジトへ帰投の途中だった。
ボーっと景色を眺めていた横島は出かける時とルートを走っていることに気が付いた。

「なぁ、今のT字路右じゃなかったっけ?」
「ん〜 あぁ良いのよ良いのよ。帰りに寄って行きたい所があったしね」

横島の問いにルシオラは悪戯っぽい笑顔で答える。横島もパピリオもその笑顔の真意がわからず、首を傾げていた。


3人の乗った車は、山の頂上付近の町と海が一望できる展望台に止まった。
3人とも降りて展望台から町と海を見渡した。
海上には大きく真っ赤な夕陽。その夕陽によって町も、海も、山肌も美しく真っ赤に染まっていた。


「また、一緒に見れたね。夕陽」
「ああ、そうだな」

海に浮かぶ夕陽の眩しさに目を細めながら一日の終わりの象徴を、お互い無意識に手を握り合いながら眺めていた。
パピリオは夕陽を眺めたまま身動ぎひとつせず、ずっと黙ったままの2人を疑問に思い何度も話しかけたが無反応だった為、やがて黙って夕陽に目を向けた。
燦然と真っ赤に輝く夕陽は3人の姿を赤く染め上げる。静かで、穏やかなその空間がそこにあった。

「沈んじゃったね」
「昼と夜の一瞬のすきま・・・か」

夕陽が水平線下に没して辺りを闇が覆いはじめた頃、ようやく沈黙が破られた。
ルシオラも横島も暫くの間沈んだ場所を感慨深げに見つめていた。
だが、それまで横島と握りあっていた手をルシオラは突然離した。
横島がルシオラの方に顔を向けると、横島と正面から向かい合うように体をこちらに向けていた。
ルシオラの表情は決意と悲しみに彩られていた。
悲壮感すら漂う表情の理由を問おうと横島が口を開く前に、ルシオラが喋り始めた。

「今見た夕陽が、お前と共に見れる最後の夕陽になるかも知れない。逆天号は明日の朝出発するわ」

横島はあまりに突然の事に言葉も無かった、というより頭の中で理解できていなかった。
逆天号の出発時間を教えるというのは脱走を手引きしてくれるという事を示唆しているのだろうか。
だが「一緒に見る最後の夕陽」という言葉に引っかかった。アシュタロスを倒しルシオラ達3人を自由にする、そうルシオラに誓った。
百回でも二百回でも、一緒に夕焼けを見るために。 

「全てを話すわ。そして全てを聞いた上でお前に一つの選択を強いる事になる」

ルシオラは横島を麻酔で眠らせた後のことを語りだした。


―――――――――――――――


「一体どういうつもりなんだい?」

べスパはルシオラの行為が理解できず苛立たしげに口を開いた。パピリオもこの場に居るのもその原因であった。横島を守るように立ち塞がっている。
どう考えても横島を擁護する側だろう。
だが解せないのは横島に麻酔をかけたルシオラの行動原理だった。

「泥沼なこの状況を変えればよい方法をね、考え付いたのよ。聞いて」
「はんっ!聞けないね。ポチの助命か見逃すかの違いだろう?悪いがそんな提案には乗れないね」

消耗したルシオラが自分の麻酔を打ち破ったことには正直驚きだった。だがポチを守って戦える程の戦闘力は最早残っている筈がない。
パピリオがどう動くか判らないが、ルシオラは交渉によって横島の助命を言って来るに違いないと踏んでいた。
そんなべスパを横にルシオラは小さく深呼吸して、一拍子おいたのち話した。

「ヨコシマに決めさせる事にした。全てを捨て私を選んでくれるか、私達の元から離れるか、ヨコシマに選ばせる。」

べスパは予想外の提案に驚き目を見開いた。べスパの想像では、ルシオラ自身の命と引き換え・・・もしくはポチの監禁のどちらかだと思っていた。
一方パピリオは平然として聞いている、既にルシオラが道すがらに話したのだろう。俯いているため表情は判らない。

「ヨコシマには非情な選択になると思う、でも私はヨコシマを信じてる。」

「私達はほぼ同時期に誕生したから今まであまり意識してこなかったけど。あなたの姉として、最初で最後の頼みごと・・・聞いて頂戴」

ルシオラは言い終えるとべスパに向かって頭を下げた。べスパは、たかがポチの為に・・・という思いと、彼のどんな魅力がここまで姉に言わしめるのか?と考えていた。
だがそれよりも、もう一つ重要なことを聞きたかった。

「その前にもう一つ。姉さんはポチがこちらの側に付くのが決まっているかのようにしてるけど、ポチの奴があんたを選ばなかった時はどうするんだい?」

一瞬の静寂。それまでべスパのほうを見ていたパピリオは、はっとして横島に顔を向けた。縋りつく様な目で・・・
べスパから見る限り、ルシオラの瞳に動揺の色はない。何もかも吹っ切ったような顔のルシオラが不気味だった。

「ヨコシマがどちらを選択しようと私はヨコシマの選んだ道を尊重するわ。それに、その時は・・・」



―――――――――――――――

「その時は・・・お前から私達の記憶の全てを消しさる」

そう言って懐から、文字の描かれていない文珠を取り出して見せた。
全てを聞き終え呆然とする横島。
全てを捨てる・・・それは雇い主の美神や同僚のおキヌはもちろん、両親・親友達・碌に行ってないが学校のクラスメートそれらを裏切るという事。
ルシオラを選ばないという事は、これまでの彼女達とのかけがえのない思い出を全て失う。
横島は己に課せられた試練とも言うべき選択に、完全に思考活動が止まってしまった。

「言い訳はしないわ。恨んでもいい、憎んでくれてもいい。お前に辛い選択をさせることを」

目に涙を浮かべながら言葉を紡いでいく。文珠を持つても震えていた。

「今すぐ決めてくれなんて言わない。明日の出発前までに決めてくれればいい」

横島の指に小さな手がそっと絡みついてきた。パピリオが無言で横島の手を掴んでいた。
闇が完全に周囲を覆いどんな表情をしているのかわからない。だが俯いて震えていた。
横島には優しく言葉を掛けることも、手をそっと握り返す余裕もなかった。
結局ルシオラが「帰りましょう」と言うまでその沈黙は続いた。

そこからどうやって帰ってきたのか横島は全く覚えていない。ただ帰り着いたとき感じたべスパの探る様な視線が心に痛かった。
その夜の横島の食事は豪勢なものだった。ルシオラが横島の選んだ食材を使い、わざわざ買った料理本を片手に作ってくれたからだった。
だが横島は先程の事が頭から離れず、折角の料理も味が分からなかった。



―――――――――――――――

「なぜ報告しなかったんだ!」

西条は右手に受話器を、左手を様々な資料で散らかったままの机に叩きつけながら怒鳴った。机の上の、うず高く煙草の吸殻が積み上がった灰皿が衝撃で一瞬浮き上がる。
東京近傍の県のとある温泉街・・・と言っても地元の人間が利用しているようなささやかな温泉街にて昨夜巨大な爆発音があったというのだ。
発生源は山の手の森の中、早朝には野次馬が群がっていた。
周囲の木々が薙ぎ倒され、地面の所々が真っ黒に焼け焦げたような色をしていたことから地元の人間は最初、噴火か隕石かと考えていたらしい。
だが、たまたまその野次馬の中に温泉療養で訪れていたGSが霊波を感知し、悪霊による霊障と判断した。
除霊中の事故による怪我の療養のため訪れていたから、何の道具も持ち合わせていなかった。
だからその見解をオカルトGメン東京支部局に連絡するに留まったのだが、その後のGメンの対応がいけなかった。
Gメンの隊員は情報端末にて報告してきた人物の照会をしたのだが、その人物のGSランク・依頼達成率等で情報の信憑性を判断してしまった。

―――――GSランク:B−  依頼達成率:61.7%  前科:有り(暴行罪 一件) 

決して低い数値ではない、ごく一般的なGSかと思われる。だが達成率が90%オーバーの自分達から比べるとかなり低い。
前科の暴行罪というのも要因となった。補足事項に『依頼主の払い渋りによるトラブル』と記されていたのだがそんな事は関係ない、前科が有るか無いかが判断材料だった。
また現在療養中というのも除霊の失敗によるものという事実が決定打となってしまった。Gメンはこの情報を信頼に足らないと判断してしまった。



この事は東京支部局の所長でもある西条が、異常の有無の報告を受ける際、隊員が口を滑らせた事から発覚した。

「いいか?今から関東地区のGメン全隊員に非常呼集をかけるんだ。東京支部隊員にはA級・・・いや、S級装備で現地に向かわせろ」

S級装備とは、対中〜上級魔族戦を想定したGメン隊員の特別装具である。だが今まで中〜上級魔族を相手に戦った事が無い為どこまで通用するかは疑問だが。

「あくまで偵察に徹してなにか発見次第、逐次報告するように。私か?私は今この場を離れられない。副所長に全権を委任するから以後は彼の指揮下に入るように。以上だ」

通話を終え、手にした携帯電話を半ば叩きつけるように机に放り投げた。
Gメン隊員全体に言える事なのだが、民間GSをエリート集団という色眼鏡で低く判断してしまう。
だがGSというより公務員に近い為、採用基準がどうしても学歴重視となってしまい民間GSに比べ個人の戦闘能力は劣ってしまう。
Gメンの強さは国家予算から計上される無尽蔵の資金力。
個人の戦闘能力の不足分を高級・高品質の霊能アイテムや隊員の数・組織力、そして巧みな戦術で補っている。
分かり易く言えば「金と数にモノを言わせている」のだが、どうも個人の実力と履き違えているようだ。現場の人間にしか分からない苦労である。
常に最前線にいる西条ですらしばしば他人を色眼鏡で見てしまう事があったりするというのに。

(もし、奴らを発見したとしてもどうする?突入させても足止めにもなるまい。皆殺しにされるのがオチだ)

机の上で頭を抱えながら悩んだ。

(先生が何を考え、何をしようとしているのか全く分からない。令子ちゃんに苛酷な訓練をさせているが、そんな急速に実力が上がるわけがない)

気絶するまで戦わせ、目覚めても少しの休憩ですぐ再開。それの繰り返しである。
はっきりいって異常だ。まともな神経なら実の娘にあそこまで強いることはあり得ない。となると・・・

(先生は何を急いでいる?・・・いや焦っている?)

だが、あくまで想像の域を抜け出ない。
今の自分に科せられた任務は、想像ではなく情報の収集とその判断と処理。
与えられた任務は全うしなければならない。だが肝心な情報源が沈黙したままだった。

(とにかく今は何よりも情報が欲しい、だが横島君は一体何をしているんだ!?)

敵の移動要塞は損傷が激しかった筈だった。最初のダメージの後すぐ異空間航法へ移らなかったのがその表れであろう。
修復の為、必ずどこかに潜伏しているはずだから隙を見て連絡しても良いだろうに。
その為に潜入させたというのに音沙汰なしだった。
待つより他にやりようが無い西条にとって、歯痒い時間だけが過ぎていった。









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