ザ・グレート・展開予測ショー

恐怖公と剣の王と吟詠公爵(中編)


投稿者名:アース
投稿日時:(05/ 2/ 5)



広大な魔界のほぼ中央にそびえる巨大な魔城。その名を万魔殿。周囲を分厚い壁で囲み、中の宮殿に入れる者は、特別な許可が無い限りの上級魔族達だけであった。
その万魔殿を中心として、街が作られ、人間とは全く異なる生物が行き交っていた(中には人型のものもいるが)
万魔殿の見張り台の一つに詰めていた兵士(無論、魔族)は小さく欠伸を上げた。頭に、角を付けた所謂ゴブリンと呼ばれる種族である。

「おい、そろそろ交代の時間だ」
そんな彼に声をかけたのは、トカゲのような外見をした相棒の兵士。仕事の引継ぎをしながら、何となくぼやく。
「暇だよなあ・・・・」
滅多に大事件など起きないものだ。それこそ、神族の大部隊が攻めてくるなど。

「そうぼやくなよ。今日も何も無いだろうが、サボってるとお叱りが飛ぶぞ」
「解ってるよ。そんなことは」彼としても、職務は遂行するつもりだし、もしサボろうものなら、「上」からの厳しい制裁が待っている。
・・・・とはいっても、彼がこの任に就いて数十年、特に大事件が起こったことは無く、平穏そのものだった。一言で言えば、彼はこの仕事に飽いていた。

見張り台から、下を見やる。街の連中の喧騒が聞こえ、それなりに活気に溢れている。
(何も無い。今日も平和な内に終わるだろう。息子に、何かしてやれる土産話は無いものか・・・)
魔族らしからぬ思考にとらわれていると、彼は小さな異変に気付いた。遠い空の向こうから、見える小さな黒い点があった。

今日、この名も無き兵士は想像を絶する光景の証人となる。(もっとも、その光景の中で失神するのだが・・・)


街のいたる所にいる兵士どもが、騒ぎ出した。
軍での休暇を取り、特に目的も無く街を散策していたゴモリーは、彼らの慌しい動きに気がつき、兵士の一人を呼びとめた。
「おい、何があったのだ?」
舌打ちと共に、振り返った彼は、相手が軍の大佐の一人だとわかり、態度を改め、膝をついた。
「し、失礼しました。軍の大佐殿とは気付かず・・・・」
「別に構わん。それより何があった?」
兵士の非礼も大して気にも留めず、状況の確認を急ぐ。周りを見渡せば、武器を取りに走る者。連絡に回る者。
見えない遠くでは、兵隊長の笛が鳴っている。あれは緊急招集のものだ。
さらに、よく見ると武装した悪魔兵士以外は、皆家の中に避難している。
(休暇を取っていたとはいえ、こんなに慌しいことに・・・)

視線を戻すと、冷や汗を流し、今にも卒倒しそうな兵士と目があう。
彼の声は、目の前の女の魔神と、異変に対する興奮とでかなり震えていた。

「きょ、巨大な黒い龍が、一直線にこちらに向かっています」
「敵襲」冷たく、鋭い声で問う。異変には違いないが、ありえない事ではない。
しかし、この程度で取り乱すとは・・・
(ここの兵の質も落ちたか・・・)
心の中で毒づきながら、口には出さず
「さっさと撃ち落せばよかろう。守備隊は何をしている」
自然と詰口調になってしまう。

「い、いえ、敵襲かどうか判断しかねるとのことで・・・ただ今、『上』に指示を仰ぎに・・・」
どういう事だ、と目で問いかけるが・・・兵士は途方にくれた視線を空に向け・・・

「その黒い龍が、アスモデウス大公爵様の物に相違ないとの事で・・・」

「な、何・・・・」今度はゴモリーが絶句する番だった。

そんな彼女の頭上を、凶暴な叫びと共に「彼」の操る魔龍が飛び去っていった。間もなく、見張り台の方から、悲鳴が上がった。
バギイイ――――ン!!
例え、力天使数千騎でも破れない結界が、まるで木を鉄球で叩き壊したように易々と破られた。

考えるまでも無かった。
アスモデウスが、霊波砲で結界を跳ね飛ばしたのだ。あれ程の真似が出来るのが魔界でも、十人といない。
(何をしに来た・・・)
疑問はすぐに氷解する。神魔のデタントの中で、封印候補に挙がっているのが、彼だった。
そのことに対して、彼と親しい彼女やいくつかの魔神達は、反対したが、彼の古巣であるゾロアスター系の連中は強硬で、結局大勢を覆すことはことは出来なかった。

(先手を打つ為に、乗り込んできたのか・・・)
思考しながらも、翼を広げ、見張り台――彼の元へ急ぐ。
何者であろうと、敵である限り万魔殿に近づけるわけにはいかない。彼は果たして、敵か、味方か。

黒き龍は、見張り台に羽の様に着地した。周りを取り囲む兵士達は、静かに龍から降り立った存在に、声を失う。

「彼」は、周りを気にも留めず闇よりも黒い外套を翻して歩き始めた。
兵士達は動けなかった。「彼」の発する静かな威圧感と底知れない『闇』に押されていた。

静かな静寂が訪れる。そこに別の声が割り込んできた。
「この馬鹿者!! 一体何しに来た」
声の持ち主は、彼にとっても馴染であるゴモリー。

そこで、ふと気付く。彼の姿は、最近彼女が見慣れた服装ではなく、闇よりも黒い外套に、これまた黒の中装鎧。腰には獄炎を発する魔剣ゲヘナ。彼女の脳裡に、多くの神族を血祭りに上げていた頃の彼の姿が重なる。苛烈な戦いぶりで恐れられた男。魔神アスモデウス。

しかし、あの頃と同じ姿をした彼の声は、対照的に静かだった。

「急ぎでね。迷惑を掛けた」
彼の周りから、空間そのものを侵食するような黒い霧のような気が立ち上る。
同族の魔神であるゴモリーですら、彼の黒い霧を目の当たりにしたのは初めてである。

それでも、彼女は声を振り絞り・・・・

「何故今頃、やって来た・・・」
結界を突き破り、嘗ての武装に身を包み、敵にしか見せないはずの黒い霧を発している。警戒心を全開にし、愛用の三叉の槍を構える。何故か、恐怖心以外のものが、彼に槍を向けたくないと、叫ぶ。
対して、アスモデウスは首を横に振り・・・・
「聞こえなかったか。ゴモリー、君の相手をしている暇は無いと」彼の声は、静かだが彼女に有無を言わせぬものが有った。

「用件を言おう。サタン様に取り次いで欲しい、まだ私にも万魔殿の中枢に入る資格はあったはずだが・・・」彼の用件は、簡潔で危険極まりないものだった。

間違いなく、アスモデウスはサタンと戦うつもりなのだと・・・・・

ちなみに、周りの兵士の何人かは余りの威圧感で真っ白になっており、或る者は病院に運ばれた後も、うわごとを繰り返していたという。


後書き 
やばい、原作キャラが全く出てこない。後編ではアシュタロスやサタンが出てきます。いよいよ、「彼」と横島の関係がちょっと明らかに・・・・(殆どバレバレですが) 
しかし、真相を知った周りの反応が凄そうだ。(特にべスパとか・・・・)

一挙に二話更新。試験が終わって一段落着きました。過去編と本編の微妙なリンクを楽しんで下さい(書き切れてるかな)

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