ザ・グレート・展開予測ショー

横島忠夫奮闘記 58〜千客万来〜


投稿者名:ぽんた
投稿日時:(05/ 2/ 4)

「あー、それからもうすぐここに石頭の若僧がやって来るからの、
お主がもう一遍叩きのめして頭を柔らかくしてやれ、任せたぞ?」

そんな事を任されても迷惑なだけなのだが、面と向かって師匠に逆らう訳にもいかない。仕方無く、
せめて事情だけでも聞いておきたかったので説明してもらう、ジークに頼んだ助言の効果も知りたかった。

「ジークの助言を聞いてから余計に懊悩が深くなったようでの、あ奴は余程
あの美神とかいう小娘に嫌な思い出でもあるのか?」
「嫌な思いって言うか・・・まあ、ピートは正義感強いですから」

どうやら美神の見習うべき点ではなく、逆の部分に思考がフラッシュバックしたらしい。
まあ確かに悪い点の方がインパクトが強いのかもしれない、桁外れな部分も多いし。

「先生どういう意味です? どうして正義感の強いピートさんが美神さんを見習うように
助言を受けただけで悩むんですか? 美神さんは正義のGSでしょう? だよね?犬塚」
「も、もちろんでござるよ・・・美神殿は・・・正義の・・味方でござる・・・」

シロが不動から目を逸らしつつ脂汗を流しながら言っているが、言葉の内容とその様子に
ギャップがあり過ぎる。これを不審に思うなという方が無理だ、一層尋ねるような顔で横島を見る。

「まあ、人間いろいろ・・・GSもいろいろ・・・って事だな」

答になっているようで何の答にもなっていない事を言って誤魔化そうとするが、当然ながら
通用しない。だが更に不動が詰め寄って来ようとする寸前にピートが入って来た。

「いましたね横島さん、もう一度僕と闘って下さい。あと少しで何か閃きそうなんです」

そう言い募る様子は、目の下の隈は深く瞳は落ち窪んで血走り頬はこけ髪はボサボサだ。
こんな状態で何を考えても無駄だろう。どう見ても今すぐ休養した方が良いように思えるが
おそらく周囲の忠告を聞かず無理を重ねていたのだろう。ようするに眠らせろという事だ。

「解った、始めようか?」
「はい!」

ギラついた目で返事をしてくるピートを見ながらその横を素通りする。

「さ〜て何処でやろうかな〜」

そんな事を言いながら部屋から横島が出て行くのをピートは半ば呆気に取られつつ見送った。

「ふむ、逃げたかの?」

斉天大聖の呟きを聞いて、ハッとしたような顔になり慌てて後を追うべく部屋を出て行こうとする。

パシュッ!  ドサァッ!

部屋の戸が閉まると同時に何かが崩れ落ちるような音がした後ですぐに横島がピートを担いで
戻って来た。ピートは完全に意識を失っているようだ。

「老師、こいつどれぐらい眠ってないんですか?」
「そうじゃのう、かれこれ100時間以上は眠っておらんはずじゃな」

それだけ長時間起きていたのなら、まともな思考力などろくに残っていなかったはずだ。一眠りして
頭の中をリフレッシュした方が良いだろう。試験勉強でも同じような事が言われているはずだ、徹夜する
よりも早寝早起きの方が効率が良いというのは常識になっている。そこまで勉強した事など横島には無いが。

「先生、いったいピートさんに何をしたんですか?」
「ん〜? 霊的中枢に軽く霊波を流し込んだだけだよ。体には何のダメージも無い」

ピートの事が心配なのか、不動が詰め寄って来るので安心させる為に答えてやる。

「今のは待ち伏せをかけたんでござるか?」
「まあね、あんなに慌てて追って来るとは思わなかったけどな、どうせ老師が煽ったんでしょ?」
「まあ、お主のやりそうな事ぐらい見当はつくしの、それにお主の方が手加減は上手かろう?」

どうやって仕止めたのか興味があるのかシロが聞いてくるが、あんなものは待ち伏せとも言えない。
あんな状態ではまともな状況判断など出来る訳がない。
老師が直接手を下さなかったのは、ここまで衰弱してしまうと手加減が難しかったからだろう。
万全の状態で挑んだ横島と雪之丞ですら、充分に手加減した斉天大聖に殺されかけたのだ。

「卑怯とか言うなよシロ? 今のと似たようなエピソードは宮本武蔵にもあるからな?」
「武蔵殿にもでござるか?」

シロの尊敬する剣豪の名前を出した途端に様子が変わった。最初は非難半分の様子だったのだ。
ようするに横島の取った手段は宮本武蔵の焼き直しにすぎない。始めようと言って相手が応じた
以上はその瞬間から勝負は始まっていると言って良い。ピートは横島が脇を素通りした時に背後から
仕掛けるべきだったのだ。戦士の心得は常在戦場、一旦闘いを受けた以上は寸毫たりとも油断すべきではない。

「ようするに勝負が成立した瞬間から闘いは始まってるってこった、試合場の手前で敵の
攻撃を許すのは単なる油断にすぎない」


シロは横島の言葉を胸の内で噛締めていた。言わば控室から試合場への移動中に攻撃するのは
機先を制する事であり、それを許すのは油断であるという事だ。勝負が成立した以降は一瞬たりとも
油断は許されないという事なのだろう。それは現実味を持ってシロに圧し掛かってくる。

「ふうむ、”卑怯”と”先見”の違いを拙者は肝に命じるべきでござるな、
それと”思い込み”は”隙”に繋がるという事もでござる」
「その通り、徐々にで良いからそういう考え方も出来るようになろうな」


横島はようやくシロの視野が広がるきっかけが出来たような気がしてホッとしていた。
歴史に名高い剣豪だけあって宮本武蔵の例えは霊験あらたかだったらしい。
その時小竜姫が何かに気付いたような顔になる。

「おや? またお客様のようです、やれやれ今日は千客万来ですね」

そう言ってそのまま席を立とうとしたので慌てて横島が声を掛けた。

「わざわざ小竜姫様が出る事は無いでしょう? 良ければ俺が行きますけど?」
「・・・良いでしょう、何か気に掛かる物がありますので代理で見届けて来て下さい」

一時的にではあるが妙神山管理人代行という事だろうか。何となく自分が偉くなった
ような気がした。単なる勘違いにすぎないが。

「ふ〜んヨコシマが行くなら私も行こうかな」
「「先生が行くなら拙者(僕)も!」」

横島が行く所なら何処にでもついて行くつもりなのか、口々にそう言ってくる。
結局ゾロゾロと大所帯で行く事になった。ちなみにパピリオは問答無用でしがみついている。
そのまま抱いて連れて行くが、何時もより随分くっつきたがるので不思議に思い聞いてみた。

「どうしたんだパピリオ? 今日は随分と甘えたサンだな?」
「今日は泊まっていけるんでちゅか?」

それが気になっていたのかと解り納得するが、パピリオの要望には答えられそうにない。
自分とタマモだけなら泊まっていけるが、シロと不動に外泊させる訳にもいかない。
遅くなり過ぎないうちに連れて帰るべきだろう、この辺り横島は割と硬い。

「今日は俺達だけじゃないからちょっと無理だな」
「そんなの嫌でちゅ、一緒にご飯食べてお風呂に入って眠るでちゅ」

これには困ってしまった、パピリオの我儘なら出来るだけ聞いてやりたいが、さりとて
無条件でという訳にもいかない。連れて来た責任という物がある。

「じゃあ私が二人を連れて帰るからヨコシマだけでも泊まってけば?」

困っている横島に救いの手が差し延べられる。タマモの発言には驚いたが助かる内容ではある。

「タマモは良い事を言うでちゅ、普段は甘え放題なんだから今日はパピの番でちゅ」

何やら二人の間で協定でも取り交わしたのだろうか。そういう事であればタマモの好意に甘えた
方が良いのかもしれない。少女三人で帰すのは若干心配ではあるが、その内二人は人外の者達だ。
戦闘力だけでなく危険察知がズバ抜けているので心配し過ぎる事はないだろう。

「解った、じゃああの二人の事頼めるか?」
「任しといて」

そう言うとそのまま前を歩く二人の処へ歩み去って行ったが話し掛けるのかと思いきやそのまま
追い越してしまった。抜かれた二人は再び抜き返そうと先を争うようにペースを上げている。
結局競歩のようなスピードになっている。生まれ出てからの時間でいえばタマモが一番短いのだが
普段は一番大人びている。だがあの二人といると妙に子供っぽくなるのが可笑しかった。

「ほらパピリオ、今日は泊まってくから良い加減離れろよ」
「それとこれとは話が別でちゅ」

横島は何とかパピリオを降ろそうとするが、一向に降りようとはしない。
それどころか首に齧りついたまま背中に廻り込まれてしまった。
結局諦めて背負ったまま門へと向かう破目になった。
門の処まで来ると何やら話し声が聞こえて来る。

「おお、ここの神族の方々ですか? なるほど見た目で判断してはいけないという事ですね」

何か勘違いしまくったような言葉が聞こえてくるが、敢えて訂正せずに威厳らしき物を
取り繕って門を潜りながら声を掛ける。

「え〜私が当修行場の管理人代行の横島・・・ってアレ? 素子さん?」
「ええぇっ? 横島さん?」

そこに居たのは昨日出会ったばかりの女性、赤坂流剣術師範代の赤坂素子だった。

「どうしてここに?」
「どうして? 愚問ですね、試しを受けに来たに決まっています、横島さんこそ何故?」

言われてみれば確かにそれ以外の目的で妙神山を訪れる者などいないだろう。
だが気魂の刃を会得したのは昨日初めてのはずだ。いくらなんでも急すぎないだろうか。横島はそこが心配だったが相手の興味は別にあるようだったので一応説明する事にした。

「今日は俺の弟子達を師匠方に引き合わせようと思って連れて来たんですよ」
「弟子達? では・・・では、まさかこの三人は・・・」

「え〜と、多分見た目通りで判断して良いんじゃないか・・と・・・」


素子にとっては一大ショックだった。神族と勝手に判断したのは自分の早とちりではあるが
まさか普通の中学生が妙神山の中から出て来るなど想像もしなかった。しかも更に話を聞けば
妹と同い年で同級生までいるらしい。妹に確認しようと思いつつも視線が一箇所に引き寄せられる。

「横島さん・・・その・・・背後霊のような少女はいったい?」

横島に背負われている少女はどう見ても中学生の三人より年下にしか見えない。見た目は完全に小学生だ。

「こいつは俺の妹みたいなもんですけど、少なくとも俺よりは強いですよ」 
「とてもそういう風には見えませんが・・・」

その会話から自分が軽く見られていると感じたのか、パピリオが抑えていた霊圧を少し解放した。

ブアァッ!

ほんの一部だけの霊圧の解放で素子は軽く吹き飛んでしまった。中学生組は門の前に
いたので門に押さえつけられるだけで済んでいた。

「ね? ”見た目で判断してはいけない”でしょ?」

先程素子本人が言っていた台詞を引用して念押しすると恥じ入ったような様子で頷いていた。

「恐れ入りました、これ程の霊圧に接したのは初めてです、世の中は広いですね」
「まあそうですね、ところで昨日の今日で試しを受けるなんて急すぎませんか?」

横島は一番気になっていた事を確認しようとした。技が出せるからと言って、イコール勝てる
という訳ではない。目の前の女性ならその程度の事は理解していると思ったのだが。

「私は幼少の頃より10年に一人の天才と呼ばれていましたが、どうやら100年に一人の天才だったようなので」

あっけらかんと自画自賛のような言葉を聞かされたが、そこには何の厭味もない。
事実を淡々と述べているような口調だった。詳しく聞くと、気魂の刃は100年以上
幻だった技で再現できたのは、妙神山で修行を受けた先祖以来だったらしい。
文字通りの意味での”100年に一人”の逸材という解釈らしい。それで会得した翌日に
来たのだろう、確かに急だから悪いと決まった訳でもない、勢いこそが大事な場合もある。

「ああ気魂の刃の解釈はあれで間違い無いそうですよ、小竜姫様に確認しました。
では見事鬼門の試しを突破出来たら小竜姫様のもとにご案内します、鬼門達、頼む!」

「「承知!」」

左右の鬼門の声が唱和する。素子はと見ると、正真正銘の気魂の刃を会得したと解り
力を得たかのような表情になり日本刀を抜き放つ。刀身に霊気が収束していくのが良く解る。

「この妙神山で修行を受けたくば我等の試しを突破して見せよ、この右の鬼門と」
「左の鬼門、生半可な技など通用せぬぞ!」

「赤坂流剣術師範代、赤坂素子参る!」

そう凛々しく言い放つと上段に構え、攻め寄せて来るのを静かに待っている。
怒涛の勢いで攻めかかって来た鬼門を自分の間合いに呼び込んでから刀を振り下ろした。

銀光一閃、素子の持つ刀身から放たれた霊気の刃はものの見事に右の鬼門の霊脈を直撃し
そのまま崩れ落ちた。致命傷ではないが暫く動けないだろう。だが左の鬼門は一切怯む事無く
殴り掛かって行く、素子は刀で切り払っているが先程のようには霊気の収束が出来ていない。

霊気を纏わない日本刀など鬼門にとっては単なる鉄の棒にすぎない。素子自身も承知している
だろうが、焦りからか上手く収束できないでいる。この技を実戦で使うのは初めてだからだろうが
人間相手の稽古で使えば下手をすれば殺しかねない。技の使い手が素子しかいない以上は鬼門相手の
ぶっつけ本番でやるしか無かったのだろう、つくづく惜しかった。

だがそんな横島の感慨など知らぬげに、素子は諦める気配など微塵も無く果敢に闘っている。
飛ばせる状態迄の収束が出来ないので、とりあえず刀身に霊気を纏わせた状態で斬りつけている。
それでもある程度のダメージは与えられるが、素子の方が消耗が激しそうだ。このままではジリ貧だ。
握力が落ちて来たのか鬼門の腕の一振りで手元から刀を振り飛ばされてしまった。
止めとばかりに殴りかかった鬼門の拳をかわし、そのまま腕を掴み相手に飛び掛りざま組み付いて行った。

「おおっ? 飛び関節?」

横島自身も喰らった技で、思わず声をあげてしまう。何故剣術家があそこまでスムーズに
組み技に移行できるのかが何度見ても不思議だったが、それを今言っても何にもならない。
刀を飛ばされた後の攻防には一瞬の遅滞も無い。首刈り十字固め、そのまま相手を仰向けに倒せば
完全に決まる。鬼門のパワーにどの程度通用するかは疑問だが、振り解かれても仕切り直す隙に
刀を拾えるし、距離を取れば気魂の刃を出すまでの溜めを作れるだろう、起死回生の一手だった。
技に入る事さえ出来れば、だが。相手の手首を掴みざま飛びつき首を刈って倒そうとした。

スカッ!

無意識のうちに体が反応し身に染み付いた動きをしたのだろうが、生憎と鬼門の頭はのっていない。
ものの見事に刈り足は空振りに終わり、バランスを崩して地に落ちてしまう。
踏み潰さんとするような勢いで鬼門の足が追撃してくるが、間一髪で身を捻ってかわし間合いを取った。
刀からは遠ざかってしまったが、拘り過ぎると命取りになる。上体を屈め目の前の敵に集中する。

ドスッ!

何時の間にか最初のダメージから回復していた右の鬼門が素子の背後から忍び寄り、
延髄の辺りに手刀を振り下ろした直後、素子は無言で崩れ落ちた。

「それまで! 勝者鬼門!」

横島の宣告と共に鬼門達が拳を納め元の立ち位置に戻って行く。

「いや〜中々手強かったのう右の、お主が最初倒された時は内心焦ったぞ」
「然様さ左の、あんな攻撃を受けたのは100年以上昔じゃのう」

鬼門達の会話を聞きとめた横島が確認すると、やはりと言うか当然と言うか以前受けた攻撃とは
赤坂家の先祖から受けた物らしい。倒れ伏している女性がその子孫だと教えられたら驚きつつも
納得していた。一方見学者三人組は初めて見る級友の姉の闘い振りを息を呑んで見守っていたが
惜敗したのを見て口々に感想を述べていた。

「いや〜、あと一歩でござったな。2鬼を相手に獅子奮迅の闘い、天晴れでござる」
「赤坂のお姉さんって強いね〜、あんな技まで使えるなんて凄いや」
「敗因は時間の掛け過ぎね、やっぱり本気の鬼門さん達は強いのね」

シロは素子の不屈の意志を、不動はその高い技術を褒め称えていた。タマモのみは鬼門側の立場での
発言になっているが、その辺りはご愛嬌だろう。初対面の級友の姉より身内優先になるのは当然だ。
そんな三人の発言を聞きながら横島は素子の状態をチェックしていた。大きな出血は無いし呼吸も
正常なので心配いらないだろう。上手く手加減してくれたようだ。素子を看る横島の表情は
真剣そのものなのだが、背中にオンブお化けが付着している為珍妙極まり無い眺めだった。

「横島よ、その者お主の知り人らしいが中に入れての看護は罷り成らんぞ」
「然様、我らに負けた者はこの場より引き返すのが定めじゃからな」

横島としても心配する気持ちは当然あるが、鬼門の言う事は尤もだ。そうでなければ試しの意味が無い。

「解ってるよ、最後は随分手加減してくれたみたいだから大丈夫だろ」

そう言うと自分のGジャンを脱いで素子に掛けておいた。刀も拾い鞘に戻そうとしたのだが上手く
入らない。鬼門の言によれば硬い物に斬りつけた後は刀身が伸びる事があり、時間を置かないと
鞘に入らないそうだ。仕方無くそのまま素子の傍に置くが良く見ると和泉守兼定だった。父親の
お気に入りの刀を持ち出してまでのトライとは相当気合が入っていたのだろう。結局それ以上
出来る事は無いので全員で中に戻って行った。

部屋に戻ると小竜姫に詳細を尋ねられたので一部始終を話して聞かせた。奇妙な符号とも
言うべき巡り合せに驚いていたが闘いの結末を聞いて静かに小竜姫が問い掛けて来た。

「それで? 貴方の見た処の敗因は何だと思いますか?」
「そうっスね〜、自分より強い稽古相手がいない事じゃないですか? せっかく会得した
技も実際に使って組み稽古する相手がいないから、技の練りが足りなかった訳ですし」

横島の答を聞いて小竜姫が満足そうに頷いている処を見るとどうやら正解らしい。
おそらく洞察力を試されたのだろうが中々気を抜かせてくれない師匠である。

「良く見ました、物事の表層だけ見るのではなくその背後まで考えを巡らせる事は
戦闘時にも必要になる事があります。習慣付けておくと良いでしょう」

何とか合格点を貰えたらしいが、ハードルがどんどん高くなって行くような気がする。
しかも話はここで終わらなかった。

「その稽古相手なんですが、良ければ貴方が務めてくれませんか? 無論どちらにも強要は出来ませんが」

面倒な事をサラッと言い出されてしまったが、ただでさえ最近過密気味のスケジュールなので正直な処
断りたかった。だが自分の弟子を厚遇してもらって、それ以外には知らん顔というのは通じないだろう。

「武林一門是一家」

小竜姫の更なる発言が追い討ちを掛ける。赤坂流とは小竜姫繋がりでの遠縁の同門のようなものだ。
困っている人がいれば助力を惜しむべきではない。何も無期限という訳ではない。素子が奥義を完全に
使いこなせるようになるまでだ。それ以降に会得した者が出れば互いを稽古相手にすれば良い。

「解りました、先方が嫌がらなければ申し入れてみます」

そう答えると小竜姫が嬉しそうに頷いてくれた。体力的にはかなりキツくなるが師匠が喜んで
くれるのであれば問題無い。話が終わるとタマモと二人で夕食作りだ。横島は魔鈴直伝のフランス風
家庭料理、タマモが百合子直伝の和風のお惣菜だ。どちらも中々の出来でジークも合流しての全員での
食事は楽しいものだった。食後に横島だけ泊まって残りは帰るという話を聞いて案の定と言うかシロがゴネた。

「ええっ? 先生が泊まるなら拙者も泊まりたいでござるよ〜」
「阿呆かっ! お前に無断外泊なんかさせた日にゃ俺が美神さんに殺されるわっ!」

美神を盾に取るような形になったが何とか押し切った。この場合、横島の命が人質のようなものだ。
結局不承不承ではあるがシロが折れた。不動も何か言いたそうにしていたが何も言わないまま
タマモに引き摺られるような形で帰って行った。

その後はパピリオに風呂に付き合わされ、ゲームに付き合わされ、同じ布団で眠る事になった。
大層疲れる破目になったがパピリオが本当に楽しそうだったので横島的には何の問題も無かった。




――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
(あとがき)
やっと妙神山での夜まで来ました。次の話はどんな展開にしましょうか。
いきなり派手に行くか、幕間にするか・・・幕間かな?
メンバー編制も決めなきゃいけないしな〜。

今までの コメント:
[ 戻る ]
管理運営:GTY+管理人
Original GTY System Copyright(c)T.Fukazawa