恐怖公と剣の王と吟詠公爵(前編)
投稿者名:アース
投稿日時:(05/ 2/ 4)
これは、過去の話。或る変わり者の悪魔二人の話。神と魔のデタントで犠牲となった二人である。
「全く、何を読んでいるのか。理解に苦しむ」そう言って、魔界の大公爵アシュタロスは、何千年もの付き合いになる『親友』を見て、ため息をついた。何しろ、自分でも解読をあきらめた魔術書『七つの王冠』を熱心に読んでいるのだ。(失われた魔法言語で書かれている)
理解できてるのか、問うと『彼』は無表情で「三割ほど」と返してきた。この男は全く変わっている。魔族として、自分も変わっているという自覚はあるが、彼よりはましだ。
女性に見境無く声を掛けるくせに、いざとなったら手を出さない。人間に魂などを引き換えとせずに、力や知識を与えたりする。極めつけは、『万魔殿』を出て行くといったことだろう。
アシュタロスは、その時のことをハッキリと覚えていた。
「私は、ここを出て行く。この先、神族との闘争以外で君達と道を同じくすることは無い」彼は、静かに、しかし決然と全悪魔達の前で言い放ったのだ。それ以来、彼と万魔殿の間は、ほぼ絶縁状態だった。
ほぼというのは、自分の様に、彼の城―魔界の辺境の地にあるーのを訪れる物好きがいるからなのだが・・・・今日は吟詠公爵は来ていないようだ。
「視野狭窄に陥るのは良くないと思うが・・・アシュタロス」相手は無感情な、それでいてよく通る声で屁理屈をこねて来た。
駄目だ。屁理屈ではこの男に勝てない。永年の付き合いなのだ。素早く思考を切り替え・・・・
「この魔術書はまだいいとしよう。しかし、キリストの聖書の原本が転がっているのはどういうことかね?」
そう言って、アシュタロスが指差したのはキリストが現世に出た時に発表する(予定)の「聖書」の原本。
「神界にツテがあってね。神族との闘争戦略の為に取り寄せた」しれっとした顔で、ほざいて来た。
(嘘を付け)
心の中で、毒づく。本当は暇つぶしに読むつもりだろう。
こんな性格も異なる二人だが、何故か気が合っていた。もっとも、アシュタロスでさえも、入り込めない部分が、彼にはあったりするのだが・・・・・
アシュタロスから見た彼の評価は、矛盾だらけだった。
戦闘能力では自分を上回り、剣の腕も魔界で五指に入り、そのくせ争いを嫌う。女性には積極的なのか、消極的なのか、ハッキリしない。人間に友好的なのに、どの魔族よりも計り知れない『闇』を持つ。
おまけに、女心に鈍感と来ている。彼に好意を抱く女性は多いのだが・・・・彼が気付かないか、女性の方が、彼の『闇』に入り込めず離れてしまうのだ。こんな彼に近づける女性は今の所、吟詠公爵ゴモリーだけだった。
今日の訪問の目的に入るとしよう。目の前の彼に、大いに関係のあることに。
「それはそうと、神魔のデタントが現実味を帯びてきた」アシュタロスの声が、呆れたものから真剣みを帯びたものに変わる。いつしか、漠然と言われてきた神と魔の協調。そんあ夢物語が、真剣に討議され始めたのだ。
「そんなことは知っているさ」彼は、事も無げに答えた。万魔殿から離れているとはいっても、向こうに潜入させている親愛なる諜報部員が、逐一報告してくれる。
「ならば、わかるだろう? 現在、両陣営のパワーバランスは我々の方が、有利。誰かが、封印されなければならない。その候補に、真っ先に挙がっているのは君だ」
その理由は、表向きは彼が万魔殿から孤立していること、人間に過度に友好的なことなどだが、そんな物は建前。本音は彼が、「生贄の羊」になり得る位置にいる、それだけだった。
「そうだろう。最も、私も徒で封印される気は無いが」勝てないことを承知で、彼は平然と言い放った。
絶句するアシュタロスに対し・・・・・
「それよりも、君とて大変ではないのか。水面下で何かやってるんだろう。それに、私は君と違って自殺願望は無いのでね。派手に暴れてやるさ」その声に、疑問の響きは無い。寧ろ確信に近いもの。
(まさか、感づかれているとは・・・・)
誰にも漏らしていなかった『究極の魔体』の製作。さらに、彼は、自分の本当の望みさえも見透かしている。
「私も派手に立ち回ってやるさ」アシュタロスは、本当の親友と呼べる男に笑みで答える。
お互いに、そうそう合うことは出来なくなる。それぞれに進む道があり、それが「親友」であった二人を引き離すことになるのだ。
「私と君は遠い未来に会いそうな気がするな・・・」
『彼』の勘は殆ど外れたことが無かった。
「その時は酒でも酌み交わそう」
「ああ、楽しみにしている」
彼ら二人の誓いは、一つはある意味で果たされ、もう一方は果たされることは無かった。
かくして、彼らはそれぞれの戦へ・・・・
後書き
アシュタロスが別人、アシュにもこんな穏やかな時と親友がいたのでは無いかと。結局、『彼』の正体も分からずじまい(分かった方は相当悪魔学に詳しい方でしょう) これは、皆さんのご推測の通り、拙作「吟詠公爵と文珠使い」の補完版です。ちょくちょく「過去編」は出てきます(あと一、二回ですが)。 神魔のデタントの中で、『彼』とアシュタロスは違う意味で犠牲者と言えます。前者が封印(幽閉でもいい)、後者が望まざる復活という形で。GS美神とは別物になってしまった。でもこの話を書かないと、過去に何があったか分からないんで・・・・次の「過去編」でゴモリーやサタンが出てきます。
今までの
コメント:
- あいつの前世のさらに前はそんなご大層な人だったんですね〜。どうりで栄光の手が剣の形に変わるわけです。
聖書ができた二千年前ごろに一度わかれて、千年前に会って、現代でまた会った。つぐつぐ縁というものは断ち切れないものですね。 (九尾)
- こんにちは、最初から拝読しておりました、透夜と言います。
私の中での『アシュタロスはこうだった』というイメージと程よくあわさるので賛成票を。
えっと、彼の正体『剣の公爵』と呼ばれているのでアスモデウスでは無いかと思っていたのですが、私は悪魔学に詳しくないので違うかな。 (透夜)
- 本編と合わせて楽しく拝読させていただきました。
本編はゴモリーの性格設定や横島とのさっぱりした関係などが絶妙でかなり気に
入っていたのですが、過去編での温和なアシュ様と悪友の友情話もどこかコミカ
ルで楽しめました。
原作で「誰も踏み躙りたくないが、踏み躙らないわけにはいくまい」と言ってい
たアシュですが、よりにもよって踏み躙ることになった相手が…('A`)
次話にも期待してますので、賛成票をば。ではー。 (サキ)
- う〜ん・・・「彼」の正体か〜
女性に見境無く声を掛けるって事は愛欲等を司る
と言われているアスモデウス公爵かな?
どうでしょう? (ぽんた)
- 皆さん「彼」の正体は実はその通りです。(横島とアスモデウスは結び付けやすいんでしょうか) 後編で「彼」(敢えてこう呼びます)が先手を打つ為、『万魔殿』に単身乗り込みます。 しかし、横島の設定が、ここまでとんでもないのは私だけ・・・? 「彼」をデタントの生贄にしたのは、「彼」の古巣のゾロアスター系の連中です。(かぜあめさんのネタとかぶりそうですが・・・・) もしかしたら横島とゴモリーの出会いも宇宙意思によるものかも・・・・ 皆さん、本編の方もお楽しみ下さい。 デミアンじゃ勝負にならんよな(どうしよう) (アース)
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