ザ・グレート・展開予測ショー

お前は誰? No5(ラスト)


投稿者名:トンプソン
投稿日時:(05/ 2/ 3)

少し前になる。エミは今回のミスを弁解しようと『オクムラ』が所属する法務省公安局へ出向いたのだが。
「スミマセン、公安のオクムラさんに会いたいワケ」
官庁街の事、警備の体制は厳しい。飲み込まれそうな大きさの門の前に立っていた警官に声をかけたエミ。
だが、記者証を首に下げている訳でもなければ、この街のシンボル議員バッチをしている訳でもない。
確かに着ているものは悪くはないが、子供服の延長。それ以前に子供。
相手にされる訳がない。むしろ警察から尋問を受けてしまうのだ。
「ん?この法務省に何か用かな?御嬢ちゃん」
警備姿勢、腰を腕に回しているのは即座に武器を取れる体勢、足を肩幅に開くのもすばやい動きをする為の格好だ。それが三人いる。
「わ、ワタシは・・」
まさか公安雇われの殺し屋とは言えまい。ここで一計を案じて。
「オクムラはワタシの兄、だから合わせて欲しいワケ」
「そうか、ちょっと待て」
比較的年かさの警察官がトランシーバーで中に確認を取っているようだ。
(お願い、出てきて!)
見た目は平然としている積りのエミも警備経験のある警察官には動揺が見て取れよう。トランシーバーを置いた警察官。
「公安に『オクムラ』なんて人はいない、と言ってるぞ」
エミの顔が真っ青になる。ここで自分が尻尾のトカゲであった事に気が付いた。
「あ、ゴメンナサイ、警察の方の公安だったワケ、ちょっとした勘違いなワケね、じゃあ失礼するワケね」
「?ちょ、ちょっと待ちたまえ!君名前は?」
ここで警察の尋問を食らっては溜まった物ではない、急いで近くの地下鉄の入り口に逃げ込んだエミ。
「・・・どうする。ワタシはどうすればいい?」
警察の目から逃れたがこれからの事はどうすればいいのか、全く持って予想が付かない。
それ以前にここが地下鉄のどの路線なのか、何処を歩いているのか周りは見えていない。
東京の地下鉄。あまりにも複雑怪奇に絡まった地下道は場所によっては日に100人も使われない場所もあるのだ。
知らぬうちにそんな場所にたどり着き、一人答えの出ぬ問いを自問していたその時。
「エミさんだね?」
サングラスにスーツ姿の男が後ろから声を掛けてきた。
「オクムラさん?」
自分を探しに着てくれたのかと勘違いしたエミである。だが振り向いた先にあるのはサングラスをしてはいるが、見たことのない顔。
「『オクムラ』・・そうかい、そうかい、エミさんの依頼人は公安のアイツか、成る程成る程」
手を顎に当ててくっくっと笑い謎が解けたと笑っている。
「お前は誰だ?!」
「昨日、エミさんが狙った男の部下さ、悪いけど死んでもらうよ」
背中に隠していた青龍刀をすらりと見せつけエミの頬にぴたりとくっつけた。
「ひ、ひっ!」
いくら人が来ないとは言え突然刃物を出すのは危険な行為である。
仲間の数人が誰も此方に来られないように誘導していたという。最もエミには判らないことであるが。
『エミ!尻餅をついてる場合じゃ無いギ!オデを開放するギ!』
ここが地下であるのが幸いだ。これならベリアルも活躍出来るという物。
ところが、相手もこれから始末する娘の武器は熟知している。
「うるさいよ、黒球」
ズボンのポケットから聖水の瓶を見せる。
『ギャッ!』
ベリアルにとってはマニュキュアにおける除光液その物。それをぶっかける。
『食らうかっ!』
エミの影になったので最悪消されることは無かったようだ。
「ま、悪魔がこれで死ぬわけはないだろうが、効果は絶大だろ?因みに」
スーツの裏を見せたサングラスの男。
エミの目が大きくなる。
「霊糸で繕ったスーツさ。対悪魔用の鎧だ」
男の口元が奇妙にゆがんだ。
「エミさんも日本人だろ?俺の爺様は旧日本軍に殺されてるんだ、ボスの分と我が一族の分と合わせてやらせてもらうよ」
片手で楽々と持っていた青龍刀を上段に構え、両手を据えて刃の位置を調整する。
『何やってる!逃げるギッ!』
相手の手が空いてないのを確認し、少なくとも聖水の攻撃は避けられると判断したベリアルが再度影から身を出してエミの襟首を加えて逃げ出す。
バウンドするボールが布切れを連れているような光景であった。
「・・・・逃げても無駄だがね」
サングラスの男が青龍刀を床に置いて指を鳴らした。
これが合図なのか、仲間の中でも足の速いのがエミを追い始めた。
エミが電車に乗ったのを確認したとの連絡も直ぐにこの男の耳に入った。
「そうか、何処か人気のいない場所に誘導するんだ、そうだな、近くの港がいいだろう」
そう指示を与えてサングラスの男も車に乗って港へ向かっていった。
その向かう先の港に例の幽霊殿が日向ぼっこをしていたという関係があった。

この時代・・。
東京の湾岸事情は少々厳しい物があった。
既に小さな工業港は存在していたが、時代のニーズがこの大きさには合っていなかったのである。
晴海ふ頭や使用意義が違うが築地等の一流所を除けば斜陽の一途である。
国の内外を問わず大型船舶が持ってくる物流は千葉や神奈川の横浜という、大きな倉庫がある港を目指してくるのだ。
尚、こういった場所は21世紀になり再開発地区と呼ばれ高層マンションとして生まれ変わっているのである。
打ち捨てられたコンテナ、鉄筋の腐り始めている小さい倉庫、隠れんぼにはもってこいなのかも知れない。
先ほどまではベリアルに咥えられて逃げていたエミもこの場所にくれば自分の足で歩くと言うもの。
「はっはっはっ、こ、ここまで来れば逃げられるカナ?」
人間と言うもの、逃げる先に海を選ぶことが多いようである。
「・・・これじゃあ、ドラマの悪役だ」
五メートル先のコンテナの陰からぬっと現れたのは先ほどの霊糸で仕立て上げたスーツにサングラスの男。
オタクはっ、はん・・・二時間ドラマならきっと劇的な音楽でも鳴るワケね」
先ほどと違い、相手との距離がある。エミに若干の余裕を与えた。
「さっきは不意を付かれて見っとも無いトコみせたケド、もう容赦はしないワヨ!」
怒気を強めて言葉を発するが相手も歴戦の覇者なのであろう。
暗黒外限定のではあるが。
鼻にもかけぬ態度といおうか、先ほどの青龍刀も鞘に閉まったままのようである。
そして、サングラスの仲間も四人ほど駆けつけた。これも同じく五メートルぐらいの距離を保った。
なにやらお互い確認をしているようだが、皆中国語を使っているので何を話しているのか、エミには判らなかった。
「悪いけど、オタクらは私の命を狙っているワケよね、ならワタシも容赦しないよ!」
ばっと手を上げ声高々と最後の切り札を出す。
「ベリアル!令冥約条項第二条第七項、発動!」
『我に13秒の自由を!任せるギ、こんな奴ら三秒で・・』
倒せる手はずであったのだが。
「あまい!」
サングラスの男を筆頭に皆が鏡を手に持ち、襲ってくる悪魔ベリアル姿を映した瞬間に身動きがとれなくなってしまう。
『ギャ!な、何だ、何だ!』
取り乱すベリアル、エミも呆然と立ち尽くしている、座り込まないだけでも気丈であるが。
「我々中国人を舐めてもらっては困るな。悪魔封じの手は幾らでも知っている、その一つ『鏡牢の儀』さ」
サングラスの男が言うとおり、風水信仰を始めとする呪術的要素が日常の生活に浸透している。
この事実は暗黒街にも当てはまる。むしろ裏の人間であるからこそ宗教とは違い、悪行が糧でも人間以上の存在から身を守ってもらえるのという考えがあるのだ。
この男達、ベリアルを中心に正五角形を形成していた。
彼らの手にある鏡には陰陽五行を象徴する文字『木・火・土・風・水』の文字が浮かんでいるのが見て取れたはずだ。
その形を全く崩さずに少しずつ、ベリアルの傍に寄っていく。エミの背中を通り越した二人がいた。
13秒以上発って、エミはベリアルを戻そうとしたが、無意味である。
ベリアルの真上に五本の腕が揃った。
「さらばだ。人に使役されし悪魔よ、我々はキリスト教徒ではないので、祈りの言葉だけはまけてやろう」
予め用意しておいた聖水を真上から垂らしていく。
子供の悲鳴にも似た断末魔が港を支配した。時間にして二秒ほどであったか。
「さてと、これでお仕舞いだ、エミさん、ジ・エンドだよ」
踝を翻して此処から去ろうとするエミだが、転んでしまう。
彼らは何もしていない、動転した体では逃げられぬことをサングラスの男達は知っていたからだ。
「我らがボスを殺めようとした罪、痛み償ってもらうぞっ!」
サングラスの男が隣にいる仲間に何やら言葉を発した。当然中国語である。
青龍刀を渡され、一礼した後に、エミの方へ足を運んだ。
「や、来るな、近寄るなっ!」
亀のように這いつくばって少しでも離れようとするエミ。耳に入る波音が奇妙に大きく聞こえた。
突然、車のクラクションが波音を掻き消している。
「止めたまえ!」
音のなる方向には当然車がある。車種はコブラ。運転手は唐巣神父である。
運転の腕前はなかなかのようで、かなりのスピードでこちらに来ていたが、ブレーキを踏んで止まったときには四人の目の前についていた。
「貴様、何者だっ!」
中国語で問いかけ、サバイバルナイフを手にするものもいたが。
「待て、お前達!」
スーツ姿でサングラスの男が皆の行動を止める。
「誰なんですかい?この神父は」
「我々のボスを救ってくださった方だ」
残りの四人は感嘆の声を出し始めると、サングラスの男、両腕を目の前に置いて頭を下げた。
「勝手ながら昨日のお仕事を拝見させて頂きました。我らが主を助けていただき、恐悦至極に存じます」
他の四人はサングラスが何を言っているのか、理解は出来ないであろう。
事実、この御礼の台詞は今時の日本人でも声に出せるか怪しいものである。
だが、礼を言っているのは判ったようで、サングラスの男と同じ格好で神父に頭を下げたのである。
「・・・。そうでしたね。間接的ではありますが、私はあなた方を助けた事になりますからな」
最悪殺し合いでも始まるのではないかと思っていた唐巣神父にとっては思ってもみない流れである。
「申し送れました、私、個人で協会を営んでいます唐巣和宏と申します」
自己紹介を始めると、サングラスの男は仲間に一度通訳をして。
「お名前、お伺いいたしました、本来なら我々も名乗るべきですがご容赦下さい、万一我々の名を知ると思わぬ不幸を招く必然があります故」
「では聞かないことに致しましょう」
確かに紳士的な態度を取るサングラスの男とその仲間だが本来なら関わりたくない人種なのである。
「所でベリアルがいないようですが・・」
「あの悪魔の名前ですかな?それは勝手ながら我々が処分致しました」
指差す先には干からびた軟体動物のようなのが、コンクリートに張り付いていた。
更に先には足を震わせてこちらを見ているエミがいる。逃げるに事もかなわぬという事だ。
「あなた方は霊的知識をお持ちのようだ、鏡を使った対処法ですな、その上から聖水を流し込んだ、違いますかな?」
「おっしゃる御座います、神父。して我々の行為を邪魔した理由は如何に?」
「私はあのエミ君を救いに来ました、手を引いていただきたい」
「それは・・・」
ボスの命令には逆らえないのは暗黒街のルールであるが。
「お願いいたします」
頭を下げた唐巣神父。それを見てサングラスの男は。
「了解致しました。神父は我々の恩人です。借りも御座います、それに免じてエミさんは神父にお任せします」
自分の台詞を今度は中国語で仲間に伝えた。
一人だけ、反対したようだ、語気を荒げたのがいたのだが。
再度口を開いたサングラスに言いくるめられたようでこちらは口を塞いだようだ。
「では、これで貸し借りは無しという事です。我々は引き上げますが、この事を警察には内緒にして頂けますな」
本来は警察に伝えるべき事柄であろうが。
「はい、私の胸のうちに仕舞いましょう、ただし私の関係者には話すこともあるでしょうが」
「それは構いません、では口止め料、と言ってしまえば身も蓋もございまん。この聖水を喜捨致します」
喜捨とは宗教用語で寄付を意味する。
聖水を受け取った唐巣神父も笑顔を見せ十字を切ったまでである。
「あぁ、もう一つだけ、エミ君は諦めますが、公安のオクムラに関してですが・・」
エミに関せば神父の顔が利くが、オクムラに関しては神父でも止められないという事だ。
万事に義理や面子が物を言う業界なのだ。黙っているわけにはいかないのであろう。
「殺伐とした会話はご遠慮します。ですが一介の神父に止める力はありません、とだけ申し上げます」
「有り難く存じます」
そしてもう一度サングラスの男は中国式の礼を見せて引き上げていった。
余談になるが。
今になっても公安のオクムラが死体になったという話や敵対するマフィアが壊滅したというニュースは耳に入ってこない。
お互いに防御に回り、攻撃に転じているのだろうと時折神父は思い出すことがある。
ずっと東京に居住しているが、終にあのサングラスの男に会うことはなかった。

今まで映画でも見ているような心持であったであろうエミ。
男達が去って腰が抜けたのか、力なく大地に腰を付けた。それを見届けて唐巣神父。
「エミ君、災難だったね、でも判ったでしょ?お上の非情な一面が」
ゆっくりと近寄ってエミの頭を撫でた。
まだ子供だから出来る行動である。
「わ、ワタシは・・。ベリアルが・・・」
錯乱していても無理はない、エミの言葉は支離滅裂であったが、ベリアルの単語が出た時に。
「確かに、あのベリアルは君を守っていたのかもしれない、でもそれも時間の問題である事はエミ君も理解していたはずだ」
「・・どうしてそれを?」
「厄珍さん私の友達だ」
本当は昨日知り合ったばかりの間柄なのだが、説明が面倒に思ったのか唐巣神父の言である。
刹那。
丁度神父の腹部、お臍より上のあたりに顔を付けたエミ。声を殺して泣いているのが判る。
「うんうん、辛かったんだね、神はすべて理解してお許しになられる、反省は人間にしか出来ない、最高の感情だよ」
泣き止まぬ子供をあやすように、何度も頭を撫でていた神父。
ふと、後ろを見ると干からびた動物状態のベリアルがなんとか体を回復させている。
気配を感じて首を少し後ろに回すとにたりと邪悪な顔でこちらを見ている。
唐巣神父、何も言わずに先ほどサングラスの男から貰った聖水に自らの力を込めて。
「エイメン」
キリスト教にとって最上の言葉とともにベリアルに投げつけたのであった。
気が付かれぬ様に行動していたと思っていたが、神父には悪魔のやる事が判っていたのであろう。
最後は声すら出せずに
(あとは太陽がベリアルを溶かすでしょう、思えばベリアルも不幸な、エミ君を守ってはいたでしょうに)
そんな思いが頭をよぎったが、目の前で泣く女の子、小笠原エミの今後の方が大切であった。
それから。
一度小笠原エミを唐巣神父の自宅、教会へと連れて行き身の振り方を示した。
前もって晴野協会長が考えていた件の研究会へGS協会推薦者の名目で送り込んだのである。
何処にあるのかは今の神父は知っているが、我々に教えてくれる筈もない。
但し、ちゃんと今でも機能してるとの事だ。
小笠原エミも神父から離れる時、少しだけ悲しい顔を見せたようであった。
「協会長、ベリアルとエミ君の仕事、解決いたしました」
東京へ戻る車の中、唐巣神父が眠気覚ましにと話しかける。
「うん。すばやい仕事ぶり、感服だね、あぁ、そう、当然警察にも隠密裏に話はついているよ、エミちゃんの今後は彼女次第さ」
数年後には名の有るGSに成るのではないか?と考えているようだ。
「それは神のみぞ知るですよ、協会長、所であのエミ君ですが、親族は見つかりませんか?」
「うん・・。どうやら伯父夫婦らしき人は見つけたけど、ありゃ駄目だ。子供を育てられる人じゃない」
「だから、エミ君は家出をして・・、不幸に巻き込まれたのですな」
「そうだね、なまじ霊能力が強かったから、我々が先に見つければこんな事にはならなかったかもしれないけど・・」
まだまだ毒にも薬にもとやらの話が続いたが今回は割愛しても構わない内容であった。
晴野氏もあえて神父に協会長についての話もしなかったからである。
それから厄珍にお礼を述べてから家路に着いて、久しぶりにゆっくりとお祈りをしていた時。
母子連れが重い教会の扉をあけたのである。
「お久しぶりです。唐巣さん!」
その声の主が美神美智恵、そして連れられてきた子供が美神令子であった。
「美智恵君!何時こっちに戻ってきたのかね!まぁ、いい歳になって・・・」
そして、美神令子との奇妙な生活が始まるのが正にこの日であった。


数年が流れた。
何時もなら傲慢不遜を態度で表している美神令子も流石に緊張の面持ちだ。
「先生、私、ちゃんとGSになれますよね?免許取れますよね?」
何度も聞いてくる。その度に大丈夫だと答える唐巣神父がいる。
「あ、そーだ、試験に使う道具を確かめなくちゃ」
あまり整理整頓が得意でない美神令子、おそらく目的の品が何処に有るのか、探すことから始まるのであろう。
一旦自室に戻っている。
明日、試験を控えて不安と期待が入り混じった、何とも言えない心持の美神令子が其処にいたのだ。
春の夕暮れ時でなんとも心地よい時であった。
空気の入れ替えということで扉は全部開けていたのだ。
其処へ。
「やっほー、お久しぶりなワケ!神父」
なんとも派手な格好の女性が教会の中へやってきた。
この独特な喋り方をする女性は、当然彼女だ。小笠原エミだ。
「エミ君じゃないか!何年ぶりだね!」
突然の来訪を心から喜ぶ神父である。
それもそのはず、当時、子供ながら彼女の表情には険があった。それが殆んど無くなっていて、歳相応若しくはそれ以上に成長姿が其処にあった。
エミがし出した手を自然に掴んだ唐巣神父である。
「あの時は助かったワケね。改めて御礼をいいに来たワケ」
「そんな水臭いじゃないか、エミくん。いやこちらもあまり連絡をしなくて申し訳ないとは思っていたが」
「ううん、そんなのは気にしないワケね」
そうかそうか、と謝る神父。
それにしても。小笠原エミと美神令子、年齢は然程変わらないのに、この差はなんであろうか?
今の同居者は確かに可愛いといえるが、到底美人とは言えないのに対して、
既に一人前の女性だ。色気もかなりの物である。
漸く明日の用意を終えて教会部分に戻ってきた美神令子。
その目前では見知らぬ派手な女と手を握っている唐巣神父。
美神令子の眉がつりあがった。
「ちょっと神父!何やってるのよ?」
つかつかと大またで歩み寄ってエミの手を引っ剥がそうとする。
「な、何するのよ、この小娘!」
「こ、小娘ですって!派手女に言われる筋合いは無いわよ!」
「は、派手女ですってぇ〜!」
エミも令子の棘の有る言葉に反応する。
「ハン!オタクが誰だかしらないけど、神父と一緒に暮らしてるって事はGS志望なワケ?無理よ。アンタみたいな餓鬼は?」
「きー!さっきから黙ってれば嫌味なことな事ばっかり言ってぇ!」
今でも愛用の神通棍に霊力を溜めて殴りかかろうとする。
「このっくらいなっ!」
だがエミは慌てず身を半歩剃らして攻撃を避けた。
唐巣神父も慌ててエミの手を離して、弟子の暴挙を止める。
「止めなさい、令子君・・大人気ない真似はしちゃだめだよ」
「あらあら、まるで子供の癇癪ねぇ」
おほほ、と高笑いまでみせるエミ。
渾身の攻撃をかわされ、二撃の打てない美神令子、『うー』と獣じみたうなり声を出した後。
「・・・・・・・お前は誰?」
ここでこの女の名前を自分は知らないことに気が付いたようである。
この最悪の出会い。二人が独立して仕事をするようになってからも続くのだが。
どうしてどうして、喧嘩するほど仲が良い、のことわざが見事に当てはまる関係が続いていくのであった。

FIN


〜あとがき〜
原作で神父はエミも令子にも目を掛けていた節があります。
美神令子の場合は純然たる「師匠と弟子」の関係がありますが、エミと神父の関係は不明のままでした。
この美味しい題材を今作は原作の番外、エミ偏のイメージで文章を作っております。
それ故、ギャグ、冗談表現は控えて、どちらかと言えばサスペンス風の作りにしてみました。
もう一つ、裏の意図として、「唐巣神父の成長」があります。
大人になった横島が持っていたGS免状には確か、唐巣神父が協会長の職についていました。
おそらく過去にこんな出来事があったのではないかと言う私の考えも加味してあります。
それで今回の協会長は『誰かの為に鐘が鳴る』の一遍に出てきた審査委員長が彼にあたります。
実は今手元に原作が無いので調べようが無いのですが、たしか、名前が晴野であったと記憶しております。(ラプラスのダイスを振った方です、間違ってたらゴメンナサイ)
謝りついでにもう一つ。
作品に箔をつける為に幾つかの説明を施している部分があります。
殆どが史実を元に書いておりますが一箇所だけ、No2の『ナチス心霊部門、研究所長リー・ゲルビッシュという男』の、名前は完全創作。
かっこよく言えばフィクション、有体に申したら『ガセビア』です。
これを最後の報告にして終わりにしたいと思います。
お付き合い有難う御座いました!

トンプソン

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