ザ・グレート・展開予測ショー

こどもチャレンジ(3)


投稿者名:逢川 桐至
投稿日時:(05/ 2/ 2)



「ソハ何者ナリヤ!
 ソハ我ガ敵ナリ!!」

 呪装の施されたナイフを片手に、少女は叫ぶ様に唱える。
 身振りを混ぜての呪的なナニカ。 足元に描かれた魔法陣の中央には、人を模した形代が横たわっている。

「我が敵ハ、イカナル…」

 そう唱えながら、ナイフを振り上げようとした瞬間。

「……じゃんか」

「誰っっ?!」

 最も霊力が高まろうとするそのタイミングを狙った様に、突然 聞こえた何者かの声に、彼女の集中は阻害されてしまった。

「誰って… えっ?」

 声変わりが終わったかどうか、そんなまだ子供っぽい声が返される。

「な、子供…?」

『目撃者は始末するだキィィ』





 こどもチャレンジ 3





「待ちなさいベリアルっ!」

 甲高い制止の声が投げ掛けられる。
 しかし。

『久しぶりの子供の肉だ。 ケケケケケッ』

 飛んで来る毛玉……黒くて毛羽立った、鳥の足のような手足を持ったナニカは、大きな口を開いてすっとんできた。

「のわぁあぁぁ?!
 いきなりなんだっちゅうんじゃ〜っ!!」

『チッ。 すばしこいガキだキィ』

 横島に避けられて通り過ぎたソイツは、明らかに魔族の気配を纏っていた。
 好むと好まざるとに関らず、覚えざる得なかったモノだ、イマサラ間違おう筈もない。

「ベリアルっ! ちっ、このクソ悪魔がっ!!」

 ソイツの後ろから聞こえた声も、ソレを肯定していた。
 何がなんだか判らないが、こうなれば遠慮している場合ではない。 と言うか、すぐに何とかしないと命の危機だった。

「くそ、この、キジムナーがっ!」

『誰が妖怪だキィィィっ!』

 前に倒れ込む様に、戻ってきた動線から再び避けきる。

「なら、幽霊ポ○モン?」

『バカにするのも いい加減にしやがれっっ!!』

 伸ばされた爪をも躱して、横島は四つん這いでシャカシャカと逃げる。
 が、それで終わる筈も無い。

 駆け寄って来る若い女性……いや、まだ少女と呼ぶべきだろう……を認めると、その悪魔は更にスピードを上げて横島に迫ってきた。

「のわっ! ぅおわっ! どわぁぁ〜っ!!」

「ベリアルっ! そこまでよっ!!」

『ちっ、一口で丸飲みにしてやるキィ』

 急いで平らげようと口を更に大きく開いて、ベリアルは横島に詰め寄った。

「バグ・ラグ・エリスムス・ロー・ツイ…」
「あぁ、こんな事なら温泉地で女子大生とでも混浴に入ってうひひひゃうは〜んな思いをしてくるんだったぁ〜っっ!!!」

 色んな意味で魂の篭った叫びに、黒い毛玉の動きと少女の唱える声とが思わず止まる。

「今だ、出ろっ、文珠ぅ〜っ!!」

 ベリアルが、その獲物の手に何かが現れた事に気付いたのは、丸飲みしようと再び動き出した瞬間だった。

 何かヤバい。
 そう認識した瞬間、ソレは発動した。

『ギィぃやぁぁぁぁぁァァッッ?!!!!』

 青白く輝くその球の中央に、穿たれているのは『滅』の一字。
 霊基構造そのものを滅ぼそうとする概念に、ベリアルは力の限り抵抗する。

『こんなバカなぁぁぁぁっ?!!』

 だが、冥約を解かれているならまだしも、未だ呪縛されている現状。
 現界に固定されている躯が崩れ始め、引き裂かれすり潰される様な痛みがベリアルの全身を苛んだ。

「ポケ○ン、ゲットだぜ」

 再び制止しようと口を開いた少女が、そのまま呆然と自身の使い魔を見遣る。

「な、なんなワケ?」

 目の前で、ベリアルの姿が宙に溶ける様に消えていく。
 同時に、自身の中に有った契約の顎が、痛みと共に消えた事も彼女には感じられた。

「べ、ベリアル…?」

 それは自身の使い魔が……契約によって後3年強の間 使役出来る筈だった悪魔が、永久にこの世界から消滅した事の証。
 キッと、その子供……横島のコトを睨みつけると、少女は霊力を高めて叫んだ。

「霊体貫通波っ!!」

 我を忘れての発作的な攻撃だ。
 だが、その程度でどうにか出来る様な相手ではなかった。

「なっ…?!」

 横島の手には、広げられた霊力の盾。
 無傷で立つ相手の姿に、今度こそ彼女は絶句した。

 ・

 ・

 ・

 横島にしてみれば、何がなんだか判らない、と言うのが正直な所だろう。

 美人っぽい若い女性の後を尾行してみれば、いきなりの魔族の攻撃だ。
 虎の子の文珠を使って、それをどうにか撃退して見れば、更に思わぬ攻撃を受けた。 こちらは感情に任せての攻撃だった為、本来のパワーに至って居なかった分、今の力でも反射的に弾く事が出来たのだが。
 とにかく、急展開に過ぎた。

「えっと… あの、大丈夫っすか?」

 だから、ぺたりと力尽きたようにしゃがみ込んだ少女に無警戒に近付いて、こんな頓珍漢な言葉を口にしてしまう。

「大丈夫なワケ…
 大丈夫なワケ無いでしょうがっ!!」

 ベリアルの制御にしくじって死亡した師匠の、その跡目を継いでの初仕事。
 いい様に使われていた以前と決別して、自分の腕一つで稼ぎだしていく筈だった華やかな未来予想図。

 それが、こんな無残な結果に終わった。
 シロウト……どんな才能家だろうと小学生のGSなぞ居る筈が無い……に邪魔されての失敗だなんて、それも今の自分では呪殺を行う上で無くてはならない使い魔を失ってのしくじりだ。
 けちが付くなんてもんじゃない。 今後の仕事にも影響する。

 いや、それどころではなかった。

「危ないっ!!」

 突然、どこからか聞こえてきたその声に、横島は反射的に動いた。
 空気を切り裂いて飛んで来る銃弾が、自身と少女とを蔽う様に展開されたサイキックソーサーで弾かれる。

 更に続けてのマズルフラッシュ。

「そこかぁっ!!」

 撃ち込まれた凶弾を捌くと、少し離れたビルの屋上……そこに見えた光を発したライフル目掛けて、横島はサイキックソーサーを飛ばした。

 攻撃こそ最大の防御だ。
 見た目は子供でも、横島の中身は高3の男。 将来はいい女になるだろう少女を、問答無用で攻撃する様な輩に対して、躊躇いなぞ微塵も感じる筈が無い。
 当った際の爆発の中、狙撃者が舞うのが遠目に見えた。

 それを見届けて、がっくりと少女の肩が落ちる。

 初仕事の暗殺依頼。 見届ける者が居ても不思議は無い。 …しくじった時の後始末も兼ねているなら、尚更だ。
 今回の依頼主は、師匠の頃からの馴染みの客だった。 そいつは、呪殺者との繋がりがバレてはマズイ職業に、外聞を気にしない訳にはいかない地位に居るのだ。 この国でこんな仕事に就けるのも、その男の打算からの公権力の私用が、少なからぬ割合で貢献している。

 である以上、自分がプロの呪殺者としてだけでなく、今後の人生そのものを無くそうとしている事は、今の狙撃手の存在も考えれば間違い有るまい。
 しかも、切り札であるベリアルを失ってしまった。
 裏社会においては、彼女は死んだ師匠の弟子でしかない。 横の繋がりも確固たる地盤もなく、実力とて全てを圧倒する物は持ち合わせていなかった。

 頼るべきナニカのない彼女の前途は、閉ざされたも同然だ。

「えっ?
 まさか、なんか当ったんですか?」

 訳が判らずおろおろする彼を、更に彼女の涙が混乱させる。

「もう、お終いなワケ…
 これから、どうやって生きてけばいいワケ?」

 その言葉遣いで漸く気付いた。 この少女が、あの小笠原エミだって事が。
 自分が縮んでる癖に、当然他の知り合いもほぼ6年分若い筈なのだと、今の今まで思いもしなかったのだ。

「えぇと、その…」

 今更に気付いた事実が、混乱に拍車を掛ける。
 ぎゅっと抱き付かれ、ただ立ち尽くす。

「おわ、なんか嬉しいかも… いや、しかし…」

「う… うぅっ… ぅあぁぁっ…」

 泣き続けるエミに、横島は彼女の頭をゆっくりと撫ぜた。
 この少女は、確かにあの美神と競り合っていたエミ本人だったが、同時に今はまだ15の子供でもあるのだ。 彼自身の様なエセ小学生でもない。
 これまでの張り詰めていた物を、全て流すかの様に彼女は泣き続けた。

 ・

 ・

 ・

「悪かったワケ…
 おたくみたいなガキに何もかもを消し飛ばされるなんて、私も大した事無かったわね。 それが判っただけでも、すっきりしたわ」

「何もかもって、ナニがっすか?」

 この期に至っても、だが彼には現状が掴めていなかった。

「ぶっちゃけ、私はベリアル……さっきアンタが消し飛ばした魔族だけど、アイツを使役する呪殺者だったワケ」

「へっ? なんで、そんなコトを?」

 エミの過去なぞ聞いた事が無かっただけに、横島は本気で驚いていた。

 自棄になって居たのだろう。
 彼女は聞かれるままに答え始めた。

「10歳の時、親が二人とも死んだわ。
 私は叔母に引き取られたけど、そりが合わなくって何年もしない内に家出したワケ。
 おたくみたいな子には、言われたって判んないだろうけど… 私みたいな家出娘が、誰にも頼らず自分の力だけでまっとうに生きてくのは難しいわ。
 何をするにせよ、法に触れる事でもしなきゃ暮していけないワケ」

 懺悔ではないが、鬱屈してきたこの数年を吐き出していく。
 エミ自身、なんでこんなガキにと思わないでもないが、先の展望が見えなくなった今、誰かに聞いて欲しかった。 遺言代わり、だったのかも知れない。

「たまたま、それなりに霊力が有って、拾ってくれた師匠の呪術とも相性が良かったから。 私は請われるままに弟子になったワケ。
 その師匠も、ベリアルを抑え付けるのにしくじって殺されちゃったわ。 その時に、さんざ苦労して従えさせたってのに、おたくにあっさりヤラれちゃうし…
 ホント、踏んだり蹴ったりだわ」

「って、アイツそんな強かったんすか?」

 エミを教えられる程の霊能力者が、殺されるほどの強さは感じなかったから。
 つい尋ねた言葉に、彼女は自嘲混じりに笑った。

「おたくがあんなにやるなんて判ってたら、冥約を解いてたわ。
 アイツは呪縛されてて、全力が出せないままだったワケ」

「あぁ、それで…」

 納得すると同時に、ツイてたなと胸を撫で下ろす。

 アイツはエミの言う事にちゃんと従っていなかったし、枷を解除されたらどれ程強いか判らなかったが、彼女が頼りにしていただろうくらいに強かったのは間違いない。 そんなヤツに最初から全力で襲われていたら、今の自分ではヤバかっただろう。

 実際、即座に文珠を使っていなかったら、今頃はヤツの腹の中に居た筈だ。

「大体、おたく、何者なワケ?」

「へっ? ごく普通の小学生っすけど」

 どこがっ!と叫び掛けて、今更そんな事どうだっていいかと溜め息を零す。

「で、これからどうするンすか?」

 その問い掛けに、ぴくりと肩が揺れた。
 横島にだって、今のままただじゃ済まないだろうと判る。 それでもエミならば、何とか出来るだろうと気軽に聞いたのだが。

「どうにもなんないわ。
 ドブネズミみたいになったって生きてく。 たぶん、殺される日まで」

「えっ?」

 こんな疲れ切った表情は、横島の知っている彼女には無かったモノだ。

 美神と一緒で、エミは自身の力に自信をもっていて、力強い輝きを纏っていた。 タイガーと極楽組組長の時、負けを認めたあの時でさえ、こんなやけっぱちで無気力な顔は見せなかった。

 こんな筈じゃない。
 突き動かされる様に、横島は口を開いた。

「エ… あ、その、名前…」

 エミさん、と言い掛けて詰る。
 まだ互いに自己紹介などしていなかったから。 知ってる筈が無いからだ。 今なら無警戒に受け入れられるかも知れないが、彼は少しだけ慎重になっていた。
 もう現段階で、充分過ぎるほどヤバい展開になってる予感が、ひしひしと感じられていたからだ。

「私は小笠原エミ。 おたくは?」

「横島忠夫っす」

 素直に答えてくれたのも、自棄になっていたからだろう。

「で、エミさん、
 一つ提案が有るんですけど」

 視線だけで続きを促してくる。

「俺のめかけ… のわはっ!」

 左フック一発で宙に舞う。

「…じょ、冗談っすよ」

 振り上げられたままの怒りに震える拳に、横島はペコペコと謝りたおした。

「冗談に付き合える様な余裕は無いワケ」

「えっとですね…」





 【つづく】



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……ぽすとすくりぷつ……

 って事で、ベタですがエミでした(^^;
 ヒロイン扱いと言う訳でもないんだけど、出番は結構多いかも知れないなぁ…

 アニメでは美神より年上なんですが、漫画の方では明確に幾つって無かったと思うんで、同い年扱いにしちゃいました。 まぁ、ぶっちゃけ話の都合で(苦笑)

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