ザ・グレート・展開予測ショー

お前は誰? No4


投稿者名:トンプソン
投稿日時:(05/ 2/ 2)

自嘲している唐巣神父の肩にはうっすらと雪が積もった。
それだけの時間を地べたに尻をくっつけていたのであろうか。
こちらからは、戦いのあった場所を上から見下ろせる場所、ビルの一室からになるが、戦いの様子を見ていた連中がいる。
そして先ほどの警察官が唐巣神父を起こして事件の起こりを尋ねているようであった。
黒いスーツ姿の部下が暗いながらもなんとか様子を見ていたが。
「もういい。今日は大丈夫だ」
という、中国語が部下の耳に入った。
奥に有るソファーに身を任せている老人が安堵の顔を見せた。白髪の髭も白い男で年齢も還暦は優に越えていよう。
だがこの老人の目は当時も今でも日本人にはいない目をしている。狂気の一歩手前とでも言おうか。
以降、中国語のやりとりになるが、ここでは日本語訳にした文章で勘弁してもらおう。
老人「我を狙った暗殺者は?」
部下「はっ、実働隊が調べたところ、『小笠原エミ』という霊能者の小娘という事です」
老人「何者だ?どの組織に属している?」
部下「日本の殺し家です。業を所属はなし、数人、乃至は一人の依頼主がいるようです。」
老人「で、彼女を雇った者は誰か判るか?」
部下「今は判りません、申し訳御座いません。ボス」
老人「よろしい、引き続き依頼主を調べよ。・・・見せしめが必要だ」
部下「ボスのおっしゃる通りに。殺しますか?あのエミを」
老人「やれ。そして依頼主が判別次第、遺体を届けてやれ」
部下「そのように手配します」
この頃、地下組織に一つの変化があった。
外国人、富みに多いのは大陸から流れ出た中国マフィアの日本進出である。かの有名なスネークヘッドと呼ばれる団体、大本は中国福建あたりの棄民(逃亡者)の集まりだと言う。
1970年代後半には香港で一大組織に成り上がり、1980年代には日本に来ている。
それからは日本有数の都市に支部を築き上げ、今でも昔からいる日本の裏社会連中やら警察関係者やらと戦ってきている。
この二人の会話から察するに初期に日本へやってきた中国マフィアなのであろう。
もっとも唐巣神父にはゴシップ程度の認識しかない世界である。先ほどの警察官に事情を説明して家路に付き、暖を取っていた。

さて次の日。昨日の雪を溶かす程の陽気である。
約束どおり午前中にGS協会の協会長晴野氏がやってきた。
「神父、昨日は大変だったようだね、ベリアルと武器も無い状況で戦ったとか」
「えぇ、不意を付かれましたが、なんとかなりました」
晴野氏にも警察から事件の経緯は聞いていた。かなり細かい報告書があがっていたのである。
「うん。それは何よりだよ。で昨日聞いた『オクムラ』の話なのだがね」
教会備え付けの長椅子の一つに腰をかけ、コートを隣において。
「間違いないね、公安の関係者だ」
「公安?確か警察の特殊機関ですよね?」
これも間違いではない。警察庁にも公安の文字は存在する。『警察庁公安課』である。これは警備情報の収集を行う部署である。
だかこの『オクムラ』氏の所属する公安は法務省の外局(特殊な事務を所管する行政機関)の『公安調査庁』に属する人間になる。
因みに『公安調査第二部』は外国犯罪者を取り締まる部署にあたるとされている。おそらく、オクムラ氏はここに在籍しているのではないだろうか。
「だから、神父の言う公安と僕の言う公安は違う物なんだよ」
「ほぉ、お詳しいですなぁ」
晴野氏の説明に感嘆の意を見せた唐巣神父。
「ま、そういう事さ。話が脱線したけど、つまりそのオクムラなんだけどね。中々やり手だって警察の人間からも一目おかれているんだ」
これらの事実は少し調べれば判る事だが余程の物好きか関係者でないと、理解するにはややこしい。
「そうか、依頼主が省庁の関係者なら仕事の道具も流してもらえるのも頷けますね」
「そうだね、よもすれば使用を規制されている品でも簡単に渡せるだろうね、警察にとっては厄介だろうけど」
晴野氏は以前警察とタッグを組んでベリアルを使役していた『セイント』を葬っているのだ。という事は。
「・・・晴野協会長は警察の方とお友達が多いようですな」
「うん。GS協会はまかりなりにも国から認められた団体であるからには、お上とのお付き合いも仕事のうちだよ、でエミちゃんの事だけど」
「つまり、法務省の公安が独自に害になる連中を始末している、という事ですね」
「先ず間違いないよ。エミちゃんは利用されている、この首をかけてもいい」
晴野氏、ご丁寧に徒手で首を叩く真似をする。
「でも、それは許される事じゃない。失敗すれば消される立場なんだよね」
「まさか・・」
「いや、あの連中はスパイ気取りだからね。ミッションに失敗したスパイの成れの果てはどうなると思う?」
唐巣神父、これでも映画ファンである。特にSF映画に関しては隠れファンを自認する程である。映画から考えうる結論と言えば。
「殺されて、しまうとか?」
「そう言う事だね。なに、彼らが直接手を下す必要はないさ。エミちゃんが狙った獲物が、今度は追いかける番になるのさ」
こんな事例は世界の至る所であると晴野氏は看破している。
「もっともエミちゃんの場合は公安と、獲物、そしてもう一人命を狙っているのがいる」
「・・我々が始末すべき『ベリアル』ですな・・。ですが協会長、お一つ聞かせ願いますか?」
「ん?何だね?」
今まで疑問に思っていた事がある唐巣神父、この場を借りて胸のうちを聞こうという算段だ。
「協会長は『ベリアル』の始末を私に依頼しました。ですが、エミ君の身の内は一切言及されてないですな」
一瞬険しい顔を見せた晴野氏。
「そうだよ。僕は一度も『彼女を助けてやってくれ』とは言ってない」
「私の仕事は・・」
晴野氏が座る椅子の一つ前に唐巣神父も身を任せ。
「神職であり人を助けるのが勤めです。私は何としてでもエミ君も助けたい、否助けなければいけないのです」
「・・続けて」
「今の私にベリアル退治は可能でしょう、ですが、エミ君の今後を如何すればいいのかが判らない・・正直困っております」
確かに、お上直属の団体が利用し、かつ暗黒街の連中から狙われる、この状況を打開するほどの力は持っていない。
「エミ君にふりかかる火の粉はエミ君自身では解決できないでしょう。ですがベリアルがいれば、神の教えには背くでしょうが当面は守るでしょう」
眼鏡がずり落ちたので一度直した神父が言葉を続ける。
「人間だれしも自分を守る権利を持っています、私にはそれを奪う事を躊躇してしまいます。実際にあの時もそうでした、油断があったのも認めますが」
ここまでの台詞を力を込めて言えば疲れも出てくる。それを見て晴野氏。
「そうだね・・。その質問に答える前に質問をするよ。時に神父は何時までもここで神父としてやられるのかな?」
晴野氏の質問の意図が汲めぬ神父、おもわず口が開いてしまう。
「答えを言おう。私は今GSの協会の長を務めている。表だけの情報でなく裏の情報も入る、それは一つの武器になる」
「武器になる?ですか」
「神父、いや、唐巣和宏君。今すぐとは言わない、僕の後を継がないか?」
「それはどういう意味ですか?エミ君を助けるのとどういった関係が?」
「僕には『オクムラ』と対立する組織、『警察庁』とは良い仲だ。それもそうだろう。治安を守る団体にとっても霊障害は無視できぬ存在だ」
「・・つまり警察の力を借りれればエミ君の確保は出来る、という事ですか」
「そうだ」
ぴしゃりと言い放ち。
「場所までは言えないけど、とある団体に呪術を研究している所があるんだ。これは既に我々協会の傘下にしている、ここで数年匿って貰えるよ、公安が目を瞑ればね」
唐巣神父としてはこれ以上にない良案である。そこでふと思い出すのは。
「そうでしたか、あのそこはかの六道の関連組織ですか?」
「いや、違う」
これは意外である。かの六道家は日本でのオカルト業界を牛耳っているイメージがあるのだ。
「ここは完全に協会管轄にあるんだ。確かに神父の言うとおり六道を関連させれば実力は上がるかもしれない、でもね」
ゆっくり瞬きをして晴野氏、言葉を続ける。
「どんな組織でも一極体制にすると腐っていくのさ。今は良くても後年に大きな問題になる。これを避けるのが業界の中にある協会の仕事さ。覚えておいた方がいいよ。神父」
「は、はぁ」
「・唐巣神父、僕は君を買っている。今GSを名乗れる者、またそのタマゴを含めても人の上に立ち業界を監査出来るのは、つまり僕の後を継げそうなのは、君だけだ、唐巣和宏君」
晴野氏は目大きく見開いた。神父が如何出るか観察しよういう魂胆か。
気温差からであろうか、屋根に使われている梁が奇妙な音を立てたのを二人は耳にしている。
「晴野協会長。私には大役のようです、それにもう少しこの立場を貫きたいのです、私にはまだ弟子もおりません」
「?弟子は確か六道から預かった美神家の一人がいたんじゃないかな?」
「美智恵君の事ですね。あれは弟子というには違和感があります。お互いを磨きあった言わばライバル関係とでも言いましょうか」
「ふむ」
「確かにお話は魅力的です。ですが、人も育てた事ない私が大役を仰せつかっても失敗は目に見えています、いま少し時間を頂いた後であればお引き受けもありえぬ話ではありません」
これが唐巣神父の答えである。これを聞いた晴野氏も満面の笑みを浮かべ。
「うん!そりゃそうだよ。僕だって半年や一年で今の立場を譲る考えは更々無いよ、それに勉強する時間も必要だ。でも神父の心構えを聞けて今は・・」
大満足だ、とでも言わんばかりの顔になった。
「今のお話は私と協会長の秘密にしておきます、そして心に留めておきますよ」
唐巣神父の差し出した右手を晴野氏は両手で受け取り、子供が遊びでやるな握手をしてみせた。
と、そこに。
「お邪魔するアルよ、唐巣神父」
矢張り扉の開閉が思い教会の玄関を開けてやってきた男。サングラス姿の厄珍堂店主、厄珍その人。
他人から見たらこの光景は如何に見えるかというと。
「・・・神父はソッチの人だったアルか?坊主には多いと聞いていたアルが・・」
何を勘違いしているのか。
この時ばかりはお互い慌てて否定をしている。

「ま、どっちでも良いアル。それよりも、昨日の話をするアルね、神父」
ちらりと、晴野氏を見る厄珍。出来れば関係者以外には聞かせたくない話だ。その視線の意図に気が付いた唐巣神父。
「厄珍さん、ご存知かとは思いますが。こちらはGS協会の会長晴野氏です。エミ君の事に関しては当事者ですよ、お構いなく」
「なる。そうアルか。ならば問題ないアルね」
小柄な厄珍だ。こちらも二人の近くに席をとる。体全体をばねにして椅子に座る様子は子供じみている。
「で、厄珍さん。昨夜はエミ君に呪術用品を届けにいったとおっしゃいましたね、それは一体?」
「そうアル。あのベリアル、何時までも人に飼われているとは違うアル、それは知ってるアルね?」
飼っているという表現が少々可笑しい。
「確か、本物のベリアルは宿主に対して数年はいう事を聞くけど、それは契約上の問題で、時間が来たら自由に動けるという事だね?」
厄珍の質問に晴野氏が的確な答えを発した。
「そういう事アルね。でエミちゃんから聞いただけの話アルが、その契約があと半年もしないで切れるとのコトよ」
神父も会長も悪魔という存在の知識は持ち合わせている。つまりあと半年という事は。
「半年後、ベリアルは宿主であるエミ君を・・・」
「そうアルよ、神父。これもエミちゃんから聞いた話アル。『エミに肉体的快楽をたっぷりと染込ませてから頂戴するギ』と笑っていたそうアルよ」
どういう意味かは、神父でも判るという者。かなりに鬼畜な考えをしているようだ。
「エミちゃんも黙って肉体を上げる積りは無いアルよ。そこで対応策という事でワタチに相談してきたアルね」
続けてエミは相応の礼はするというエミの言葉は二人には伝えてなかったが。唐巣神父が口を開く。
「しかし、そういう事ならGS協会に連絡してくれれば協会も動いたでしょうに」
「それはそうアル。でもエミちゃんは殺し屋、かたや正規のGS、相談出来ないのも判るアル。その点、ワタチなら相談しやすかったと思うあるよ」
「一理ですね」
と、晴野協会長。
「ま、エミちゃんの考えはそれとして、置いておくアルね。だから対悪魔用の武器を既に何回か提供しているアル、でも一度もベリアルの退治は成功してないらしいアルね」
何度か提供していると聞いて驚くは二人である。
「エミ君はベリアルとの決別は覚悟している、という事ですね?」
「そのようアルが・・でもエミちゃんは人間アル。しかも子供アルよ、だから・・・」
言いよどんだ厄珍の言葉を続けたのが晴野協会長。
「エミちゃんにとっては親代わり、いくら悪魔でも払うことが出来ない、という事かな?」
こくりと頷いた厄珍。
「そう言ってたアル。でも相手も相手あるし、とにかくエミちゃんは成功していないアルよ、それに・・あのベリアル、紛い物であるのは知ってるが、強いアル」
そうであろう。何度となく死線を潜り抜けてきた悪魔だ。潜在能力は本物よりかは低いのかもしれない。だが人間界での活動となれば名の有る魔物に勝るとも劣らぬ知識は持っていよう。
「・・・ま、そういう事アル。だからワタチもちょっと困っていたアルが。お助け人が急に現れて助かったのコト」
時にこの厄珍、神父が死闘を繰り広げた後、エミにあっている。
「そういえば、昨日エミ君に品物を渡した、という事ですが、何か言ってましたか?」
「そうそう、それアル!昨日は様子が変だったアルね。もっとも原因は神父、あなたアルね、仕事を邪魔したアルな?」
口にはせず、ただ微笑むだけの神父だが、二人には、厄珍と晴野氏には質問に肯定してると理解出来ると言う物。
「・・・かなり取り乱していたアルね。ワタチが来るまでずっと電話口にいたよアルね」
おそらくは『オクムラ』に連絡を取ろうとしていたのだろう。
「で、ワタチが道具を渡すと『今日はとっとと帰って欲しいワケ』の一点張りだったアルね」
先ほど晴野氏が言った通りである。仕事に失敗したスパイに助けを差し出すはずがないという事だ。
「・・・若しも公安がエミ君を見限ってくれたら仕事はらくになるんだけどなぁ・・」
ぽつりと呟いた晴野氏であった。

その日は珍しい来客者が多かったと後に回想する神父であった。
三人の話がひと段落ついてお茶でも淹れますと腰を上げた時だった。
今度は扉をすり抜けてやってきた幽霊。こやつは昨日探偵業をやらせたあの幽霊だ。
『て、てぇ〜へんだよ。神父、昨日探りを入れていた女の子、殺されそうですぜ!』
「なんだと?どういうことだ?」
思わずこの幽霊氏の腕を掴もうとするが、無理な相談である。スカスカとガスを掴もうとするのと同義だ。
『どーやら、昨日狙われた奴らが反撃に出たみたいですぜ、なんか中国風の剣を振り回してあの女の子を追いかけてるっすぜぇ〜』
「案内したまえ!」
用意もそこそこに陰干ししていたコートを手に掴み幽霊氏を急かした唐巣神父である。
『合点!こっちですぜ!』
残された二人も慌てて後を追おうとしたが、
「協会長に厄珍さん、私一人で十分です、こちらから連絡するまで待機願います!」
この頃はまだ件のコブラを所持している、これにひらりと乗り込んで幽霊がナビゲートする。
その方向はもう使われていない港の方角を示していた。

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