ザ・グレート・展開予測ショー

横島忠夫奮闘記 55〜戦乙女の笑顔〜


投稿者名:ぽんた
投稿日時:(05/ 1/30)

「お前は自分を知らんにも程があるな。魔族の最高指導者はお前の事を最も高く評価しているし
他の魔王達の中にも興味を持っている者はいる。現在、魔界で最も注目を集めている人間がお前なんだ」
「神族でもそうなのねー、最高指導者が高く評価してるのも同じだし、かなり多くの高位神が
横島さんに興味を持ってるのねー。現在、神界で最も注目を集めている人間が横島さんなのねー」

想像を絶するような事を言われた上に更にヒャクメの追い討ちだ。神界での情勢など初耳だ。

「ヒャクメ! その話は老師から口止めされていたはずでしょう?」

小竜姫の叱責の声の内容からすると情報を止めていたのは斉天大聖らしい。
別に神界の情勢を聞かされていた処で何が変わった訳でもないだろうとは思うが、
心の平穏を保つ為の配慮だったのかもしれない。

「ごっ、ごめんなさい小竜姫、でも魔界の情勢が伝わったのに神界の事だけ隠しても
意味が無いのねー。だっ、だからお仕置きは赦して欲しいのねー」

ヒャクメの怯え混じりの弁解を聞きながら、納得出来る部分もあるが根本的に不可解だ。
人間の寿命など神魔のそれに較べれば一瞬の瞬きのような物のはずだ。少々目立った事を
したぐらいで注目されてもすぐに死ぬのであれば意味が無い。それなのに敢えて注目され
続けている以上は人間以外の寿命を持っているのが知られているという事だ。

神界にはヒャクメがいるし、魔界には土偶羅がいる。”視る”と”演算”とでアプローチは
違うが辿り着く結論が同じであってもそこには何の不思議も無い。
面倒な事になりそうな予感はするが気にしてもどうにもならない。
いきなり別の存在になる事も出来ない以上は今のままで自分らしくいくしかない。

(俺は俺らしく、そうだったよなルシオラ?)

胸中で最愛のヒトに語りかけ覚悟を決めて顔を上げる。

「それで? 条件を言ってくれ、俺は何をすれば良い?」

いくら自分が魔界で有名人だとしても無条件で要求が通ると思える程能天気ではない。
必ず何らかの条件が提示されて然るべきだと思っていた。

「先ず標的が人界に潜伏していた場合、お前に仕留めてもらう事になる」
「まあ、当然だろうな」

それは当然予測された事で特に驚くような話でもない。

「その際、神魔の援助は期待しないでくれ。魔界は今あちらでの対処で
ゴッタ返しているし神族も大々的には介入できないはずだ」
「う〜ん・・・ソイツはちょっと厳しいが、やるしかないだろうな」

元はと言えば魔族内の問題だけに下手に神族の手で解決されると面子の問題もあるのだろう。
下らないと言えばそれまでだが、どんな些細な可能性であれデタントの流れを阻害する要因に
なりそうなものは総て排除する方針なのだろう。神様といえど不自由なものだ。

「最も理想的な展開はお前が一人で倒す事だがそこまで無茶な事は言わん。人間の助っ人
なら何人いても構わんが足手まといになるようなら、やめた方が賢明だろう」
「おいおい、人間にだって強い奴はいるぜ? 知ってるだろ?」

ワルキューレなら超一流のGSを何人も知っているはずなので軽んじるような言い方が意外だった。
代表で言えば美神令子だ、彼女は日本を、と言うより世界を代表するGSであり、ワルキューレ自身
何度も美神に依頼した事もあり、その実力の高さははっきりと認識しているはずだった。

「生憎と今は軍の方も何かと物要りでな、お前の相棒が納得するような莫大な報酬は出せんのだ」

随分と意表を突く言葉だった。現在軍の出費が嵩んでいる背景は何となく想像がつくが
雪之丞にせよ冥子にせよ、凡そ金に執着するようなタイプではない。

「アイツが承知しない以上はお前単独になるだろうし、それ以外の一流どころはあの女に
遠慮してお前を手伝おうとはしないだろうからな」
「ちょっと待てよ、いったい誰の事を言ってるんだ?」

どう考えてもおかしい、”女”という事は冥子の事だろうがワルキューレの言う人物像は
横島の知る冥子のそれと懸け離れている。それはどちらかと言えば、

「誰? 決まっているだろう! あの強欲で、守銭奴で、ヨゴレの美神令子だっ!」

吐き捨てるような口調だった。見れば小竜姫とヒャクメも無言で何度も頷いている。
この三人が共通して美神に悪感情を抱く原因で思い当たる事など一つしかない。
かつてアシュタロス戦役での最終局面、究極の魔体との決戦に於て横島の力不足を補う為に
美神が三人の服を脱がそうとした事があった。正に神をも魔をも畏れぬ所業だが、美神は
一切頓着する事無く力づくでひん剥こうとしていた。神魔の間で名を馳せた者にとっては
断じて忘れられない苦い記憶だろう。

だが美神がそのような振る舞いに及んだ責任は横島にこそある。横島の出力不足を憂えた
からこそ手っ取り早く霊力を上げる為に最も有効な手段を選択したに過ぎない。
だが人は往々にして大本の原因よりも直接被害を受けた相手に恨みを向けるものだ。
それは神族だろうが魔族だろうが同様らしい。このまま放って置けば苦渋の記憶を辿った
思考が大本の原因迄行き着くかもしれない。この三人の恨みの視線を向けられるのは願い下げだ。

「ワルキューレ、勘違いしてるみたいだが、今の俺の相棒は雪之丞で上司は六道冥子さんだぞ?」
「何だと? 初耳だぞ? 美神の事務所はどうしたんだ?」

「え〜と、一言で言うとクビになった」
「クビ? お前を? 正気か、あのヨゴレは?」

どうやら情報が行き違っていたようで、道理で話が食い違うはずだ。一時期は廃業していた
事もあり、横島自身、混迷の中にいたような状況だったので無理も無いのかもしれない。
だが、かなり怒りの根は深いようだ。確かに人間の女から力づくで陵辱されかけたような
ものだから、仕方が無いのかもしれない。魔族といえど女性である事に変わりは無い。

「まあ、説明し難い理由が色々あったんだよ。取り敢えず美神さんの事は意識から追い出してくれ」
「それこそ望むところだ。だが今の相棒は伊達雪之丞なのか? ふむ、それは良い、あの男なら
お前と肩を並べても見劣りしないからな。だが六道とはアレだろう? あのポヤッとした色気の欠片も
無い女だろう? そんな女の下にいてよくそれだけ強くなれたな。あの煩悩は維持出来ているのか?」

話題を逸らせたのは良いが、更にマズイ話題に移ってしまったようだ。
弟子達の手前、これは非常にマズイ事態だった。だがその時、救いの神は降臨した。

「ん〜ふふふ〜、横島さん安心するのねー、貴方の悩み解消と疑問の答えには私が答えてあげるのねー」

ヒャクメが助け舟を出してくれたのはありがたいのだが不安も残る。能力的には確かに信用できるのだが
そのお気楽な性格と口の軽さが心配だった。だいたい疑問に答えてくれるのは良いのだが横島の悩みとは
何なのか。特に悩んでいる事など別に・・・・ひとつだけあった。ヒャクメなら原因が解るのだろうか。

「あー横島さんひどいのねー、もっと私の事を信じて欲しいのねー」

横島が何か言うより先に心を読んだヒャクメが文句を言って来る。これでは周囲の者達には何の事やら
解らない。こういう軽さというか考えの浅さが不安なのだがヒャクメの口の軽さは脊髄反射のような
物なので意志で制御するのが難しいのかもしれない。そんな横島の思考を読んだのかヒャクメが
不服そうな顔になるが、ここで苦情を口にしたら正しく横島の考えを肯定する事に気付いたのか
強引に話を先に進める事にしたようだ。

「横島さんの力の源が煩悩っていうのは正確じゃないのねー、あれは元々持っている
ポテンシャルを引き出すきっかけみたいな物なのねー。その証拠に今迄で最大の力を
出した時は煩悩なんて全然関係無かったはずなのねー」
「最大の力?」

ワルキューレの呟きが横島の耳に届く。横島自身は気にした事もなかったが全ての感情が
抜け落ちたような最も心が壊れていたいた時期にも修行と共に力を増していった。
魔族化のせいかとも思っていたが今の横島はまだ人間の要素の方が強い。それにも関わらず
人界最強とまで老師から言われた霊力を維持している事には多少の矛盾を感じる。

「横島が最大の力を出した時と言えば・・・」
「究極の魔体との決戦の時ですね」

ワルキューレの独白のような言葉に小竜姫が答えている。横島にとって忘れられない出来事でもある。
ルシオラに化けたベスパを見た瞬間、事情を悟り彼女の想いに応える為に限界以上の力を絞り出した。
あの時の自分を突き動かした想いは・・・

「横島さんの力の源は、一言で言うと”愛情”なのねー。より正確に言うと何かを守りたい
と思った時、誰かの想いに応えようとした時に最強になれるのねー」


小竜姫は心から納得したように頷いているが、ワルキューレにとっては少々意外だった。
以前と較べ懸け離れ過ぎているが、あれ程の経験をして男が変わらないはずがない。
つまるところ今の横島を創り上げた基盤となったのはルシオラへの想いなのだろう。

「いや、そう言われると何か照れるけどよ、それで俺の悩みの方はどうなんだ?」
「悩み? 水臭いではないですか横島さん。何故師である私に相談しないのです?」
「今のお前が悩むとはな・・・伸び悩みか?」

横島の言葉を聞いて神魔の二人が口々に言ってくるが横島の悩みとはそんな高尚な物ではない。
どちらかと言うとかなり情無い部類に入るので小竜姫に呆れられそうで言い出せなかったのだ。

「んーふふふー、心配ないのねーそんな事で小竜姫は呆れたりしないのねー」

ヒャクメが何とも楽しそうに言って来るのを見ると安堵と不安が半々といった心境になる。

「横島さんは最近感情の揺れ幅が極端に大きくなって持て余しているみたいだけど、
あまり気にする必要はないのねー」

ヒャクメに指摘された通り、最近の横島は何かの拍子に急激に心拍数が上がったり、顔の辺りだけ
体温が上昇したり、意識や記憶が極短時間ではあるが飛んだりと不可解な状態になる事が増えていた。
以前に感じていたような煩悩衝動とは別の物で、小学生ぐらいまで記憶を遡れば似たような感覚が
あったような気もする。だが人界時間で10年程昔の話だ。何故、今なのかが解らない。

「そう言えばこのあいだ若作りの年増女の色仕掛けにボウッとなってたわね」

タマモがサラッととんでもない事を口走ってくれた。内容はともかく、今の表現を
くれぐれも本人にだけは言って欲しくない、と心から想ってしまう横島だった。

「横島、その少女はお前の何だ? 大人の会話に口を挿むとは感心せんな」

ワルキューレがやや不快そうに尋ねてくる。半人前や未熟者の介入を何より嫌う彼女にすれば
無理も無いのだが、自分の身内に対してそんな態度を取られたままではたまらない。

「ああ、紹介が遅れてすまん。俺の妹でタマモってんだ、ヨロシクな」
「妹? だがそのコは・・・まあ良いか、お前だしな。これは失礼した、お嬢さん
私は魔界正規軍のワルキューレ少佐だ、君の兄とは共に死線を潜り抜けた戦友でもある」


子供扱いされたのは正直不愉快だったが、横島の妹と聞いて急に態度が変わったのは
それだけ横島の事を高く評価しているという事だろう。ここで自分が我を張れば横島に迷惑を
掛ける事になる。ここは自分が一歩引いて、解らない事があれば後で聞いた方が良いだろう。

「初めましてワルキューレさん、私は横島タマモ、ヨコシマと共に人生を歩む者よ」

タマモの自己紹介を聞いて残る二人も喋ろうとするがワルキューレの眼光に射竦められて固まった。

「横島、お前の妹はその娘一人だな? なら話を続けよう、ヒャクメ頼む」
「わ・解ったのねー、横島さんがそうなった原因は10年分の揺り返しなのねー」

よく解らないので詳しく説明してもらう事にした。
ヒャクメによると、加速時空間で狂ったように修行に明け暮れた10年間を感情を凍らせたまま
過ごしていたが、人間としては不自然極まりない状態なのは言うまでもない。だが最近その氷が
急激に溶け出している為、感情面で失った時間を取り戻そうとするように揺れ動いているそうだ。

「良く解らんが、放っておいても大丈夫なのか?」
「大丈夫なのねー、当然動くべきだった情緒等のツケを払ってるようなものだから
払い終われば収まるのねー。2〜3年もすれば大丈夫なのねー」

気軽に言ってくれるが2〜3年もこの状態が続くのは少々困る。他の事はどうでも
良いのだが時折意識や記憶が飛ぶのは何とか解決したいところだ。

「キーワードは”年上の女性”なのねー、今の横島さんは”初心な少年”そのものだから
あまり接近し過ぎなければ大丈夫なのねー」

心当たりが有り過ぎた。エミに接近されて訳が解らなくなった事、魔鈴の笑顔に見惚れて
しまった事。六女で短時間ながら意識を飛ばした時、我に返った後で至近距離に美神親子
がいるのを見て更にド肝を抜かれた事、実際に年上なのは美智恵だけなのだが精神年齢は
明らかに横島の方が年下だ。納得している横島に対して出し抜けに怒気が叩きつけられた。

「初心な少年だと? これから強敵との決戦を控えているのに何を民間人のような事を
言っている! 貴様それでも軍人かーっ! 歯を食いしばれっ!」

怒気満面のワルキューレが横島の胸倉を掴み上げ拳を振り上げている。横島は軍人ではなく
正真正銘の民間人なのだが、下手な言い訳は身を滅ぼすような気がしてそれは言えない。

「待て待て、落ち着けよワルキューレ。戦闘の時は全ての感情を殺せるから心配すんな」
「その通りですよ、横島さんは既にひとかどの戦士です。それは師たる私が保障します」
「そうなのねー、今のは私生活の時の話で闘う時は切り替えられるのねー」

横島の言い逃れに小竜姫とヒャクメが口添えしてくれたので何とか信じてくれたようだ。

「・・・まあ良いだろう、戦士としてのお前を信じよう」
「あんがとよ、ところでさっき”少佐”って言ってたけど昇進したんだ? おめでとう」

更にワルキューレの機嫌を取ろうと思い、以前と階級が違っているのに気付いていたので
三割のゴマすりと七割の祝福を込めて言ったのだが逆に不機嫌になられてしまった。

「大した事じゃない、ジーク共々お前のおこぼれに与ったようなものだ」

ワルキューレの話によれば、アシュタロス戦役を解決したのが人間のみの手で行われたと
いうのがあまりにも聞こえが悪すぎる為、最後まで人界にいて見届けたというだけで無理矢理
功労者にでっち上げられてしまい、それに応じて二人は一階級づつ昇進させられた。
横島の犠牲の上に胡座をかいて恩恵を受けるような真似は不本意極まりないが上層部の命令に
逆らう訳にもいかずに渋々ながら昇進するという、周囲から見たら妬まれるような状況になっていた。

同じ事は神界でもあった。ヒャクメは最初から最後まで関り続けた唯一の神族であり最も
功績があったという事にされて、神界調査部の主席調査官に抜擢されていた。能力からいえば
不思議ではないが人望は無いので大勢の部下に囲まれながらも孤独な思いをしているらしい。
だからこそ多忙な身にも関わらず急な呼び出しにも応じたのだろう。引き止める部下もいなかったらしい。

小竜姫も同様に神格を引き上げられていたが、やはり横島への申し訳無さから言い出せなかったそうだ。
余談ではあるが、イームとヤームも出世したがこちらは単純に喜んでいたそうだ。
家族に楽をさせられる、生まれて来る子供に美味しい物を食べさせられるという理由でだ。
横島にとってはその方が嬉しい。皆苦労して死線を越えて来たのだ、報われて当然だと思う。

「別に俺の事を気にする必要は無いだろ? 素直に喜んでくれた方が俺は嬉しいけどな。
皆の笑顔を見ると俺も楽しくなるから」

横島は素直に思う処を述べてみた、妙な遠慮などして欲しくない。

「お前という奴は・・・そうだな、お前はそういう奴だったな」

ワルキューレが呆れたような顔で苦笑しているが、今更自分を変えようも無い。
自分は自分らしく、今の横島に出来るのはそれだけだ。

「解った、私は直ちに魔界へ戻る。ケルベロスを抹殺対象から外し、放置乃至は保護対象
に変更しよう。私が責任を持って直接上層部に掛け合うから安心しろ」

随分とスッキリした表情でワルキューレが宣言のように言い放つ。
こいつに任せておけば大丈夫、と見た者に思わせるような良い顔だった。

「俺の責任だから何でもやるよ、他に何をして欲しい?」
「そうだな、一度魔界に顔を出してもらえれば事後処理が非常に楽になるんだが・・・」

他に自分のすべき事があれば教えて欲しかったので聞いてみた。
別に魔界に行く事ぐらい気にするつもりも無いのだが妙に歯切れの悪い言い方が気になった。

「ワルキューレ! それは禁止事項のはずです!」

奇妙に切迫したような小竜姫の表情が気になったので事情を聞くと、神魔中の注目を
集めている横島を、出来れば両陣営共に取り込みたいと思っている為、直接勧誘する
ような行為は禁止されているらしい。

「解っている、だが横島が自発的に行く場合はそれを止めるのも禁止のはずだな?」

ようするに建前上は横島が自由意志で決めた場合はそれを尊重する事になっているそうだ。
小竜姫がこちらを睨んでいるのは、行くなと言いたいのだろうが、これだけ迷惑を掛けた上に
我儘まで聞いてくれる相手には、やはり直接出向いて礼と詫びを言うのがスジのような気がする。
ましてや相手はワルキューレなのだ、少しでも手助けになるなら希望を叶えたい。
だがあまり真面目に答えると余計な心配をかけそうなので冗談混じりに行ってみた。

「そうだなあ、最近疲れも溜まってるし温泉みたいな処があれば保養も兼ねて行こうかな〜」
「温泉とは何だ?」

ワルキューレが知らないらしいので意外に思いながらも妙神山の露天風呂を例に説明した。

「了解した、鉱物で囲まれた容積を高温の液体で満たしている場所の事だな。
それなら魔界には幾らでもあるぞ」

何となくイメージにすれ違いがあるような気がして確認の為の質問をしてみた。

「念の為に聞くが、その液体は何色だ?」
「うむ、灼熱の赤だ」

「そら温泉とちゃうわーっ!」

ワルキューレの言っているのは温泉ではなく、マグマの満ちた火口だ。
そんな処に入れば保養どころか消し炭になってしまう。

「冗談だ、お前に合わせただけで温泉ぐらい当然知っている。魔界有数の保養地に招待
してやろう、何なら混浴で構わんぞ、綺麗どころをそろえてやる」
「いや、混浴はちょっと・・・自分が何するか自信が無いし」

事態が深刻にならないよう冗談に紛らわそうとしたのを察知して合わせてくれたのだろう。
真面目だが機転が効く、実に付き合い易い相手だった。一旦こちらを認めてくれさえすれば。
だが先程のヒャクメの忠告が頭に残っている以上は極力避けるべき状況だった。
妙な手出しをして責任問題などになってはたまったものではない。


ワルキューレにしてみれば無用な気遣いだ。魔族にそんなモラルなどない。魔界注目の的である
横島に抱かれたがってる女魔族など幾らでもいる。またその事で横島に責任を迫る者などいない。
悲恋に終わったルシオラとの種族を超えた純愛はあまりにも有名だ。今やルシオラは女性体の魔族から
一種の崇敬を集めている。打算だけが魔族ではない、純愛を求める部分も確かにあるのだ。

「まあ良い、その辺りはお前の要望に沿うようにしよう。ではさらばだ横島、
次に会う時は実戦の時だ、準備を怠るなよ?」
「ああ解ってるよワルキューレ、なあ何かお前に個人的にしてやれる事はないか?」

ワルキューレに掛ける負担が大きすぎるような気がしたので、せめて何かをさせて欲しかった。
ワルキューレは最初断ろうとしたのだが、途中で思い直し徐に口を開く。

「そうだな、では一つだけ頼もうか」
「何だ? 何でも言ってくれ」

「総てが終わり、お互いが生き延びていたら」
「生き延びたその後で?」

「一杯奢れ」

そう言うとニヤリと野太い笑みを浮かべる。
実に惚れ惚れするような良い笑顔だった。

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