ザ・グレート・展開予測ショー

式姫の願い-9- 理想と目標


投稿者名:いすか
投稿日時:(05/ 1/30)

「へぇー、宿主の付き添いねぇ……って、どうしたんだい? 顔色悪いよ?」
「いえ、何か嫌な予感がこうひしひしと……」
「だらしないねぇ。アンタを実体化するくらいの霊力の持ち主なんだろ。心配しなくて
も大丈夫さ」
「それは分かっているのですが……」
「しっかりしなよ。ほら、これでも飲んで落ち着きな。飲み食いはできるんだろ?」
「はい……ふー、ありがとうございます。少し落ち着きました」
「ん」

 偵察兼監視のために、メドーサとの接触を試みた幽一であったが、彼女と会話し始め
てから言いようのない圧力を感じていた。メドーサの態度も割と好意的であるし、作戦
自体は順調に運んでいるのだが、この気持ちの悪さはなんだろう。

(私は死ぬかもしれない)

 メドーサの監視という危険度の高さによるものよりも、幽一はその身に感じる謎のプ
レッシャーに戦慄しっぱなしなのであった。
 幽一から返してもらったオレンジジュースを一気に飲み干し、空き缶をもてあそびな
がらメドーサは尋ねた。

「で、アンタの宿主はどいつさ?」
「確か3番コートに……あ、いました。あの女性の方です」

 メドーサが熾恵に目を向けたのは、丁度試合が始まったところ。幽一がオーナーとい
う女は遠目にも華奢であるのが見て取れた。対するのは筋骨隆々の男。

『さあ、第3コートの第一試合。妙神山熾恵選手 対 蛮玄人選手。共に昨日の一回戦
はあっという間に勝負を決めました。注目の一戦です』
「ふふふ、女とはついてるぜ。10%だ。10%の力で勝負してやろう」
「ありがとうございます〜」

 明らかに熾恵を馬鹿にしたセリフなのだが、素直にそれを受け取り感謝の意を示す熾
恵。観衆からどっと笑い声が上がる。そんなマヌケな一幕を見て、メドーサも呆れたよ
うに破顔する。

「ははっ。大した女じゃないか」
「全く、オーナーののんびりにも困ったものです」
「ま、お手並み拝見といこうかね」
『では、気を取り直して……始めっ!』
「はぁぁああ、ゲハァっ!?」

 主審の合図がした……と思った瞬間に勝負は決まった。霊力を練り上げている最中だ
った蛮は、突如目の前に現れた黒刀の一撃をもろに正面から受け、盛大に吹き飛んだ。
時折、びくんと痙攣するので息絶えてはいない様だが、戦闘不能なのは誰の目にも明ら
かであった。

「しょ、勝者、妙神山!」
『しゅ、瞬殺です! 妙神山選手、大幅に大会レコードを塗り替え、最速のGS免許取
得!』
『ぜんっぜん動きが見えなかったアルな。間違いなく優勝候補筆頭ネ』
「ま、まだあと90%……」
『こんなアホはほっときましょう! 時間の無駄です!』
「ありがとうございました〜」

 黒刀を何事もなかったかのように消滅させ、ぺこりと観客席に一礼する熾恵に、惜し
みない拍手が送られる中、メドーサはただ目の前で起こった出来事に絶句していた。

「な、なんだいアイツ!? この私が目で追いきれないなんて!?」
「お、落ち着いてください!? オ、オーナーは非常に稀有な能力の持ち主でして……」
「そんなのは見てればわかるさ!」

 我に返ったメドーサは隣にいる幽一の襟を掴み、ガクガクと派手に揺らしながら幽一
に食って掛かった。

「この私が人間ごときの動きを見失ったんだよ!? 神でも魔でもないタダの人間を!」
「客観的に確認した事実として受け入れ……」
「受け入れられるわけないだろ! 大体ねぇ……」
「あの」
「なにさ!?」
「か、顔が近すぎると……」

 ふと周りから感じる視線。いらだった目でメドーサを睨む女性や、何かを期待している
ような女学生の眼差し。そして現在の自分達の状態。彼女らの意図するものはよ〜くわか
った。

「ふうん。そういうことかい」
「公共良俗上宜しくないかと。あと何故か異常なほど生命の危機を感じておりますので、
ここは落ち着いてお話を……」

 必要以上にしどろもどろする幽一と、周囲の女性らの視線を受け、メドーサはにんまり
と唇をゆがめた。

 そうかそうか。いい男を捕まえてる女は気に入らないか。
 そうかそうか。おじょうちゃんはこの先の展開が気になるか。
 そうかそうか。なら期待に応えてやろう。

 幽霊とはいえ見た目も好みであるし、初心なところも嗜虐心をそそる。何より周りの女
どもの嫉妬と羨望の眼差しが心地よくて仕方ない。

「メドーサさ」

 何か言いかけた幽一の口に、メドーサは有無を言わさず己の唇を重ねた。



          ◇◆◇



「だああああ! 落ち着いて小竜姫様ーー!!」
「止めないでください! あのヘビ女斬り捨ててやります! あ! あんなにぴったりと
くっついてーー!!」
「あああ、熾恵さ〜〜ん! 早く帰ってきてください〜〜!」

 メドーサと面識のない幽一がコンタクトをとり、メドーサが何らかの行動にでたらそれ
を結界で足止めし、後に令子たちが合流という作戦のもと、令子、おキヌ、小竜姫の3人
は監視カメラからふたりの様子を警備員室で確認していたのだが……。

 神様はたいそうご立腹のようで。

「なれなれしいです! 離れてください!!」
「幽一さんもちゃんと断ってーー!」
「あ! 今、間接キスしましたよ!? 年増のくせにーーー!!!!」

 と、いう具合に。
 
 もう焼き餅が焦げ付くどころか炭化してしまうのではないかと思うほど、怒り心頭の小
竜姫。そんな彼女を、なんとか押さえ続けていた令子とおキヌであったが、さすがに限界
だった。このままでは突破されるのも時間の問題であろう。

 ピタ。

「ゼイゼイ……ん?」
「あれ? 小竜姫様どうしたんですか急……に」

 作戦失敗かと半ばあきらめかけていたところで、何故か不意に荒れ狂う竜がピタリと動
かなくなった。ただモニターを凝視するのみ。その表情すらも時間がとまってしまったか
のように凍り付いていた。小竜姫を抑えるのに精一杯で、モニターから目を離していたふ
たりだったが、何事かとそちらに目をやる。

「「あ」」

 もうタイミングもアングルもバッチリ。『目にゴミが入っていた』などウソのつきよう
もない完璧な構図であった。

「あー……」
「えっと、あの……」

 弁護の余地もない、フォローのしようもない完璧なキスである。

(作戦失敗ね……)
(ふえーん! 熾恵さんごめんなさ〜〜〜い!!)

 もう自分達では抑えられないことを悟ったのだろう。令子はどこか遠い目で、おキヌは
これから起こるであろう惨事におびえながら、ただただ任務失敗の瞬間を待つことしかで
きなかった。

 ぽたり。

「? ……小竜姫様?」

 その瞬間はいつまで経っても訪れず、やけに大きく響いた水滴の音に、ふたりは反応す
る。

「っ……ひッ、…うぅ……」
「……小竜姫様」

 声を震わせて、涙を拭うことも忘れて、小竜姫は涙していた。おキヌは何か言おうと呼
びかけるが続く言葉が出てこない。ただ静かに嗚咽するひとりの少女を見守ることしかで
きなかった。

(ダメだな私って……)

 力になれない自分が情けなく、俯く彼女の目の端に、ふと揺れる黒髪が映った。
 黒髪の女性は床に座り込んだまま嗚咽を続ける小竜姫の前に立つと、ふわりとその小さ
な身体を包むように腕を回して、柔らかい声音で語りかける。

「姉様だって女の子だもんね」
「うう……おっ、熾恵っ、さんっ?」

 小竜姫も突如現れた熾恵に、なんとか返事を返す。返事が返ってきたことに満足したよ
うに頷くと、熾恵は小竜姫を落ち着けるようにポンポンと背中を叩く。

「女の子だもんね……好きな人の一番になれないのはつらいよね」
「わ、私っ、幽一さんのっ、ことっ、好きなのにっ、大好きなのにっ……!」
「幽一さんも姉様のことが大好きよ」
「でもっ! でも〜……」
「大好きっていうのはね……」

 熾恵の言葉に先程の映像が思い出されたのか、いやいやと頭を振る小竜姫の背中をさす
りながら言葉を続ける。

「大好きっていうのはね、お互いが好きあって初めてそうなるの。姉様が泣いてしまうく
らい悲しいのは、幽一さんと姉様が本当に好きあってるから。幽一さんも姉様のことが大
好きなのよ」
「……」

 落ちついてきたのか、熾恵の肩に頭を埋めてしゃくりあげる声も少なくなってきた。続
く言葉を待つように令子もおキヌも動かない。

「幽一さんも姉様と同じくらい悲しいわ。姉様が一番になれなかったのと同じように、姉
様に一番をあげれないことを悲しんでる」
「……」
「姉様が悲しんでいたら、絶対幽一さんは包んでくれる。だから姉様も包んであげて。幽
一さんもきっと喜んでくれるわ」
「……はい」
「うん! がんばって姉様!」

 涙を拭い、なんとか立ち直った様子の小竜姫に、令子もほっと胸をなでおろす。おキヌ
は尊敬するようなまなざしで熾恵を見つめている。

「熾恵さんって、すごいですねー! なんか恋愛のベテランってかんじです!」
「そんなことないわよ〜。口でいうのは簡単だけど〜、私が出来てるってわけでもないし
〜。私の目標よ〜〜」
「目標ってことは見本がいるってことでしょ? 今時いるの? そんなに純粋に恋愛して
るやつ」
「いるわよ〜。お互いを包み込んで一緒に歩んでいる人たちが♪」
「一度会ってみたいですね。その方達に」
「ん〜、今は無理かしら〜」
「なんでよ」
「内緒〜♪」

 そういって足早に警備員室を後にする熾恵。あとに残された3人は、お互い顔を見合わ
せて首を傾げるばかりだった。

(あの人が生まれるのはもう少しあと。横島クンにはがんばってもらわないとね〜)

 熾恵の脳裏に浮かぶのはひとりの女性。愛する男のために全てをささげた強い人。



(後書き)
 分量的に少ないですが中途半端になるのでこれくらいで。話自体全く進んでないのは何
故でしょう……。他の展開予想様様に比べ薄っぺらく、読み応えのない文章ですが末永く
お付き合いくださいますよう、よろしくです。

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