ザ・グレート・展開予測ショー

お前は誰? No3


投稿者名:トンプソン
投稿日時:(05/ 1/27)

先ほどエミの使った非常階段から降りる神父に対して先ほどの、顔なじみの幽霊氏はふわりふわりと、降下していく。
『雪がふってきやしたぜ。神父』
「ん?そうかい。通りで冷えるわけだ」
安物であろうコート。その襟を掴んで寒さに抵抗しようとしてが。
『生きてる人間は大変っすねぇ。俺ゃもう寒さなんぞ気にしやせんぜ』
暑さ寒さを気にしなくてもよい幽霊の生活は案外快適なのかもしれない。
「それはそうと・・、エミ君のアジトに入ったのかね?君は」
『えぇ、入りやしたぜ、何せ幽霊っすからな』
理屈はわからないが、幽霊というのは外よりも人工物を好む物である。
古くは井戸であり、今は病院や公衆トイレといった所だ。
「そうか」
神父はヒビの入った眼鏡を掛けなおして。
「君達に人の倫理を説く必要性はないけど、控えた方がいいのじゃないのかね?」
『ま、それはそれで。で気になる留守電があったんっすわ』
「留守番電話?それはまたハイカラな」
時代的にまだ家庭にファックスは普及していない。この時点では留守電機能がついた電話があれば高級家電の部類だ。
『で、ここでの仕事があるって判った訳で』
「そうか・・・」
なかなか見事な探偵家業である。
『で、その相手なんすがね。ほらベリアルって影野郎も言ってた『オクムラ』って名乗ってた訳ですわ』
「つまりその『オクムラ』氏がエミ君に仕事を依頼している人物のようだね」
どうやら唐巣神父は聞いたことの有る名前なのか。
オクムラ、オクムラ・・ぶつぶつと呟き始めた神父。
その様子を見ていた幽霊氏もいつの間にか消えていた。
「何処かでは聞いた名前だが、うぅむ」
頭の奥に『オクムラ』の記憶はある。だが何処で聞いたのか、思い出せそうにもない。
ふと頭をあげると目の前にあるのは電話ボックス。
携帯電話はもとよりPHSもない時代だ。病院でポケベルの元祖が使われ始めた頃である。
「晴野協会長に聞いてみますか」
電話ボックスの中は風が遮断されるので幾分ましであった。
裏ポケットの奥には携帯用の聖書がある。その奥に有るのが幾人かの連絡先の書かれた手帳である。
聖書を電話機の上に置いて左手で手帳の住所録を探す。
「えっと、ここだここだ」
ボックス内に響くダイヤル音は今では懐かしい。
数秒程の呼び出し音の後。
『はい、こちらGS協会、霊障害担当課です』
事務員であろう女性の声が返ってきた。
「お仕事お疲れ様です。協会員の唐巣和宏です。晴野氏はいらっしゃいますか?」
『あ、神父ですか。今代わります」
『僕だ、晴野だよ、何かあったのかい?』
「たった今小笠原エミとバッティングしまして。えぇ、ベリアルにも会いましたよ」
『そうかい。こうやって電話をしてくるという事は無事なんだね。それでどうして僕に電話を?』
「はい、そのベリアルが呟いた言葉に『オクムラ』という名前が出まして。おそらくはエミ君の関係者かと思いますが」
『なにっ?オクムラだとっ!』
電話越しでも晴野氏が飛び上がった事が判る物音がする。
「どうされたのですか?協会長!」
『オクムラ、確かにそういったんだね』
「はい、間違いなく・・ご存知の人ですか」
『同姓の可能性はあるかもしれないが。おそらく彼だろう・・・。成る程確かにここ数年依頼はなかったな、詳しい事は明日話すよ時間は取れるかい』
時間を尋ねられ手帳で明日の予定を調べると。
「明日は何時でも大丈夫です。それで待ち合わせは、私の教会にいらっしゃいますか。午前中に、はい判りました」
では、とお互いに挨拶を終え神父が受話器を置こうとしたその時。
「・・ぬっ!」
重力に身を任せるが如くに身を屈め、転がりながら電話ボックスから離れると同時。
分厚い硝子が粉砕され、小規模の爆発を起こした。
通行人の悲鳴も上がり、対岸の遊歩道を歩いていた人々もこちらを振り向く。
見回りをしていた警察だろうか。警棒を装備して小走りでやってくる。
「待ちたまえ!私はこういう者だ」
自然に出来た輪の中から一歩出た警察を制した唐巣神父。
表のポケットから出したのは正規のGSの証である免許証。
警察関係者も当然心得ている。
「貴方は心霊現象専門の方ですね?どうされたのですか?」
「まだ判らない!だがこれは間違いなく霊的現象だ、すまないが住民の避難をお願いしたい!」
「了解しましたっ!」
略式の敬礼を見せて、
「そういうことですので、皆さん速やかに此方から離れてください、来た道を戻って、戻って!」
幸いにも仕事に慣れている警察官であった。物の数分で辺りから人が消えていく。
「貴方達、警察のご協力に感謝します。ではあなた方も危ないので離れてください」
神父は腰を屈めて既に臨戦態勢である。もっともあの爆発でポケットサイズの聖書を失ったのは痛い。
「了解しました!事情聴取は改めてさせて頂きます、では失礼!」
今度は正式の、足を一度揃え、身を整え、帽子を目深に被った上での敬礼を見せ、警察も道へ戻っていった。
「さて、出て来きなさい。誰かは予想が付いてますよ」
すると。
『ギ、ギギッ』
不気味な音を出しつつ街路樹の幹からぬっと闇が現れたように見える。
「エミ君のベリアルか。何故待っていた?」
『簡単だギ、オデは力を発揮できるのは、精々13秒だギ。ならば・・・』
武器を砕き、場所を見計らっての攻撃でないと成果が出ないという事だ。
「独りにして、攻撃目標を定める必要があった、という事だな」
寒空なのに、奇妙な汗が出た。
『ギギ、エミ、おでのリミットをハズセッ!』
唐巣神父の場所から目視出来ない場所に隠れていたのだろう。何処からとも無く呪祖の韻が響いた。
『行くぞっ!神父!』
神父のいる場所へと瞬き一つで目の前に現れる。
神父も立っていただけではない、身を屈めた逆にベリアルのいる街路樹に突進を見せた。
『ギャっ?戦い慣れてる』
ベリアルは物質がある存在ではない。そのまま邪気の空間になっていると表現するか、ガスの塊を抜けた形になる。
速度の関係で振り向けないベリアル。そのままもんどりを打つ。さながらバスケットボールに似た動きだ。
その時間に唐巣神父、聖書の一節を唱える。
「聖マタイに連なる力を我に力を貸したまえ!エイメン」
神父の切る十字に光の帯を残してその形のまま波動としてベリアルに向かう。
『っと、遅いギ!』
人造悪魔であるベリアルも無能ではなかった。目はあきらかに明後日を向いていたが上空に身を投げ出す。
神父の波動は音も無くアスファルトへと消えていた。
これで六秒。
『・・・・グッ・・エミは諦めるギ・・』
「?エミ君は諦める?何を言ってるのだ?」
このやり取りは
これで八秒経過。
唐巣神父、声を出したのがいけない。一瞬のスキが生じたのをベリアルは見逃さない。
見た目はとても小さな腕がこれも音も無く伸びだした。
街路樹の陰に隠れようと身を翻すがもう遅い。
黒い腕がブーメランの如く街路樹に周り、唐巣神父の喉下に食い込んだ。
「げっ!」
反射的に多くの酸素を吸い込もうとしても、すぐに塞がれた。
今度は手のひらにあたる部分はそのままで腕の長さを戻した。
目の前に黒い顔と赤い瞳がある。
この時点で十秒経過。
『あと、三秒。だギ、念仏でもとなれ・・って無理だギャギャギャ!』
体の半分が割れた。これがベリアルの口だ。
体前身を使って逃れようとするが、上手く行かない。
目の前が真っ暗になる。
あと二秒。
その時、神父の耳に矢が飛んでくる音が聞こえた。
『ギャッ!』
ベリアルのわき腹に破魔矢が刺さっているではないか。
「しめたっ!」
腕の力が弱まったのと、ベリアルが体制を崩した事で神父の片方の腕が自由になる。
渾身の力で鼻っ柱を霊力で叩いた。
これは悪魔でもたまったものではない。
最後の一秒で街路樹の根に当たってのた打ち回っている。
「消えよ悪魔!」
拳に再度聖なる力を宿して反撃を試みたが。
『残念だな、又今度だギ・・』
相手は街路樹の洞に入ってしまった。
「・・・逃したが」
確認の為洞を覗いた神父。だが何も感じられない。
ベリアルが洞に逃げた時にひっかけた破魔矢が折られていた。
「これは・・・一体誰が?」
ひょいと、拾い上げる。
持てば判る。そこいらの飾り品ではない。れっきとした徐霊の道具だ。高級品の部類に入る。
ふと、弓の放たれた方向を見ると。
「・・・やっぱワタチじゃ無理アルなぁ。悪魔を倒すのは」
小柄な体で夜分にも関わらずサングラスを着用した中国風の男。
「ところで、アレはエミちゃんのベリアル、アルな?アレと戦って無事とは凄いアルね」
神父の所へ寄り折れた矢を返して欲しいと催促して。
「はい。助かりました。でも貴方は?」
「申し送れたアル、私の名は厄珍言うね」
唐巣神父も知らぬ名では無い。オカルトグッズに関せば知識と品揃えではアジア、否世界でもトップという人も少なくない厄珍堂の主だ。
お礼の握手を差し出す神父だが。
「いや、気持ちだけで結構アルよ。それよりも・・アナタは唐巣神父アルね?」
「これは挨拶が遅れました、おっしゃる通り個人で教会を経営している唐巣和宏と申します、しかし厄珍さんはどうしてこんな場所へ?」
「・・・商売アルね。エミちゃんに頼まれた品持って来たあるがよ」
神父の顔が曇る。
確かにエミが使う道具は一流品だらけである。簡単に揃えられるものではない。だがこの厄珍なら可能だ。
「厄珍さん、あなたがエミ君に仕事を?」
「まさか!違うアルよ、むしろ神父に協力したいアルね。でも今は時間が無いアル。明日神父の教会に伺うアルね」
待て、と唐巣神父は言おうとした。
だが、先ほどのダメージが体に伝わって。
「ぬ、ぬぅ・・・」
その場に座り込んでしまった唐巣神父。
「ふふ。若くはないなぁ、はははは」
空に向かって独り自嘲していた。


No4へ続く。

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