ザ・グレート・展開予測ショー

横島忠夫奮闘記 52〜強さへと到る道〜


投稿者名:ぽんた
投稿日時:(05/ 1/24)

開始の合図など一切無かった。無言のまま睨み合っていた二人だったが始まりは唐突だ。
一瞬で霊気の盾を左手に生成すると一挙動で投げつける。と同時に突っ込んだ、どちらかに
かわせばそのまま切りかかるつもりだった。小竜姫はまだ剣を抜いてもいない。
だがそんな思惑など当然小竜姫にはお見通しだ。やや後ずさりながら神剣の抜き打ちで
霊気の盾を切り払う。派手に爆発して爆煙を撒き散らすが予測済みの為圏外に逃れている。

その爆煙を突っ切って、横島が限界まで霊気を収束させた霊波刀で切りかかっていく。
霊波刀は殆ど物質化して両刃のバスターソードのようになっており、小竜姫の神剣と激しく
切り結びながら澄んだ金属音が響いている。

その様子をシロは目を丸くして見ていた。あそこまで霊気を収束させた霊波刀など見た事も無い。
横島がシロと闘う時にあそこまで収束させてなかったのは、単純にシロ相手では必要無いからだろう。
横島が鋼ならシロのは綿棒程度の強度しかない。それでも悪霊程度が相手なら不足しないが
小竜姫の神剣と切り結ぶなど絶対に不可能だ。

不動は横島の初撃の盾の生成の速さが脳裏に焼付いていた。何時作ったのか解らない程で殆ど
一瞬だった。神剣で切り払われた後の爆発も見た事も無いような巨大なもので自分と比較する事さえ
馬鹿馬鹿しい程だ。気のせいか雪之丞戦の時より今日の横島の方が強いような気がしていた。
総ての攻撃に必殺の威力が込められているように見える。

タイガーは一つ一つの動作は目で追えないので全体を見るようにしていた。二人の闘いは
まるで事前に申し合わせをしていた舞踊のようで一種凄烈な美しさに目を奪われる。
小竜姫の動きは流麗なる抒情詩を謳い上げ、対する横島は勇壮なる叙事詩を物語る。
総ての動きが次の動作へと繋がっており、一片の切れ目も無い。だがその時小竜姫の動きに
乱れが出た。首へと向かった斬撃の軌道を強引に変えた為、一瞬の隙が出来る。

すかさず横島が下から突き上げるような刺突を放つが小竜姫は体をのけぞらせながら勘のみで
神剣を振るう。鮮血の糸を引きながら横島の右腕の肘から先が斬り飛ばされる。それでも
一瞬も怯む事無く左手に霊波刀を顕現させ間をおかずに斬りかかる。相手が剣戟に慣れた頃に
トリッキーな蹴りで頭部を狙う。骨法でいう逆回し蹴りだが、小竜姫の肘で迎撃されバランスを崩し
倒れ込んでしまう。倒れざま相手の足を切り払おうとするが、飛び上がってかわされた後で
そのまま左腕を踏み砕かれてしまう。勝負あったかに見えた。
横島は苦痛に耐えながらも体の前面を晒し、その顔が小竜姫を向く。

轟っ!

横島の口から霊波砲が撃ち出されるが僅かに小竜姫の髪を焦がすに留まり喉元に神剣を
突きつけられる。小竜姫は無言、冷たく光る瞳で唯見据えるのみ。

「参りました」

横島の敗北を認める言葉と共に緊迫した空気が一気にほぐれていく。
小竜姫は神剣を鞘に収め横島の腕を拾い近寄って行く。預かっていた文珠を取り出し
切断した腕を繋げ、砕いた腕を治癒していく。文珠の効能の上に自分の心霊治療を上乗せしている。

「ふう、本気になるとつい首を狙いそうになってしまいますね」
「あ〜、気ぃ使ってもらっちゃってスンマセン」

どう考えても横島が謝る場面ではないと思うのだが、二人はいたって穏やかに話している。
さっきまでの闘いが嘘のようだが、地面に残る鮮血の跡が僅かに闘いの痕跡を伝えている。
闘い終えた二人が和やかに談笑しながら戻って来るがその様は師弟というより仲の良い
姉弟のようだ。これ程仲睦まじい二人が一旦闘いに臨めば一切の手加減をしない。
完全に本気の殺し合いのようにしか見えなかった。

「最後の攻撃の前に体の前面の急所を晒したのは油断を誘ったのでしょうが
貴方を良く知る者には通用しないでしょうね」
「あ〜、そっか〜成る程な〜。その辺も考えなきゃいけませんね〜」

のんびりとした口調で会話している二人に対して言いたい事、聞きたい事は山のように
あるのだがいざとなると何から言えば良いのか解らなくなってしまう。
だがそんな三人の戸惑いをヨソに小竜姫の言葉が耳朶をうつ。

「如何でしたか? 横島さんは今のような修練を毎日長い年月に渡り繰り返しました。
死にかけた回数など数える気にもならないほどです」

小竜姫の口から語られる厳粛な事実、常軌を逸した殺し合いのような修練を毎日繰り返した後
生き延びる事が出来て初めてあれ程の実力を身につけるに至ったのだ。そこに必要なのは才能云々以前に
確固たる覚悟。何があろうと後には引かない、強くなる為にはあらゆる犠牲を惜しまない。

「二人共、心配しなくても今みたいな修行をやろうって訳じゃないぞ?」


弟子達があまりに意気消沈しているようなので横島は心配になって声を掛けた。
中学生相手にあんな無茶をするつもりなど毛頭無い。あの頃の死にたがりの自分がいっそ
修行で死ねれば良い、ぐらいのつもりで日々を過ごしていたら偶々生き延びてしまったような
気さえするのだ。今の自分があの頃と同じ心境で修行に打ち込めるかと問われたらどう答えるか解らない。

「その通りですよ、貴女方に見せたかったのは横島さんの闘い方もあります。彼は正邪を
併せ持つ戦士ですがどちらかに偏っている訳ではありません。その事は解りますね?」


そう言われて先程の闘い振りを思い起こす。霊気の収束・発散を瞬時に行い、物質化段階まで
収束した霊波刀による神速の剣戟、かと思えば一連の流れの中で出した蹴り技から、最後が口からの
霊波砲だ。霊波砲はそれ程使い手の少ない技では無いが、全員が手の平から撃ち出している。
ただ漠然とそんなモノだと思っていたがその決め付けには何の根拠も無い。体の末端からの方が
撃ち出し易いという思い込みだけだ。そもそも霊能力などというものは科学で解明できない
”なんだか良く解らない力”であり、使い方の大半はイメージに左右される。

少なくともシロはそのイメージに最も近い処にいた。以前世界最高のGS犬マーロウと共に
闘った時に退魔の力を吼え声に乗せて悪霊を消滅させるのをその目で見ていたのだ。
注意深く他人の闘いを見ているだけでも、特にそれが高レベルになるほど、自分達との差異や
注意点、吸収するべき長所などが見えてくる。横島は戦闘時に使える引出しが多い。
正邪どちらにも偏らず、状況に応じて最適の方法を瞬時に判断して選択している。
その戦闘時における反射速度は経験の賜物だろうが二人はその遥か手前にいる。

正統のみに拘るシロ、邪道に傾きつつある不動、共に引き出しの中身は貧弱でその数は少ない。
先ずは引き出しの中身を充実させつつ、その数を増やして行かなければならない。
遠く果てしない目標を見据えつつ、間近の目標に全力を尽くす。その事を自覚できただけでも
横島対小竜姫の一戦は見ただけで収穫の多い闘いだった。

「小手先の技や小細工に頼れば目先の勝利を得る事は出来ます。ですが圧倒的な実力差の前には無意味です。
正統のみに拘れば、無駄の無い闘いが出来ますが奇策に対して思わぬ不覚を取る事もありえます」

小竜姫がどうしても、この未だ未熟な者達に伝えたかった事を告げる。

「正に拘れば奇に屈し、奇も繰り返せば正になります。ですがその総てを超えて言える事は
基本こそが王道だという事です。奇策の効力を大きくするのも本来の実力の裏付けがあってこそ。
努々基本を疎かにしてはなりませんよ?」

「「「はい!」」」

何故かタイガーの声まで一緒に唱和しているが、これは誰にでも通じる絶対の真理。
横島にとっては自明の理だが、正しく百聞は一見に如かず、だ理解も一層深いだろう。
そこまできてようやく弟子達は忘れていた心配事を思い出した。

「そっ! それより、腕は? 腕!?」
「そうでござる! 怪我は!?」
「はあ? んなモンとっくに完治してるぞ? 文珠ってなそういう物だからな」

文珠の効用を知り尽くす横島には当然の事、更に小竜姫の心霊治療まで上乗せされているので
痛みなども完全に消えている。だが他人には解らないだろうし何より腕を斬り飛ばされる瞬間など
衝撃映像だろう。あまりその事に意識を向けすぎない方が良いように思える。

「とにかく怪我する前と変わり無いから気にするな。それよりシロ、何でお前がこの部屋にいるんだ?」

シロの嗅覚ならタマモの跡を正確に辿れたはずなのに全然違う部屋で剛練武と闘っていた理由が解らない。

「それが建物に入った途端にタマモの匂いが辿れなくなって適当に戸を開けたら敵がいたんでござるよ」

横島の目には普通の家屋にしか見えないが、人狼の超感覚を遮断するような仕掛けでもあるのだろうか。
小竜姫に尋ねると普通の間取りに見えるが空間毎に独立しており何時でも切り離したり虚空に吹き飛ばす
事も出来るようになっている。デタントの流れが今程進んでいない時代、魔族に攻め込まれた際に
篭城したり、空間毎切り離して異界空間を漂流させて虜囚にする事等を考慮して作られたらしい。
今回は尋常でない勢いで部屋に押し入ろうとしたシロを不審人物と判断して、空間をシフトさせて
剛練武のいる部屋に送り込んだらしい。おとなしくすれば良し、攻撃してきた場合は反撃して仕留める。

建物に充満する神気を動力源にしたセキュリティーシステムの存在など知らなかった横島としては
驚くしかない。不動は横島と共に行動していた為大丈夫だったが、同じく初来訪のシロは爆走していた為
不審者として対応されたらしい。色々な意味で頭痛のしてきた横島だった。

「敵って言うけど攻撃されたのか?」
「タマモを探して見つからない上に、見るからに怪しい奴なら先手必勝でござるよ」

頭痛が更に重くなったような気がしてきた。

「先手必勝ね〜、じゃあ勝ったんだな?」
「うっ、そ・それは・・・」

あえて意地悪な言い方でシロを追い詰めようとする。確かに剛練武の外見は友好的とは言い難いが
タマモを探すのが目的だった以上、闘いを避けて探すという選択もあったはずだ。
やむをえず闘いになったとしても、短時間で倒せなければ無駄な時間を食うだけだ。

「目的の途中で余計な闘いに時間を割くより、逃げて出直した方がマシだろう?」
「ですが敵に対して背中を見せるなど出来ないでござる」

直情的で負けず嫌いの性格な為、言い分は理解できるがそれでは闘い方の幅を自ら狭める事になる。
逃げるという行動は戦術の一種であり、闘いの際の選択肢の一つとして当然考慮すべきだった。
古来より三十六計逃げるに如かず、という諺もあるぐらいなのだ。

「背中を見せたくなけりゃバック走でも覚えろ、逃げるという言葉が嫌なら戦術的撤退でも
後に向けて前進とでも言い換えろ。俺は逃げる事を恥と思った事なんか無いぞ」

真っ向から逆らうのは躊躇いがあるのか言い返してはこないが、目が不服そうにしている。

「何時でも何処でも闘う事しか思いつかないんじゃ狂犬と変わらないだろう?」
「犬ではござらんっ!」

「ほう・・・じゃあ、狂狼と呼ばれたら認めるのか?」
「・・・・・・」

シロが言葉尻を捕らえて反論してきたので、更にその揚げ足をとって封じ込める。
なんとか、逃げる=卑怯、と言うイメージだけでも払拭しておきたかった。

「古来より名将と呼ばれた人は皆逃げ上手でもありました。織田信長しかり徳川家康しかりです。
皆敗れた時は一目散に逃げています。それは追い散らした側の名誉ではありますが、
決して逃げた側の恥ではありません。恥という物を思い違いしてはいけませんよ」

横島の苦労を見かねて小竜姫が助け舟を出してくれた。
シロの方は歴史上の人物の思わぬエピソードを聞いて目を丸くしている。
天下人となった程の人物でさえ、そうなるまでに何度も逃げた事があると聞かされると
自分のような未熟者が逃げようとしないのが、単なる思い上がりに思えてしまう。
個人的に剣豪の方が好みだが、だからと言って武将を軽んじる訳ではない。

「解ったでござる、逃げるのは卑怯とは違うんでござるな。正面から打ち勝つ理想を
捨てるつもりはござらんが、逃げるという選択も肝に命じておくでござる」

「お前には他にも色々と教える事が多そうだけどな。まあ、俺自身まだ解ってない事も多いし、
ゆっくりとで良いから皆で少しづつでも一緒に成長して行こう。不動さんもそれで良いよね?」

高みから相手を導くには自分では足りない部分がまだ多い。それならばほんの少しだけ上の位置から
一緒にゆっくりと昇っていく方が長続きするだろうし上手くいくような気がしたのだ。
だが不動は何やら不満そうな表情をしている。

「それは賛成ですけど、何で僕だけ何時までも”さん”付けで呼ばれてるんですか? タマモは
妹だからしょうがないけど犬塚だって名前で呼ばれてるのに僕だけヨソ者扱いですか?」

不満そうな表情の理由がそんな事だとは思いもしなかったので面食らってしまった。
言われてみれば確かに不動だけを名字にさん付けで呼んでいるが、何かの意図があった訳では無く
完全に無意識だった。だが無意識な分、余計にいけなかったのかもしれない。

(横島サン、おなごっちゅうモンは一旦ヘソを曲げると大変なんジャー。ここはおとなしく
言う事を聞いた方が良いと思うんじゃがノー)

タイガーが何やら実感のこもったような言い方をしてくるのを聞きながら、何やら
苦い記憶を思い出しているような様子が見て取れる。魔理と何かあったのだろうか。

タイガーとて相手が無理難題を言っているのならそんな事を言うつもりは無いが、ようするに
横島の呼びかけにヨソヨソしさを感じた少女が淋しがっているようにしか見えないので
先のような発言をしただけだ。この辺り彼女持ちならではの気遣いなのかも知れない。

「あ〜、悪かったよ、ゴメン。じゃあ明音さんって呼べば良いのかな?」
「それじゃさん付けのままじゃないですか! ”あかね”って呼び捨てにして下さい!」

呼び掛けを名前に変えただけで、さん付けが改まっていなかった為また怒らせてしまった。

「解った、解りました。明音って呼べば良いんだな?」
「はい! それでお願いします」

そう答えた不動が心底嬉しそうな顔をしているのを見て、こんなに喜んでくれるなら
もっと早くにそうすれば良かったな、と思ってしまう。

「横島さん、武林の一門は家族も同然です。些細な処で違いを付けてはいけませんよ。
師弟という関係ではありますが、同じ目標に向かって邁進する同志でもありますからね」

小竜姫の言葉を聞いて横島も安心する、弟子と共に歩むといういささか頼りない
スタイルでも良いのだと言われたようで、心置きなく始められる。
ようやくホッとした心持になれて元いた部屋に戻ろうとした。

「傷は治りましたが、流れ出た血は戻せません。ちょうどほうれん草の良いのが厨房に
ありますから何か作りましょう。今日の夕飯は食べていって下さいね」
「ああ、ほうれん草ならサッと炒めて塩胡椒で軽く味付けするのが美味いですよね〜」

俄かに料理談義を始めながら歩み去って行く二人を見ながら残りの面々がついていく。
先程迄の闘いがまるで無かったかのような様子に呆気に取られながらも慌てて従った。
元いた部屋に戻ると新たに人数が増えていた。

「あれ? ヒャクメにジーク? どうしたんだ?」

そこに増えていたのは神族のヒャクメと魔族のジークだった。

「ああ、横島さん久しぶりなのねー、今日は急に呼び出されたのねー」
「やあ横島さん、久しぶりです。姉上と交代で戻る事になったんですよ、
何でもヒャクメに用があるとかで」

二人の返事を聞きながら部屋に入る。ヒャクメはともかくここに常駐しているはずの
ジークに会わなかったのが不思議だった横島が尋ねてみた。

「ジーク、今迄どこにいたんだ?」
「老師と一緒に異界空間にいたんですが、交代の時間が近付いたので戻って来たんですよ」

斉天大聖と共にいたのであればピートもそこにいたはずなので、ピートの様子を尋ねてみた。

「700歳程度の若僧にしては頭が固すぎると言って、老師はかなりイラついてましたね〜」

齢700歳を超えるヴァンパイアハーフといえど老師にかかっては単なる若僧扱いらしい。

「ピートは真面目だからな〜」

友人の堅苦しい性格を思い出しながら横島が苦笑する。ピートの名前に不動が反応して
横島に詰め寄り問い掛ける。

「ピートさん、ってあのピートさんですか? ヴァンパイアハーフの?」

不動のらしくない様子に詳しく尋ねてみると、六女の中等部では、今やピートとアイドル近畿剛一が
人気を二分しておりミーハー派の近畿、通好みのピートと一歩も譲らないらしい。
横島にとってはあまり心楽しめない話だが文句を言っても始まらない。
そんな時にヒャクメがあまりありがたくない発言をしてくれた。

「あらー? 横島さん、しばらく会わないうちに随分強くなったのねー。
でもどうして力の殆どを封印してるの? 元の力の九割以上が封印されてるのねー」

ヒャクメの無邪気な発言と共に部屋の空気の一部が静まりかえっていった。




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(あとがき)
ヒャクメ登場。あのお気軽な性格ならこんな事もポロッと言うかもしれないな〜
と思ったんですが如何でしょう?

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