ザ・グレート・展開予測ショー

こどもチャレンジ(1)


投稿者名:逢川 桐至
投稿日時:(05/ 1/19)



「ぬぁんじゃあぁぁこりゃあぁぁぁっっっ!!!」

 突然、横島が声を大に叫ぶ。
 ざわざわとした周囲の目が、その瞬間、彼に注がれた。

「なんやの、横島? 太陽に○えろごっこなら、食べ終わってからにしとき」

「んなワケあるか〜っ!
 って、おまえ… 夏子か?」

 掛けられた声に、振り向いて横島はピシリと固まった。

「ナニいうとんの? 他の誰に見えるいうんよ」

 そう言われて気が付けば、何事かとこちらに向けられている顔、顔、顔。

 …但し、その全員が何処か見覚えのある小学生くらいの子供ばかり。 勿論、夏子も小学生くらいにしか見えない。
 自分に注目している子供たちの中に仲の良かった面々を見出して、混乱すると同時に横島は何となく納得した。





 こどもチャレンジ 1





「…夏子」

 恋心抱く『少年』に、がしっと肩を掴まれ正面から見据えられて、思わず少女はそっぽを向く。

 頬がうっすらと赤くなっているのはご愛敬。
 小学校高学年と言う年代は、男は大抵ガキに過ぎないのだが、女の子の場合 微妙なお年頃に差し掛かる。 故に彼女の反応は、無理も無いコト。

「な、なんやの?」

「俺 早退すっから。
 つう事で、後は任せた」

 どこか焦っている彼女にそう告げるなり、しゅたっと走り出した横島は、昼休みの教室を飛び出して行く。
 何を言われたのかすら すぐに解らなくて、夏子はただ固まって彼の姿を見送る。

 周りで見ていたクラスメートが、そんな彼女に声を掛けた。

「なぁ、夏子ちゃん。 横島、どないしたん?」

「私にもナニがなんなんやら…」

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「マジかマジかマジかぁ〜〜?!」

 街中を駈けながら、横島は呟いた。
 見覚えのある、そう凄く懐かしい町並みがさっきから続いている。

 認めたくない事だが、これはもう間違い無いだろう。

「ぬぁんで俺が小学生になっとんじゃぁぁっ!!?」

 小学生になったと言うか、その頃の自分になったと言うか…
 とにかく、120に届いたかどうかの高さから見上げる周囲の光景は、自分の覚えのあるソレとは明らかに違う角度で。 その癖、どこかノスタルジックを刺激して来る町並みだった。
 そして何より。 走っている自分の半ズボンから覗く足に、さっきから当っている風。 これは、もう何年も感じた事の無いモノだ。 東京に引っ越して中学に入ってからは、それこそ体育の授業でもない限り半ズボンなぞ終ぞ穿いた記憶は無いのだから。

 そんな実感出来る何もかもが、この異常事態が現実だと教えてくれる。
 頭の何処かでそんな事を考えられたのは、彼の日常の賜物だろう。

 何せ、夢だと思うにはあまりに実感が在り過ぎる。
 それに、たかだか異常現象程度なら慣れてもいる。
 何よりも、差し迫った命の危機ではないのが……『少なくとも今判る範囲では』だとしても……大きかった。

 ただ、何が起こったか、それ自体は皆目見当が付かなくて…
 だから彼が取れる手段はただ一つ。

「こうなったらもう。 美神さんに相談するしかっ!
 美神さん美神さん美神すぁあぁぁぁぁんっっ!!」

 叫びながら走る足を速める。
 まだ昼過ぎだと言うのに、街中を独り疾走している小学生。 周囲の人が何事かと目を向けて来るが、今の彼にはそんな事に気を向ける余裕は無かった。
 自身ではどうしていいか判らぬ事態に混乱して、ただ助けを求めてひた走っているだけなのだから。

 小学生にしては異様な健脚だが、あっと言う間に通り過ぎてしまう為、あまり人目には残らない。
 常識外の出来事に直面すると、大した事じゃないと記憶の向こうに置こうとする人は、割と多いものなのだ。
 …涙、鼻水を垂らしながらのその姿を、誰も覚えておきたいなんて思わなかっただろう事も、まぁ有るかも知れないが。



 まだ日の高い午後2時過ぎ。
 彼が『この当時の自分が大阪在住だった』事に気が付いたのは、奈良との県境に差し掛かった時だった。

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「いかんいかん、アパートから事務所に行くんと全然距離が違うコト忘れてた」

 違うとか違わないとかのレベルではない。
 気付くなり一旦家へ帰ろうと、通りしなの公園を近道と突き抜けながら、横島は項垂れ独りごちた。

「シロだってこんくらいの距離じゃ……いや、あいつはそれでも走るか」

 付き合わされた散歩と言う悪夢が、すっと脳裏に浮かび上がって、思わず身震いする。
 頭を振って意識を切り替えると、自身へと視線を落とした。

「それはそれとして…
 いくらなんでも俺じゃあ、しかもこのコンパスじゃ、んなコト出来んわな」

 当たり前だ。 現在の彼の身体は、小6当時のモノ。
 いかに常人ばなれしていると言っても、大阪〜東京間を走り抜けられる筈がなかった。 尤も、あのペースで走り続けられるなら、余裕で名古屋は越えられた気がしないでもないが。

 しかし、我に返って考え出すと、さすがに距離の壁は大きい。
 良い方法はないかと、首を僅かに傾げてすぐに閃いた。

「そうだ!
 文珠だ。 アレなら離れてても連絡くらい…」

 思い付くなり取り出そうとするが、ストックが無い時の様に出て来ない。 まぁこの異様な状況では仕方ないかと、創り出すべく手に霊力を溜め込んでいく。

「おっ、これならイケそう…」

 掌の中に集まって来る感触に、コレなら大丈夫かと ほっと肩から力が抜ける。
 その油断がマズかった。

 瞬間、拡がる爆風。
 力が抜けた為か、それとも本来霊力なぞ扱った事も無い身体だったからか。 初めて自分で創り出せた頃の様な、圧縮制御にミスっての霊力の暴走。

「ののののぉあぁぁ…」

 煤汚れた右手と、吹き飛ばされた時に打ちつけた頭の痛みに、思わずおかしな言葉が漏れる。

「ちちいぃ… 最近は失敗なんか全然しなかったからなぁ。
 少し油断し過ぎだな、こりゃ」

 と、なにやら周囲から聞こえて来る喧騒と、遠くから近付いて来るサイレン。

「まずいっ?! 警察沙汰は、なんぼなんでもマズ過ぎじゃ。
 早いとこ、こっから離れないと…」

 周囲に注意を払って、現場を後にする。

 様子を窺いつつの怪しげな行動は、しかし見た目小学生なだけに、それほど不審は買わなかったようだ。 もし、もっと地元に近いトコであればイタズラ好きの小学生として有名だっただけに、余計な人目を引いたかも知れないが。

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「すぐに集まんないくらい霊力が低いっつうんなら、増やしゃいいんだよな、うん」

 そんな事を言いながら、某女子大をぐるっと囲む塀を回り込むように徘徊する。
 母親に持たされていたハンカチを、盗人被りに周囲の人目を窺いなから。

 つまるところ、アレだ。

「この先何が有るかも判らんしなぁ…
 煩悩エネルギーを貯めん事には話にならん。 全ては目的の為に正当化されるのだっ!」

 と言う事だ。

「よっ。 はっ。 とっ」

 掛け声を掛けて、塀をよじ登ろうと悪戦苦闘。

「まだ見ぬお姉様たちよ、もちょっと待っててや〜」

 しかし、手掛かりのないつるつるの壁に阻まれ、2mちょっとの高さが登り切れない。 50cm近く縮んでいるのだ、いつもの様に行く筈が無かった。
 と目に入って来る、そう遠くないトコロ……表通りに近い辺りに立っている手頃な木。

「くくくっ… 天は我を救いたり。
 この木登り横っちを舐めんなよ」

 すぐに駆け寄ると、するする登り始める。

「何しとん?」

「見ての通り、目の前のパラダイスに直進しとるんじゃ」

 やがて、塀越しに見えてくるキャンパスの敷地。 少し離れたコートでは、テニスをしている生徒達の姿も見える。 

「やめとき、怒られるで」

「やめられるか。 俺は煩悩を燃やさなぁあかんのじゃ。
 今更、ガキの色気ないパンツ見ても興奮出来んし… のぁあっ?!」

 ガシッと足首を掴まれる感触に、横島は漸く現状に気が付いた。

「色気ないパンツって、誰のコトやねん?」

 同じ様に半ば木に登りながらの、笑顔の夏子が問い掛けてくる。 目が全く笑っていないのが、異様に恐い。 苛立った時の美神のプレッシャーもかくやと言うほどだ。
 ミシミシッと軋む足首の痛みに、冷や汗が流れ出してきた。

「えぇと、その…
 だ、誰やろなぁ、アハハハ…」

 なんとか作った笑顔が、しかし更に篭ったチカラに歪んだ。

「とっとと降りて帰るで」

「ちょっ… うぎゃっ」

 ぐいっと力一杯引かれて、木の上から下へと引き摺り下ろされる。
 受身も取れずに、地面にぶつけた頭を抱え込んで横島は呻いた。

「ぅあたた… なんちゅう乱暴な女じゃ」

「ふぅん、そんなコトいうんや…?」

 毒づく横島に、夏子の目が座る。
 さすがにマズイと感じたが、それでこの場をどうこう出来るようなら、横島とは言えまい。

「うぎゃっ?!
 痛いっ! イタタタッ!!」

 むんずりと耳たぶを力一杯摘まむと、夏子はそのまま彼を引き摺り始めた。

「いてぇっ、夏子、やめっ…」

「なぁ、横島」

 低く抑えられた声に、悲鳴が止まった。
 やはり美神のところで何度も体験した様な、魂を揺さぶる恐怖が背筋を走る。 夏子って、こんなに狂暴だったっけかなぁと、逃避する思考がらちも無い方向へ向かったのも、またお約束なのだろうか。

 が、そんな余裕は、ほんの一瞬で終わった。 終わらされてしまった、彼女の一言で。

「今日の昼からンこと、今から一緒に横島ンちに行ってなぁ。 おばさんにちゃあんと説明したるわ」

 ビシリと、横島の額に縦線が走る。

 思い返せば、傍目には自分の今日の行動は、エスケープした揚げ句の覗き未遂の現行犯としか写るまい。 言ってしまえば、その物ズバリ、それ以外の何物でもなかったのだが。

 それをあの母親が聞いたら、どう言う行動に出るか…
 これまた、言うまでもなく判り切った事だった。

「…い。
 いややややぁぁぁっ!! 折檻は、折檻はいやなんやぁぁぁぁっっっ!!!」

 魂に刻まれた幼い日々の折檻の数々が、走馬灯の様に脳裏を巡る。
 まぁ、現在の状況においては、彼の日常の筈。 と言うか、ほんの数日前にもイタイ目に遭った記憶が、頭の中には残っている。

「ほら、行くで」

「いややぁカンニンやぁ…」

 じたばたと暴れる彼を、しかし意にも介さず彼女は引き摺って行く。

 夏子は怒っていたのだ。

 昼休みに不意に叫び出したかと思えば、ドキッとするほど真剣な顔をして飛び出して行った横島を、心配して帰宅途中に彼の家まで訪ねていったのだ、彼女は。
 当然帰宅して居る筈が無かった訳だが、その事で不安になってあちらこちらを捜し回り、漸くにして見付けたかと思えば、覗きをしようと不法侵入の真っ最中。
 これでは、いくらなんでも怒るのが当然だろう。

「カンニンやぁカンニンやぁ…」

 傾き始めた陽が大阪の街を赤く染める中、ドナドナをBGMに引き摺られて行く横島の声が、町並みに悲しく響き渡った。



 【つづく】



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……ぽすとすくりぷつ……

 まず初めに。
 タマモ、出ません。 そこンとこ宜しく。

 それはさておき、GTYがこちらになってから初めての投稿です。

 ホントは、とら・くらの外伝をとか思ってたんだけど、色々思う所もありまして。 まぁ、この『こどチャ』はこれで、この先のキャラ配置やら設定の都合上、被っちゃった人が居ないでも無い様な気もしないでも無かったり…(^^;
 とまれ、プロットは上がってますし、これくらいの分量で10回ほど、お付き合い頂く事になると思います。 …尤も、下書きが5までしか届いてないんで、ちょっち見切り発車気味なのですが(苦笑)

 念の為に言っておきますが、勿論、『雪…』や『とら・くろ』とは繋がりませんからね。

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