ザ・グレート・展開予測ショー

お前は誰?   No2


投稿者名:トンプソン
投稿日時:(05/ 1/18)

これは21世紀に入り、晴野氏独自の調査から明らかになった事実である。
ベリアルは第二次世界大戦の闇から生まれた存在であった。戦争中、同盟国のナチスドイツではオカルト研究の部署があった。
心霊兵器の開発をしていたのはGSに所属する人間にとって周知の事実である。
リー・ゲルビッシュという男が研究所長と記録にある。中々オカルトには優秀であったようで、幾つかの成果は上げていた。
その一つがベリアル、英訳された手記には『コードネーム:モンスターベリアル』とある。正確を記せば、ソロモン王が封じたとされる魔王ベリアル本人ではない。
生贄を必要とし召喚者を含めてあらゆる者を欺く性質が悪魔の辞典と言うべき書物、「レメゲトン」にあるベリアルに酷似していた事がそのまま流用されていたのだ。
いわばベリアルの紛い物を旧日本軍が所持していたようである。
戦後ベリアルは収容施設から逃げ出し、主人を取り替えて生きてきたのであろう。その一人がセイントだったのであろう。
いくら調べてもセイントの生い立ちは出てこない、唯一、話が聞けたのは当時のお得意様が偶然にも割れたからだ。今は無き指定暴力団の関係者から話を聴けた。
「あぁ、アイツはとにかく『仕事』に関しては完璧だったぜ。時間指定まで守ってたな」
顔は見せないとの約束であったので曇り硝子越しでその関係者は淡々と話しを続けた。
「プライベートは全く喋らない奴だったよ。精々覚えているのは、この仕事をし始めた頃、家出していた女の子を養ってたらしい。だが今は独りだって」
裏街道の酒場で語ったと言う。そしてそれからは押し黙ってしまったそうだ。
それが今の小笠原エミであった事は間違いない。

エミが正に仕事をしようとしている。廃ビルの屋上にいた。高い位置は地上よりも気温が低い。
『エミ。ターゲットはあいつだギャ』
「・・・そう」
夜でも白い息が判る。
『どうしたエミ?殺しが嫌に為ったギャ?』
「つまらない冗談なワケね。ほら短剣をお渡し」
右手には『正義』を象徴するタロットを中指と人差し指ではさんでいる。右手にベリアルの口から出たナイフを受け取った。
エミと対象者の線上には藁人形に似た不気味な物が置かれている。顔に当たる部分には写真が張ってある。
おそらくこれから殺害する者の写真であろう。
『・・・何か変だギャ』
「どうしたベリアル?」
『亡者共が消えては現れてるギャ、おかしいギャ』
「それがどうしておかしいワケ?」
『普通なら興味を持ってこちらに近づいてくるギャ。そしてオデはそいつを食っていたギャ』
「それがどうしたってワケ?仕事には差し支えないから問題ないでしょ?静かにしな。ベリアル」
「・・・ギャ」
ベリアルのおしゃべりが終ると小笠原エミは詠唱に入り目を瞑る。
日本人には理解できない言葉の羅列が陰鬱な旋律とともにエミの口から漏れ始めた。時間にして1分ほどであった。
詠唱が終ると、これでもかと目を見開いた。これでもかと思えるほどに大きく。
『我!小笠原エミの名において冥府における死を司る者に告ぐ!今宵、我が短剣に宿りて力を貸したまえ!」
ナイフの先端に赤い光が発せられると同時に周りの空気が蠢きじめた。
同時にタロットの『正義』をナイフで突き刺しす。
腕を振り上げた正にその時。
「止めたまえ!何をしているのだっ」
「なっ、何?人間!」
振り上げた腕を掴んだのは息を切らして現れた唐巣神父である。
霊能力者でも男と女の体力差はそのまま反映される。
しかも当時はまだ10代中盤にいくかどうかのエミである。神父の力の前に振り上げたナイフを手放しす。
カチンと金属音をたてて床に落ちた。
「これは?」
神父の目がナイフにに気を取られた瞬間、力が緩んだ。
身を屈めてエミは唐巣の手から逃れる。三度頭から転がって唐巣の立ち位置から離れた。
『あ、ありえないギャ!ここいらに人がいる訳がないギャ!』
ベリアルも驚きを隠せていない。だが流石は悪魔。一言叫んで目視できる状況から闇に紛れた。
やや着崩れた仕事着の襟元を正して座った姿勢で唐巣を睨んだ。
視線に気が付いたのか、唐巣神父はエミに向かってにっこりと微笑んだ。
逆に怖い。語彙が思わず小さくなる。
「・・・・お前は誰?」
「私は、個人で教会を運営している唐巣和宏と申します、エミ君ですね」
自己紹介をしつつ唐巣神父ナイフに宿った邪気を聖書の一説を使って徐霊をしている。数秒でナイフは光を失い、
「!!」
エミの目の前で音も無く崩れ去っていった。
「成る程。デモニスト(悪魔崇拝)が使う業ですか。なかなか」
ぱんぱんと手に付いた汚れをとるように、手を叩いて。
「エミ君というよりも。君の飼っているベリアルに話があるんだが、何処にいるのかな?」
『ここだギッ!』
音も無く唐巣神父の背中に現れた。大きな口を開け、爪をたてている。
「やっておしまい!ベリアル!」
エミの敵意も当然である。だが神父もその場に立ち尽くしている訳がない。
俊足で一歩前に出ると当時に振り向き、胸に隠した手帳程度の聖書を前に出し。
「ベリアル!キリストの御前であるぞ!大人しくしておれっ」
いくら悪魔でもキリストの名にはひるむのか、爪を畳んでいる。
静かな間が少し流れた。口を開いたのは唐巣神父。
「ベリアル・・か。貴様本物ではないようだな」
『どういう意味ギャ?』
「一度だけヴァチカンで本物の悪魔を見たことがある。貴様とは比べ物にはならなかったぞ」
『・・・なかなか良い勘をしてるようだギャ。オデは確かに人が作った存在だギャ』
「矢張り。なら人が作った物であるなら、人が始末をせねばなるまいね」
ベリアルは黒一色なので顔色は全くわからない。
おそらくは顔が青くなっていただろう。
唐巣の周りにある空気が清浄な物へと変化し始める。
唇は殆ど動いていないが、現世にある力を解き放とうとしているのか。
だが。
「えいっ!」
唐突に頭部への鈍痛が唐巣神父を襲った。
「な、なっ・・??」
振り向くと、何処から手に入れたのか、板切れを両手にしているエミがいた。
「ベリアルは私の物なワケ!勝手に始末されたは困るノ!」
かなり力を溜めていたのであろう。振り下ろした状態でも力が抜けていないのが唐巣にも判った。
「うっ・・・ぐぅ」
しまった、エミ君にとってベリアルは・・そんな事を思いつつ唐巣神父の体から力が抜けていく。
『エミ・・やったのギャ?』
「いや、気絶してるだけなワケ。どうする?食べる?」
『いや、神父なんか食っても腹壊すだけだギャ。それよりも逃げないと・・・ヤバイんだギャ』
確かに道具も壊され暗殺も失敗となればすぐにでも現場から離れるのが鉄則だ。
「でも、この神父はどうする?」
『殺した方が安全かもしれないギャ。でもエミ。今のエミには無理ギャ』
「そう・・・じゃあ逃げるワケね」
ベリアルに従ってエミは道具を持って屋上から出て行ってしまった。
「しかし・・どうしてあの神父はここが判ったワケ?」
『オクムラが裏切った?まさか・・』
たんたんとスチール製の外付け階段を下りていくエミであった。
どうやら唐巣神父意識はあったようである。
「ほっ。助かった、あそこで一戦交えるのはキツイからなぁ」
落とした眼鏡を探す。割れてはいなかったが、レンズにヒビが入っている。
「・・・とほほ、作り変えないと」
経費で落ちないかと一瞬考える唐巣神父である。
と、そこに。
『神父?でぇじょぶですか?』
空から男の幽霊が降りてきた。そこいらにいる普通の幽霊である。既に生前の記憶を亡くして久しいとは幽霊氏の言。
「あ、あぁ、君か。まぁ大丈夫だよ」
『・・だから言ったじゃありやせんか。他ならぬ神父の頼みだから仲間からあのベリアルの居場所を教えたつーのに』
ぶつくさと文句を垂れる幽霊氏であった。
唐巣神父が屋上に来れたのは運でもなんでもない。
こういった知人(人か?)の幽霊の情報から得たものである。
だが、エミとベリアル、どうしてあの神父が現場に現れたのか、想像すら付かなかった。
「それにしても妙だな」
『何が妙なんすか?神父』
「うむ。想像したまえ。もし殺人をするとしたら周辺には気をつかうだろ?でもエミ君のあの態度は絶対に人が来ない確信していたようなんだ」
『そうですかい?あっしは上から眺めていたからわからなかったすけど』
何かある。唐巣神父は頭を使ってみるが、どうもズキズキして思うように回らなかった。
「まぁ、いいよ。それとエミ君のアジトは判ったのかね、幽霊君」
『既に調べは付いてるぜ。住所で言うとっすな』
地図でも渡してくれればいいのだが、幽霊が鉛筆を持って文字を書くことは出来ないようである。
「それにしても、せめてエミ君に仕事を依頼している奴は誰なんだ・・?」
幽霊氏から教えてもらった住所がここからすぐ近くであったのは神父の想像を超えていた。

No3へ

今までの コメント:
[ 戻る ]
管理運営:GTY+管理人
Original GTY System Copyright(c)T.Fukazawa