ザ・グレート・展開予測ショー

雨(20)


投稿者名:NATO
投稿日時:(05/ 1/18)

10
確かに圧倒的だった。
「世界最高のGS」達が束になってもかなわないほどに。
だが。
「ふざけんじゃ……ないわよっ!!」
運動能力から考えて、当たらないはずの攻撃が、当たる。
「くらえっ!」
軽く跳ね返せるはずの攻撃が受けられる。
そもそも。
外におびき出すことが成功したこと自体、おかしなことだった。
これほどの魔力があるのなら、強襲したと同時に事務所ごと吹き飛ばしてしまえばよかったのだ。
無知なのとも違う。
攻撃の威力も、魔力の錬度も、三年前には劣るといえ、低くは無い。
思考しているわけでもないことは、虚ろな目と、防御も回避もしないことからわかる。
「……操られている?」
美智絵が、そう解釈したのも無理からぬことだろう。
だが。
「それはないね」
唐巣。
今まで、誰もが知らなかった彼の「武器」
聖水に浸された銃弾は、獲物の体を打ち抜き、侵食し、瞬く間に再生される。
「こんなに再生と崩壊を繰り返して、効果が持続することなどありえない」
「じゃあ、なんなのよっ!」
令子の神通棍。
当たり、ダメージを負わせ、再生される。
繰り返し。
防御も、回避もしない。
虚ろな目で破壊されるに任せたまま、攻撃のみを繰り返す。
壊された部分はすぐに「再生」
――誰かの戦い方に、酷似していた。
「くっ」
かろうじて、回避。
放たれる霊派をよけることは出来た。
だが、こちらの攻撃が致命打になら無い以上不利は必至。
――結局は、絶望的だった。

11
「なにしてるっ!」
一瞬の、ミス。
判断を誤ったのか、そもそも回避不能だったのか。
襲い掛かる、霊波。
息を飲む令子。
目の前を遮られ、霊波が霧散した。
「……誰?」
見覚えの無い、影。
「……遅かったじゃないか」
西条。
その声に、親しみは無い。
「姿、見せる気は無かったんだがな」
男は、振り返りもせずに言い放つ。
目の前の、大悪魔。
思考か、停滞か。身じろぎもしない。
「陰陽連が一。闇狼」
短く、感情のこもらない自己紹介。
それは、ただ「名」を場に刻み込む意味しか、持ちはしない。
「俺は、時間を稼ぐだけだ。どうするかはそっちで決めろ」
断ずるように言い放つと突っ込んでいった。
アシュタロス。
無造作に放つ「死」
触れもせず霧散した。
闇狼。
霊気をこめた手で、貫いた。
瞬時に、再生。
繰り返し。
どちらにも消耗は見えず。
無効化と、無効果。
それは、確かに互角の情景。
だが、このままでは「倒せない」事も明らかだった。
このままでは、事態の収束はありえない。
それどころか。
「早くしろ。宇宙意思から力が流れ込んでいる」
わずかに覗く焦燥の声。
それが、本当なら。
「いずれ俺じゃ押さえ切れなくなるぞっ!」

12
「……とにかく、時間は稼いでもらってる。その間にどうするかね」
美智絵。
「そんなこといったって、あんなのどうしろってのよ。せめて……」
今、ここに居ない人間に期待するのは無意味。
とはいえ、全員が期待するものは、同じだった。
「「合体」が使えない。「文殊」も無理。……あの戦いに、どれだけ「彼」が貢献していたか、よくわかるわね」
戦力面だけではない。ルシオラが裏切らなければ、戦局に、万が一の勝機も見られなかっただろう。
諜報としての彼の役割も、他の誰に代われるものではなかった。
――今は、どちらも無い。
「……斃すだけというなら、今のアシュタロスには何とかなりそうだけどね」
唐巣。
「残った魔力が暴発しかねない。ただでさえ、不安定な存在だ」
与えられた希望も、すぐにかき消される。
「どうすればいいわけ?」
令子。美智絵。西条。唐巣。シロ。
戦力はあまりに偏り、神魔の助けは無く。
「……封じるか、魔力ごと消滅させるか。もしくは」
美智絵。言い淀んで。
「……誰かが、彼ごと取り込むか。だ」
つないだのは、またも、見知らぬ者だった。

13
「……バアル君」
唐巣。凍りつく、面々。
「あの東洋の術士。ずいぶんできるようだな」
戦局を眺めながら、呟く。
「一撃でもくらえば砕け散るくせに、霊力そのものを受け流すとは。……小賢しいが、見事だ」
「あなたが、バアルゼブブだって言うの?」
令子。無理は無い。
今目の前にいる銀髪の男の魔力は、メドーサやワルキューレのそれと変わるようには思えなかった。
「骸に魔力を注ぎ込んで、顕現させている。本体は魔界だ」
地獄第二位の最高君主。
デタント賛成派の魔族とて彼を止めるなど、出来はしない。
「72柱招致してみせようか?」
そう言って笑って見せた男は、やはり「魔人」だった。
「そのうちの一体は、そこで暴れてますが?」
西条。
「……他にも何体か、多分来ない奴がいるよ」
苦笑。
「地獄の最高君主なのに?」
「……支配は、私の仕事じゃない。彼らは仲間さ」
「さて、その仲間が暴れまわってるのを、どう責任とってくれるのかしら?」
「……あれが、アシュタロスだと?ただの出来損ないだ」
そういって、見つめる「魔人」の目には。
確かな憤怒が宿っていた。
「この骸は、生前の私が宿っていたもので、愛着もあるのだが……。破壊される覚悟でアレを弱体化させる。封じるのは、任せた」
手を、翳す。
それは、ただそれだけの行為でありながら地獄の君主の名にふさわしく。
気高く、圧倒的なものだった。
「――邪魔だ、どけ」
一言。
かつて無効化できたといえ、それは正面から向き合ってのこと。
ただでさえ技術が必要なものを、不意打ちされて対処できようはずがない。
命がけで時間を稼いでいた影の薄い男が吹き飛ばされる。
唐巣の目が、同類を哀れむ嫌なものに変わったのは、気のせいだろうか。
「さて、なにより宇宙意思から注いでいる力をどうにかせねばな」
全てのバランスを取ろうとする絶対者。
不自然に生まれたとはいえ、大公クラスの魔人を、かつての力に戻そうとする意思が働いている。
「流れとやらは、向こうにあるわけか」
大して気にした様子もなく、力を練り上げる。
「さっさと、弱ってもらわねばこの体も持たん」
爆発的に増大した魔力。いかに相性がいいといえど、根本的に人間の体。
魔力により軋み、悲鳴を上げる。
「喰らいつくせ。ウロボロスっ!」
右腕が変異し、放たれた「飽食」の化身。
無尽蔵に魔力も霊力も喰らい、何も生み出さない究極の暗黒蛇。
バチカンの地下牢とて、押さえきることは出来ない伝説級の化け物。
ただでさえ不安定な魔族の体に、それが耐え切れようはずもなかった。
宇宙意思から流れ込む数倍の速さで力が「喰われ」ていく。
だが。
もちろん、そんなものを擬体で押さえ切れようはずもない。
――制御する彼の体もまた、蝕まれていく。
「私が消え、「君」が理性を失った化け物に成り下がるか。人間が今一度君に打ち勝つか。見届けさせてもらうよ」
その言葉ほどの余裕を彼が持ちえていないことは、明らかだった。

14
「……いくわよっ!」
しばしの、沈黙。
そのくらいの猶予は与えられていた。
そして、最初に立ち直ったのは、やはり彼女だった。
「アイツが魔力減らしてる間に、結界張るわっ!」
言外に「手伝え」と師や母、兄弟子に命ずる彼女。
彼女の称号「世界最高のGS」。
彼女の横に神や魔と互角に渡り合える助手がいるため、「戦闘能力」が基準になりがちだがそもそも彼が規格外なのだ。
「最強」ではなく「最高」
ありとあらゆる状況に対応でき、取り乱しながらも芯は常に静かで。
絶望的状況下でも反則とさえいえる「答え」を導き出す。
古今東西の呪術に通じ、あらゆるものを勝機に変える。
その「強さ」は周りのものさえ鼓舞し、共に舞わせ。
「なにしてるの!さっさと来なさいっ!」
彼女の持つ「世界最高」の称号は、そういうものなのだ。
「……ああ!やるぞ、令子ちゃん」
追随する、西条。
唐巣。美智絵も、動き出す。
「あんたもよっ!なにそこでぼーっとしてるのっ!」
始めて見えるはずの、そして自分より遥かに「技術」を持つはずの闇狼にさえ、容赦なく檄を飛ばす。
「……なるほどな。これが「美神令子」か」
苦笑しながら、動き出す闇狼。
「拙者はどうすればいいでござるかっ!」
勢い込んで問う、シロ。
「その辺で踊ってなさいっ!」
「はいっ!」
「ほんとに踊るなっ!」
「きゃいいんっ!」
真剣な行為の代償である理不尽なお仕置きに抗議の声を上げるシロ。
「……結界なんか張れないでしょ。おとなしくしてなさい」
令子は、ため息をつくしかなかった。
その間にもだんだんと収束していく結界。
幾重にも織り込まれ、複雑な構造をさらに彼女独自のアレンジさえ加え。
その「意図」を周りに伝えながら即席でくみ上げていく。
まさに「美神令子」にしか出来ない技能。
――だが。
彼女は、失念していた。
戦力の分散。
相手はそれが許されるような「小物」ではないことを。
「――っ!」
体の崩壊。
食い止めようとする、一瞬の油断。
バアルの腕。「蛇」の締め付けが、弱まる。
その隙は、致命的だった。
「ソレ」は、生まれたてであるが故に純粋で。
戦況を変える「核」を単純に見極め。
そこに向けて出しうる魔力の全てを放つ。
誰も、間に合わず。
結界の「要」である彼女に、防御に回す霊力も、回避するほどの余裕もなく。
一瞬。
反射的に目を閉じ、開いた先には。
「愛の力を見せてやる!いくぞっ!タマモっ!」
「人の一世一代の告白保留しといてなに調子いい事いってるのよっ!」
――バカップルがいた。

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