ザ・グレート・展開予測ショー

式姫の願い-7- 動き出した時間


投稿者名:いすか
投稿日時:(05/ 1/18)

 彼の弟子はそれはそれは真面目で、融通が利かないほどに頑固な娘だった。師である自
分相手でも、酒瓶を転がして眠りほうけて居ようものなら、仏罰の名のもとに神剣が振り
下ろされたものである。

「……さて、どうしたものかのぅ……」

 そんな彼―――斉天大聖の真面目な弟子である小竜姫は、酒瓶が転がった床で気持ちよ
さそうに眠っているではないか。しかも見知らぬ男の袖口をちまっとつかんで。斉天大聖
にしてみれば、この堅物娘に春が来たことは大変喜ばしい。見たところ誠実そうな青年で
あるし、無責任なことはしないだろう。異性間交遊大いに結構。むしろ、さっさと行くと
ころまで行ってしまえ、である。だが……。

「お返しじゃ」

 やられたことはやり返す。
 斉天大聖はモットーに則って、心を鬼にして弟子の至福のときを奪うことにした。どこ
からか水のたっぷり入ったバケツを取り出し、とっても嬉しそうにそれを振りかぶった。

「あ〜、だめですよ〜先生〜。ふたりとも気持ちよく寝てるんだから〜〜」
「ぬ、とめるな熾恵! これは正当な権利じゃ! 義に則った正当な復讐じゃ!」
「顔が笑ってて、正も義もないでしょう……」
「離せ。その手を離せ」
「先生がバケツを渡してくれたら離してあげます」

 やいのやいの。
 斉天大聖と熾恵のバケツの取り合いが五月蝿かったのか、小竜姫も幽一も目を覚ました。
斉天大聖はとても残念そうにバケツを隠し、熾恵は床に転がったシャンパンの瓶を片付け
始めた。部屋の清掃とそれぞれの身支度が一段落し、ようやく四人が揃って腰を落ち着け
た。

「全く、たるんどるぞ小竜姫。幸せいっぱいなのは分かるが、はめを外しすぎんようにな」
「えええっと、その……はい///」
「オーナー、こちらの方は?」
「私たちの先生の〜斉天大聖老師よ〜」
「これはこれは、お初にお目にかかります老師様。渋鯖幽一と申します。御考察の通り、
貴方の弟子にあられる小竜姫様とお付き合いさせていただくことになりました」
「ゆ、幽一さん!?///」
「うむ。この堅物娘をよろしくの。お転婆なのが玉に傷じゃが」
「老師も!!///」
「ありがとうございます、老師様」

 まるで「娘さんを私にください!」のノリである。小竜姫もまんざらではないのか、恥
ずかしそうに俯くものの、その表情は嬉しさを隠し切れない。
 ちょいちょいと斉天大聖は熾恵を手招きすると、小竜姫らに背を向けてぼそぼそと何や
ら話し出した。やがて、双方納得行く話し合いが出来たのか、互いに親指を立てて首肯し
あっている。ちなみに内容は……。

(のぅ、どうなっとるんじゃ? あやつが幽霊なのは分かるが何故、あの男の姿見をして
おる)
(あ〜、それはですね〜……かくかくしかじか)
(なるほど。じゃが、お主は良いのか? 心中複雑じゃろうに)
(いいんですよ〜。当人同士が好き合ってるんなら問題ないです。私だって外見だけに惹
かれたわけじゃないですからね〜)
(なら良い)

 ……こんなもの。
 勿論、小竜姫たちには聞こえないように声は抑えてあるので、へんに勘ぐられることは
ない。斉天大聖は何事もなかったかのように小竜姫らに向き直ると、ごほんと咳払いをし
て話を始めた。

「あー、ワシがこっちに来たのは他でもない。熾恵も受けるGS試験のことじゃが、ひと
つ好からぬ情報が入った」
「老師がわざわざ来られるということは神魔間の問題ですか?」
「うむ。小竜姫、お主メドーサは知っておろう?」
「! 勿論です」

 メドーサの名が出たことで小竜姫の顔が引き締まる。

「やつが暗躍しておるという話じゃ。何でも手なずけた人間を送り込み人間界にパイプを
作り、ひいてはGS界の掌握を目論んでおる」
「それを阻止するのが任務ですね」
「その通りじゃ。やつは狡猾ゆえ、ギリギリまで尻尾はださんじゃろぅ。幸い、此度はこ
やつが受験する。内部からの監視は十分じゃ」
「私の仕事はそこに現れるであろうメドーサの無力化ですか」
「うむ。お主が会場におることだけでもやつを牽制することにはなる。熾恵の師として見
学にくるのは自然であろう?」

 にんまりと口をゆがめるハマヌン。弟子の激励ということで会場入りしておけばある程
度自由に動けるし、公然と姿を現すことでメドーサへの牽制にもなるということだ。

「わかりました。妙神山管理人小竜姫、この任務お受けいたします」
「任せたぞ。熾恵も、万が一にもないじゃろうが油断するでないぞ」
「わかってますよ〜先生」



          ◇◆◇



 ……という話し合いから3日後。
 熾恵ら『妙神山東京出張所』のメンバーは何をしていたかというと、

「……なあ、幽一よー……」
「女性の買い物は時間がかかるもの、と書いてありますよ。がんばってください」

 美神除霊事務所の面々と合流し、都内のショッピングモールへと足を運んでいた。当然、
男手である横島、幽一は荷物持ちである。愚痴をもらす横島を嗜めるのは、紆余曲折をへ
て意気投合した幽一である。そんな彼の右手には『デートにおける108の心得!』と書
かれた雑誌が握られている。愚直にそれに書かれていることを吸収しようとする彼は、そ
れだけ小竜姫のことを思っているのであろう。
 一方、女性陣の方はというと、

「あ〜、このワンピース、姉様に似合いそう〜。おキヌちゃんどう思う〜?」
「よくお似合いですよ、小竜姫様」
「小竜姫様は素がいいから何でも似合うのよ。むしろ、幽一さんと並んだ時に一番映える
服を選ぶのがベストね」
「うーん、動きやすさなども考えるとなかなか難しいですね」
「じゃあ、これなんかどう〜?」

 こうして延々と服を変え、店を変え歩き回っているのだ。ふと横島が時計を確認すると
すでに買い物に来てから5時間が経過している。この時間も給料は出ている(多分)のだ
が、ある意味30kgの道具を背負って悪霊屋敷に突っ込む方がまだ楽だったかもしれな
いと真剣に思えてくる。そんな横島をさすがに見かねたのか、幽一が女性陣に声を掛けよ
うやく一同は帰路につくことになった。

「つーかーれーたー!!」

 屋敷に着くなり、横島は糸が切れた人形のように突っ伏した。屋敷というのも、ここは
元渋鯖男爵邸である。なぜ、横島らがここへ来るのかというと、熾恵がGS免許を取った
としても申請書類上の上司である令子の許可が下りなければずっと見習いである。令子の
方としても、事務所を拡張したいと思っていたところだったため、熾恵がGS免許を所得
次第一人前の許可を出すという交換条件の下、この屋敷を共同事務所とすることになった
のだ。ちなみに、幽一は熾恵に括られているのでオーナーは熾恵のままである。

「お疲れ様でした」
「ああ、ありがとう、おキヌちゃん」

 おキヌからアイスコーヒーを受け取り一気に嚥下して、ようやく息を落ち着かせた横島。
そんな彼の頭の上にすいーっと飛んできたのは熾恵の式神・円である。

「ずいぶん懐いたわね〜」
「肩にしてくれって何度も頼んだんですけどね。諦めました」
「で、どうなの調子は?」
「へっへー、見ててくださいよ」

 得意げに立ち上がり、横島は右手に意識を集中する。頭の上に円を乗っけたままなので
少し情けないが、霊気の流れをコントロールしてくれているので仕方ない。しばらくする
と霊気が細い剣のように伸びていき、1mほどになって安定した。

「……また、ほっそくなったわねー」
「それだけ霊力が集約されているということです。日に日に硬度も切れ味も上がっていま
すよ、横島さん」
「ふふふ、GS横島極楽大作戦となる日もそう遠い日では……」
「ん〜、円ちゃんおいで〜〜」

 造り主である熾恵が呼ぶと、円はひょいっと横島の頭から離れ、それと同時に横島の霊
波刀は日本刀から幅広の西洋刀ほどの幅に膨張する。

「へー、生意気に。円無しでも定着できるようになったんじゃない」
「ぐぎぎぎ……ま、まだ、一杯一杯っす」
「素晴らしいですよ、横島さん。GS試験まであと2週間です。この調子でいけば、きっ
と合格できますよ」

 幽一の賞賛の言葉を聞き終える前に、横島の霊波刀は掻き消える。ぜーはーぜーはーと
息を切らす様子から、まだまだ実戦では使えそうもないが、たった2週間でここまででき
れば大変優秀である。

「それでもお前の結界には傷ひとつつけれんがな……」
「私にはこれしかありませんから」

 そういって苦笑いするのは、初めて幽一が小竜姫を伴って令子らのもとを訪れた時のこ
とを思い出しているからだろう。小竜姫を伴っている幽一の姿を見るや、横島は問答無用
に霊波刀で切りかかったのだ。結果は幽一の展開した結界にあっさり弾かれて終わったが。

「幽一さんの結界はすっごく硬いですもんねー。私もすり抜けれませんでしたー」
「本来、この館を覆えるくらいの結界を人一人分の大きさに圧縮すれば、どうしても硬く
なりますよ」
「その硬さが尋常じゃないって言ってるんだけどね……核ミサイルが飛んできても平気そ
う」

 呆れ気味に令子が評価する。幽一は元々、結界を張る力を持っていたが、自身が人間大
の質量になったことで、出力はそのまま、覆う範囲は狭くてよいという、とんでもない結
界を展開することが出来るようになったのだ。勿論、以前の強度で広範囲を覆うことも可
能である。

「で、今度のGS試験に魔族が乗り込んでくるってのね」
「ええ。試験生たちは熾恵さんと横島さんにチェックをいれてもらって、私と幽一さんは
観客席の方へ回ります。美神さんとおキヌちゃんにも手伝っていただきたいのですが」
「ギャラは?」
「み、美神さんってば……」

 美神令子の美神令子たる由縁はこの徹底したプロとしての意識である。正式な依頼であ
れば命も掛け、当然金ももらう。失敗すれば断腸の思いながら違約金も払う。だが、そう
でない場合は話は別だ。相手が神様だろうが悪魔だろうがそれは変わらない。正式にGS
に対しての依頼である以上、誰であろうが金は取る。ただ、がめついだけと言えばそれま
でであるが。

「えー、小判50枚ほどでいかがですか?」
「手付けとして約500万ってところか……OK、実費は別途もらうわよ」

 実はこれはかなり破格の値段である。一流どころである令子を丸2日拘束するだけだと
しても500万は安い。危険が伴うであろう今回の依頼ではなおさらである。美神のがめ
つさを普段から目の当たりにしている横島とおキヌから、驚きの色が見て取れることを考
えると相当珍しいことのようだ。

「……何よその目は」
「い、いつの間に入れ替わったんだ!? 悪霊か? それともカオスか!? おキヌちゃ
ん!」
「美神さん、ごめんなさ〜〜い!!」
「だーー!! 何よアンタたち!! 私が家賃モロモロ、タダにして貰ってるからお礼に
と思って格安料金で仕事請けるのがそんなにおかしいの!?」
「ああ、借りを作っときたくなかったんですね。納得っ……っプゲラ!」
「……人を何だと思ってるのよ」
「し、しぃ〜ましぇ〜〜ん」

 どつき漫才の最中、熾恵は記憶どおりの雰囲気に頬をほころばしていた。やはりこの空
気がなければ美神除霊事務所ではない。
 ひと段落して、社会見学という名目のもと小竜姫と幽一をデートへと送り出し、横島の
指導に当たっていた熾恵は2週間後のGS試験のことを考えていた。

(会場には過去の私も来るのよね〜。私が未来の自分って気付くことはないでしょうけど
〜)

 熾恵が心配するのは、GS試験会場で出会うであろう、過去の六道冥子との初顔合わせ
だ。自分がずいぶん過去とは違うことを差し引いても、ちょっとした事で感づかれる可能
性がある。

(なるべく近づかない方がよさそうね〜)

 細心の注意を払い接触を避けることにする。まだ、誰にも悟られてはいけないのだ。自
分が未来から来た人間であること以上に、妙神山熾恵が六道冥子であるということを。



          ◇◆◇



「……以上の3名が、今回の試験を受けることとなります」
「楽しみにしていますわ。私の愛弟子たちが無事合格することを」
「失礼いたします……」

 パタンと静かに閉められたドアを見据えながら、妙齢の女性―――メドーサはほくそえ
んだ。全てが計画通りに順調に運んでいる。今のところ神族たちに感づかれた様子もない。
数年後に慌てても、その根は中枢深くまで侵攻しているだろう。

(まさに後の祭りってね。クックック……お高くとまってる馬鹿共の慌てる顔が楽しみで
仕方ない。魔装術さえあればクズでも合格は出来る。次はまた別の道場に乗り換えれば足
もつかない)

 だが、それも今回の試験を見届けてからだ。いつどこで不確定要素が介入するかわから
ない。プロとして作戦の完遂を見届けるのは当然だが、できるプロは2の策、3の策を常
に準備しているものである。

「証拠隠滅用の火角結界と、念には念を入れてあれも準備しておくかね」

 そして彼女は真のプロフェッショナルだった。決して手は抜かない。予想不可能なこと
がおきた時のことを『予想』し、準備する。

(他のやつに知られちゃ臆病者って笑われるだろうね。でも……)
「プロは臆病なくらい慎重になれないとダメさ」

 そういってメドーサは自嘲的に笑う。

 GS試験まで、あと13日―――



(後書き)
 今回の話はGS試験日までの各人の近況、といったステップの様な話です。横島はなん
とか霊波刀が出せるようになり、美神除霊事務所は引越し。小竜姫と幽一はゆっくりと現
代社会になじんでいくなどを書いてみました。次はGS試験です。キャラが増えるのでう
まく書ききれるかちょっと不安です。

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