ザ・グレート・展開予測ショー

愛の歌 その4後編(最終話)


投稿者名:tara
投稿日時:(05/ 1/16)

こんにちは、私のカワイイ赤ちゃん

生まれてくれてありがとう

君は俺達二人の愛の証

息苦しいくらいに守ってあげるよ









………………
…………
……

「タマモッ!タマモッッ!!」

全身ひびだらけの彼女がいた。網目状に広がった亀裂の間から光が溢れている。
俺はまた間に合わなかったのか。可愛らしい小さな口がゆっくりと開かれる。

「愛してくれてありがとう」

そういって実に微妙な顔をした。苦笑い、なのだろう。だがその顔に不思議と陰は無い。
もう一度口が。

予感がした。


この一言できっと、





「さよなら」







俺は絶望する。









光が流れた。両手でそっと彼女を持つ。
冷たくなった彼女はただ、俺の手の平から熱を吸い取るだけ。


ポケットから文殊を取り出し、『戻』を込めて彼女に宛がう。その一連の流れを無意識に行った。

(何やってんだ、俺。)

彼女は既に『戻』っているというのに。すなわちこの文殊が機能する道理が無い。



「ッッッッ!!!???発動した!?」

もしや、と数分息を呑んで様子を見守ったがやはり石は石のまま。しかしこのハプニングが絶望の淵にある彼に気付かせる。


思い出した。自分の知らぬ間に自分の為に死んだ恋人のこと。その恋人を切り捨てたこと。
何も出来なかったあの時に比べればどれだけ救われた状況だろうか。



「…………そうだ、まだ生きてるじゃないか」

俺は馬鹿だ。死のうなんて考えた。頭の良いタマモのこと、それくらい察していたはずだ。
それでも、さっきアイツの顔に後悔なんてなかった。
きっとアイツは自分のやるべきことをやったんだろう。俺を信じてくれたんだろう。


「……俺は、俺に出来ることを…………………」















………………
…………
……


世にも奇妙な犯罪に判決が下される。


被告人は横島忠夫25歳。

「被告人の罪状を『一般人への霊能力の行使』、『公務執行妨害』とし、懲役10年の刑に処す」

「……わかりました」



『霊能犯罪防止法』。アシュタロス戦役後、社会に浸透した霊能力者の犯罪を規制するために設けられた法律である。被害者が死に至ったり重度の霊障を被らない限りは2年以下の懲役になるのだが、彼は被害者が無傷にも関わらず他の刑罰と併せて10年もの懲役刑をもらってしまった。

第一の被害者は説話、伝承学の第一人者である吉岡幸次郎。突然研究室に入ってきた横島にピンポン球のような何かを飲まされた。その次は民俗学者の鈴森由香子。被害内容は上記に同じ。その後も犯行は続けられ、彼が所属事務所で逮捕された時には被害者は国内だけでも300人に達していた。

この法律が適応されるケースは極めて稀であり、警察は彼を持て余してしまう。そもそも捕まえたのはいいがどう扱えばいいのか?調書を書こうにも実質の被害が皆無だから彼の名前しか書けないのだ。
日本の公務員はやはり責任に弱い。

(コイツがホントに何もしてなかったらどないしょう……)

場しのぎとしての取調べを行ってこの日は取り敢えず彼を釈放し、その愚行は全世界から責められることになった。







一瞬地球上から夜が消える。
文殊による全人類への度重なる霊的干渉、だがまたも実質被害無し。



それ故に懲役10年という、大犯罪でありながら中途半端な判決となったのだ。








………………
…………
……

「だーかーらッッ!!!アタシに妖孤の知り合いなんていないってば!!いい加減にしないと……」

「美神さんッ!!、ちょっと落ち着い……あっ!!待って!?」

逃げ出す少女をおキヌが追いかけようとする。

「ほっときなさい。…………あーー、それよか今日よね、横島クンが出てくるの」

あさっての方を見て伺ってくる美神におキヌは苦笑いした。

「あ、はい。……やっぱり美神さんも一緒に迎えに行きますか?」

「ッッ!!……………やーよッ!」

1ヶ月前から何度も繰り返した問答。美神は頑なに行こうとしない。そのくせあと何日か毎日聞いてきた。
ため息が一つ。この人の意地っ張りはいつになったら直るのだろう?

「ところで今の子、どうしたんでしょうか?」

「あの子のことだからヒョコッと帰ってくるでしょ。いつものことじゃない」

「いつものこと?美神さんあの子のこと知ってるんですか?」

「?……知ってるも何もタマモじゃないの。アンタと横島クンが拾ってきたんじゃないの」

「タマ、モ?…………………………ッ!?」

「ちょっとおキヌちゃん?いきなりどうし……………ん?」






「「あれ?????」」







タマモは公園のベンチで頭を抱える。

(えーと……………)

おキヌは久しぶりね、といった私に首を傾げた。17年振りに会った美神はしつこく食い下がる私にキレて神通鞭を振り回してきた。まだ癇癪直ってなかったのね。

(みんな私のこと忘れてる?)

全てが予想外。まずは九尾のヤツだ。人が体をあげるっていってんのに返事もしやしない。

(………………死ぬのが分かってるのに生まれてきたくないって?)

やることがないので美神を訪ねてみると自分を知らないという始末。いくら美神がお金と自分のことしか考えて無くても金毛九尾の私を忘れるとは思えない。おキヌは確かにババくさいが痴呆が始まっちゃうような年でもない。


(…………………ヨコシマはどうしてるかな?)

事務所には居なかった。なるだけ考えないようにしていたが勿論無理。愛する人を忘れられるはずが無い。

(…………もしかしてアイツ馬鹿なことしちゃったんじゃ…………………)

石になったということは彼への愛が本物だったということだ。今なら自分の気持ちに自身が持てる。だがその為に彼を犠牲にしてしまった。あの時の自分の決断に後悔は無いが未練はある。




「……………ヨコシ「どいてえぇぇぇッッッッ!!!!」ひぃぃぃッッ!?」

耳をつんざくブレーキ音。公園の乾いた土が舞い上がる。鼻先1センチに真っ赤なコブラがいた。

「……みッ、美神?」

「全部読めたわ。乗りなさい、タマモ」

毒蛇に乗って現れたケバい女はそういった。










………………
…………
……

『白』『面』『金』『毛』『九』『尾』『存』『在』『忘』『去』

4度人類に向かって放った文殊。かなり大掛かりな術だったが世界の改竄を行う時間移動よりは容易である。ただその効果はタマモに会うまで分からない。ヒントはあの時文殊によるタマモの捜索で金毛九尾が反応しなかったこと。もしもタマモが俺とルシオラのように九尾と混在しているのなら、文殊は九尾の妖力も拾ったはずだ。それがなかったということはタマモと九尾は全く別の存在であることを示唆している。



どうすれば九尾を消せるか、タマモを救えるか、元妖怪の老師なら何か方法を知っているのではないかと。だが教えを請うた俺に老師は告げた。

「無理じゃ、仮にも亜細亜最大の妖怪じゃぞ」

うなだれる俺。この人が駄目だったら後は……………ラプラス?いーーやーーだーーー………

「ただ……」

老師が続けた。



「存在を薄めることはできるな」










「もう二度と来るんじゃねぇぞ」

俺の看守だった人だ。なんか良い顔をしてるのはドラマみたいな台詞を言った自分に酔ってるからだろう。

「はぁ……」

あれから17年、そろそろタマモは復活しているだろうか。

門を抜けると一人の女性が石塀に背を預けていた。

「おキヌちゃん!迎えに来てくれたのか。ありがとう」

「あっ、横島さん?おかえりなさいっ!」

10年前と変わらない笑顔が俺を安心させる。あの時は本当に迂闊だったな。計画を二人にだけは話そうと思って事務所へ顔を出したところ逮捕された。事務所の信用はがた落ちだったらしい。美神さんにもおキヌちゃんにも迷惑をかけてしまったろう。それでも二人はしょっちゅう面会に来てくれた。

「……ただいま」

「はい………ってそうじゃなかった!!横島さん、アパートでタマモちゃんが待ってますよ!!!」

「ッッッッ!!!???」








………………
…………
……

彼と過ごしたボロアパートは17年たった今でも奇跡的に残っていた。私がいつ帰ってきてもいいように、彼が買い取って管理していたらしい。ドアを開けた瞬間に感じる幸せの残滓。私はうずくまって泣いた。美神が隣に腰掛けて私を撫ぜて、私はもっと泣いた。




「………っていうのが横島クンの計画じゃないかしら」

美神から聞いたヨコシマの話はあくまで推測であるが大筋が通っている。九尾が私の声に応えないのもそのせいかもしれない。それはともかく、私のために服役してるなんて。

「……あの馬鹿、一言文句言ってやんなきゃ」

悪態をつく私を見て美神がニヤニヤしている。何よ。

「そんな凄んでも嬉しそうな顔しちゃってたら嘘よ」

「ッッ!!!」

今の私、絶対顔が赤いわ。

「……?ところであんた前と雰囲気違うわね。ポニーテールになってるし……それに、ちょっと太った?」

発言に促されて頭に手を当て、初めて気付いた。以前と違い結構な質量の髪が一房に束ねられていること。ウエストが二回りほど大きくなっていること。

(食べても無いのに太るなんて、最悪…………ん?)

お腹を撫で回すと違和感を感じる。これ、贅肉じゃない。
え?え?え?

「来たみたいね、後は二人で話しなさい」

美神は立ち上がって出て行った。来たというのは彼のほか無い。




膨らんだお腹への動揺と併せて動悸がどんどん早まっていく。

幾度と無く聞いた階段を登る音。彼の音。昔はこの音が聞こえたら急いで髪を整えたものだ。

あ。

玄関隣のガラス戸にシルエットが映った。髪形も背の高さも違うが緩やかな猫背が彼と認識させる。

アイツがそこに居る。溢れ出した想いが流れて、足元に落ちる。ドアが開いた。






「よう」


渋い顔のわりに少し高い声。


「随分良い男になったじゃない」


無精髭の似合う大人の男。


「おかげさまでね」


そのくせ少年のように笑う。


「バカ」


…………ねぇ、九尾、前言撤回よ。


「大事な話があるんだ。俺と……「ダメよ」…え?」


アンタにこの体はあげられない。


「恥ずかしいからこれで最後っていってたじゃない」


人を愛して石になっちゃうんなら、何度でも石になってやるわ。


「おい、それはないだろ〜」


だってワタシは


「ヨコシマ、愛してるわ。私と結婚して下さい」


愛するために生まれてきたの。


「………………ゥゥ……」


あー、しょうがないヤツ。


「男のくせに泣かないでよ」


こんなヤツだからほっとけない。


「……ああ、全くだ。だから」


「うん」








「「これからもよろしく!!」」













ーーエピソードーー

目の前が何も無い色。

ああ、これが白なんだ。

体が重い。

ああ!これが体なんだ!

ん?

何も無い色の服を着たおばさんが腰を抜かしている。

「ヒッ!?化け物ぉッ!!!!」

四つん這いになって逃げていく。

何で逃げるの?やっぱり生まれたらいけなかったの?

あれ、何か聞こえる。

「あー、やっぱり逃げちゃったね」

「そりゃ狐が生まれたら驚くだろ。しかも尻尾が8本あるし。」

誰?とても暖かい。

「ところで!名前ちゃんと考えてくれた?」

「うっ!?……すまん」

お父さん、お母さん?

「まぁいいや。それより」

「おう」

お父さん!お母さん!


オ、


「こんにちは、私のカワイイあかちゃん」

「生まれてくれてありがとう」








オギャアァァアアアァァァァァァァ


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