ザ・グレート・展開予測ショー

お前は誰?  No1


投稿者名:トンプソン
投稿日時:(05/ 1/15)

その頃は・・・。
唐巣神父、眼鏡の度数も強くは無いし、御髪も泣くほでもない。
美神令子が居住する数年前。なんとか教会での除霊活動が軌道に乗ってきていた。
その日は夕日が落ちて凍てつく程の風が街を舐めていた。
「お邪魔しますよ」
ふっと、男が一人、重そうな教会の扉を開けた。
こちらも眼鏡をかけているが、歳は神父よりも二つほど上と見えよう。
「晴野理事長!」
現在のGS協会理事長、晴野氏が突然教会にやってきたのだ。
「ちょっと付き合ってもらえませんか?」
この寒空にですか?とは言える相手ではなかった。
協会長はロングコートを羽織っている。
唐巣神父もそれにならって一張羅のコートを腕に通した。
「で、何処に行かれるのですか?」
「殺人現場さ」
こともなげに恐ろしい事を言う協会長であった。

神父は当初、殺人現場跡、辺りに残る浮遊霊から現場調書をとおもっていたのだが。
二人は闇に隠れて彼女の仕事を見ていた。
その仕事は西洋の黒魔術と南米のブードゥー術を巧みに混ぜた呪殺法であった。
まだ歳端もいかない、日本人にしてはやや黒色の肌の彼女。紛れもない殺し屋。
そして何事も無かったかのように消えてしまった。
殺人現場の瞬間を目の当たりにしていた。言葉も出ない神父も当然である。
「・・やっぱり。彼女は殺し屋なんだね。しかも事もあろうか霊能力を使っての」
「追わなくてよろしいのですか」
「・・無駄だよ。何度か警察に話をしてあるんだけど、取り合ってもらえない」
確かに呪いでの殺人が罪になるかと問われれば難しい所である。
当時はまだ霊能関連の法整備は無かったのである。
「確かに、そうかもしれませんね、しかし・・・あの噂は本当だったのか」
「噂とは独自の呪術を使う殺し屋の事だね。そう、それが彼女だよ」
悪い事ほど耳に入ってくるのは実力者の常だ。唐巣神父もこの例に当て嵌まる。
この噂、神父本人は何かの悪い冗談かと思っていた。
或いは高位の悪魔が何かの拍子に見られたのではと思っていたのだが。
現実は噂通り。この寒い夜、自らの体温まで下がった気がする神父であった。
「名前はわかるんですか?」
「本名かどうかはしらないけどね。エミ、小笠原エミ、だそうだよ」
手帳を見て確認する。
「他には何か?」
「うん。どうやら家族関係は出てこない。多分家出少女だね」
「なるほど。ここまでは決して珍しくない話ですが・・しかし彼女の能力は」
神父である以上その手の話、家出者の相談を受ける機会も少なくない。
男はまだいい。少女の行き着く先は上手く行って綺麗な水商売。
あとはお定まりの灰色の世界。だが殺し屋になるのは今までに聞いた事は無かった。
「彼女の出生は判らなかった。『小笠原』を名乗る霊能力者に娘が家出したという事実はないからね」
「当然変異ですね。稀ですな、とはいえ、あの呪術は技です。生まれ付きではないですよね」
「彼女の能力だけどね。神父が日本に離れていた頃、彼女に似た能力者がいたんだ」
「つまり、あの娘の師匠筋にあたる?」
「先ず間違いないね。ほら、彼女の影を見てごらんよ」
暗がりから一転、闇に逆らうが如くのネオンに彼女が身を晒した時、はっきりした。
「あれは?悪魔のベリアル?」
「そう。あやつも悪魔ベリアル下僕としていたんだ」
「あやつ?エミ君の師匠筋にあたる方ですか?」
「そんな丁寧な言葉を使う事はないよ。あやつも殺し屋を糧としていた」
隙間風が二人を包んだ。お互い寒そうに外套の襟を掴んだ。
「何故それをご存知で?」
「警察と手を組んで、私が暗に浄化した」
「・・・そしてその殺し屋の名前は?」
「通り名でセイント、聖職者だってさ」
殺し屋風情がセイントと名乗るとは、洒落にしてはきつすぎる。
「あまりいい気持ちはしませんね、それに聞いた事もないですな」
「そうだね。でも裏の世界では有名人だったらしい、けれどセイントが何者なのかは結局判らずじまいさ」
もう少し、調べられればよかったと思うが警察のから打ち切りを迫られたそうだ。
お上のお達しにまで逆らう必要は無い。
当時も今も需要の尽きない業界。そうも一件の仕事構ってはいられないのだ。
「で、そのセイントも独自の呪術とベリアルを使って仕事をしていたのですな?」
「そうだね。でもあのエミちゃん程は強くなかったと思う」
「ご謙遜を」
「いや、本当の事さ、でベリアルも封印したと思ってたんだけど」
「エミ君を新しい主として生き延びた、と言う事ですね」
「神父の言うとおりさ。詰が甘かったようだ」
自分の汚点を素直に言葉に出した晴野協会長。
よく見ればぎりぎりと歯をかみ締めている。
「つまり、彼女が今の仕事をしているのは、文字通り悪魔の囁きだと」
「そうだね。さて神父、君は知ってしまったよ。どうするかね?」
「・・・私に一任させて貰えますか?」
「最初からその積りさ。これでも忙しいくてね。お礼は弾むから」
「い、いえ、お礼は結構ですよ。更生は神父職の一つですし」
「そうかい、じゃあ今日の食事代ぐらいは出させてくれるね」
「はい。お言葉に甘えますよ」
そうして二人は明かりの元へと足を歩めた。
繁華街に戻れば。
小奇麗な小料理屋に二人分の席が空いているのが、外からもわかる。
「ここでいいかな?神父」
「はい、問題ないですよ。協会長」
暖簾を潜るとこれでもかと室内は暖められていた。
みしろ暑い程である。
「これじゃあ、熱燗よりもビールだね、神父も飲むかい?」
「頂きます」
かちんと冷えたジョッキで味気のない乾杯。
炭酸を喉に一口と押した春野協会長。この時は初老まではいかないのだが。
「・・・今の私にはあのベリアルと対峙するほどの能力はないから」
ぽつりと、ビールを目の前にして晴野氏は唐巣神父に零していた。
ゴーストスイーパーとは。特殊技能で仕事のやり方も様々だ。
中には年齢を経て霊能力が向上する者もいる。
だが、逆もしかり。今の晴野氏には到底無理な仕事だと判っていた。
「お任せ下さい」
「うん、頼んだよ」
本心は悔しいでしょうに、と仮面の裏を読み取った若かりし唐巣神父であった。、
しばらく、二人は店の音を耳に留めていた。
神父のジョッキが空になった頃。一つの疑問が生じた。
「時に理事長、一つ疑問が」
「ん?なにかな。神父」
「彼女が、エミ君はあの歳で暗殺者をやっているようですが」
「うん。そうだね」
「しかし・・漫画や映画と違ってこの日本で暗殺家業なんて、家出少女には無理ですよね」
「うん。確かに」
「例えば、誰か連絡役がいるとか、それこそ」
一旦言葉を止め、指で頬に傷をつける仕草をした唐巣神父。
「コレモンの関係者がバックにいるとか、そういうのは判らないのですか?」
「暴力団のことかい?どうやら彼女は単独のようだね」
「ふ〜む。ではエミ君はかつての師匠筋の顧客を引き継いでいるのでしょうか?」
「あ、それはないね」
ひらひらと手を振りかざして。
「あの事件はね、GS協会と警察のダブルタッグでやっててね、あ奴を浄化すると同時に関係者はしょっ引いてもらったんだ」
「ですが、少数は残ってるのでは?」
「そうだね。でもその線はあまりないかな?」
「それは又どうしてですか?」
「詳しくはいえないんだけど情報操作でセイントが裏切ったように見せかけたのさ」
警察が青写真を引いて当時の晴野氏が協力の元、その作戦は成功したと言う事だ。
「あの事件は表立って行動は出来ない、だから秘密裏に片付けたのさ」
「では最悪エミ君は狙われる立場にいたと」
「そうだね。最もあの頃はセイントの周りに弟子はいなかったよ。万一いたら私が引き取ってるさ」
「そうでしょうな。ですが、あの歳で何の組織もなく殺し屋をやるなんて不可能です」
すう、と一呼吸置いて唐巣神父。声のトーンをひそひそにした。
「・・・絶対に協力者がいます。今の時点で情報は?」
「申し訳ないが、そこまで調べはついていないんだ。判り次第連絡しよう」
「ではそこはお願いします」
「でも、頼む」
椅子に座った姿勢を正して、晴野協会長。
「今の彼女を作ったのは私のミスでもある。助けてやって欲しい」
「はい。心得ております」
神父の目が慈愛を表しているのが、協会長にも理解できた。

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