ザ・グレート・展開予測ショー

愛の歌 その4前編


投稿者名:tara
投稿日時:(05/ 1/14)

神族はどんなに人が愚かであろうと救うことをやめない。

魔族は自分の欲望に忠実に生きることをやめない。

やめられないのではない、やめないのだ。

衝動に駆られている訳ではないから本能ではない。

無意識のアイデンティティー。







それは本質と呼ばれる。






………………
…………
……


……?涙が流れない。目がないからだろうか?いや、あったとしても……

タマモは少なからず驚いていた。
何も見えない、聞こえないこの石ころの中で、自分は思いのほか冷静だ。
憑き物が落ちたというかなんというか、むしろ生前よりも落ち着いてるといってよい。

(フフッ、「生前」だって、変なの)

それどころか笑えっちゃったりもするみたい。口はないけど。







『……前のアンタもそうだった』

昏い声がする。アイツだ。

(何だ、居たの?)

『……ちッ!』

(で?時間なら腐るほどあるわ、なんでも聞いたげる)

『前のアンタもそうだったっていってんのよッ!!!!』

大音量がガンガンに響く。

(うるさいなぁ)

『……玉藻前だったっけか。勘違いで殺されそうになってもアンタはワタシにならなかった。
その前の若藻の時も、も一つ前の褒似の時もッ!華陽の時もッ、姐妃の時もッッ!!泣きながら死ぬくせに石の
中でにっこり笑うのよ!!アンタ何考えてるのッ!?ホント意味わかんないッッ、一回くらいワタシに従いなさ
いよッッッ!!??
アンタなんか……アンタなんかッッッ、ワタシがいなきゃそこいらの妖孤と変わりないんだからッッッ!!!!』




ヒステリックな声。タマモにはタマモの記憶しかないので、正直怒鳴られるのはお門違いではあるが、今の話に歓喜が湧く。
どうやら過去のワタシは誰一人としてコイツに屈しなかったようだ。
そして


ーーワタシがいなきゃそこいらの妖孤と変わりないんだからーー


ピースが一枚嵌まった。     ……コイツってもしかして。


『ヒトのこと散々ニセモノ呼ばわりして!!ワタシに言わせればニセモノはアンタよッッ!!』


また一枚、もう一枚。      ……すごく可哀想なやつなんだわ。


『アンタの本質がワタシを赦してくれない、生まれさせてくれないッ……ワタシがホントのッ……』


……完成したのは継ぎはぎだらけのぬいぐるみの絵。    ……コイツは人の想念の塊。コイツは本物でありながら、


『金毛九尾なのにッッ』


……その実一度も生まれた事がない。


モドレ


ーー瞬間、世界が色づいた。

ヨコシマが私を助けようとして文殊を発動したのだろう。

『戻』

意味は無い。タマモは今まさに石に『戻って』いるのだから。

(これは……)

しかし、彼の最後の悪足掻きは思わぬ効果をもたらす。

(前世の記憶?)

意識が、飛んだ。











……ッッ!!!また血をお吐きになられた。

呪いの主が誰かはもうわかっている。懲らしめてやりたい。

でも動けない。今ここを離れたらこの人は死んでしまう。

陰陽寮の連中……愚かな人たち。ワタシの仕業だと勘違いしているのね。

このままだときっと…………いいの。

だってワタシは………



また飛ぶ。














あなた様はワタシを好きだとおっしゃった。

浅ましき化生の身であるワタシを理解してくださった。

明日にもあの島国へお帰りになられる。寂しい。

生まれて初めて手に入れた暖かさを、失いたくない。

…………よろしいのですか!?…………いえッ、迷惑だなんて!!

だってワタシは………




飛ぶ。飛ぶ。飛ぶ。

















彼が弱弱しく微笑んでくる。笑みを返す。

ワタシの愛しい王様。こんなに痩せこけて。

権謀渦巻く宮廷にあって彼の心は磨り減ってしまった。

ああ、かわいそうに。ワタシが守ってあげましょう。

あなたの為ならなんだってできるのよ。

だってワタシは………
















そして原初の風景。




そこには一匹の妖孤。

(そう…………そうだったわ。)

尾は1本。

(私は………………)



もう3年にもなろうか。いつも見ていた。彼は妻を亡くした地主の息子。日がな墓の前にかしずいて泣き腫らす。
彼を見ているとどうにも胸が締め付けられる。この人の悲しみは終わらないのだろうか。この人の心はまだ救われない
のだろうか。もう十二分に苦しんだではないか。
気高き魂。彼の愛が色褪せることはない。
気が付くと泣きながら彼を抱きしめていた。

「……僕はサニー。……君は?」

「……………………パールと言います」




それから毎日彼と会った。ぽつり、ぽつりと妻の思い出を語る横顔を見つめる。幼馴染だったこと。流行り病で逝ったこと。
整った顔立ちなのに笑うとクシャクシャになっちゃうこと。ただ聞き続けた。同じ話を何度聞かされたか分からないが、それでも
聞き続けた。この人の笑顔が見たかったから。



(私の本質は………………)



半年が過ぎた。顔色が良くなった、と思う。泣くことも極端に減った。私なんかでも少しは彼の役に立てたろうか?
でも決して笑わない、笑ってくれない。彼なりの亡き妻への愛の証明。それが嬉しくも悲しい。
涙が出た。自分の思いに気づく。

「えっ!?あのっ、どうして泣いてるの?僕何か酷いことしちゃったかな??」

下から顔を覗かれる。近い。

「サニー、愛してるわ」

キョトンとした後彼の顔が真っ赤に染まる。しかしそれも一瞬の事、いつもの神妙な顔に戻ってしまった。

「……パール、その気持ちはとても嬉しい。君と出会ってから僕は救われた。君のことだって勿論好きに決まってる、
殆ど愛してるといってもいいくらい。でもアイツのことだって愛してるんだよ。その気持ちを消すことは出来ないし、
消そうとも思わない。そんなんじゃあ君が傷つくだけ…「いいえサニー」…?」

「ワタシは傷つかないわ。そりゃあ愛されなかったらつらいけど、あなたはワタシのこと………あ…愛してくれてるのよね?
だったら何も問題なんか無いじゃない。

それに、ワタシは何より、




愛されるよりも、愛してあげたいの」




(私の本質は、真摯に愛を捧げること)





ここは小さな街、地主の息子が新しい妻を迎えたというニュースはあっという間に知れ渡った。彼と歩いているとすれ違う人達は皆
祝福してくれる。二人でお礼を言って笑いあう。彼は思ったとおり、いい顔で笑った。

ここは小さな街、地主の息子の顔くらい皆が知ってる。彼が他の人より少しだけお金を多く持ってることくらい、皆知ってる。
肉を抉る嫌な音。彼はワタシの腕の中で熱を失った。



気が付けば財布を持って逃げ去ろうとする男を炭にしていた。





噂というのは得てして正しく伝わらない。尾ひれ背びれに止まらず真実を捻じ曲げる。







ーーーーー西の街にそれはそれは恐ろしい妖怪がでたんだってよ。

ーーーーー男を誑かしてそいつに飽きると殺しちまうそうだ。おお、怖い。

ーーーーーえらく別嬪な女に化ける、狐の化生だとか。

ーーーーー特徴??……ああ、確か、






ーーーーー「しっぽがここのつもあるらしい」。







人の心が妖怪を作り出す。捻じ曲げる。

ワタシは八本の尻尾と本質に相反する本能を手に入れていた。





………………
…………
……


(………だから石になるのね)

『?……どういうこと?』

(本質が壊れちゃうと存在自体も壊れちゃう。神族は人を見捨てたら堕天して、逆に欲の無くなった魔族は天に昇るわ。
彼らは鏡写しだから反転するだけですむけど、私たちは………………)

『…………………………』

相槌が無い。おそらく絶句している。
タマモの言いたいことがわかったのだろう。金毛九尾にとって最悪の運命だから。

(男から愛を告げられたアンタは金毛九尾としてソイツの気持ちを利用しようとするわよね?そして私の本質がそれを許さないの、絶対に。
でも千年以上語り継がれているアンタの膨大な妖力を、私みたいな普通の妖孤に抑えられる筈が無い)

『……………だから石になって本質の崩壊を防ぐ。私は生まれない』

(たとえこれから先アンタが私に勝ったとしても、本質が壊れちゃうから…………)

『……………ワタシ達はワタシが生まれた瞬間に死ぬ?』

(……………)

『……………』



タマモは惰性で考えた。今の冬眠状態は自分で術を行使せずヨコシマの文殊によって封印されたものだから、十数年したらまた復活する。
そしたらいっそのこと、九尾に体をあげちゃおうか。
私は多分不幸なほうだろうけど、彼に愛されたから救いはあった。石になることで自分の気持ちを証明できた。
でも九尾には、何にも無い。
どうせ消えちゃうんでも、生まれてから消えたほうが幾分マシな気がする。

(うん、そうしよう……)





眠気が訪れる。次に目覚めるの時は死ぬ時だろう。





………………………………………

………………………………

………………………

………………

………










ボロアパートの一室










オッサンと若い妊婦が向かい合っていた










taraです。
マジですみません。
次で絶対おわりますから。

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