ザ・グレート・展開予測ショー

横島忠夫奮闘記 46〜意外な接点〜


投稿者名:ぽんた
投稿日時:(05/ 1/13)

赤坂家への家庭訪問が決まり、それとなく周囲の教諭にその事で相談したら、非常勤講師の身分では
やってはいけない事だったらしい。色々と諌められたが、結局理事長の鶴の一声で行く事に決まった。
講師ではなく一介のGSとして表向きは訪問する事になり、万が一の時は学院は一切関知しない、と
学年主任から釘を刺されたが、ヤバくなったら逃げてしまえば良い。一旦時間を置けば大きな問題にも
ならないだろう。そう思うしかなかった。





土曜日の午後、横島は重い足を引き摺るように歩いていた。どれほどゆっくり歩いても何時かは目的地に
到着してしまう。それよりこちらが指定した時間に遅れるような事もできない。
やがて横島の前に古色蒼然としたどっしりとした構えの木製の門が立ちはだかるように聳え立つ。

《赤坂流剣術道場》

何とも風格のある看板に見下ろされるような状態で呼び鈴を押すと赤坂が迎えに出て来た。
ろくに目を合わせようともせずに奥の和室へと案内される。
入って最初に目についたのは仏壇だった。なんとなく道場と言えば神棚というイメージのあった横島だが
武道家の中に仏教徒がいてもおかしくないだろうと思い直す事にした。

改めて目をやると父親らしい人物が立ち上がって出迎えてくれた。
190cmはあろうかという長身、ごつい岩のような体つき、太い眉、大きな目、太い鼻、大きな口、一言で
言うとデカイ、で表せる人物だった。智子とは全く似ていない。

「おお、この度は私の不躾な招待を受けていただいてありがとうございます。是非一度お会いしたかった。」

喜色満面の笑顔で横島の両手を粉砕するような力で握り締めてくる。だが相手からは何の悪意も
感じられない、あけっぴろげな態度で豪放磊落な人柄が伝わって来る。裏表の無いような性格を
しているようにしか見えないが、今日呼びつけた目的がまだ解らない。

「あの〜、それで本日のご用向きはどのような?」

横島が揉み手をしながら腰を屈めて問い掛けると相手が意外そうな顔になる。

「はて?娘から聞いておりませんか?貴方と娘の勝負の話を聞いて、ようやく捜し求めた
人材に出会えたかと思い是非とも我が家に招待したかったのですが。」

そう言われても横島としては戸惑うしかない。自分の評判が好意的に伝わってると思える
程おめだい性格をしていないだけに尚更だ。張本人に直接問い掛けようと思っても既に本人は
部屋からいなくなっており、確認もできない。

「いや娘との手合わせの内容を開始前から一部始終を自らの師に伝え、助言を仰ぐよう
言って下さったそうですな?」

横島の怪訝そうな表情にも気付かずに一方的に言い募ってくる様子から、どうやら今日は
父親ではなく師匠として、娘への態度について話があるらしい。そうであれば横島としても
気が楽になる。あれだけ真っ直ぐに弟子を育成出来るのであれば、その人物については心配
する必要も無い。

「そろそろ実戦の汚さについて、知らねばならない時期と思い他所に修行に出したつもりが
どうにもお上品な環境らしく、その事については期待できないか、と思い始めていたんですよ。」

「え?いや、でもそんな事なら父親であり、師でもある方から指導した方が良いんじゃ?」

横島にとっては当然の疑問で、基礎からあそこまで弟子を育成しておきながら肝心な部分を
他人に任せようとする理由が解らない。

「いや私も常々言ってはいるんですが、一向に耳を貸しませんでな。困っておったんですよ。」

ますます解らない。父でもある師の言葉を蔑ろにすようなタイプのようには見えないが、強硬に
師から命じられれば従うのではないだろうか?思い切って頭ごなしに命令という形を
取ってみてはどうかと提案したところ、

「そんな事をして娘から嫌われたらどうするんです?」
「はあ?」

いきなり師の顔から父親の顔になっている。聞けば赤坂家には三人の子供がおり、上から
長女素子、長男竜一、次女智子でどうも長女の時に厳しくやりすぎて嫌われてしまったらしい。
今では時折冷たい視線で見られるぐらいで、ろくに口もきいてくれなくなった為、末の娘からだけは
嫌われたくないそうだ。ちなみに長男に関しては嫌われようが恨まれようが、一切お構いなしに
厳しく鍛えているとの事、将来不覚を取るよりは今のうちに強くなれるだけ強くしておこうとしているらしい。

その姿勢を末娘にも適用してくれれば話は早いのだがそうもいかないのは父と師の立場の間で
色々と揺れ動くものがあるのだろう。

「え〜っと、つまり?娘さんから嫌われたくはないけど今のままじゃ心配だ、と。だから誰か他人に
嫌な役割を押し付けちゃえ、って事ですか?ようするに?」
「むう、地方によってはそういう言い方もあるかもしれませんな。」

相手が図星を指されて追い返してくれれば面倒事もなくなるかな、くらいのつもりでワザと身も蓋も無い
言い方をしてみたのだが、大して悪びれた風もなくアッサリと肯定されてしまう。
娘からの好意の確保より優先する事など無いとでも言わんばかりだ。

「いや、あの〜、ですね・・・おとうさん・・・」
「”お義父さん”?”お義父さん”とはどういう事かね?君からそんな呼び方をされる
覚えなど無いぞ!?ま・・まさか?既に娘とそういう仲に?そうなのか?そうなんだな?」

生徒の父親に対する呼びかけのつもりだったのだが、どうやら娘を持つ父親の地雷を踏んだらしかった。
事実無根の言い掛かりなのだが、鎖骨が砕けそうな力で肩を掴まれたまま前後に揺さぶられているので
反論もままならない。いい加減目が回りかけたときに助け舟がはいった。

「あなた、みっともない真似はやめて下さい。」
「親父〜、落ち着いてくれよ。」
「お父さん、恥ずかしいでしょう?」

智子そっくりの壮年の女性、父親そっくりの厳つい感じの若者、最後に智子が、茶と茶菓子を盆に載せて
部屋の中に入ってきた。それを見てようやく落ち着きを取り戻した赤坂家当主が周りを促して卓に着いた。

「あ〜、失礼した。ご紹介が遅れました、私が赤坂流師範で当主でもある赤坂竜太郎です。
こちらが妻の薫、長男の竜一と隣が今更ですが次女の智子です。」
「こちらこそ失礼しました、GSの横島忠夫です。」

相手が突然冷静になり、挨拶を始めたので慌てて横島もそれなりに対応したが、見事なくらいに
見た目が2系統に分かれた家族だった。息子は父親似、娘は母親似である。
こうなるとここにいない長女のルックスが気になるがどう聞いても不自然になりそうで出来そうにない。

「本当にねえ、失礼致しました。この人は末の娘の事になると途端に冷静さを失うんですよ。」
「まったく親バカも程々にしないと、そのうち智子から愛想つかされるぜ?」
「別に愛想は尽かしませんが、多少恥ずかしくはあります。」

口々に家族から批判されて当主殿は窮屈そうに座っている。だが自分に置き換えてみたらどうだろうか?
ある日タマモが連れて来た男が横島の事を”お義兄さん”と呼んだら、相手の襟首を掴んで締め上げる
事くらいはやるだろう。ある時タマモがデート帰りに”今日彼とキスしちゃった♪”などと言おうものなら
相手の男を探し出してその唇を抓りあげる事ぐらいはするだろう。
そう思うと何だか相手に感情移入してしまう。

「いや、気にしないで下さい。お気持ちは良く解りますよ、俺も似たような事しそうですし。」

それを聞いた竜太郎は敵中に味方を見出したような顔になる。だが薫と竜一は意外そうな
不思議そうな顔になった。智子は横島に関してはあくまで我関せず、といった様子だ。

「へえ?まだ高校生ぐらいにしか見えないが、娘でもいそうな台詞だな?」
「まあ、扶養家族はいますからね。」

竜一が半ばからかうような口調で話し掛けてくる。竜一の年の頃は見た感じで20代前半くらいだろうか。
自分より若く見える横島が父親のような事を言うのが面白かったのだろう。
だがタマモを扶養しているのは本当だ。以前は両親の扶養になっていたのだが、現在は横島の方が
年収が多い為、税控除額が大きくなるよう母親の勧めで切り替えていた。

「まあ、まだお若いのに立派に一家の大黒柱なんですね。ウチの息子にも少しは見習って欲しいものです。」

言葉の上では息子の未熟を嘆いているようにも聞こえるが、本気でそう思っているようには聞こえない。
自慢の息子ではあるが一応謙遜しているのだろう。
だが言われた方は当然面白くない、不服そうな表情で母親と横島を等分に眺めている。
面倒な事になりそうだったので何とか話を逸らす事にした。

「と・ところで師範、あの床の間に飾ってある刀は随分と立派そうですね?」

横島に刀の良し悪しなど解らない、ただ話題を探して視線を転じた先に大小二本が置いてあるのが
目に入っただけだ。だがこれがツボだったようでいきなり話に喰らいついてきた。

「解りますか!?いや、お目が高い、嬉しいですな。この大刀は和泉守兼定、脇差が堀川
国広なんですよ。この組み合わせが誰のものかは当然ご存知ですな?」

当然横島には解らないが、正直に言えそうな雰囲気ではない。仕方なく、

「もちろんですよ!あれだけ有名な人ですから、名前ぐらいは知ってますよ。」
「あれは有名というより悪名高いと言うのです。」

一切話に関わろうとしなかった智子が思わず、といった感じで割り込んで来た。母と兄がまたか、と
半ばウンザリとした顔になっているとこを見ると、刀自慢とそれにまつわる論戦は何時もの事らしい。
師範は何時もと同じ展開になるのを避けようとしたのか横島に話をふってきた。

「先生は一人に対して三人で掛かる事をどう思いますかな?」

質問の意味が解らないが、応じないと先程のハッタリがバレるかも知れない。
なんとか話にのって有耶無耶にしてしまいたかった。

「どうもこうも別に不自然じゃないと思いますけど?」
「常に相手に対して三人がかりで戦いを挑むとしてもですかな?」

ようするに一対一の戦いを避けるという事だろうか。だがおかしな事でもない。
一人で勝つ自信が無ければ数で圧倒すれば良いだけだ。

「味方に損害を出さずに戦果をあげるなら別に問題ないですよね?」
「その通り!これこそが戦術の鬼才、土方歳三が編み出した新選組の必殺の戦術です。」

察するに土方歳三が例の大小二刀の組み合わせを使っていたらしい。土方の名前であればいくら横島でも
知っている。確か新選組の副長だったはずだ。これでやっと話を合わせられる、とホッとしていると、

「何が鬼才ですか、あんなのは唯の卑怯者です。」

多対一の戦法を考案したから卑怯者と言いたいらしかった。師範としても言い分はあるのだろうが
同様の口論を何度もしているのだろう、咄嗟に言葉が出てこないようだった。
頭ごなしに言うと嫌われそうで強く言えないのだろう。ちょうど良かった、ここで智子に更に
嫌われておけば面倒な役割を押し付けられる事も無くなるだろう。

「卑怯ってのは何の事?そりゃ死体が呟く寝言かな?」

その発言を聞くや否や、智子が射殺すような目で睨みつけてくる。良い展開だった。
この勢いで嫌われていけば面倒事から逃げられるだろう。今で一杯一杯なのにこれ以上は身が持たない。
現状では手探りの状態で弟子を育成しているのだ、この上厄介事を引き受ける余裕などどこにもない。
だいたい土方が考案したというのなら、指揮官として勝つ為に手段を選ばなかっただけだろう。
その類の知り合いに不自由しない横島としては半ば本音でもあった。何せ味方から敵ごと殺されかけたのだ。

「敵が正々堂々に拘ってくれるなら、これ程楽な相手はないよ。どれだけ強かろうがつけこむ隙は
いくらでもある。まして実力を伴わない相手なら片手間で片付くだろうね。」
「その考えが私の友人を汚染しているんです!」

おそらく不動の事を言ってるのだろうが汚染とは随分な言い草だった。彼女は強さを求める場所を
横島の下に定めただけだ。そこが智子の目には公害の集積場所にでも見えるのだろう。
さすがに何と反論しようか思い浮かばない。情容赦無く言葉の暴力で叩きのめすのなら簡単だ。
事実を並べ立てるだけで良い、だが家族の前でそれは出来ないし第一大人げ無さ過ぎる。
結果として微妙な空気が流れることになる。

「ま・まあ、二人共熱くならないで、落ち着いて、ね。」

竜一が場の空気を変えようと口を挿んでくる。横島としては熱くなった覚えなど全く無いのだが
折角の気遣いをフイにする訳にもいかない。話に乗っかる事にした。
とにかく一刻も早くここでの話を切り上げて退散したかった。

「そう言えば竜一さんでしたっけ?師範の名も”竜”がついてるし、家風なんですか?」

そう言った途端、竜一の目が輝いたように見えた。

「そうなんだよ!我が家には崇拝している竜神がいてね、その方が仏道に帰依していたから我が家にも
仏壇がおいてあるんだよ。少しでもあやかろうとしてね。」
「剣術道場で竜神を?珍しいんじゃないですか?」

剣術道場と竜神の関係が解らない横島としてはそう言うしかない。だがこのフリが長話を呼び込んだ。
そもそも赤坂家とは鎌倉時代まで遡れる家柄だが剣とは無縁の家だったらしい。代々退魔師を輩出していた
家系で、在野で人々の為に尽力していたらしい。それぞれの時代で色々な苦難にあいながらも断絶する
事も無く続いていた。
だが戦国時代、人心の不安を反映してか妖魔達が力を増し、魔界と人界をつないで世界中を混乱に
陥れようとした事があった、

その動きに気付いた人間達は陰陽の流れを汲む退魔師や破邪の力を持つ剣士達が集結して決戦を挑んだ。
決戦場である富士の樹海で双方多大な犠牲を払いながらもなんとか人間側の勝利に終わりそうになった。
だが最後の最後で魔界との門を開けられてしまい一気に魔族がなだれこんできた。
既に限界を超えていた人間側は全滅するかと思われた、その最後の瞬間に、

「一柱の神が降臨したんだよ。そして周囲を睥睨して状況を把握するや否や魔族達に襲いかかったんだ。」
「へ〜。」

竜一の語り口にはいよいよ熱が篭り、まるで見て来たようにまくしたてる。
横島としては間抜けな合いの手を入れるぐらいしかやる事が無い。
周囲の家族が呆れたような顔をしているのは聞き飽きているからだろうか。

「それは剣神とも呼ぶべき闘いぶりで、剣閃が閃くごとに魔族を滅ぼしていったんだ。」
「ほ〜。」

「疾風の如き速さと烈風の如き激しさであっという間に敵を殲滅した後、人間達の治療をしてくれたんだ。」
「ふ〜ん。」

「そして人間達を労った後、感謝の言葉を述べて、名乗ってから還っていったそうなんだ。」
「なるほどね〜。」

いい加減のどが渇いてきたので、出された茶をすすりながらおざなりに応える。
実際に見た訳でもない事をここまで熱心に語れるというのは、よほど思い入れがあるのだろう。

「君ちゃんと聞いてる?」
「も・もちろんですよ!」

話に夢中になってるかと思いきや、聞き手のこともチェックしていたらしい。
唯一の聞き手である以上当然かも知れないが。他の家族は聞いてるようには見えない。

「兄さんは拘りすぎです。だいたいそれだけ強いのに最後まで出て来なかったのは何故です?
まるで力の出し惜しみじゃないですか?」
「それは・・・きっと何か理由があったんだよ!」

内容を把握し尽くしているらしい智子からツッコミが入るが、兄の反論は今ひとつ力強さが無い。
根拠は無いが信じたい、まるでアイドルの親衛隊のようなノリだ。

「戦女神ともいうべき武神が降臨したんだぞ?その神々しい美しさを想像するだけでワクワクするだろう?」
「女神というだけで、古文書には美しいかどうかの記述は無いでしょう?」

「だが何代か前のご先祖の言い伝えに”凛とした美しさ”とあるじゃないか?」
「所詮は口伝でしょう?信用できるかは解らないじゃないですか?」

兄妹の会話を聞いていると、戦国の逸話は古文書が伝えており、その中に出て来る神と実際に会った
先祖の言い伝えが残っているらしい。まあ、顔の解らない相手を美人と思いたがるのは男の性だ。
例えば街中で長く美しいサラサラの髪をした女性の後姿を見たとしよう、殆どの男はきっと美人だろう
と思い込む。だが決して前に回り込んで確認しようとはしない。既に一度は現実を味わっているからだ。

理想と現実の狭間、悲しい程多くの男がこの事実を知り尽くしている。
だがそれでも尚、理想を信じたがる男は現実にいる。しかも結構たくさん。

「何でお前はいつも俺の憧れにケチをつけるんだ?」
「ケチをつけているのでは無く、現実を見て欲しいだけです。」



「放っといてくれ!俺にとっては永遠の憧れなんだ、仏道に帰依した竜神族の武神、
猛く優しく美しい、神速の烈剣士、小竜姫様!」


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(あとがき)
随分と更新が遅れてすんませんでした。その分内容が熟成したという事も無く相変わらず
の状況ですが、どうかご容赦のほどを。しばらくpcの無い環境にいたものですから。




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