ザ・グレート・展開予測ショー

〜 『キツネと羽根と混沌と』 第21話 〜


投稿者名:かぜあめ
投稿日時:(05/ 1/12)





――――――これ以上、横島に近づけば・・・君、死ぬよ?




穿つように響くその言葉に、タマモの足は動かなくなった。

しん、と静まり返った外壁の正面。
振り返った先に見えるのは、無邪気に微笑む少女の笑顔。

灰色を基調とした彼女の姿は美しく・・・しかし、年相応のあどけなさというものを、全くと言っていいほど感じさせない。
どこか退廃的で、澱み(よどみ)を持った美。可憐と呼ぶにはあまりにも・・・

「・・・・。」

・・あまりにも、目の前の少女は壊れている。

(・・死ぬ?)

一瞬、ワケが分からなかった。
咀嚼するように、頭の中で反芻(はんすう)して、そこでようやくその意味を悟る。
理解できた言葉の意味は・・・・。

小さく息を飲んだ後、タマモは少女を睨みつけた。

「ユミール、って言ったわね・・。あなた、どうして横島のことを知ってるの?」

警戒心を露にするタマモとは対照的。ユミールは瞳を輝かせた。
名前を呼ばれたことに気を良くしたのか・・・パタパタと、再び間の距離を詰め・・。

「♪〜」
「・・なっ・・ま、また・・?」

母親に甘える幼児よろしく、嬉しそうに体をすり寄せてくる。・・タマモの体が硬直した。
・・・だから、私にそういう趣味は・・・
ぞわぞわと立ちっぱなしの鳥肌を押さえ、しかし、彼女はなんとか言葉を飲み込んで・・・。

・・落ち着こう。ここで逃げ出しては、結局何も聞き出すことはできない。ここは我慢ドコロだ、我慢我ま・・・・

「ぺろっ。」  「っ!?」

難しい顔で決意を固めかけた・・その矢先。
突然、首筋に湿り気を帯びた感触が走る。思わず背筋を仰け反らせると、すぐそばには熱のこもった切なげな呼吸。

「・・感度、良いんだね。これなら横島くんもきっと喜ぶと思うよ〜・・アハハッ。まぁ、そうならないように今日、私が出向いたんだけど。」

「・・・・。」

・・やっぱり逃げてもいいだろうか?
うっとりとしたユミールの表情に、今更ながら貞操の危機を感じてしまう。
試しに、強引に体を引き剥がそうとしてみたが・・ビクともしない。まるで万力のような力だ。



「・・・『道具』の便、不便って・・使い勝手の良さなんかも、評価の対象に含まれるでしょ・・?」

「?」

ぼそり、と耳元に囁かれる声。やはり熱のこもった・・だが、その芯には底冷えのする冷たさが横たわった声。
怪訝そうに眉をひそめるタマモへ、ユミールは薄く口元を歪める。

「便利なんだよねぇ・・特定の何かに好意を持ったヒトたちって・・。見てて面白いし、変なお膳立てなんかしなくても勝手に死んでくれるんだもん。」

「何の、話・・?」

相も変わらず、少女の台詞は的を得ない。
それでもその内容と声音からは、不快な端末がチラついていた。
道具・・。今、この翼人はそう言いきった。憎い、でも嫌い、でもなく・・ただ道具と。

「・・・。」
「さっきの続き。?えっと・・分かりにくい?要は、ルシオラさんみたいな役回りがもう1人欲しいってことなんだけど・・・」


・・?

聞き覚えのない名前。
ルシオラ・・響きから考えると、女性だろうか?

「そっか・・。あの人のことも知らないんだ・・何だかんだ言って、ちっともわかってないんだね、横島君のこと。」

「!?」

困惑するこちらの顔を覗き込み、つまらなそうに声を漏らす。
他意は、なかったのかもしれない・・。だが、今の言葉は・・・・。
心の臓を鷲掴みにされた感覚が突き抜ける。息をつまらせ、タマモは大きく目を見開いた。

「私としては、お相手役はあの人を推すんだけどなぁ・・綺麗だけど、邪魔だし。なんか悲恋ってキーワードが似合いそうだし。」

思案顔で腕を組みつつ、ユミールが独り言をつぶやいて・・。
少女の声は、ただただタマモの耳元を素通りしていく。うつむく彼女の口元は悔しげにきつく結ばれていた。

「さっきから随分な言い様ね・・。私も横島も・・それに多分、そのルシオラって人も、アナタなんかの道具じゃないわ。」

「・・・まぁ、道具じゃないよね。踊らされてることにも気づかないオモチャは、ただの木偶(でく)だよ。」

「・・。」

それは、横島や自分のことを指しているのか・・それとも『ルシオラ』という女性を指しているのか・・。あるいは、その両方か・・。
真偽のほどは定かではないが、この少女の感性はどうかしている。
言葉には出来ないが・・・失くしているのだ。自我を形成する上で、もっとも大切な何かが。

「ふふっ・・どうして君たちってこんなに脆いのかな?こうやって少し撫でるだけですぐ壊れちゃう。」

「・・!?や、やめ・・・ぁぅ!!」

ギリギリと、骨が軋(きし)む。
虚ろな瞳で破顔して、ユミールがタマモの肩にゆっくりと力を込めていく。白い細腕には似つかわしくない、常軌を逸した怪力。
苦痛を浮かべるタマモの体を嬲るように、力を加えては、何度も彼女の顔を覗き込む。

「あぁ・・いい音・・。それに素敵な顔・・ゾクゾクするよ。」

「・・っぅ・・あなた・・・一体・・」

圧力と痛みで、視界が霞む。
このままでは・・まずい・・。せめて何か・・些細なことでも、彼女の注意をそらすキッカケさえあれば・・。
弛緩していく全身の力を奮い立たせ、タマモは視線を走らせて・・。
・・だが、周囲に利用できそうなものは何一つない。


『!?』

・・・と。

異変が起こったのは、その数瞬後。

閃光。
わずかにはだけたタマモのブラウスから・・正確には、そこに忍ばせていた紐袋から・・。
強烈な光が発散され・・。

「・・え?えぇ??っきゃあっ!?」

刹那、『文珠』から噴き出す水流が、ユミールの体を押し流した。
拘束を逃れ飛び退るタマモと、直撃を受け、弾き飛ぶユミール。胸元を押さえ、苦しげに息を吐くタマモは・・昨夜の横島の言葉を思い出していた。

「・・昨日、横島がくれた・・・お守り・・」

文珠1つだというのに、通常では考えられないほどの高出力だ。相当量の霊気が込められていることが、見て取れた。
自分では到底扱いきれない・・。おそらくは横島が遠隔から、直接、文珠の制御を行ったのだろう。

(・・・近くまで、来てるの・・?横島・・)
地に付いていたヒザをどうにか立ち上げ、タマモは前方へと目を向ける。
視線の先では、ちょうどユミールが起き上がろうとするところだった。

「・・あぁ・・驚いたなぁ、もう・・。横島くんは本当に何してくるか分からないなぁ・・」

ぽりぽりと頬をかきながらも、その口元は緩んだまま。
不自然な体の態勢から、ユミールは予備動作抜きで大地を蹴った。翼を開き、低空からタマモの間合いへと侵入し・・

「さっさと逃げなかったのは判断ミスだね。ほ〜ら、また捕まえ・・」

彼女はタマモの腕を掴み、捻り上げようとしたのだが・・、

「・・?あれ・・?」

思わず、間抜けな声を上げてしまう。
消えたのだ。タマモの上半身が突然・・・霞のように蒸発した。


「・・・白昼夢でも見てるの?私はこっち。」
「!」

頭上から声がかかる。
冷ややかな視線と、挑発的な口調。コンクリートの塀の上から、タマモがこちらを見下ろしていた。

「・・へぇ。やっぱり逃げないんだ・・?今日は横島君、助けに来れないと思うよ?」

「それなら、私が横島を助けにいくわ。これでも一応、アイツのパートナーだから。」

静かな声で応対しながら、タマモは思考を巡らせる。
・・大言を吐くだけあって、眼前の翼人の力量は大したものだ。霊力なら、自分のはるか数十倍。腕力でも全く勝負にならない。

(だけど・・)

と、タマモは思う。
この少女の確実に増長している。
おそらくは今現在に至るまで、立ちはだかる敵をことごとく、しかも容易に葬り続けてきたのだろう。
何の障害も感じず、強力な神魔を次々と・・。
しかしだからこそ、その心理にはつけ込む余地が存在する。

(大丈夫・・勝機はある・・それに・・)


――――『ちっとも分かってないんだね・・横島くんのこと。』


・・負けられない。
あそこまで言われて、逃げるわけには絶対いかない。

「・・やる気がないならどいてくれる?さっきも言ったけど、私、急いでるの。」

「・・字が違う『やる気』ならまんまんなんだけどねぇ・・。いいよ。その減らず口が何処までもつか、試してあげる。」


――――――――・・。


〜appendix.22 『色褪せた世界の中で』


同時刻、場所は変わって・・。

(あのバカ・・。やっぱり無茶してやがるな・・。)

不意のつぶやき。うず高く積もる、防壁の残骸を飛び越えて・・横島は小さく舌打ちする。
護身ように、とタマモに密かに渡しておいた文珠が・・今さっき発動した。
持ち主に危険が及んだ場合、自動的に敵を捕捉、攻撃。
その代わり、有事の際以外は何の役にも立たず、発動のタイミングが横島自身にも制御できない・・。
色々と実験しているうちに誕生してしまった、使いどころが何とも微妙な文珠の1つだ。

渡したこと自体は正解だったが・・しかし、こうしている間にも・・。

「・・くそっ・・どこに居るんだよ、タマモのやつは・・。先輩も、一緒なのか?」

焦燥は募る。歯噛みしながら、横島はさらに歩みを速め・・。
春先の、未だに冷たい微弱な風。気付けば何時の間にか、いつかの凍えるような闇の寒さを思い出していた。

あの、寒い雪の日。
聖痕の一件で、行方の途絶えたタマモを追って・・・街中を駆けずり回った暗い夜。
アテもなく繁華街を彷徨い、必死に走り続けていた自分は・・あの時、一人の少年に出会った。

蒼い髪とエメラルドの瞳。常軌を逸するほどに整った顔立ちと、虚ろな笑顔。
自分は・・戦慄した。
それまでも、そしておそらくはこれからも・・目の前に立つ何かをああまで恐ろしく感じることなどあるのだろうか?
あの少年の背後には、『無』が広がっていた。

果てしない、『無』。

・・・あらゆる色彩を略奪し、どのような輝きをも絶やし尽くす。それは、有り過ぎるが故に無を生み出すのだ。
一片の濁りすら消えた、混沌の光を。


―――――――「本当に・・君はいつも走っているんだね・・。」


初めての邂逅と同じ声。同じ台詞。
瞬間、世界が色を変える。ノイズを伴い、セピア色のモノトーンに包まれる通路の風景。
先程までと同じ場所・・。しかし、切り離された水彩画のように、周囲の影からは距離感というものが欠如していく。

―――――――「初めて会った時も、そんな風に走っていた・・。」

高く中性的な・・それでいて、ひどく澄んだ声音。
呆然と立ち尽くす横島へ、蒼い影はゆっくりと一つ笑みをつくり・・・。
「久しぶりだね、横島君」
音も、風の流れも途絶え、代わりにその場に現れた者は・・――――――――。

・・。

どうやっても好意的には解釈できないこの状況・・そして、以前最後に交わしたあの会話・・。
導き出される答えは1つしかない。この場においてこの『少年』は・・間違いなく自分と敵対する側に回っている。

「・・・・最悪。」

全身を伝う悪寒を抑え、横島はうめくようにつぶやいたのだ。


『あとがき』

あぁ・・ドゥルジさまのシーンも入れたかったのに、時間とお金が微妙に足りません(爆
お久しぶりです〜。新年早々、ご無沙汰で申し訳ありません〜
いやはや、世間の皆様がなにかと忙しいこの時期に、部活の合宿の準備に走り回ってるオレってどうなんでしょう?(汗
今日の午後5時に校門前集合で、出発らしいです。行って参ります(笑

この話についてアドバイザーたちの感想(ほぼ全員一致)「やばい、タマモが殺される」(笑
何気に弱キャラ扱いされてますね・・。
いやいや、そんなに弱くないですよ、タマモは。
初期のころよりは確実に成長してますし、おキヌちゃんやシロよりは強くなってます(多分
それに一応、幻術の技巧に関しては、原作、オリジナルキャラ内最強という設定ですし・・。
『不死王編』プロットから抜粋すれば・・

「幻術は、精密で繊細な芸術品なの。いくら霊力が強くても横島みたいにガサツじゃ扱えないわ。」
なのだそうです(笑
・・それよりも、作者の眼から見ると、やばいのは横島じゃないかなぁと・・。
現段階では勝てる勝てないとか、そういう次元の相手じゃな・・・ごふっごふっ。
もし闘ったらキツネシリーズが終わってしま・・げふっげふっ。

なにはともあれ、ここまで読んでくださってありがとうございました。次回は合宿明けなので14、15前後になるかと思います。
それでは〜

コメント+返信がなかなか出来ず申し訳ありません〜
時間ができた時に必ず、書きますのでご容赦を・・。

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