ザ・グレート・展開予測ショー

GS新時代 【鉄】 其の四 4


投稿者名:ヤタ烏
投稿日時:(05/ 1/11)



薄暗いコンクリートの部屋で一人の男が立っている。男の足元には二人の美女が横たわっており彼女らの周りには
紫色の霊的磁場が発生していた。
「という訳だ。お嬢さん達・・・」
男は淡々とした口調で話すが、それはどこか嘲る様な口調でもあった。
「・・・あの馬鹿」
タマモは自分達の正面にいる男を見据え、何を考えているか判らない、汰壱に毒づいた。

「そうかね?彼はなかなか利口だと思うがね・・・勝てない相手には素直に従うというの一つの手さ」
微笑みすら浮かべ男は答えた

動けない
動くことができない

自分の力の根源である。霊力を根こそぎ抑えられて拘束されている。
これでは自分達は何の力も出せない。

迂闊だった。
タマモは悔やんだ。

シロと自分は天上留美の自宅・・・つまりは最初の事件が起こった、符術式神による襲撃の現場に来ていた。
残った霊波の残り香から犯人像の割り出しにかかったのだ。自分が犯人を割り出し、シロが追跡を掛ける。
これによってほとんどのケースでは片がついていた。妖狐と人狼の超感覚と追跡術の前ではどんな人間であっても逃げ切る事は
できなかった。

今回は数の多さもあったが、自分達が現場に着いたときはすでに、霊気の残り香が消え始めていた。
急いで符術式神が残したと思しき、残り香を嗅ぎ分ける。
確かに消えかけていており、追跡を意識した数種のジャミングが掛けられていたものの、今の自分にとって場所まで特定するのは
さほど難しいことでもなかった。

場所を割り出し、いつもの通りにシロと共に追跡をかける。

追跡する途中でほんの僅かであるが何か違和感を感じた。

それは違和感というには弱すぎるもので、感じたとしてもそれが何かまで断定することはできなかった。
シロも感じていたようだが、シロ自身も判る代物ではない。
このまま考えて、相手の後手に回るのは得策ではないと考えた・・・護衛という性質上こちらは必ず後手に回らざる得ない
残った霊波の性質・強さから推測して相手はかなりの実力者である。
汰壱が相手でははっきりいって勝負にならないだろう。向うに手を回す前にこちらで方をつけた方がいい。
もし罠の類であっても、今の自分たちならば多少強引にでも突破できるとふんだ。
それだけのは場数は踏んでいるのだ。

・・・・・・・・・・・・・・決してこれは、油断や慢心ではない。・・・・・・・・・・・・・・



だが・・・・甘かった・・・・・



油断をしていたわけではない。



相手のアジトに踏み込む際にも十分な警戒をして入った。




ただ・・・ただ相手の力量が自分たちの予想大きく上回っていた。



いや訂正しなくてはならない。自分たちの超感覚は相手の残した霊波から、かなり正確に相手の情報を得ることが可能である。
たしかに自分たちが感じた相手の情報には間違いは無かった。

確かに、相手は符術式神であった・・・・それに間違いは無い。
問題だったのは、男自身がもう一つ能力を有していたことである。





それは・・・・・



「動けないかい?美しいお嬢さん達・・・・私の結界術のお味はどうかね?」
目の前の男は、自分の前に膝を着き大仰な仕草で歌劇の台詞を読むかのように尋ねた。
「・・・悪くないわね・・・できればこんな野暮な物は外して頂きたいだけど?」
嫌味と皮肉をたっぷりと込めて答える。
それを見て男はさも嬉しそうに、それこそが最高の賛辞あると言わんばかりの表情になった。
「ああそれはできない・出来ないのだよ・・・本当に美しいお嬢さん・・なんと悲しい事だろうか
私には成せねばならない・・・大切な大切な仕事があるのだよ。だからそれまでは大人しくしていてくれないかな?」

まるで幼子に言い聞かせる母の様な、それでいて恋人に甘く枕で囁く物語の様に男は了解を求めた。

「貴様も男子であろう!人質等と姑息な手を使わずに正々堂々勝負するでござる!!」
唸るようにシロが威嚇するが、如何せん完全に結界内で力を奪われ、その声にも力が無い。

「それもできないな、美しい狼のお嬢さん、もし結界をといてしまえば私はたちまちその牙にかかって、
命を散らしてしまう。それにしばらくすれば君たちも自由の身だ・・・・だから」


パチン!

指を鳴らす


その途端に、シロとタマモを拘束している結界の出力が上がる。

「!!うっうううう」

「ああ、すまない・・・だが少しきつくしていないとね、先ほどもそこの狐のお嬢さんはちゃっかり結界破りをやろうとしていた
のでね。すないが私の最大出力で縛らせてもらうよ・・・封!」


その道一流の結界・・・それも、身を守る防壁のタイプではなく相手の拘束に特化した最強クラスの結界である。

最初の襲撃に使われたのが、符術式神・・・それもかなり高度な術式を用いていたので、先入観からシロとタマモは
相手が結界を使うことまで思考を回す事ができなかった。
今になって考えればあの時感じた違和感は自分たちの感覚を狂わせる、ごく僅かの本当にごく僅かの微量な神経毒物の類だった
相手を追跡する際には自分達は必ず匂いを嗅ぐ・・・・それは同時に相手の霊波の残骸を体内に取り込むということでもある。
そして、そこに毒があればもちろんそれも体内に取り込むことなる。
無論それらが霊気を含んだものであれば、すぐにでも気付く事ができた。だがこの神経毒は霊気を含まぬ完全な無機物・・・
そしてあまりの小量さに気付く事ができなかった。
普通の毒物であれば造作も無くわかることだが自分達は相手の霊波の探知に集中しすぎていた。
さらに・・激しいジャミングで感覚を狂わせられたのであれば、罠と察知することもできたが、
気のせいかどうか判らない程度なのでこれもまた気付けなかった・・・・・

そして踏み込み相手を発見した途端に、凄まじい速さで展開された結界で捕縛され今にいたる・・・・・・というわけだ。
普段の自分達ならばあるいは、気付けたかもしれないが、すべてが周到に準備されていたのだ。

追い込んでいたのは自分達ではなかったのだ・・・・
追い込んだつもりが、自分達は相手の掌で踊らされていた。

迂闊だった・・・・・・・


「・・あんた・・覚えときなさいよ・・た・・だすむ・・と」


最後に悪態をついてタマモの意識は遠のいた。



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GS体験ツアー・・・・・・・十年ほど前まではこのデジャブーランドの看板アトラクションであったが
施設や中のロボットの老朽化で、数ヶ月前に解体が決まった建物である。本格的な解体はまだ始まっておらず
すべての施設がそのままに、立ち入りのみが禁じられていた。

中に入るとそこは自分の家とよく似た事務所風の景色だった。
「なーんか、どっかで見たことがある間取りだな」
半分苦笑いの表情で留美の手を引き、事務所の応接室のドアを潜りながら
汰壱は横島が話した、ある除霊事件を思い出していた。

今から十七年程前・・・
彼がまだ見習い丁稚のパシリに使われていたときの話である。
「今もやんけ・・・」
とその時、呟いたら栄光の手でアイアンクローをかまされた・・・・・・・・・・・・・・・・・・・痛かった。とっても

細かい話は覚えてないが(痛くて)このアトラクションで霊障が起こりそれの除霊に来たのだが、えらく手こずって
大騒動になったそうだ。まあそれだけ聞けばいつも道理の馬鹿話かと聞いて皆で笑って聞いていたが、
そのなかの話で面白いことを言っていた。
「文珠が作れなくて大変だった」






「せいっ!」

し〜ん

「やっぱな」


丹田で氣を練りこみ全身に廻し霊気に変換しようとするが・・・・・・・全くでない・出来ない・でてこない
それどころか真呼吸での身体能力強化も出来ていない様だ。


要するにこのアトラクション内では霊気の類が一切が吸い取られる結界を敷いあるようだった。
十七年前とはいえ当時最高峰クラスの霊力を有していた、横島忠夫が霊力の一切を使用不能にされた空間である。
その能力は折り紙つきであり、三流以下の霊力しかない汰壱が使える道理はなかった。
しかし今も結界が使用可能なのは正直有難かった。


「さてと、後は上手くいくかどうか・・・・・」

荒涼とした墓地の真ん中で汰壱は呟いた。




十分後








ぞくっ


絡みつくような悪寒に汰壱は身構えた・・・・自分たちの入ってきた扉から、気配がする。
この空間では霊気を抑えられるが探知する力までは抑えられない、寧ろ敏感になり低級霊ですら、凶悪な悪霊に感じてしまうのだ。
しかし自分が感じているのは霊気ではない・・・・・・

もっと根本的な生物が持つ原始的な危険感知・・・・それが働いた全身に鳥肌が立つ


自然と動悸が早くなる。

手が汗ばんでくる。

背筋が寒くなる。


近づいてくる近づいてくる近づいてくる近づいてくる近づいてくる近づいてくる近づいてくる近づいてくる近づいてくる


来る来る来る来る来る来る来る来る来る来る来る来る来る来る来る来る来る来る来る来る来る来る来る来る来る来る来る


トカレフを取り出しスライドを引きマガジン二本をポケットに突っ込んだ。
安全装置を外しいつでも撃てる様にする。


来る来る来る来る来る来る来る来る来る来る来る来る来る来る来る来る来る来る来る来る来る来る来る来る来る来る来る



ゆっくりと男が姿を現した。
男の姿は拍子抜けするほど普通の姿だった白のスーツ姿に白の帽子・靴も白、服装すべてが白に統一されていたが

黒一色に統一されたヤクザルックの汰壱とちょうど対極になっている(容姿のほうも)

涼やかな目元であり、町でナンパせんでも逆ナンされそうなタイプだ(汰壱は近づくと人が逃げます)

しかしその目の光は恐ろしいほどに暗い禍々しい光を発しておりその目は・・・・・・・蛇によく似ていた。


「やあ、こんにちはお嬢さん私の名前は白蛇・・・よろしく」
にっこりと男は微笑んだ。
留美の顔は蒼白だった、感受性の強い子供にはこの目の前の男が余りにも不気味であると感じたからだ。

「おい!二人はどこだ?サッサッと交換したいんだがよ」
恐怖心を奥に封じ込め、あくまで冷静さを保つ

「無粋だな、君は女性に対しての自己紹介を邪魔するなんて本当に、無粋だ」
「けっ、自己紹介なんざ後でいくらでも勝手にやれ、さっさと二人を渡せ」

白蛇は大仰に肩をすくめた
「やれやれ本当に無粋だね・・・・・・全く」

すっと懐から紫色に輝くソフトボール程度の大きさの玉取り出す。


「お二人さんはこの中に封印させてもらっている。まっ・・・暫くすれば解けるだろう
やはり人狼と妖狐の力はすばらしい・・・私の最大儀法を持ってしても長くは縛れない」

「御託はいい・・・ほらよ」
ぞんざいに、留美を自分の前に引っ張り出す。
留美は特に泣き喚くでもなくジッとしていてた。





もうあきらめていた。


どうしようもない。


どうすることも出来ない。


もうどうすることも・・・・・




汰壱と白蛇は互いに距離をとり向かい合った。

お互いが同時に人質を解放する。

留美が歩くゆっくり、ゆっくりと白蛇と近づく
不気味で恐ろしく綺麗な眼がこちら見据える。


シロとタマモの封印された球がゆっくりこちらに転がる。      
(中に入ってる二人が少し気の毒だ)

留美は真っ白になった頭で思考とも呼べない、思考をしていた。


私はどうなるんだろう

死んじゃうのかな・・・

殺されちゃうのかな・・・

パパにも

ママにも


逢えなくなっちゃうのかな・・・・・


でもいいか


どうせ


色んな記憶に風景が蘇る。

広い家・・・・

たくさんの召使達・・・

広い自分の部屋・・・

たくさんのオモチャ

きれいな服・・・



でも・・・わたしは



いつから一人だった?         わかんない

いつも一人でご飯を食べていた。




広いテーブルで自分だけ一人で食べるご飯はとても味気なく・・・・不味かった。




だれも私のの話を聞いてくれない・・・・    


でも・・・「あと少しだろ」

ちがう・・・「きっと届くさ自分の声は」









                だから諦めんな



                        信じろ必ず・・・・・・護ってやる



「助けて」





声が聞こえた。助けを呼ぶ微かな声が・・・・




「応」





答える。


転がってくる球を足で受け止め、鞘からヤッパを抜き放ちスイッチを押し込む

パシュ!

白刃が暗がりを引き裂き、留美の頭上を越して白蛇にせまった。


「ほう」

突然の予想外の奇襲にわずかな感嘆の声をあげるが難なくその刃を交わす。




今だ!!!
スイッチを押し込む


ギュウウウン!!
柄に仕込まれた高性能モータが唸りを上げて刃を巻き戻し始める。

「嬢ちゃん掴れえええ!!」
汰壱が叫ぶ。

自分の頭上を見上げると
わずかに光る銀の糸

絶望から引き上げる蜘蛛の糸

考えるより何より、体が手がその意味を理解して糸に飛びついた。



掴る途端に後方に自分が歩いてきた方向に、凄まじい勢いで巻き戻される。

軽い衝撃を感じたらそこは腕の中だった。


「よっしゃ!!」
すばやく足元の玉を拾い上げ留美を抱えると、白蛇に背を向け横島直伝の逃走術て脱兎のごとく走り始めた。
「さいならー!!」


成功した・・・・
全速力で走りながら汰壱は胸を撫で下ろした。
正直成功する確率は限りなく低かった。相手の霊能力が封じれられているのがせめてもの救いだったが・・・
ハッキリいって策とも呼べない無謀な策だ。

同時に人質交換を行い両者を同時に開放する。互いの人質が手元に来た瞬間に狙いをつけて
スペツナズナイフ(ヤッパ)を発射。軌道上にいる留美の頭を通り越して白蛇を狙う。
当然白蛇はそれを回避しなくてはならないので、それをかわす・・・・
そこでタイミングよく刃を戻し留美にワイヤーを掴ませ留美ごと引っ張って戻す。

「よく成功したな・・・」
出たとこ勝負で僅差で勝ったというところだ。


本当ならばもっと留美が白蛇に近くに行ってからやるつもりだったが・・・・

あの時の「助けて」という言葉聴いた途端に、いても立ってもいられなくなり行動を起こしてしまった。

たまたま成功したから良い様なものの、正直自分でも失敗したと思っていた。


いや・・・・・違う・・・・あの時、あの言葉を言ってくれたからこそ,この無茶な作戦は成功したのかもしれない。








留美とタマモとシロを持って出口目掛けて、ひた走る汰壱はふとそんなことを思った。


 

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