ザ・グレート・展開予測ショー

美神の決断


投稿者名:こーへい
投稿日時:(05/ 1/10)

私は、横島クンから預かっていた文珠に、「飛」と文字をこめると夕日の見える反対側から東京タワーの展望台に向かって飛び上った。

「本当に…大丈夫だな?」
「ウソだったらただじゃおかねーからな!」

鉄骨の影になるように展望台の上に降り立ちそっと覗き込む。
はたして、そこには横島クンとルシオラがまさに最後の会話を交わそうとしていたところだった。

「大丈夫…!!って何度言わせるのよ!?」
「早く行きなさい!!」

「は、はい!!」

そう叫んで横島クンは、東京タワーから落ちるように飛び立った。
何度も、何度も、ルシオラの方を振り返りながら。
やがて、肉眼では彼の姿を確認できなくなったころ、

「ふだんニブいくせに困るときにはするどいんだから!」
ルシオラの口からよわよわしい台詞がもれ、霊気が弱まっていく。

「ウソついたこと…あんまり怒らないでね…」








「……そういうわけにはいかないの。」
私はそう叫ぶと鉄骨の影から飛びだし、ルシオラの前に立った。

「ミ…カミ?何故ここに?」
驚いたようにつぶやくルシオラ。その言葉は弱々しく、彼女の最後が近いことを示していた。

「いい?時間がないから簡潔に言うわ。」
私はしゃがみ込み、彼女の眼を覗き込むようにしながら話しかけた。
私の半年間の結論を。

「貴方は、もうすぐ死ぬ。死んだ後貴方の霊気は霧散してしまう上、横島クンに霊気を分け与えたため復活することもできない。」

「それは判っているわね?」

ルシオラはゆっくりと頷く。
やっぱりね。コイツはすべてをわかった上で彼を戦場に送り返したわけか。

「で、これは相談、っていうか命令ね。なんだけど、死ぬ前に貴方の全ての霊気を私に頂戴。」

これが私の半年間で得た結論。

私が過去に戻っても、ルシオラは救えない。悔しいが、べスパと戦う横島クンに助勢したとしても
私の実力では足手まといにしかならない。
下手をすると、私も横島クンもルシオラも全てが死んでしまう可能性だってあるのだ。
それに、この世界でルシオラを救っても、それは「私の居る世界」にルシオラを
蘇らせたことにはならない。
私が歴史に介入した時点で、これから起きることは全て私の居る世界とは別の世界の歴史となってしまうからだ。

それでは意味がない。
私がほしいのは私の世界の横島クンの笑顔だ。
私がルシオラの霊気を持ち帰り、そこでルシオラを復活させる。
それこそがベストの選択だ。

「あんたの霊気を一時的に私の中に保管して、横島クンの霊気構造が完全に回復してあんたの霊気が必要がなくなってからあんたを復活させる。」
「な、ぜ?」
苦しそうに、ルシオラが問う。

「あんたは知らないから。」
「え?」
「あんたがいなくなった後の横島クンを。抜け殻になって、それでも私たちに心配をかけまいと精一杯自分を演じ続ける彼を。悔しいけど、情けないけど、私たちじゃ彼の傷を癒してあげることはできない。彼の傷を癒せるのは、(いまのところ)あんたしかいないのよ。」

そう。今のところはね…。

「え?」
「だから私は来た。半年後の未来から。正直、ライバルが増えるのは気に入らないけど、あんた、ルシオラを救い出すために。あんたを失う前の横島クンに戻ってもらうために!」

「だから私に、霊気をよこしなさい!!!!」

最後は叫び声。彼女の体から少しずつ霊気が漏れ出していくのが判る。
時間がない。
最後の最後の手段として、「吸」の文殊で、無理やり彼女の霊気を奪う手段も考えてはいる。
だが、彼女の心が拒否すれば吸収した霊気が拒否反応を起こしてしまう可能性がある。
正直それは避けたかった。

「で、でも…」

ルシオラはまだ困惑気味だった。

「信じられない?だったら!」
私は、文珠に「伝」の文字を込め発動させると、眼を閉じた。
私の中から流れ出る記憶。
世界とルシオラの天秤を迫られ、世界を選択した横島クンの苦悩。
世界が救われた後、自分たちを前に昔の自分を演じ続ける横島クン。
自分たちのいないところで(と横島クンは思っていたらしいが私はヒャクメを通じて全てを知っている。)
一人苦しんでいる横島クン。

彼女がいなくなってからの横島クンに対しての私の記憶の全てがルシオラに流れ込む。
それは一瞬のことだった。

「どう?あなたは横島クンにこんな人生を送らせたかったわけじゃないでしょう?」

ゆっくりと眼を開ける。
ルシオラは涙を流していた。

「わたしはヨコシマが生きていてくれればよかった。でもその後こんなにヨコシマが苦・し・む・な て…」

ルシオラの声が小さくなる。
やばい、本当に時間がない。

「横島クンを本当の意味で助けたいなら、私に霊気を渡しなさい!!約束する!!横島クンのためにもあんたを絶対復活させてあげるから!!」

叫ぶ、叫ぶ、叫ぶ。

最後は涙声だったと思う。何がんなんでもルシオラを連れて帰る。
絶対に。

眼を閉じたまま、ルシオラがゆっくりと頷く。よかった。
私は彼女の右手を握り、左手でポケットの中から文珠をとりだし、
「吸」
の文字をいれ、シオラの霊気を自分の体に取り込むイメージを浮かべながら発動させる。


「ミ・カ・ミ?」
体を黄金色に輝かせ、細かい粒子となって私の中に入ってくるルシオラ。
そのルシオラが私の中に完全に取り込まれる寸前、私の頭の中にルシオラの言葉が響く。

「無事復活できたら、ミカミは私のライバルになりそうね。貴方がこんなにヨコシマを好きだなんて…」

「伝」の文珠は、記憶だけでなく、私の思いまでルシオラに伝えてしまったようだ。
いまさら隠せるとも思っていないが、顔が熱くなるのがわかる。

でも、その言葉はどこか楽しそうだった。

「負けないからね。」

その言葉を最後に、ルシオラの霊気は全て私の中に取り込まれた。

「私だって。」

彼女の復活。それこそが私をスタートラインに運んでくれるのだから。
ライバルは多い。
でも。

「誰にも負けないからね。」

暮れかけている夕日をみながら私はつぶやく。

「さて・と。帰りますか。」

この世界は私の世界じゃない。この世界でできることはやりつくした。
あとは、私の世界でやれることをやるだけだ。

「横島クン、待っててね。」

ポケットから最後の文珠を取り出すと「雷」の文字を込め、発動させる。

……

一瞬の後、雷が東京タワーを貫くと、後にはサンバイザーだけが残されていた。


<あとがき>
はじめまして。こーへいと申します。

GSのSSが好きでずっとROMしてたんですが、【自分の知る限り】単純に美神がルシオラを救いに行く話に出会ったことがなかったのと、
自分でも少し書いてみたくなったもので、美神主導のルシオラ復活を書いて見ました。
自分の中での美神令子って、「お金のことを除いては」単なるウブで恥ずかしがりやな女性に過ぎません。
なので、こういう展開もありかと。

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