ザ・グレート・展開予測ショー

永遠のあなたへ(2)


投稿者名:馬酔木
投稿日時:(00/ 5/17)

確か、横島やタイガーと別れてから、ほとんど直後の事だった。
このままバイトに向かうからと、事務所がある通りに行く二人に手を振って別れ、教会への角を曲がった時だった。
知らない女の人が一人、こちらに背を向けて電信柱の陰に立っていたのだ。
喪服のような黒いワンピースを着ており、どこか暗い雰囲気があったので、梅雨が明けたばかりのカラッと晴れた空の下では少し目立って見えたが、特に気に留める程でもない。
そのまま、その横を通り過ぎていこうとした時、不意に名前を呼ばれて、ピートは後ろを振り返った。
「ピエトロ君・・・?」
「え?」
日本では呼ばれ慣れない本名で呼びかけられ、邪気が無かった事、そして、女性の声だった事もあって、無防備に振り返る。
振り向いた先には先程の黒いワンピースの女性が、複雑な図形の書き込まれた紙を手に立っていて・・・
そこで、下校途中の記憶は途切れた。

(吸印札・・・だったんだろうなあ)
記憶が途切れる直前に見た、女性の持っていた紙に書き込まれている文字や図形を思い出して、ピートはそう考えた。
師匠の唐巣は聖書を主として使い、ピートも道具を使うより自分の魔力を直接行使する戦い方が主だが、一応GSの端くれとして、基本的な除霊道具や御札の知識はある。
GSの道具は世に数あれど、その中のひとつである御札は、一般人でもそれなりに使える道具である。勿論、より強い効果を発揮するには霊力の高い人間が使うのが一番効果的なのだが、ダイナマイトのような物なので、火薬の量が多ければ、火をつけるのが誰であれそれなりに効果がある、と言うようなものだ。
そして、吸印札のようにもともと何らかの力が込められているタイプの物は、極端な話、全く知識の無い人間でも広げれば使える、というような事がままあった。
勿論、霊力・魔力の差によって効果は変わるので、すぐにそうと認識して対抗していれば、みすみす吸印されて連れ去られる・・・などという事はなかっただろうが。
(素人相手でも油断するなって言う戒めかな・・・)
心の中でそう呟くと、ピートは足首に絡まっている精霊石の鎖を撫でた。
やはり、こちらの魔力を封印しているのだろう。靴下ごしには何も感じないが、指で直に触れると、チリチリとした静電気のような刺激が皮膚に伝わった。
鎖はアンクレット(足輪)のように、左右の足首にそれぞれ二重ずつ巻かれていて、魔力行使の妨げとなっており、これのせいで体を霧にする事も出来なかった。
(オカルトの知識が無くても道具の使い様によっては・・・か。未熟だな)
やはり、邪気が無くても知らない相手に対し、多少は警戒すべきだったと自分の未熟さを自嘲し、苦笑する。
体を霧に出来さえすれば、あの女性が部屋に入って来る時にでも、ドアの隙間から逃げ出せるのだが・・・
「・・・」
自分をここに連れて来たあの黒髪の女性−−加奈江と名乗っていた−−の顔を思い浮かべながら、室内を見回す。
加奈江は自分の名前を告げて、ピートに、「ずっとここにいてほしい」とだけ言うと、後はこちらの話も聞かずに「また来る」と一方的に告げて立ち去っていた。
なので、今、この部屋にいるのはピート一人だ。
フランス文化やイギリス文化などが少しごちゃ混ぜになっている感じはあるが、中世から近世にかけてのヨーロッパ風インテリアでまとめ上げられた室内。
西洋文化の中で育ったピートにはある意味馴染みがあるが、やはり、知らない場所であるせいか、落ち着かない。
ベッドから降りてクロゼットを開けて見ると、その中にある服も「そういう系統」の服ばかりである。全て男性用なので、恐らく加奈江がピートをここに住まわせる事を想定して集めたのだろうが・・・
何となく、異様なまでの収集癖を持っていそうな加奈江の雰囲気を思い出して、ピートは背筋が寒くなり、すぐにクロゼットを閉めた。
とりあえず加奈江の方に、自分に危害を加えるつもりは無いらしいが、ピートにしてみれば、誘拐された時点で既にいい迷惑だ。
「永遠だとか言って・・・一体、何のつもりでこんな事を・・・」
加奈江は、自分の名前を知っていた。通学路にいたという事は、名前以外の事についてもあれこれ調べていたのだろう。
(ストーカー・・・)
最近、マスコミが騒ぎ立て、クラスの女子もそういう事を色々噂していたが、まさか自分がそういう目に遭っていたとは。
ピートは加奈江の自分に対する感情を考えて身震いし、気を逸らそうとステンドグラスの丸い天窓を仰ぎ見た。
青系の色で統一されたステンドグラス越しに、満月のような小さな丸い光が見える。

同時刻、都内の某所。
心当たりを探し尽くして教会に戻った唐巣は、電話の受話器を取ると、西条の元へと電話をかけた。

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