ザ・グレート・展開予測ショー

よるのまほうつかい。


投稿者名:cymbal
投稿日時:(05/ 1/ 8)






”おんなのこはほうきにまたがると、そらへととびあがりました。「よるのあいだだけだよ。あさになるとまほうはとけちゃうんだ」ほうきはいいました。”





黒いコートを羽織(はお)り、明るい髪をした少女が公園の片隅にいた。彼女は必死に何かを呟いている。その右手には箒(ほうき)が、そして左手には古ぼけた絵本が握られていた。

「今日こそ・・・、まずこれにまたがって・・・・・・(すうっ)・・・・・・飛べ!!!」

しーんとした静寂が彼女にとっては悲しさを表す。もちろん少女には何も変化は起きない。地面に足は接地されたまま。彼女の顔は瞬時に真っ赤に染まった。

「・・・・・・もうっ!何で飛ばないの!?絵本はこれで飛んでるのにー!!」

怒りを抑えられず箒を下に叩きつける。長さは彼女の背丈程もある古ぼけた長い長い箒だった。それはすぱんっと地面を跳ね返って点々と転がる。そして今、公園に入って来ようとした少年達の足元に転がった。彼等は箒を拾うと、それが転がってきた方向を見る。

「・・・なんだコレ、・・・あっ馬鹿女か。また何かやってたのかお前!」
「箒なんか持って、空を飛ぶとか?馬っ鹿じゃないの?魔法なんて存在しないのにね。」
「なんかいつ見ても黒い格好してるよな。」

少年達はからかう対象が見つかって口々に言葉を少女に浴びせる。彼女は泣きそうになりながらもぐっとそれに堪えた。そして彼等を睨みつけて声を荒げる。

「違うもん!魔法は存在するんだから!絶対に絶対に!」
「へえー、じゃあ使ってみせろよ!今ここで!」
「ナンセンスだね。まるで科学的じゃないよ。」
「そ、それは・・・。」
「ほらみろ、やっぱ出来ねえんじゃん!この嘘つき女!」
「あ、怒るんじゃねえ?顔真っ赤だし。」
「・・・っ!!」

少女はからかいの言葉に反論する事は今は出来なかった。ただただ込み上げる悔しさだけを胸に彼等に飛びかかっていった。





”ひるまはふつうのおんなのこでした。でも・・・ひみつをひとつ、かくしもっていたのです。”





「ただいま。」
「お帰りなさい・・・って、あらどうしたのその格好。服がボロボロじゃない。」

少女は無感情気味に自宅へと戻った。母親は娘の姿を見て心配そうに見つめる。

「・・・なんでも無いの、ちょっと転んだだけ。」
「そう?・・・は見えないけど。また隣の男の子と喧嘩でもしたのかしら?」
「・・・!」

簡単に見抜かれてしまった事が悔しかったのか、彼女はぷいっと母親に対してそっぽを向いた。その表情が嘘の付けない顔である事を示している。くすくすと笑いながら母親は泥で汚れた少女の顔をタオルで拭いてあげようとする。すると少女はこんな事を呟いた。

「・・・ねえママ?魔法ってあるんだよね?この絵本に書いてある事は嘘じゃないんだよね?」

”よるのまほうつかい”少女が後ろ手に差し出した絵本にはそう書かれている。母親が少女に読んであげた絵本の一つであった。母親はそれを見て、少し考えながら少女の質問に答える。

「・・・そうね。嘘じゃないわよ。でも誰にでも使えるものじゃないの。」
「・・・・・・そうなんだ。じゃあ私も駄目なのかな・・・。」

少女はがっくりと肩を落とす。今まで彼女は母親に確認をした事は無かった。でもずっと信じて来たのだ、この一冊の本を。その夢を打ち壊されたような気分であった。母親はそんな彼女の姿を自分の過去にダブらせていたのか、ゆっくりと微笑みながらこう言葉を繋げた。

「ふふっ、でもね、だからといって誰にも使えないってことじゃ無いのよ。使える人はどこかにいるの。そしてあなたがその人なのかも知れないわ。大事なのは信じる事よ。ママだってそうだったの。」
「・・・ママも?どんな事?」
「ふふっ、駄目よ。女の子は秘密を持ってたんでしょ。」

少女は絵本に目を落とした。表紙には空を翔ける魔女の姿が描かれていた。





”よるがきました。おんなのこはこっそりとパパとママがおきないようにまどをあけます。てにはほうきをもって。”





「飛べ!・・・飛べったら!!もうなんで飛ばないの!?この馬鹿箒!!」
「・・・何してるの?」
「あっ、ママ!?・・・な、何でも無いよ。ちょっと掃除してただけ。」

少女はちょっと照れ隠しをしながら地面を掃いているふりをする。母親はその仕草を見て、クスクスと笑う。

「ふーん、でも道具に対して馬鹿なんていっちゃ駄目よ。大事にしてあげなきゃ。嫌いな子を乗せて飛んだりはしてくれないわ。」

母親は少女に諭すように言った。

「・・・・・・。」
「じゃあついでに掃除をお願いね。何か暖かいものでも用意しておくから。」

母親がその場を去った後で、彼女は恥ずかしそうに俯いた。自分が悪い事をしてしまったと後悔しているようにも見えた。

「そうだね・・・ごめんね・・・えーと箒さん。」
「おいっ!!何してんだよ馬鹿女!!」

ふいに彼女の後ろから声が聞こえた。隣に住んでいる男の子の声だった。彼女は嫌そうに彼の方に振り向く。

「な、何にもしてないわよ!!掃除してただけじゃない!!」
「嘘だ。箒にまたがってたじゃんか!また魔法が・・・とか言ってんのか!?」

どうやらさっきから見ていたらしい。更に彼の取り巻きの二人も顔を出す。

「嘘じゃ無いったら!!ママに頼まれただけなんだから!!掃除の邪魔だからあっち行ってよ!!」

「・・・ふ、ふん。たくっ、行こうぜみんな!遊びに誘ってやろうかと思ったけど生意気だから止めた!!」
「何だよソレ?お前が誘おうとか言ってた癖に。」
「だよなあ。」
「う、うるせえっ!!とにかく行くぞ!!いつもの丘に集合だ!!」





”おんなのこはほうきにしゃべりかけました。「もうよるだよ。おきてほうきさん。」「もうすこしだけ・・・。」ほうきはねむそうにこたえます。”





”「おかえりなさい。」
「ああ、ただいま・・・あの子は・・・寝ちゃったか。」

「ええ・・・あっそうそうあなた?魔法って信じる?」
「はっ?今更何を?」

「・・・ううん。ちょっと聞いてみただけ。」
「何か変だな・・・まあいいや、ビール飲みたいんだけどある?」

「えっ?ごめん。ちょっと買ってない。今から行ってくるね。」
「悪いな。いいよ別に無いなら。」
「いいのいいの。ほんとにちょっとだから。」
「ああ・・・なるほど。」”





”私はパパが帰ってきた音で目を覚ました。時計の針は十一の所。寝惚け眼で大きなあくびを一つ。ちょっとトイレに行こうと思って立ち上がった時、窓の外に何かが見えた。

「何だろう?」私は目を擦りながら薄いカーテンを開いて外を見る。


ばさばさばさっ。


「・・・?・・・えっ!!!」


ひゅう。


・・・・・・それは確かにママだったと思う。後ろ姿しか見えなかったけどあの髪の色は間違い無い。そして・・・箒に乗って・・・空に浮かんでいた。私が一つ瞬きをしたと同時に、ママはその場から姿を消した。私は何が何だか分からなくなっていた。ママは・・・ママは・・・魔法使いだったの!?”





”そらからみるまちなみはすごくきれい。いつもはあるいているあのみちも、このほうきならひとっとび!”





「・・・ねえ?ママ、昨日何か無かった?」
「・・・ん?何の事?・・・変な子ねジロジロと。早くご飯食べなさい。」
「・・・ふーん・・・あっそういえばパパは?」
「もう出かけたわよ。今日は朝早い仕事だったみたい。」





”私がママをじっと見ても、どこも変わった様子は無かった。昨日のは夢だったのかな?このママが魔法使いだなんて・・・何か信じられない。”





「にゃーお。」
「あっ、クロ。お前もご飯食べる?」

少女は部屋に入って来た猫を抱きかかえようとしたが逃げられてしまった。彼女の家に昔からずっといる黒猫だった。彼は彼女の母親の膝の上に寝転ぶと、じっと少女の顔を横目で見ていた。

「そんな名前じゃないでしょ。この子にはちゃんと名前があるんだから。」
「いいじゃない。だってこっちの方が呼びやすいんだもん。」





”ほうきはおんなのこにききました。。「きょうはどこにいきたい?」「そうね・・・くものうえにいってみたい!」”





少女は近所の丘の上に来ていた。風が強くて箒の練習にぴったりだと思ったからだった。別に飛べる訳では無かったが、いつものように絵本と箒を持って。彼女は持っていた絵本の表紙に書いてある言葉を読み上げる。

「”よるのまほうつかい”・・・か。まるで昨日の夢みたい。・・・ほんとに夢だったのかな?」

下から吹き上げる風が彼女の栗色の髪をなびかせる。少女の髪は母親よりは少し暗めの色をしていた。

「・・・んっ?」
「助けてー!!」

その時であった。少女は近くにある崖の下から声が聞こえたような気がした。空耳かな?と最初は思ったが、気になったので少し崖の方に近づいてみる。立ち入り禁止になっていて普段は絶対に近づかない場所であった。彼女は柵を乗り越えて声のした方へと向かった。何故かその声に聞き覚えがあったからだった。ゆっくりとおそるおそる崖を覗きこむと、そこには・・・隣家の少年がいた。いつも彼女をいじめているリーダー格の子だった。

「助けてぇー!!!母ちゃーんー!!誰かー!!!」

どうやら彼は仲間と度胸試しをしていて崖から滑り落ちたらしい。自転車が崖の下でくしゃくしゃになっていた。彼は幸いにも途中の岩場辺りで引っかかっていた。それでも一刻を争う状況だった。

「・・・あんた何してんの!?」
「あっ、馬鹿女!!誰でもいいから助けて!!みんな俺が落ちたと思って、恐くなって逃げちゃったんだよ!!」
「・・・馬鹿女?ふーんだ、そんな言い方するなら助けてあげない。」
「わ、わかったよ!!”めぐり”!!お願いだから助けて!!!誰か呼んで来てくれー!!」

その少年は鼻水を垂らしながら彼女に助けを求めた。それを見て少女は意地になっている暇は無いと感づく。誰かを呼ぼうかと思ったが、どう見てもそんな余裕は無いように見えた。少年の足場はもろく今にも崩れ落ちそうだった。

「そうね・・・よーし!!これしか無いわ!!」
「な、何をしてんだよお!!頼むから早く誰か呼んできて・・・!!」
「うるさい!!ちょっと黙ってて!!」
「ううっ。」

少女は目を瞑ると精神を集中させた。飛び方を知ってる訳じゃ無い。ただ今なら急に出来るような気がしたのだ。彼女の頭に母親の声がよぎった。信じる事。そして道具を大切に思う事。


「お願い!飛ばせて!!」


”出来る!!!だって・・・・・・多分私は魔法使いの娘なんだもの!!!”


ぶわっ。


・・・という音と共に周りの空気が変わった。円形の形に大気が持ち上がる。彼女は自分のした行為に驚いていた。更に後ろで何か音がしたような気がしたが気付いている余裕は無かった。そしてその興奮が覚めやらぬままの勢いで箒にまたがると、空へと思い切り飛び上がった・・・!





”そらのさんぽはとてもたのしいものでした。しょうじょはとちゅうでくもをひとつつかむと、それをわたがしのようにたべました。「あまーい!!くもっておいしいのね。」ほうきはいいます。「まじょのおやつなのさ。」”





「きゃあああーーーーーーーーーー!!!」

少女の身体は一気に空へと向かい、雲の上に突き抜ける。とんでもない早さであった。彼女は振り落とされないように必死に箒に捕まる。

「全然甘くなーい!!ウソツキーーーーー!!!」

少女は箒をそのままをコントロール出来ずにふらふらと辺りを飛びまわる。

「誰かー!!助けてーー!!!」

自分の目的を忘れて彼女は叫んだ。その時どこかから声が響く。





「・・・落ちついて。恐がってちゃ駄目だよ。もっと冷静にならなきゃ。」
「・・・だ!誰!?・・・まさか箒?」

急に聞こえた声に少女は驚きは隠せなかったが、彼女はその言葉に何とか従おうとする。

「・・・そうだよ。ゆっくりと、とにかく落ちついて、深呼吸するんだにゃ・・・するんだ。」
「だ!駄目駄目!!出来ない出来ない!!こんな状況で落ちつけなんて絶対無理!!」
「君のお母さんは出来てたよ。」
「お、お母さん?・・・てことはやっぱりママは魔法使いだったの!!?」





”くるくるとあたりをとびまわっているうちにおんなのこはなにかをみつけました。それはとなりにすむおとこのこでした。くらいくらいもりのなかでひとりないていたのです。よくみるとまちなかはけいさつのパトカーとおとがウーウーとなりひびいていたのでした。「きっとまいごになったんだわ。」「たすけよう。」”





ぴたっと。箒は空中に静止した。彼女は急いで後ろを振り向くと、そこには・・・クロがいた。ごろごろと音を立てながら少女にしがみついていた。





「く、クロ?なんでこんな所にいるの?」
「にゃーお。」
「よ、良くわかんないけど・・・、とりあえず止まったみたい。あっ、そういえばわたし、空を飛んでるんじゃない・・!!?」

今ごろ気付いたかのように彼女は目一杯に叫んだ。大きな大きな喜びの声だった。





「誰か助けてー!!!」

少年も目一杯に叫んだ。さっきまでいた少女が忽然と姿を消してしまったのだ。もう自分は助からないのかも知れないと感じ始めていた。涙が次から次へと溢れて来ていた。

「こっちこっち!!早く手を掴みなさいよ!!」

少年がはっと声のしたを方を向くと、そこにはいつも馬鹿にしていた少女が宙に浮いていた。空を飛んでいた。彼はパニックに陥った。ついには訳が分からなくなって意識を失った。ふっと・・・崖から滑り落ちる。

ずしっ。

「きゃあ!!・・・っと。重いー!!!」

ギリギリで彼女は少年を捕まえると、ふらふらとそのままゆっくり地面に落ちていく。幸いにも怪我をするような速さでは無かった。





”「だいじょうぶ?」「ありがとう。もうたすからないかとおもった。きみってまほうつかいだったんだね。」しょうじょはほこらしげにこたえました。「ええ、そうよ。わたしはまほうつかいなの。そんけいする?」ほうきがつっこみました。「ぼくがいないとなんにもできないまほうつかいだけどね。」”





”目が覚めると僕は、地面の下にいた。助かった・・・んだ。どうしてだろう?必死に記憶の糸を辿る。辺りには誰もいなかった。でも僕は一つだけ思い出した。そうだ。あの子は・・・隣に住むあの女の子は・・・。”





”よるがおわってまた、いつものあさがきました。おんなのこはふつうにもどるのです。ほうきはまたよるをまってねむりにつくのでした。「おやすみなさい、ほうきさん。」おんなのこはそういうとベッドへともぐりこみました。”

おしまい。

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