ザ・グレート・展開予測ショー

Laughing dogs in a lamb's skin III 後編


投稿者名:Alice
投稿日時:(05/ 1/ 8)

 
 
 
 
 
 Laughing dogs in a lamb’s skin III 後編
 
 
 
 
 
 戦端が開いてから四時間。午前三時が過ぎ、除霊終了の限界点まで残り一時間。各地域では除霊完了の報が届く中、横島たちもまた最終局面を迎えていた。
 途中、休息を入れながらで、それぞれ五十体は下らない数の霊たちを排除した。
 全体的に自爆霊の数が多いため、話し合いでの解決は望めそうもない。もとより敵の能力に差がある対多数では効率の悪い説得や、札への吸引(封印)よりは、殴りつけるがごとし力押しで消滅させる作戦が得策だった。
 先制の奇襲は大成功に終わったと言える。初手の霍乱によって動揺し、隙だらけの霊を四人は迅速に除霊したが、それだけで五十は塵へと還っただろう。
 続けて攻撃を加え、敵は残り二百五十、二百と確実に数を減らしていった。横島とシロ、ピートとタマモのペアで途中、休息を入れつつも除霊を続ける。
 そうして大よその残敵三十の時点で、遂に東小金井一帯を統括している悪霊の存在が姿を現した。
『なんで、なんで、僕を苛めるんだよおぉっ!』
 突然の一撃。最前列で格下の悪霊をなぎ払い、勢いづいた体制の横島を狙って、怨念が音波をともなって襲ってくる。
 前傾のまま、サイキック・ソーサの展開だけでは間に合わないと咄嗟に判断して、文殊[護]を使用して自身の周囲に結界を張る。
『死んでるのに! 自殺したのに! なんで!? なんで僕が苛められないといけないんだあぁっ!』
「あ、ヤバっ」
 こぶしを上げてただ振り下ろす。ただそれだけの攻撃だが凄まじい威力を持っていた。下手な魔具では防ぎきれなかっただろう。
 横島としては文殊で張った結界に、霊波を浴びせて補強し、もうしばらく間、敵の攻撃を凌ぐ(しのぐ)つもりだった。しかし、今までに撃退した悪霊たちの払いきれない怨念、その残りかすを吸収して、横島の予想以上の出力を誇る一撃でもって、ついには強固なはずの結界に綻びが生まれる。次の一撃を直撃するのはまずい。
「ま、まま待て待て待て。俺たちはイジメにきたわけじゃないぞ! お前を成仏させてやるためにきたんだ。自爆霊になってさまようのは痛いし辛いだろ? な? だからここは穏便に…」
 通過する列車に下半身を切断されたのだろう。腰より下を失った学生服をまとう悪霊の親玉。会話の内容からして人間関係、とりわけイジメを苦に自殺してしまった中学生か高校生のどちらかであることは明白。
 学生服のネームプレートには名前がある。恐らく本名だろう。数年前、遺書がマスコミに渡って、連日ワイドショーで流れたのを幾度か見たことのあった。
 現状でわかったことは一つ。彼の怨念は凄まじいものだということ。
 既に除霊された自爆霊たちが残した怨念を取り込んだとはいえ、死んでからわずか数年でここまでの成長を遂げることはほぼないといえる。
 同様に、世間での認知度が高まったことで、悪霊ながらも霊格を高めてしまっている節も見受けられる。十数年前までは存在しなかったケースの悪霊の出現である。
『…苛めるの、違う?』
「そうだ、その通り。俺はお前を苛めないぞ。だから安心して『でもお前、みんな殺した。僕の友達、お前苛めたっ!』 っておーい」
 やりきれない――自爆霊が友達だ…なんてな、と横島は結界が崩壊するギリギリのところで体制を立て直す。悪霊の再度放ったなりふり構わぬ一撃は横島の結界をかすめた程度で済んだ。
 暴走し、手当たり次第に怨波を周囲に撒き散らしているだけに過ぎない。当たらい攻撃など必要以上に恐れる必要はない。
『僕はなにもしてなかったのに! あいつらが、あいつらがあぁっ! 僕に死ねって、自殺しろって!』
 攻撃を避けつつ辺りを見直せば、ピートが親玉の背中を取っているし、シロも横島が作った隙に乗じて必殺の一撃を狙っていた。
 タマモはどこだ?
 タマモが見当たらない、と見渡した横島がその姿を見つけた刹那、手当たり次第だったはずの怨波、その直線上にタマモはいた。
 タマモは悪霊の言葉に気をとられていた。自分は悪くないのに、どうして? 魂の叫びがタマモに響く。自分はなにも悪いことなんてしていないのに、どうしてつまらない目に逢わねばならないのだろうか? 彼の言葉は正しい。自分は悪くないのにどうして?
 殺気を感じ取った瞬間、視界に入った怒号から反射的に自分を庇ったが時すでに遅し。
 当たる。そう思った瞬間から少し。直撃するはずだった怨波は、突如タマモの眼前に現れた霧によって受け止められる。
 ヴァンパイア・ミストは有形的な打撃に対して、ほぼ完全に近い優位性を持っているが、怨波といった無形の攻撃に対してはほとんど無防備に近い属性を持っている。
 タマモを庇って直撃を喰らったピートが霧状を保持しきれずに、人の形を以って崩れ落ちる。
「わ、わたし…わたしは…」
「くそっ、邪魔だ!」
 崩れ落ちたピートを見て放心しかけたタマモを、横島がかけよってきて危険域から離脱させるために吹き飛ばす。
 タマモを吹き飛ばす際にある程度の加減はしたがそれ以上の配慮はしきれないと、横島はタマモを吹き飛ばした地点からピートを回収して怨波の射程より離脱する。今はタマモに構っている暇などないのだ。
「シロっ! まだだ、まだ終わってない!」
 横島に吹き飛ばされ、今をもって放心気味のタマモを案じて駆け寄ろうとしたシロを叱咤する。
 横島はタマモが止まった理由が理解できた。先日美神から聞かされていた件がからんでいるのだろう。
 恐らくは現在対峙している悪霊に封印された過去の記憶を、爪弾かれている現在を、虐げられるかもしれないという未来を、苛められて自殺した悪霊の少年に重ねてしまったのに違いない。
 ピートに治療のための文殊を施しながら、そのように横島は思い浮かべた。
 だがそれは除霊中にあってはならないミスだ。小さな油断はすぐさま死に繋がる。現にピートが大きなダメージを受けたではないか。生死をかけた現場ではなるべくして私情は慎むものでなければならなかった。
 タマモを呼んだのは失策だったかもしれない。
 一応は除霊のサポートのために連れてきたはずだったが、気晴らしのつもりで呼び寄せた部分も少なくはない。
 言い訳はいくらでもできる。彼女が普段どおりであればここまでの事態には陥らなかっただろうし、そうでなかったとしても想定しきれるものでもない。
 それでも、横島は自らの甘さを呪う。与えられた結果をもって。
 敵は多いが難度はそれほどでもない。しかし、除霊ではいかに万全であっても突発的な事故までは回避できないもの。しかし回避する努力はもっとできたはずだった。
「ピート、いけそうか」
「なんとか…」
 文殊の回復効果で、ある程度までは持ち直したピートと共に悪霊へと向き直る。今すべきはタマモの心配ではなく悪霊を追い祓うこと。
 幸いにも悪霊となった少年は今をもって明確な敵もなく、ただ暴れているだけに隙は大きい。
「俺とシロで奴の動きを縛る」
 戦線を崩すまいと、横島たちの分もシロが必死に応戦するが、どうにも牽制に留めざるを得ない。
 タマモの離脱で攻撃のタイミングを逸してしまったこともあって、流石に一人では必殺の一撃を与えきれない様子に、シロはじれったい様子でいる。
『死んじゃえよおぉっ!』
 戦列に加わった横島めがけて三度の怨波が襲うが、くるとわかっている攻撃ならば避けきれると、横島は悪霊の懐に飛び込んだ。代わりに別の霊が怨念に呑み込まれて行く。
『僕は悪くないのに! 僕は悪くないのにっ!』
 子供のわがままのように腕を振り回して追い払おうとするが、霍乱するために飛び込んだ横島には、当然のごとく攻撃は当たらない。
 悪霊は上手く攻撃が当てられないことにイラついて、動作が緩慢になってしまっていた。
 その隙に乗じて悪霊の背後を捕り、シロは確実なダメージを考慮した攻撃を狙う。
 右手に作った霊波刀を逆腰の高さに下げ、霊気をまとわせた左手を添えて出力をさらに絞り押さえつける。シロのとった一連の動作は日本刀を鞘に収める納刀に同じ。
 刀を鞘に収めた構えを取って大きく息を吸い込む。ぐっと屈んだやいなや、溜め込んだバネ仕掛けのごとき俊敏さで、悪霊に向かって地を這うほどの前傾で突進をかける。
「ゃぁあああああぁっ!」
 悪霊の側にたむろする低級霊たちがシロの気合を浴びて問答無用に成仏する。
 乱舞する怨波が身体一つ隣を駆けるがシロの勢いは止まらない。
「はぁっ!」
 悪霊の眼前で右脚を踏み込み、総ての勢いを右腕にかけて跳ね上げた。それは人狼の性能を最大限に生かした抜刀術。シロの放った渾身の一発は悪霊本体の背中、その左下方から直上に突きぬける形をとった。
『かはぁっ! 痛い! 痛いよ! 痛いっ! 痛いっ! 痛いじゃないかあぁっ!』
 狙い澄ました攻撃は悪霊の左腕から肩までをごっそりえぐりとって大ダメージを与え、本体という寄り代を失った左腕は塵へと還って行く。
『おまえたちなんてきえろきえろきえろきえろっ! みんなきえろちゃえぇっ!』
 左腕を失ったことによって、悪霊は更なる怒りに飲み込まれる。もう横島もシロも目に映っていない。ただ叫び、ただ我武者羅に怨念を撒き散らすだけの存在に堕ちた。
「哀れだな」
 シロに斬られて大きく威力を削がれた彼の目の前に横島が近づく。そうして、最大限の出力で神通棍を霊体に突き刺した。その効果は悪霊の動きを封じるには充分だった。
『僕は悪くないのに、悪くないのに、なんで、なんでみんな僕を苛めるんだよっ!』
 苦しそうな悪霊の叫びが木霊する中、シロが背後から横島と同じように霊波刀を本体に突き刺して、更に動きを封じる。
 二人の攻撃を受けてなお消えない悪霊の霊格はかなりのものといえよう。
 それは一つの推測を横島に与える。彼、自殺した少年は、中央線での自殺、とりわけ学生の自殺にかなりの悪影響を与えていたに違いないというもの。
 些細な切欠、心の隙に付け込んで多くの人間を自殺にまで追いやった。魂を喰らった。
 仲間欲しさ、ただそれだけのために。
「主と精霊の御名において命ずる!」 
 悪霊の頭上にたちこめた霧から声が届く。
「汝穢れたる魔物よ…」
 悪霊を導かんと声高々な詩(うた)が鳴り響く。
「キリストのちまたから立ち去りたまえ!」 
 人の形を成ったピートの体から、悪霊に向かって浄化の波動がほとばしる。
『ガああぁぁっ! ヴああぁぁっ! くる…しいっ! な、なんで!?』
 苦しさと痛みに耐えかねて泣き叫ぶ姿は力なき少年そのもの。
 横島とシロに動きを封じられ、無防備なままで受ける浄化は、悪霊の肉を持たない体が徐々に塵へと還して行く。
『僕は、ぼく…は…わるく…ない……の…に………』
 断末魔には程遠い、最期の言葉と共に、少年の怨念に取り込まれた霊たちが解放されて昇天して行く。
 それは同時に、辺り一帯をも浄化するほどの、本当に最後の一撃でもあった。
 横島は神通棍へ霊力の供給を止め、シロも霊波刀を解いた。その側に降り立ったピートが悪霊の消え去った場所を眺めながら、心底悲しそうに呟く。
「自ら命を絶った…それだけでもう、貴方は悪だったんです」
 三人から少し離れたところまで近づいてきたタマモの視界が歪む。
 彼女に映ったのは悪霊か、もしくは自分に対してのものか定かではない憐憫でもあり、悲しさもであり、悔しさだった。
 
 午前四時。作戦終了の時刻。夜が明けて直ぐにピートが後ろ髪を引かれるシロを伴って本部への報告を兼ねて出頭しに行く。
 一帯に蔓延った九割方の悪霊を払った辺りは一変していた。これで当分の間は自殺も減るだろうし、中央線の工事も悪霊による妨害がなくなるに違いない。
 始発の準備が始まるJLを後に、近場の公園のベンチに横島とタマモはいた。お互いに気まずそうにしながら隣り合う。
 美神から聞かされたタマモの事情と今日の失敗。横島はどう慰めて良いかわからずにいた。
 ピートには作戦前にあらかじめ伝えておいたことだったこともあって、二人きりにさせてくれたのだろう。もとより、タマモを慰めるのは自分ではない、と逃げ出したようなものだったが。
「まぁ、なんだ。あんまり気にするな」
 間が持たず、横島がつい口走った言葉はありきたりなものだった。良い言葉が思いつかない。語韻が少ない、と一人嘆いて自販機で買ってきた缶コーヒーを一口飲み込む。
 横島の言葉はタマモにとって痛烈な一撃となった。
 中央線の一斉除霊に誘われたことに、タマモは元から疑問に思っていた。わかりきっていたことだが、今回の除霊に自分は必要なかったのだ。横島とピート。二人だけならば人員のことも含めて、比較的楽な地域に派遣されただろう。激戦区で戦ったのは、シロと自分を入れたからこそなのだ。
 自分を呼んだのは、気を一転させるためだろう。この推測は恐らくは間違っていない。
 今に限って、悪い意味でタマモは聡い部分があった。
「あんなことも偶にはある。そうそうしょげてんなよ?」
 タマモは疑心にかられる。横島の言葉は、先ほどの一件のことか、それとも今の自分が晒している無様を知ってのことか。つい、迷ってしまったのだ。
「私は…」
 勿論、横島はまだまだ“ソコまで”気が廻るような男ではない。先の言葉は当然ながら除霊での失敗を慰めたものだった。
「俺なんて失敗ばっかりだ。美神さんに雪乃丞、いつもいつもどやされっ放しだよ」
 明るい調子でいうが、あくまでその場凌ぎだ。タマモではなく、もしも失敗したのがおキヌであればこうはいかなかっただろう。その甘さを責めたに違いない。
「ピートだって全然大丈夫だったしさ、な? だからあんまり気ぃ落とすなよ?」
 六道女学園で、美神の元で除霊の厳しさは十二分に躾けられているタマモには横島の本音がわかってしまった。
「…ぅ……ぃ」
 同時に気づく。自分は同情されているのだと。それがタマモの癪に障った。
「うん。どうした?」
 俯いて肩を震わせるタマモを横島が覗き込む。
 目に涙が浮かぶ。こんな顔は見せられない。
「…っるっさい!」
 こぶしを握り締め、つい声を荒げてしまった。
「お、おい。突然どうしたんだよ?」
 困惑した横島を振り払ってベンチから立ち上がる。
 気に入らない。
「いい加減うんざりなのよ! 人間も! あんたたちも! みんな! みんなっ!」
 学校でのこと、悪霊に成り果てた少年のこと。なにもかもが気に入らない。
 溜まりに溜まったモヤモヤが明確な意思を浮かび上がらせる。
「もううんざりよ! 人間も、アンタたちも!」
 黒色に鬱屈した気持ちの揺らぎが首をもたげてタマモ自身をねめつける。
「こんなんじゃ、私、まるっきり馬鹿みたいじゃないのよっ!」
 
 
 
 
 
・ちょっと鬱々、あぅ…って感じです
・世界観、ディテールの調整って面倒臭いですがシロって可愛いですよね?
・でもなんだか犬塚抜刀斎?
・自衛隊は大変です、いや本当に頑張って欲しいです
・戦闘シーン、思ったより淡白でしたね…っていうかなくねぇ? あれ? おかしいなぁ、そんなつもりは…
・ちょっと山場で少しアレ、次で真・ツンデレタマモ全開Death
・展開、文章しつこかったですけど勘弁して下さい
・アンチもOK否定もOKなんでもOKばっちこーい…スミマセン、できれば優しく傷つけて下さい
・Vガ○ダム風の次回予告/ナレーター:氷室キヌ
 傷つけられたプライドを護るため、立ち上がるタマモちゃん
 自分自身の全てを込めた、なりふり構わぬ一撃が横島さんを襲います
 人と妖(あやかし)の共存を模索した闘いはどこへと向かうのでしょうか…
 次回、GS美神200x 『stray fox serenade 前編』 見てくださいっ! とかなんとか(嘘タイトルです)
 

今までの コメント:
[ 戻る ]
管理運営:GTY+管理人
Original GTY System Copyright(c)T.Fukazawa