ザ・グレート・展開予測ショー

乳白色の誘惑


投稿者名:トンプソン
投稿日時:(05/ 1/ 6)

入道雲も夕日が放つ勢いの前には形無しである。
諸事情でおキヌちゃんはお休みで横島と狼娘のシロとタマモというメンバー。
仕事はちゃっちゃと終らせ、車上の人となった美神令子率いるGSのメンバーである。
「軽い仕事で御座ったな、美神殿」
「そうね、あんた達も仕事が判ってきたみたいだしね」
ほめ言葉を発して、
「ヨコシマも最近はちょっとは仕事ってのを理解してきたみたいだし」
珍しく横島を褒める美神令子である。
嬉しそうな笑顔で今回もナビゲーターをやっている横島である。
「仕事の話はここまでっすよ。もう少しで宿に着くっすね、タマモもう少しだぞ」
「そ、そうなの、じゃあ後ちょっと頑張る」
車酔いと格闘のタマモであった。
そして、目的の宿が見えてきた。
「で、今回も温泉宿なんすか?美神さん」
「そうよ!最近出来た温泉なんですって!」
「そうっすか、にしても、美神さんは温泉好きなんっすね」
「あら、何か文句ある?」
「い、いえ別に」
そして車は宿のゲートを潜った。

偽装問題があったが、温泉は日本人の代表的な娯楽である。
ご多分にももれず美神令子の趣味である。
それ故結構温泉地方の依頼は進んで引き受けている。
で、ここはどうだろう。
美神令子の言う通り近年に誕生した温泉保養地で源泉では石灰岩が溶け出しの乳白色が特徴。目玉は日本有数の広さを誇る・・。
「混浴風呂、なのねマズったわね」
前もって調べておけばよかった、である。
温泉地特有のにおいと蝉の声が妙に馴染むそんな季節であった。
「あるには有るのよね、別風呂だって、でも」
当然営業法の関係で室内風呂で男女別の普通の風呂だってある。
だが。
「普通のにしようかな〜、でもなぁ〜、」
目の前に広がる広大な露天混浴風呂、たとえ温泉ファンでなくても、
一度は文字通り足をいれたくなるという物。
「水着は・・駄目って書いてあるわねぇ」
誰が管理しているかまでは詳しく書いていないが水着は禁止である。
第一持ってきていない。
おそらくは温水プールとは違うという事だろう。
その他厳しいルールも明文化されている。
一例を挙げれば利用者同士のトラブルは旅館側の責任ならないという事。
「結構厳しいわねぇこんなんじゃ、あまり利用者はいないんじゃあ・・」
ひょいと窓の外を見れば。
そんな事はないようだ。混浴では混浴なりの工夫があって。
一番は小さな子供を持つ家族連れである。
これだけでそこそこの一角を占有できる。
次に仲のいい同性の数人グループ。
こうなると逆に大衆の心理というのが働くのであろう。
「ねぇねぇ、おねーさんたち〜」
「あらなにーナンパ?」
と、比較的年齢の合うであろう異性グループとの交流が生まれていく。
そしてカップル。
これは何処にいても二人の世界なので入り込む余地はないが。
どうやら二、三人の男性陣はちょっかいを出そうというツワモノが見て取れる。
逆に。
女性一人は流石に危ないという所か。
因みに一番安全なのは、中高生の未成年者なのだ。
昨今の事件を考えれば手を出すのは損失である事は利用者は知っているようだ。
因みにここで規範が厳しい事が生きてくるというのも付け加えておこう。
つまり、女一人では危ないという事は理解できる美神令子である。

「どうしようかなぁ〜」
ため息にも似た吐息を伴って心が揺れ動いている美神令子である。
ふと見ればシロとタマモは既に入浴の準備を終えている。
「あら、あんた達、お風呂にいくの?室内?それとも露天?」
試しに聞いてみたという所だ。
「え?私達は露天に行くわよ、ほらシロ、準備は出来た?」
「拙者もOKで御座るよ。それでは御免!」
そそくさと二人だけで向かってしまった。
これでは注意する事も出来ないし、
「・・誘ってくれてもいいのに」
独り言が思わず出てしまったようである。
「諦めるかなぁ、女一人は危ないものねぇ」
一応入浴の用意をする美神令子である。
そして廊下に出ると、すれ違う女性数人のグループ。
「ここの露天風呂、ホント凄かったわねぇ、来て良かったわぁ」
「そうでしょ?混浴ってもポイントなのよねぇ」
「でもさぁ、私途中できた男の子にお尻触られちゃった」
「うっそ〜、やだ〜」
「やだ〜はないじゃないの、私の魅力よ、魅力」
「よく言うわよ」
「でねっ、ご飯一緒に食べよって」
そんな会話が美神令子の頭の後ろへと去っていった。
「・・・アカン。私にはムリだわ。大人しく室内にしよう」
残念だがそうしよう、と心に決た。そして室内と露天の分かれ道。
「あら?ヨコシマ君アンタもお風呂?」
こちらも入浴準備を整えている。
「そりゃ入りますよ、今回は怪我もありませんし」
「そうねぇ、でアンタはどっちに行くの?」
「俺っすか?実はどっかのグループに混じって入ろうかなぁ〜って」
「混じるって露天の方に行くの」
「えぇ、折角ですから」
「・・・ま、私に駄目って言う権利はないけど、ヘンな事するんじゃないわよ」
「判ってますって」
じゃあ食事の時にとなるのだが。
「ねぇねぇ、おねーさん。ぼ、僕と一緒にお風呂に・・」
混浴へ行く分かれ道でナンパを始める横島がいるではないか。
しかも、まだ自分、(美神令子)が見える前で、である。
「アンのアンポンタン!!」
振り返ってたんこぶの一つでも食らわせてやろうと思ったが。
「あたたた」
ナンパ相手に返り討ちにされていた横島がそこにいた。
「・・・たく」
とは言え、
美神令子も混浴の経験はないが、想像は出来る。
あの独特の空間でよもすれば横島のナンパは成功してしまうのではないかと。
「99%は無理ね。でもヨコシマ君は悪運強いし・・」
かといって室内風呂を強制してもいう事は聞かないであろう。
さて、どうするかと美神令子、頭を捻る前に。
「・・・しょうがないわねぇ、ほらいらっしゃい」
しりもちをついている横島の手をとってそう言い放っいた。
『言い放ってしまった』とうのが正確な表現になろうか。
思わず目が点になる横島。
「へ?み、美神さん、今なんて?」
内心動揺をしている美神令子であるが、
「そりゃ私も露天行きたいけど一人じゃねぇ、だからアンタは私のお守よ、判ってるわね」
「判ってるわねって、わからな、って引っ張らないで美神さん」
「いいから、来い!」
「・・・マジっすか」
横島、今日は仕事を順調にこなしたご褒美なのかな?などと理性の少ない頭で考えていた。
強引に引っ張って終に混浴露天風呂の脱衣所の前まで着いてしまった。
ご丁寧に脱衣所も男女共用であった。

「ロッカーはちゃんとしてるのね、温泉宿としてはなかなかのレベルね」
例えるに高級スポーツクラブの脱衣所を思い浮かべてもらえればよい。
「・・ほら横島クンはこっちを使いなさいね」
何故かイニシアチブをとる美神令子である。
丁度背中合わせでロッカーの取れた二人であった。
「あ、はいっす」
見渡せば奥にちょうど湯上りの女性の団体が見えている。
何やら話し込んではいるが横島の耳には届かない。
寧ろ。
(い、今後ろで美神さん洋服脱いでるぞ)
そっちの方が気になってしょうがない。チャックをあける音が聞こえてきた。
だが、ここで振り向いては負けてしまう。
何故か判らないそんな思いが横島を支配した。
(俺も、洋服脱がないと)
後ろでは着々と入浴の用意が始まっているのだ。
Tシャツの襟を両手で摘んで腕をあげる。
やや手間取ったが片腕にシャツを絡ましてロッカーにいれるのだが。
「あ、ロッカーあけてねぇや」
開いた方の腕でロッカーをあけると。
扉の裏に鏡があるではないか。
(う、後ろが見えるぞ!)
慌てて閉めようとする横島であるが。
「な、何やってるんだ?俺」
そしてシャツを奥にしまい込んだ。
ちらりと鏡を見ると。
美神令子既にスカートが落ちていた。
(さっきのジッパーの音はスカートの音だったんだ・・)
一人合点の横島である。
そして美神はシャツも無造作に脱ぎ捨てていった。
「わぉ」
思わず声の漏れた横島である。
そして腕が後ろに回った。音も無くブラが下に落ちた。
「やべ、急がないと」
思わず声を出す横島。
「?何をさっきからブツブツ言ってるのよ」
そして美神令子は最後の砦に手をかけはじめていた。
「な、何でもないっすよ」
慌てて横島もジーンズのホックに手をかけた。
こちらも後一枚。
だが、このときに及んで困っている横島。
そう思うながらロッカーにズボンを入れてタオルを手に取る。
ここで気が付いた。
手にしたタオルを即座に腰に巻いて下半身を隠すように下着を脱いだ横島である。
これは男性だから思いつく技。
女性は隠すべきところが多い。
手を加えるよりかは一度全部脱いでしまった方が早いのである。
美神令子最後の砦を落とし、屈んだ対ででブラを手に取る。
そしてロッカーの奥に入れつつ、開いた方の手で即座にバスタオルを身に着けていた。
なかなか早い手際であったようだ。
「か、肝心なのを見逃したぁ〜」
悔いても遅い横島である。
逆に美神令子。
「ふふん。鏡で見ていたのはお見通しよ、馬鹿ね」
上手く操っていたとでも言いたいようだ。
「な、ナンの事っすか?美神さん、じゃあれっつ温泉!」
何のごまかしにもなってない横島だ。
片手は腰に手をあててタオルを守りつつの格好やや滑稽であった。
「ちょっと、ヨコシマ君バンダナつけたままでお風呂入るの?」
「あ、忘れてました」
横島、頭に手をやってバンダナを取るも、手が滑って床に落としてしまった。
いかん浮かれてると、考えていると。
「ほら、何やってるのよ」
美神令子が再度屈んで横島の落としたバンダナを手にして。
「ほら」
バスタオル一枚の手渡しである。
丁度日本人離れした乳房を真上から眺めたという、
最高のアングルが一瞬生じていた。
頭と下半身に血の巡りが急速になっていったようだ。
何、ぼーっとしてるのよ。ほら、アンタ私の荷物も持ちなさいよ」
といわれ、横島洗面器を二つ、中に石鹸やシャンプーを入れて美神の後から付いていった。
バスタオルから覗く素足が一層色気をかもし出していたのは当然である。

とかくこの温泉は広いのである。
湯の張ってあるところは一面乳白色である。
湯入りの場所だけでも20箇所はあるようだ。
「何処から入りやすか?美神さん」
きょろきょろ見渡せば素敵な若奥さんの軍団があったり、
慰安旅行の男性団体がいたりである。
「そうねぇ、人気の少ないところがいいわねぇ、どこがいいかしら?」
季節は夏。慌てて湯に入ることはない。
バスタオルとタオルの二人が良い場所を探している。
「あ、あのへんはどうっすか?」
岩が複雑に入り乱れている、リアス式海岸に似た構造の場所があるのだ。
あまり広くないので少数で利用する、
カップル御用達の場所とでも言おうか。
「そうねぇ、ヘンなのに付きまとわれたくないし」
そして湯の中から数箇所岩が突き出している場所を見つた美神令子。
「じゃ、あそこにしようか」
目指す場所を指差したので、横島が先ず温泉に入ろうとすると。
「こらこら一度体を流しなさい」
そうたしなめて美神令子、あたりを少し見渡す。
「うん。誰もいないようだけど・・ヨコシマ君」
「は、はいなんっすか?」
「ちょっと奥を見張っててよ」
「わかったっす」
ささっと、奥を見に行こうとするが。
「あ!美神さんもお湯をかけるって事は」
くるっと振り向けば案の定。
バスタオルを外して洗面器にお湯を張っている美神令子の後姿があった。
「見張ってろなんて言ったけどどーせこっちみてるでしょうけどねぇ」
やや確信犯な美神令子であった。
そしてバスタオルは上手に頭にまとめてお湯に入った美神令子。
「ヨコシマ君、見張りはいいわよ〜」
何事もなかったかのような態度であった。
「美神さん・・混浴の秘儀知りすぎっすよぉ」
好きなものこそ上手なれ、とは意味が違うが、今回は妙にマッチする、美神令子の行動であった。
「ふ、お湯の中だとなーんもみえねぇや」
心の声を漏らした横島ではあった。
一旦お湯に浸かってしまうと、何も見えない乳白色。
だからこそ混浴営業が成り立つ。
「ほら、こっちよ、急ぎなさい」
胸元をなるべく出さないように、平泳ぎに似た形で移動をする美神令子に、
膝で歩いて誤魔化す横島であった。
美神の指定した場所、岩が丁度背もたれになっていた。
「ふいぃ〜いいお湯ねぇ」
思わず背伸びする美神令子。
「そうっすねぇ〜〜」
ちゃぷんちゃぷんとのお湯の音が水のそれよりも鈍い音で鳴り響く。
少し前までは女性客は見えないかと探していた横島であったが。
なんか飽きてしまったというか。
「いや〜、普通にみんな裸だとあんまピンとこないっすね〜」
「ジジ臭い事言うのねぇ、アンタも」
「そうっすか〜」
それに。
隣にいるのは様々な問題があるとは言え美人であるのだ。
なんどか傍を通り過ぎた男性客の目線も横島を喜ばしていたのである。
「それにしても、見事な白色っすねぇ」
てのひらを窪めて少しお湯を掬っても、白色を保っていた。
「さっきからそればかりねぇ、他に言う事ないの?」
「他・・っすか・・・」
そりゃ言いたい事は沢山ある。
「胸って大きいと浮かぶものなんすね」
そう美神令子のそれは例えるなら小さなメロンほどはあるのだ。
目算にして三割ほど浮いている。
言われて腕で沈めようとする。
「スケベな事言わないでよ」
そういってそっぽを向いた美神令子であるが。
「でも、それだけ大きいと肩凝るんじゃないっすか?」
「そうねぇ。これでも経営者だし、従業員には厄介なのが多いし」
「厄介なのって、俺っすか?」
反論すべきと美神の正面へと体を移動させる。
「な、何よ?ヨコシマ君だけじゃないわよ」
横島の面子をたてた発言をしたときにである。
横島も場所を移動して耳に入ってくる奇妙な音。
美神も耳を澄まし始める。
---きゃっ、へんなトコさわるんじゃないのっ!
---えー、いいじゃんへるもんじゃないしぃ
---こ、こらっ、ってきゃは、
もう少し会話が続くが何処からか湯が流れ込んできたので聞き取れない。
「・・・アレ、なんだと思う?」
「おそらくアレじゃないっすか?」
「だから!アレって何よ」
「美神さんだってわかってるっすよね?それでも言わせるんっすか?」
「うっ」
いくら二人に経験がなくとも会話から判断すれば、所謂『アレ』である。
又何処からとも無くお湯が足され始めてきた。
「ど、どこか違うところへいこっか」
「そうっすね。美神さん」
お湯を書き分ける形で二人は何処ぞへと向かっていった。
さて、二人がいた場所から影になっている場所には。
「こらっ!おねーちゃんに触らないの」
「なんでー?おかーさん」
「まったく、子供なんだから」
「そうだよー、だって僕五歳だもーん」
そしてお父さんが少しはなれたところで笑っていた。
何のことはない、子供がじゃれていただけであったが。
端々の声で判断すれば、アレと勘違いしてもおかしくはない。
「・・いるのねぇ、混浴でアレする人」
移動中ぽつりと漏らした美神令子に。
「や、やめましょうよ。この会話」
何故か乗って来ない横島であった。

何はともあれ横島をつれてきて良かったと思う美神令子であった。
女性の特有の勘という奴で。
(やだ、あいつジロジロみてるじゃないの)
そう感じる傍から、
「ちょっとヨコシマ君、はやくしてよ」
そう声をかければ、飼い犬の如く移動を早める横島。
そうすると其処彼処からため息やら舌打ちやらが聞こえてくるのだ。
(アンタ達にナンパされるほど、落ちぶれては無いわよ)
なのである。
だが、中にはツワモノ、乃至は命知らずがいて、移動する美神令子に近づこうとする輩がいたのだが。
「ん?何か御用?」
逆にこちらから切り出すとその命知らずも。
「い、いえなんでもないです」
しり込みしてしまう。
と、そこそこ上手く交わして言っていたのだが。
敵が現れた。

それが恋人同士と目線があった時。
相手の見てくれは、女の方は美神と同じぐらいで、
男の方がどうみても年上である。
「あら?貴方達も恋人同士で?」
相手の女性から切り出してきた。
男性の隣にぴたりとひっつき肩には男性の腕が乗っかっている。
こうなると反対の腕は何処にあるのか、
想像してしまう二人である。
「え、私?」
「えぇ、そうよ。バスタオルを頭に巻いてるあなたよ」
「恋人同士って・・」
横島は美神の荷物を持って絶句。
「い、いいえ。私達は恋人同士じゃなくて」
「え?もう結婚してるんかい?」
男の方がとんでもないことを発言する。
「ち、違います。私達姉弟です、ではっ」
軽く会釈してそそくさと別の場所を探す美神令子である。
「あ、待ってくださいよぉ」
横島も後を追っていった。
「あの二人、姉弟なのか?」
「そうねぇ、言われてみれば似てるかもしれないわ」
「そうだなぁ」
他人の勝手な目というのは怖いものである。
「でも、年頃の二人が混浴ねぇ」
「・・・怪しいわね、貴方」
「だよなぁ、あんなの小説か漫画の世界かとおもってたけなぁ」
何を考えているのか、な恋人たちであった。
そんな罪のない嘘をついた二人も何とかマシな場所を見つけて一息ついていた。
「美神さん、姉弟って」
「いいじゃないの!じゃあご主人様と奴隷って言って欲しかったの?」
「いや、それは」
「ならいいじゃないの」
何がいいのか判らない横島であった。
「じゃあ、おねーちゃんって御呼びしますか?」
いい事でも思いついたとばかりにけらけら笑いながらの横島だ。
税所は妙な顔を見せた美神令子であったが。
「・・ふん。それも悪くないわね。じゃあ私は弟って呼べばいいの?」
「それはおかいしいっすよ。多分『忠夫』とか、『タダ』じゃないっすか」
「なるほど。それもそうね」
確かにそうなのである。
年上の兄弟を姉さん、兄さんと呼ぶ事はあるが、弟や妹と面と向かっては言わない。
「じゃあ、『タダちゃん』って呼ぼうかしらねぇ」
ちろりと横島を見て。
「い、いやそれはちょっと、『タダオ』でいいっすよ」
「やだ、『タダちゃん』がいい!」
「やだって・・美神さん」
「って美神さんじゃないでしょ!『おねーちゃん』でしょっ!」
美神令子、意外と乗りやすいタイプである。
横島も関西人の血が騒ぐ。
「わかりましたよーおねーちゃん」
「よし、じゃあ、おねーちゃんの言う事聞いてくれる?」
美神令子ふと目を遠くしにした先にいいものをみつけていた。

「なんですか?みか・・じゃなかったおねーさん」
「うん、あそこでさ、お酒呑んでる人達いるじゃない」
横島も美神の指す先を見ると成る程。日本酒を洗面器に浮かべた風流な団体がいる。
「私も飲みたいから買って来たよ」
「やだっつっても許してくれないっすね。行って来ますよ」
「あ、お金は立て替えれる?」
「・・ちょっと無理っす」
「じゃあ、おねーちゃんのロッカーの鍵、渡すわよ財布は手前に置いてあるから」
手をお湯に沈めて。
「ぱんつとか見たら承知しないからねっ」
そういいながら手で水鉄砲、横島の顔面に直撃した。
「うわっぷ!やめてよぉ。おねーちゃん。じゃあ行って来ますね」
美神から鍵を預かり、一度ロッカーに戻ろうとする。
「あ、タダちゃんの分も買ってきてもいいわよ〜」
一瞬耳を疑った横島、否弟君であった。
「美神さん、っと、おねーちゃん、呑む前から酔っ払ってるんじゃないかなぁ?」
横島も立派に酔っ払っている。
混浴の雰囲気にとでも書いておこう。

さて一人になって、頭に巻いたバスタオルで汗を拭いている美神。
「ふぅ。やっぱ温泉はいいわねぇ〜」
こちらも混浴に慣れたのであろう。
当然、男性についている見たくも無いものがあまり見えないのは幸いだ。
男性も男性で心得ているという事か。
下半身を出すときはタオルを腰に巻いている。
丘に上がったものも何かしらで隠している。
普通は。
だが。温泉でなくてお酒に酔っ払った男はどうであろうか?
そやつは数人の友達と来ていた。
彼らのアルコール耐性は、酔っ払ってもしらふに見えるというところ。
だか、温泉の熱が彼の理性を奪っていた。
そんなのが三人。
目に映るのは一人の美女。
行動は決定している。
「なぁなぁ、おじょーさーん」
こちらにやってくる、それはわかった。だが弟、横島をお使いにやっている美神、
今この場を動く事は出来ない。
幸い酔っ払っているのですばやくは行動できそうにない。
(は、早く戻ってきなさいよ!)
内心慌てていた。

さて横島。既に美神のロッカーをあけている。
「そう。いいか俺。こいつを閉めて、自販に行けばいいんだ」
そう言い聞かせている。でも出来ないのだっ。
健全な男の子。女の子の身に着けているものに興味を示したところでおかしくはない。
あと少しで、脱いだ物が見えそうだというのだ。
諦めて閉めよう。でも。
「ちょ、ちょっとだけなら動かしても
 でも相手はおねーちゃん、じゃない、美神さんだ、ばれる
  でも見たい、手に取らなくてもいいけどでも!でもっ!」
良心と悪心がせめぎあっている。
普段の彼なら裸体の方に目が行くのだが。
逆の真理で、あちらがありふれてると、こちらの身に着けるほうが気になってしまうお年頃なのだ。
可愛く言えばである。
そう迷っていると、がやがやと団体さんがやってきたので。
「あ、やべっ」
急いで財布からお金を抜いて自販に向かっていった。
「日本酒とウイスキーか、どちらにしよーかな?」
以前聞いた話で日本酒は余り好きではないとのこと、でも温泉だけど、どうするか、
そんな事を考えていた。
「俺はウーロン茶にすっか」
ウーロン茶の色は茶色。じゃあウイスキーだ、
そんな方程式が横島の、弟君の頭の中で出来上がったようである。
がちゃんと出てきた缶を二つ手にして横島は露天風呂に戻って行く。
急ぐんだ、弟君!

「ねぇ、ねぇちゃん一人できてるんかい?」
酔ってもまだろれつの回る奴が声をかけてきた。
こんなのに絡まれて好い気のするのはいない。
「違うわよ。弟ときてるの」
あっち行ってと手で振たのがそもそもの間違い。
「うわー、でかいねぇ、ねぇちゃん」
身をよじるが遅かった、ふにっと胸をもまれる感覚。
自分自身ですらそんなに弄らぬ場所を見知らぬ男に触られる。
振った手を返す刀で平手打ち。
湯に浸かったままだと力が出ないので、片手で胸を隠して、
上半身を起こしてである。
これは強烈だ。
頭ごと湯に浸かった男一人。
「な、ブラザーに何しよるかっ!」
酔いも手伝って残りの二人が美神腕を一本づつつるし上げた。
更に上に上げようとするから、おへそから下までお湯から出てくる。
「ちょっと、止めて!大声だすわよっ!」
だが、間の悪い事に近くに人は見当たらない。
「へへ、やってくれたね、ねぇちゃん、お返ししないといけねぇよなぁ」
先ほど頭にお湯の使った奴がお湯の中で不埒にも手を動かして。
「ひ、ひざをさすらないでよ!変態、痴漢!」
大声を出す。
美神令子、基本は強い。だが、根幹の力はそれほどでもない。
男三人では勝ち目がない。
思わず目を瞑って。
「た、たすけてっ!ヨコシマ君」
漸く事に気が付いた複数のカップルがこちらに向かってきている。
中には先ほど美神と横島を姉弟にしたカップルもいる。
そして腕を握っている二人は美神を岩に貼り付ける形にして、もう片方の手で。
「やめてっ!」
さらにぎゅっと目を閉じてしまう。
覚悟なぞは決められない。
どうしよう!
その瞬間。
「てめーら、おねーちゃんになにしやがるんだっ!」
洗面器を武器に岩の上から現れたのが横島である。
弟君も異変にすぐさま気が付いた。
「あれ?美神さんの周りになんで男が・・ってまさか!」
急がねば為るまい、
こうなるとお湯に入るよりも、陸伝いに近くまで行った方が早い。
とっさの判断でちかくまで向かい。岩の上から洗面器の攻撃である。
これには不意をくらった三人。
そして援護とばかりに現れた数人のカップル。
その視線の冷たさで目が覚めたのか、三人はすごすごと何処かへ消えていった。
我に戻った美神も慌ててお湯の中へ身を隠した。

「大丈夫だった?おねーさん?」
先ほど面識のあるカップルが声をかけた。
「えぇ、大丈夫よ。皆さんにもご心配お掛けして・・」
その他の面々も思い思いに心配の声をかけて元の鞘に戻っていった。
「おねーちゃん、大丈夫?」
横島もようやく美神の傍までこれた。
「ま、大した事はないわ。ちょっと慌てたけど」
「ご、ごめんなさい、俺がもう少し早く来れれば」
「・・・まったくよ!」
怒りたいところではあるが、買い物に行かせたのは美神自身。
「おねーちゃんも悪いところはあったわ」
素直に認めるから逆に横島が驚いてしまった。
「で、お酒は買ってきてくれたの?」
「はい、これでいいっすか?」
時に。
このウーロン茶とウイスキーの水割り、同じ会社が出していて一見したら同じ色形である。
二人とも一種の興奮状態であった。
加えて匂いは硫黄の方が強い。
よく見てなかったのが悪い。
美神が口をつけると、
「・・・?何コレウーロン茶じゃないの」
という事は。
「げ!う、ウイスキー!」
呑みなれていない上に温度が高い温泉。
回るのも早い。
「うっぷ、うーん」
なんと二口で潰れてしまった横島である。
「ちょっと、沈むな、しっかりしろっ!」
お湯から顔を出してあわてて横島のほほを叩くが、潰れている。
「ちょっと、お湯から出るわよ!」
立たせようとしてもぐにゃり。
「・・たく、しょうがないわねっ!」
先ほどの勇気はどこへいったのやら、とでもいいたげな美神令子姉さんである。
だらりと垂れた横島の腕を肩にまわして、なるべく温度をあげまいと、
お湯から出して近くの丘へと向かう。
幸か不幸か。
潰れた弟君横島が美神の上半身を隠す形となっている。
密着しているのは当然だ。
そして、丘に上がって横島の下半身だけはタオルで隠して、
「ちょっと、私がわかる?」
「う、うっすー」
なんとか意識は取り戻してきた。
「あ、あのおねーちゃん」
この期に及んで姉弟ごっこを続ける横島も偉大である。
「何?どうしたの?大丈夫?」
「バスタオルで、体隠さないと、不味く、ないっすか?」
「あっ!」
気が付けば、そうである。頭にバスタオルをまいただけで快方していた美神令子。
急いで体を隠してももう遅い。
やや離れた所から揶揄の唇がなっていた。
「・・・混浴なんて、混浴なんて!」
少々痛い目にあった美神令子であった。

ちょうどその頃、湯船の反対側は家族の輪から見える範囲で子供同士遊んでいる団体がいる。
「ねーねー、みてみてー、狐さんとワンちゃんも温泉してる〜」
「ほんとだー。すごーい!」
「私さわってこよーかなー」
「じゃあ、僕も〜」
どうやら子供達のアイドルが誕生しつつあるようだが。
「ぷ。アンタ犬だってさ」
「・・拙者は狼でござるが、いたし方御座らん」
ご主人様の喜劇なぞ、我ら知らずと温泉を楽しんでいた。
夕暮れから闇に変わる寸前、蝉の声が更にけたたましくなっていた。

さて。
これに懲りたと思うのが通例だが。
「また行きたいな〜」
と、忙しくなると美神令子、あの乳白色の広大な混浴露天風呂を思い出すのであった。

FIN

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