ザ・グレート・展開予測ショー

永遠のあなたへ(1)


投稿者名:馬酔木
投稿日時:(00/ 5/15)

「・・・ピエトロ君・・・ピエトロ君・・・」

(・・・)
誰かが自分の名前を呼んでいる。
ピートは霞がかったように半分ぼやけた意識の中で、自分を優しく呼ぶ声を聞いていた。
「ピエトロ君・・・」
日本において、自分の名前をこう呼ばれる事は珍しかった。
ピエトロ、と言う名前は日本人にはかなり馴染みの薄い、発音しにくい名前だ。だから、
よほど公式な場でない限り、日本では皆、自分の事をピートと愛称で呼ぶ。
正式な本名で呼ばれるのは、学校でも珍しい事だった。
(誰だろう・・・)
やけに重く感じられる瞼を開き、ぼんやりと声がする方を見る。
長い黒髪に、白い肌。眼鏡をかけた若い女性。
「ごめんなさいね。効きすぎちゃったかしら?」
(効きすぎる・・・何が・・・って、え!?)
「!」
目の前の女性が全く知らない相手であると認識した直後、意識ははっきりと覚醒した。
がば、とシーツを跳ね上げるようにして飛び起きる。
自分の動きに合わせて目の前を舞った白いシーツを見て、ピートは自分がベッドの上で横になっていたという事に気づいた。
「あ・・・」
不意に飛び起きたピートの、その勢いのよさに、顔を近づけてこちらを覗き込んでいた女性は少し驚かされたようで、吃驚したように目を丸くして少し離れたが、ピートが起き上がったのを見て嬉しそうに顔を綻ばせると、膝でにじるようにしてベッドに近づいて来て言った。
「良かった。目が覚めたのね。ずっとこのままだったらどうしようかと思ってたのよ」
「このまま・・・って・・・」
相手が見知らぬ女性である上、その言っている意味も分からなくて、一瞬、きょとんとする。とりあえず辺りを見回したピートの目に入ったのは、これでもかと言う程に凝りまくったヨーロッパ風の部屋の内装だった。
ほぼ真四角な形をした窓の無い部屋の中には、ビスクドールや古めかしい大きなオルゴール、天使を象った燭台や花が置かれていて、暖炉まである。天井には、シャンデリアの代わりに真ん丸な形をした天窓が付けられていて、花模様のステンドグラスがはめ込まれた
そこからは、柔らかい光が射し込んでいた。
ピートが寝かされているベッドも天蓋付きの立派な物で、ふと自分の格好を見れば、そちらはそちらで三つ揃えに着せ替えられている。
「あ、あの・・・貴方は・・・」
「照れなくても、下着までは替えてないわ。よく似合ってるわよ」
「いえ、そうでなくて・・・」
そもそも、こんな所でどうして三つ揃えを着せられて寝かされていたのかがわからない。
いつどこでどうして眠ってしまったのか(もしくは意識を失ってしまったのか)、覚えは無い。確か、まだ学校から帰って来る途中だった筈だが。
それより何より、どうしてこの人は自分の名前を・・・
唐巣の知人か何かだろうかと考え始めた時、ピートはふと、足首に妙な感触がまとわりついている事に気づいた。
靴下ごしに、冷たい石のような何かが接触しているような、奇妙な感覚を覚えて、ピートはまだ足を覆っていた分のシーツを横にどけて見て−−−今度こそ、本当に驚いた。
足首に、青みがかった透んだ石で出来た鎖が巻きつけられている。
(これは・・・精霊石!?)
鎖は精霊石で出来ており、ピートの魔力を封じているのか、小さな青い光を内に灯して輝いている。
「これは・・・」
「大丈夫。何にも心配要らないのよ」
驚くピートに対して、名も知らぬ黒髪の女性はにっこりと−−−怖いぐらい穏やかに笑うと、ピートの足首を撫でた。女性相手ではあるが、知らない人間に無防備に触らせていると言う事から、本能的な寒気がピートの背中を走る。
それは、穏やかに微笑む女性の笑顔の下に、何かじわじわと燻る暗い炎のような物があるのを感じ取ったからかも知れない。
「私と一緒にいて・・・私も貴方と一緒にいるから。私には貴方が必要なのよ。・・・永遠を持った、貴方が」
ピートの足首に触れながら、女性がにっこりと笑って囁くようにそう言う。
その笑顔の下に潜む薄ら寒いものを感じて−−−ピートは、今度は本能ではなく理性から、この女性への嫌悪感を感じて、身震いした。

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