ザ・グレート・展開予測ショー

『GS美神another story』 NO:2


投稿者名:とらいある
投稿日時:(05/ 1/ 4)

意識が無くならない様に努めるというのは非常にキツイ。弱い毒と
はいえ、毒であることには変わりないのだから。
いくら姉妹で霊気構造が一緒だからとはいえ、毒の種類まで一緒の
訳が無い。ただ血清が作れるかそうでないかだけだ。
それに蜂の毒は蛍の持つ毒の何倍も強力なのだ。
でもわかっていた事だからこそ対策も取れた。首筋に手が添えられ
た瞬間、何をされるのか分かっていたので、体内の抗体を精製し少
しでもダメージが小さくなるよう努力した。入り込んだ
毒を少しでも喰い止めようと霊力を解毒に回すが、もはや限界だっ
た。手足は痺れ、頭も朦朧とする。
霞んでいく視界。しかし完全に瞼が閉じてしまうその前に、意識を
完全に手放してしまうその前に、瞼の裏で幻を見た。
――――――――夕日、そして夕日をバックに立つ人物。逆光のた
め表情は勿論、顔も見えない。だがそれが誰なのか
自分にはよく分かる。そう・・・彼は・・・

『夕焼けなんか百回でも二百回でも一緒に・・・』

語りかけてくる声は、聞き間違えようが無いくらい優しく・・・

『俺にホレたんなら、信じろ!!』

力づけてくれる言葉に、根拠も無いのに勇気づけられ・・・

『必ず迎えに行くから・・・だから・・・』

嗚呼・・・そうだ・・・彼は・・・

『待っててくれ・・・』

私の・・・愛しい・・・

(ヨコシマ!!)

急速に意識が浮上する。途端、全身の魔力が活性化し、体内の毒を
駆逐していく。閉じかけた瞼を再び開け、朦朧とする頭を振るい、
上体を起こす努力をする。頭の中の靄が晴れるにつれ、一刻を争う
事態であることを再認識させられる。

(急がなくては、手遅れにならない内に)

毒による痺れと倦怠感が残る中、必死になって立ち上がる。まだ飛
ぶことは出来そうに無い。手先・足先が痺れる体に鞭を打ち、二人
が消えていったであろう森の中へと体を引き摺るようにして進んで
いった。
 

    ――――『GS美神another story』 NO:2――――

「くっ」

手を下してすぐ分かった、こいつは偽者だと。手応えも感じたがそ
れは霊気そのものを斬ったような感触だったからだ。事実、首が切
り落とされたにもかかわらず切断面からは血液が一滴も零れていない。
すぐさま空いていた左手で霊波砲を撃つ、たいして溜めなかったため
威力はさほど無いのだが胴体に巨大な風穴をあける横島モドキ。
すると目の前で横島モドキの姿が霞のごとく消え失せ、後には『偽』
の文字が浮かんだ硝子玉のようなものが残されていた。
それには見覚えがあった。それはポチを攫うきっかけになった病院襲撃の時、
ポチが自分達に向け投げつけ攻撃してきた時のと一緒だったからだ。

「・・・やってくれるじゃないか」

相手を甘く見すぎていた自分を叱咤しつつ周囲に目を凝らす。まだそう
遠くへは行ってない筈だ。
だが夜の闇は深く、余り遠くまで見渡せない。浮遊して捜そうにも闇のため
恐らく無駄であろう。

(いっそ周囲ごと吹き飛ばしてくれようか)

荒っぽい方法も思いついたが、すぐさま頭の中で否定する。派手なことを
やらかせば、その音を聞きつけ人間共がやってくるかもしれない。
仮に周囲の森ごと吹き飛ばした後に出奔しようにも、潜伏の目的の
逆天号の修復は未だ終わっていない。必要最小限の自己修復が完了するまで、
明後日の朝まではどうしても時間がかかる。
それまでは何とかバレずにここに潜伏していたい。

「パピリオは駄目だから土偶羅でも叩き起こして一緒に捜させるとするか」

上司を上司とも思わぬような事を考えついたべスパは一旦屋敷の方へと
足を向ける。だが振り返ったその刹那、視界の外の左後方の茂みから何かが
飛び出してきたのを感じた。咄嗟の事態に、左腕で自分に向けられた攻撃を
防ぐしか方法が無かった。飛び出してきた何かが左腕に接触した瞬間、
小規模な爆発がおきその爆発によりよろけてしまう。時間を置かず、
何者かが低い姿勢から自分の懐の中に潜り込もうとしてきたが、
爆発による痺れが残る左腕を横に薙ぎ撃退する。

”突っ込んできた何者か”は、かわす事が出来なかったらしく後に吹っ飛ばされた。
左腕の状態を確認してみる。暗闇のため詳しく確認できないが
傷らしい傷は無いみたいだ。爆発による軽い打撲と痺れ程度であろう。
さほど痛くもない。
しかしべスパは傷の痛みよりも、血を沸かせてくるものを感じていた。

「ふふふ、そうこなくてはな・・・ヨコシマ!」

体の中が熱くなるようなものを感じつつ、横島が吹っ飛んでいった方向へと
向かっていった。



(う〜イテテ、失敗したかな?)

吹っ飛ばされ、木に叩きつけられた時に受けた痛みを堪えながら、なんとか
上体を起こし胡坐をかきつつ考えてみる。
しかしそれは攻撃の効果そのものより、攻撃をした行為そのものに対して
の疑問だった。

(やっぱ仕掛けないで、あのまま逃げてりゃ良かったかな?) 

だが先程の呟きを聞いていたところ土偶羅を使って自分を捜させるという、
土偶羅は性格はともかく能力(性能?)は良い。
言葉からすると、探査能力も備わっているのかもしれない。べスパが屋敷
に戻って土偶羅を叩き起こすまでの短い時間では、あまり遠くまで
逃れることなど出来やしない。だから何としてもべスパを身動きの取れない
状態にして遠くまで逃れる時間を得なくてはならない。先程も
何の考えもなしに仕掛けた訳ではない。

攻撃が終わり屋敷へと足を向け、周囲への注意を逸らしていたあの瞬間を
狙うのが得策かと思われた。
それに、それなりの勝算はあった。まずべスパが振り返った瞬間の
隙を突いて死角になる位置からサイキックソーサーを投擲する。
しかしそれはダメージそのものよりも着弾時の爆圧・爆風の効果を
狙ったものである。相手が体勢を整える前に懐に入り込みサイキック猫だましを
炸裂させ視覚・聴覚を麻痺させる。たじろいでいる隙に『眠』の文殊を発動させ
昏倒させる・・・が予定であった。

(ソーサーの効果がほとんど無かった。威力をもっと上げるべき
だったかな?・・・やっぱケチらず文殊使っときゃ良かったな〜)

と今更ながら悔やむ。本当は懐に潜り込まず『閃』の文殊を使う
という選択肢も有ったのだがサングラスなど持ち合わせていなかった、
事、なにより雇い主である美神令子の方針の”文殊の使用規制”の為、
どうも使用を手控えてしまう。これもある意味教育の賜物と言える
のであろうか。ペットとして攫われ今日に至るまで食糧事情はともかく、
肉体の使役しか無かった為それなりの数の文殊が
ストックできていた。とりあえず文殊の残数を確認しようとしたところで、
濃密な弾幕を形成した霊波砲が襲い掛かってきた。

「やべっ」

とりあえずその場から脱出し攻撃をかわす。回避し切れなかった攻撃は
サイキックソーサーを展開して避ける。
溜めも収束も殆ど成されていない連続して放たれた霊波砲にもかかわらず、その攻撃は横島にとって重くそして鋭い。
直撃を避けるように霊波砲の軸をずらして対処するが、
攻撃を受け流すにつれソーサーの表面は抉られ細かな罅も入りはじめる。
あわてて霊力を回し持ち直させるが、そこにべスパが接近戦を仕掛けてきた。
べスパが繰り出してきた手刀をソーサーで受け止めようとしたが、
手刀は易々とソーサーを切り裂き横島の掌を傷つける。ソーサーで
防げないと判断した横島は傷ついた左手の痛みに堪えつつ、右手に
ハンド・オブ・グローリーを発現させべスパの手刀と剣戟を交す。
流石のべスパも、手刀と剣のリーチの不利を悟り、一旦下がって再び
連続して霊波砲を放つ。横島はその攻撃に咄嗟に反応できず横に転がり
かわす事しか出来なかった。急いで文殊を取り出しそれに『爆』
の念を込めてべスパに向かって放る。べスパと横島の居る丁度真ん中あたりで
文殊は発動し、激しい爆発が起き周囲の木々を薙ぎ倒す。爆発による
煙により視界が一気に悪くなり、霊波砲の弾幕も収まる。
横島は霊波砲の弾幕が収まると森の奥へと駆け出していった。

(ヤバイ・・・冗談抜きでヤバイ)

先程の攻防を思い返し圧倒的な戦闘力の差に焦燥感を募らせる。
サイキックソーサーは霊波砲は防げたものの、直接攻撃は全く防げなかった。
一方ハンド・オブ・グローリーなら切り結ぶことで防げるものの、
性能上次々と襲い掛かってくる霊波砲を防ぐ事はできないべスパには
防御中心では『眠』の文殊を叩き込む隙など、とてもじゃないが作り
出せない。なんとか攻め込まないことにはどうしようもないのだが、
防御の要のサイキックソーサーは呆気なく破られた。
右手にグローリー左手にソーサーといった同時展開は出来るには出来るが、
ソーサーの出力は当然先程より落ちてしまう。収束されていない
霊波砲を1〜2発耐えれる自信はあるがそれ以上となると全く
自信がない。そもそもソーサーのみの時ですら直撃には耐えられそうも
無かったから受け流すようにしていたのだ。一旦呼吸を整えるため
立ち止まる。息を荒げながら後方を確認するが、べスパはまだ追って来てい
ないようだった。

(防御。強力な霊波砲をものともしない程の強力な・・・結界)

そういって何時でも使えるようにと取り出しておいた手の中の
文殊を見やる。だいぶ前、文殊を手にしたての頃、美神に命を狙う
魔族・デミアンの攻撃から美神を守るために発動した結界。それは
美神を含む半径2〜3mを完全に護った結界であった。文殊を
中心に具現化したあの結界なら、結界に護られながらの移動も可能
であろう。しかし・・・

(あれじゃ薄すぎる!)

圧縮された霊力の塊の文殊でも半径2〜3mを護る結界を形成
すると、それだけ満遍なく霊力が振り分けられるため当然薄くなる。
あの時の防御力も、おそらく先程のソーサーと同程度かそれ以下
であるだろう。あの時より霊力がどのくらい上がったか自分では
判らないが少なくとも『強力な霊波砲をものともしない程の強力
な結界』には程遠いだろう。

(圧縮された霊力を分散させず一点集中させた、必要最小限の
面積の結界。さながら盾のような・・・)

そこで横島は、はっとなった。文殊の残存数を数え、手の中の
文殊をじっと見つめる。今までイメージしてきたことを次々と実現
させて見せた(一部例外があるが)さながら魔法の珠はあと9つ。
要はイメージだ。深く鮮明に思い描けば、その分色濃く反映される。
横島は手の中の文殊を握り締め、頭の中で思い描く。自身、実物を
手に触れた事も間近で見た事も無い。あくまで想像である。
だが掌の文殊は横島のイメージ通りに形を変えていった。



一方、爆発が収まった跡地に佇むべスパの方も血湧き肉踊る思いだった。
麻酔特有の倦怠感により今ひとつ力が出ないが、それでも
圧倒的な実力差であることには変わりが無い。にもかかわらず
自分の攻撃を全て捌いていた、人間離れした反応と回避能力。この世
に生を受けてまだ幾ばくも無い自分の身を襲う、内側から焦がすような
情熱と高揚感。魔族本来の闘争本能がべスパの心を焦がしていた。
だが頭の中は意外と冷静でいれた。盾の様な物を手刀で叩き斬った時、
気づいた。先程の連続して放った霊波砲は収束が甘かったから
弾かれたが、多少収束させた霊波砲なら2〜3発当てただけで簡単に
破れるだろう。となると横島が取る行動として考えられるのは攻勢。
一旦自分から離れたのは攻撃のための布石だろう。

(私を失望させないでくれよ・・・)

心躍るものを感じながら、横島に向かってゆっくりと歩を進めていった。

(形は安定した、後は何処まで持ってくれるか)

半ば物質化したそれを、手で撫でながら横島は思う。左前腕に
装着されたかの様に具現化された、磨き上げられた鏡のような光沢を放つ
楕円形状の盾。上半身をすっぽりと覆うくらいに具現化されたそれは、
中世の騎士達が我が身を護るために使用した盾のようにも見える。
霊力の塊にもかかわらず感じる程よい重量感。
そして何より、安心感を与えてくれる程、濃縮された『護』
の属性の霊力。デミアンの一撃から美神を護った同じ『盾』
の文殊とは比べ物にならない位の出力。

(これならいけるかも、あとは・・・)

右手にハンド・オブ・グローリーを展開する。全ての霊力を右手
に集中できるため、攻撃にも専念できる。ハンド・オブ・グローリー
を鉤爪状にして固定させ、左手にある文殊を確認する。

(あとは、やるだけやってやる!ルシオラとの約束の為にも・・・
ここで死んでたまるかっ!)

心の中で強く唱えべスパを迎え撃つべく、もと来た道を戻っていった。
雲に隠れていた月は、何時の間にか顔を出し森の中を、薄っすら
と照らす。横島は、駆け出しているときよく転ばなかったものだなぁ
と自分を感心する。それ程森の中は鬱蒼としていた。しばらく
進むと正面から近づいてくるものがいる。間違いなくべスパだ。
横島は足を止め、臨戦態勢でべスパを迎え撃つ。べスパもこちらに
気づいたようだが、特に何もせずに接近して来る。べスパと横島は
半ば相対した形で対峙した。一歩も動かぬ両者、辺りを不気味な沈黙が
覆う。先に言葉を発したのは横島だった。

「俺はさ、冴えない奴でさ。女の人を見ると見境無く飛びつくような
奴なんだ。そんなんだから、ルシオラに告白されるまで一度も
もてた試しなんて無かったんだ」

俯き加減で自嘲気味に語る横島と、それを黙って聞いているべスパ。

「初めてだったんだ、好きだと言われたの。始めはヤれるなんて
浮かれていた俺も、ルシオラが自分の命を捨ててでも俺への想いを
証明しようとしたのを見て、自分がいかに情けないのかってのが
判ったんだ」

顔を上げる横島。そこには色欲を切り離した、一人の”男”の顔があった。

「ルシオラが見せてくれた覚悟、そして俺への期待。
それを裏切らない為にも、俺は生き延びる!」

意識した訳ではないが、右手のハンド・オブ・グローリーの
出力が一層高まる。そんな様子をべスパは目を細めながら見つめ、やがて
言葉を紡ぎだした。

「正直、私は最初疑問を感じたよ。ルシオラは、こんな男の
どこが良いんだか、と。アシュ様を裏切り、自分の命を投げ打ってまで
なんでこの男に拘るのか、と」

べスパは横島の目をじっと見つめている。横島もそれに答えるように
べスパの目を見つめ返す。相互の距離はおよそ15m、さながら
決闘場のような様相を晒していた。そんな緊張の続く中、べスパは
更に言葉を紡ぐ。

「パピリオに関してもそうだ。あいつは最近、視界の隅でいつも
お前のことを捜している。そしてお前に喜んでもらおうと健気に
頑張っている。たかがペット相手に異常だと思わないかい?」

横島は、パピリオからデザインはともかく、手作りの服を貰った事を
思い出す。食事に関しても初めこそ腐った肉など出されていたが、
それは人間の食べるものが良く分かっていなかったからだった。
事実、さり気無く好物を言ったその日の食事に、好物が大量に餌として
出された。尤も、3食ともそれで嫌気が差したが。

「信じられなかった、私達姉妹の絆がお前の存在一つによって酷く
不安定になったいう事実を。生みの親であるアシュ様を裏切ってでも
添い遂げようとするその覚悟を。諸悪の根源はヨコシマ!お前だ!」

そう言ってべスパは奥歯を強く噛み締める。ギリっと奥歯が軋む音がした。
べスパの視線が厳しいものになっていく。殺気が辺りを包みだした。
両手に霊力が集まっている

「普段のおちゃらけた様子のお前がまさかここまでやるとは
思ってもみなかったが、だがここで決着をつけてやる。お前が
ルシオラの奴が好きになった男というのであれば、最後まで
足掻いて見せろ!」

そう叫び、両手を前方に翳し横島に向けて2発の霊波砲を放った。







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あけましておめでとうございます。今年も宜しくお願いします
(と言っても、去年の末ポッと出たばかりなんですけどね)
1話での皆さんのコメントを見る限り、横島死亡イベント
(Wizardry風味)を期待されていた方々の期待を裏切ったかな?
なんて思ってます。本来1話で出す筈が結局3話編成となって
しまいました。次回で決着つきます、あと横島クンの運命
も決定付けられます。遅筆で申し訳ないです。ネタの続く限り
2〜3日に一回の更新でやっていきたいと思っておりますので、
宜しくお願いします。
では、また。






















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