ザ・グレート・展開予測ショー

存在理由ー後編ー


投稿者名:蒼空
投稿日時:(05/ 1/ 3)

初めは、パピリオのペットだったこと。
その次は、丁稚。
媚びを売り、ビクビクしてすごす毎日。
ルシオラ達の寿命が一年だと知ったこと。
味方だった筈の人類に裏切られ、ルシオラと恋仲になったこと。
ルシオラに、アシュタロスを倒すと誓ったこと。
ルシオラとの、短かったが、幸せな日常。
幸せな日常が終わり、ルシオラの死。

横島がそこまで話、事情を知る者が終わりだと思ったが、続きがあった。
それは、”摸”の文珠で知った、アシュタロスの想い。
それは、絶望。
それは、失望。
それは、怒り。
それは、嘆き。
それは、希望。
西条も美知恵も、初めて知った、アシュタロスの想い。
美神達も、涙を流している。
横島は、無表情。
ただ今の時刻、11時。
しばらく沈黙が場を支配したが、横島がそれを破った。

「・・・隊長。気づいてるんですか?」

それは、問いかけというより、確認。

「ええ。あなた・・・横島君じゃないわね?」

美知恵の言葉に、西条と横島以外が驚く。

「正確には、横島くんであって、横島君ではないのね?」
「ママ。どういうこと?」

美神の問いに、横島が答える。

「僕が説明するよ」

横島の口調が変わる。

「僕は、横島忠雄であり、横島忠雄じゃないんだ」
「だから、どういうことよ!」
「二重人格に近い状態かな?正確には違うけどね」

淡々と話すヨコシマ。
そんなヨコシマを見る美神達の目は、疑い。
ヨコシマの、説明という独白が続く。
ほんの少しの悲しみを込めて。

「僕は、ルシオラと横島忠雄の子供のような者なんだ。
ルシオラの霊基構造と横島忠雄の霊基構造が混ざり、人間でも魔族でもない者。
それが僕だ。なぜそれに自我ができ、表に出てきたのかはわからない。
でも、確かに僕は存在するんだ」

ヨコシマの独白が終わり、皆黙り込む。
美知恵も西条も、ここまではわからなかったようだ。
ただ今の時刻、11時30分。

「横島君は、どうしたの?」

美神が、恐る恐る聞く。
そんな美神に、ヨコシマは笑顔で答える。

「大丈夫。もうすぐ戻ってくるよ。
生きる強さをもってね」

次に、美知恵が話し掛ける。

「ねぇ、なぜそれを私達に話すの?それに、なぜ令子達は気づかなかったの?」

美知恵の問いに、ヨコシマは話そうかどうか迷い、結局はなすことにしたらしい。
ただ今の時刻、11時45分。

「なぜ気づかなかったかというと、僕は何もしていない。
ただ、以前のままの態度を取っただけ。
美神さん達は、以前の生活に戻りたいと想いが強すぎたから気づかなかったんだ。
ほんの少しの違和感を。シロとタマモは、あの戦いを知らなかったしね。」

「それと、なぜ話すか。それは、気づいて欲しかったのかな?本当は。
そして、お礼を言いたかった。
人間としての生活。僕を”いる”と接してくれた。
たとえ、それが横島忠雄に対してでも、うれしかったんだ。
・・・最後になったけど、ありがとう。そして・・・さようなら」

その言葉限りで、ヨコシマは消え、横島が戻った。
ただ今の時刻、0時01分。


翌日。横島が目を覚まし、ヨコシマのことについて話し合いがなされた。

「ママ。結局、あいつはなんだったの?」
「・・・おれが話します」
「横島君?」

横島に、皆の注目が集まる。

「あいつは・・・なんて言ってましたか?」
「横島君の子供の様な存在と言っていたわね」

美知恵が簡単に教える。

「そうですか。確かに、あいつは俺とルシオラの子供ですね。
子供と言っても、俺とルシオラの魂が混ざり合って生まれた者ですけどね」

「魂の融合部分?でも、なんで自我を持っていたのかしら?
それに、なぜ表に出てきたの?」

「順を追って説明します。まず、なぜ自我を持ったのか?
それは、俺が生み出したも同然です」

「どうゆうこと?」

「二重人格者の人って、究極的には現実逃避の果てですよね?
この苦痛を受けてるのは自分じゃない。そう思い込みすぎ、違う人格を作りだす。
俺の場合、悲しみという苦痛から、逃げたんですよ」

「それとどういう関係があるの?」

「肝心なのはここからです。
悲しみから、俺は逃げたんですが、その時には既に俺の霊基構造とルシオラの霊基構造は融合を始めていました。
その時の俺は、逃げ出しながらも、ルシオラとの約束を守りたかった。
いつまでも、俺は俺のままで。逃げ出したくせに勝手ですよね?
でも、おれは守りたかった。ルシオラとの、最後の約束だから。
その俺の身勝手のせいで、あいつが生まれたんです」

もう誰も、口を挟もうとはしなかった。

「そして俺は、意識の海の底にいる時、ルシオラの声が聞こえたんです。
何を話したとかは覚えてませんが、とても大事なことだったと思います。
で、気がついたらここにいたんです」

「て、何にも分かってないんじゃない!!」

美神の怒声が響く。が、

「いいえ。俺が戻ってきた時、あいつの想いと記憶も受け継ぎました。
だからわかります。あいつの喜びと苦悩が」

横島から伝えられたヨコシマの想いは、まるで蛍の光のようだった。
始め、なぜ自分が生まれたのかわからなかった。
知っているが知らない、友人知人。
かつての横島を演じたのは、本能ともいうべきもの。
皆は横島として接したが、それがうれしかったこと。
とても楽しかったこと。
だんだんと横島の心が回復し、自分が消えるのも近いことを理解したこと。

「あいつは、自分の存在理由をこう思ってました。
『俺(横島)が戻るまで、かつての俺(横島)を演じること』
そして消えるとき、そのことに、満足してたんです」

最後は涙声になりながら続けた。

「皆、楽しかった。ありがとうって」

その後は、もう言葉にならなかった。


その日の夜。
身内だけの横島帰還とヨコシマへの感謝の宴が終わり
横島は美神に話し掛けていた。

「美神さん。ご迷惑をおかけしました。
そして、これからもよろしくお願いします」

横島は美神に頭を下げる。
美神は微笑みながら言う。

「明日からまたガンガン稼ぐわよ!」
「はい!!」




ー後書きー
前編から遅くなりました。
一応、矛盾などないよう努力しましたが
もしありましたら指摘下さい。

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