ザ・グレート・展開予測ショー

もう一つの結末(その6)


投稿者名:金物屋
投稿日時:(05/ 1/ 3)


腹の虫が鳴り出した。

「う〜、今朝のおかずは何だろな〜」

ザンス国王の来日に絡んだ陰謀のゴタゴタで美神さんの脱税が発覚し、しばらく俺への八つ当たりが激しかった。
ようやく機嫌も直ってきたようだし、今日は朝からおキヌちゃんの料理目当てに事務所に足を運んでいる。

「やっぱりおキヌちゃんの料理は美味いよな〜」

事務所にいなくとも時々小鳩ちゃんが料理を差し入れしてくれる。
おキヌちゃんとは味付けの傾向が違うけど負けず劣らずの美味しさだ。
でも貧乏な小鳩ちゃんにいつも恵んでもらうってのは男として格好悪い。
てな訳で美神さん持ちのダダ飯をいただきましょ〜

スキップしながら勢いよく事務所の中に上がり込む。

「おはようございま…って、あれ?2人とも何で玄関につっ立っているスか?」

玄関では何故か美神さんとおキヌちゃんが仁王立ちしていた。
2人とも表情が良く見えないが何やら妙な迫力だ。

(こ、これはヤバい!俺の本能がそう告げているぞ!)

「お邪魔しました〜」

慌てて逃げようとした途端、美神さんに襟を掴まれ引き寄せられた。

「何処へ行こうと言うの、横島クン?」

このパターンは今まで嫌という程体験している。
九割以上の高確率でしばかれコース間違いなしだ。

「み、美神さん!俺が何をしたんスか?(下着ガメたのがバレたのか?コブラの傷がバレたのか?それともアノ日か?)」

思い当たる事を頭の中で反芻する。正直心当たりには事欠かない。

「そのどれでも無いわよ」

げえっ、口に出してしまったのか!?

「そんな小さな事なんか問題にならない程私を傷つけたのよ」

へ?そんな事思い浮かばない。でも美神さんの表情、怒っているだけじゃないような…。

「そんな訳でアンタにはお仕置きフルコースをプレゼントしてあげるわ!」

「嫌じゃ〜!お、おキヌちゃん助けて!美神さんを止めてくれ!」

慌てておキヌちゃんに助けを求めるがおキヌちゃんも美神さんと同じ表情で俺を見てた。
どう見ても助ける気は無さそうで俺は目の前が暗くなる。
それから今まで受けたどのお仕置きよりも過酷なフルコースを受け、この世にありながら地獄をというものを体験させられた。

「…ううううっ、俺まだ生きてんのか?」

殺す気か、と本気で思った程の折檻で俺はボロ雑巾同然だ。
ここまでやられると怒りすら湧く気力も残らない。
動けないでいると今度はおキヌちゃんが近づいてきた。
いつも通りのパターンで、じっとヒーリングしてくれるのを待つ。
ところが今日はいつも通りの展開にはならなかった。

乾いた音が玄関に響く。
一度ではなく二度、三度、四度と連続して続いた。

「今度は私がお仕置きする番です」

何が何だかわからないまま、俺はおキヌちゃんの往復ビンタを喰らい続ける。
痛みは美神さんには及ばないが精神的なショックは非常にでかかった。

「お、おキヌちゃん、俺何かおキヌちゃんを怒らせるような事したっけ?(戸棚のお菓子を食べた事が悪かったのかな?)」

するとおキヌは躊躇い無く頷く。
またしても頬を張られて鋭い痛みが顔面を襲う。

「横島さんは大勢の人を困らせました。私も美神さんも横島さんの我侭にとても怒っています」

声だけで横島にはおキヌの怒りが本物だとわかり竦み上がる。
頭をフル回転させるが該当するような不始末はどうしても思い出せない。

「知らないっ!そんなに大勢に迷惑掛けるような事をしでかした心当たりはないぞっ!堪忍や〜!」

取り乱して許しを請う横島だがおキヌは構わず手を伸ばす。

(…あれ?痛くない、それどころか柔らかくていい匂いが!)

目を閉じて体を固くしながら次の衝撃を待っていた横島が恐る恐る目を開ける。
おキヌが胸の中に居た。
細腕を背中に回し、力の限り抱きついてくる。
顔を埋められた胸からは熱い感触が広がった。

(おキヌちゃんが泣いてる!?)

熱い涙がシャツを濡らして肌に届く。
両手には服を引きちぎりそうな程の力が込められる。
呆然としていた横島は、おキヌの向こうで美神が睨みつけていることに気が付くと慌てておキヌを離そうとした。
しかしおキヌは頑として動こうとしない。

「嫌です!もう放さないでください!」

涙声で懇願されると横島には決して断れない。
ツカツカと近づく美神の足音を聞きながら一歩も動けなかった。

(ああ殺される、でもおキヌちゃんは柔らかいしな〜)

覚悟を決めて拳が飛んでくるのを待つが、美神は横島の横で立ち止まったままだ。

(へ?俺を殴らないなんて美神さん悪いものでも食べたのかな?)

おキヌを抱きしめたまま疑問に思っていると美神はトンッと身体を寄せてきた。

(おキヌちゃんだけずるいわよ…)

自分の気持ちに素直になり、独占は許さないとばかりに行動に出るが横島の方はそれで一気に調子付く。

「おおおおっっ!美神さんもとうとう俺の魅力に気付いたんスね!では早速愛の営みをーーっ!」

煩悩ゲージを振り切って絶叫する横島だが次の瞬間殴り飛ばされて床に転がる。

「ぶべらっ!!」

「この馬鹿!ムードも何もありゃしない!」

何を口走っているのか自分でもわからないまま手を出してしまう。

(しまった!ついいつものクセで!)

慌てて横島に駆け寄ると既に彼はのびていた。

「やっぱり横島さんです、間違いなく戻ってきたんですね」

そんな姿を見ておキヌは再び嗚咽した。

俺は事務所のソファで目を覚ました。
何でこんな所で寝てるんだっけ?
ガンガン痛む頭を押さえて起き上がろうとする。

「そうじゃ!おキヌちゃんと美神さんが俺に抱きついて!」

あの柔らかさを思い出し痛みを忘れて飛び起きた。

「気が付いた?」

ソファの近くで美神さんとおキヌちゃんがこちらを見ていた。
何故かいたわるような眼差しを向けられた気がする。

(あれは夢だったのか?)

あんなおいしいシチュエーションはありえない、しかし体の痛みは本物だ。

(気絶した時見た夢なのか?だとしたら聞いたらまたお仕置きされちまうかも)

聞くに聞けず、ソファに横たわったまま動けない。
すると突然人工幽霊1号の声が響いた。

『オーナー、この建物に急速に接近する存在を感知しました』

「どうやら来たようね、結界の必要は無いわ」

美神さんは落ち着いたままだが俺には何が何だかわからない。
すぐドドドドという地響きが近づき、玄関の扉が開かれた衝撃がここまで伝わってきた。
何かがこの部屋に近づいてくる。
慌てて上体を起こした途端に扉が勢いよく開け放たれた。

「せんせーっ!!」

以前辻斬り事件で出会ったシロだった。
何故か汗まみれで息も荒い彼女が俺を見た途端に飛び込んでくる。

「ぐぶぅ!?」

シロの猛烈な協力なフライングボディプレスを喰らって、俺は再び意識を失いかける。

「会いたかった、会いたかったでござるよ…」

そう言ってシッポを振りながら両手両足でしがみ付かれた。
そのまま顔を舐められるが、俺の意識はだんだん遠くなってゆく。

「締め付けるなーっ!死ぬわーっ!」

こやつの馬鹿力で抱きつかれたら万力で締め付けられるみたいなんじゃ!
白目向いて泡吹いたらやっと力が抜けてきた、あと少しでこの世からおさらばする所だったぞ。
ううっ、体がベトベトする。

「一体どうしたってんだよ、それに随分汗だらけじゃないか」

人狼族の体力は人間とは遥かに上だ。
それは俺が身を持って経験している。
シロがこんなに汗をかくなんて何かあったのか?

「拙者、村から真っ直ぐ走ってきたでござるよ」

「村って、あんな遠くからか!?」

シロの村は二つ程離れた県にある。
そこから全力で走ってきたと聞いて驚いた。
よく見るとシロは泣いていた。
顔は笑っているくせに涙をどんどん流している。
何と声をかけていいのか解らず戸惑っていると突然腕を噛みつかれた。

「うぎゃーっ!!」

「おしおきでござるよ。先生は拙者を苦しめたでござる!」

またしても理不尽な暴力に俺は全く訳がわからない。

「これは小鳩どのの分でござる!」

腕だけじゃなく肩、脛、太ももや尻まであちこちをガブッと噛まれる。
その度に悲鳴をあげるがシロはお構いなしだ。
助けを求めるように美神さんとおキヌちゃんを見ても黙って見ているだけで絶望する。
結局全身十数か所に歯型を付けられてようやく解放された。
今は体を摺り寄せるシロを恨めしげに見るが「当然でござる」と目が言っていた。

「はい、感動の再開はここまで!すぐ出かけるわよ!」

そう言うと美神さんは俺の襟を掴んで有無を言わせず引き摺ってゆく。
コブラのトランクに放り込まれ訳のわからないまま揺れる事数時間。
突然停車するとトランクが開いて放り出された。

「とっとと歩きなさい!」

美神さんに追い立てられて板敷きの道を歩く。
周囲は石ころだらけで両脇にお地蔵さんが大量に並んでいた。
やがて大きな看板が現れたので目を向けてしまう。

「史跡…殺生石?」

すると突然声がかかった。

「遅かったじゃない、待ちくたびれたわ」

声がした方を見ると見知らぬ少女が足を組んで岩の上に座っていた。
金色の髪が9本に結わえられて風に揺れている。
だが記憶をほじくり返しても会った覚えがない。

「どっかで会いましたっけ?」

守備範囲の下だがかなりかわいい部類に入る女の子だ。
釣り目で性格がキツそうな印象を受ける。
みたところ人間じゃないようだが将来が楽しみだな。
女の子は質問には答えずおかしそうに微笑む。

「まあいいわ。私はタマモ、アンタに泣かされた女の一人よ」

いきなりの爆弾発言に俺は慌てて言い訳する。

「知らんっ!これっぽっちも身に覚えがないぞ!」

「…アンタに覚えがなくても、私にはあるのよ」

俺の言う事に全然かまわず、タマモと名乗った女の子は岩から降りて近づいてきた。

「人の苦しみを味わいなさい」

「あじゃーっ!!」

いきなり炎が降りかかって来た。
俺は悲鳴をあげて逃げようとするがシロが前方に立ち塞がって逃げられない。
女の子相手には攻撃できんしどうしろってんじゃ!
美神さんはまたしても助けてくれんし結局黒焦げになるまで追い回された。

「これぐらいで勘弁してあげるわ、これからよろしくね」

またしてもトランクに放り込まれ、逃げられないようシロに担がれてつれてこられた先は妙神山だった。
鬼門が戦いを挑んでくる前に門の方が開き、小竜姫様が姿を見せる。
俺はシロの拘束を振りほどくと小竜姫様に飛び掛った。

「小竜姫様ーっ!神と人間の禁断の恋を成就させましょうーっ!」

って、あれ?
いつもならカウンターを喰らうパターンなのに小竜姫様が身動きしない。
俺はそのまま小竜姫様に抱きついてしまう。

「横島さん」
「ハ、ハイッ」

慌てて小竜姫様から離れると笑顔で言葉が返される。

「わかっているでしょうがお仕置きです」
「やっぱりですか?」

ああ、やっぱりこのパターンか…
でもなんで最初に殴られなかったんだろうか。
小竜姫様柔らかかったからまあいいか。
覚悟を決めると俺は衝撃が来るまでの数瞬の間、先程味わった感触を思い出していた。
本日数回目の地獄巡りが終わった後、俺は美神さん達と談笑する小竜姫様を見詰めている。
それにしてもさっきの小竜姫様はどういうつもりだったのか。
人をからかうような神様でも無いし俺に気がある…なんて有り得んよな。
もしそうだったら可愛い奥さんにしてみたいぞ。
エプロン姿も似合いそうやな〜

「何が似合いそうなのですか?」

気が付くと小竜姫様の顔が驚く程近くに迫ってきていた。
そのあまりもの無防備さに飛び掛るの忘れて体が動かない。
唇が触れるか触れないかというところで小竜姫様が止まる。

「横島さん、私今度は負けないですからね」

そう言って何やら宣言した小竜姫様は微笑んでいる。
もう桜色の唇は離れていた。

「何の事っスか?」

「ふふ、何でもありません」

俺は訳が解らないまま彼女の笑顔に見惚れていた。
やがてつられて俺も笑う。

「何やら妙な雰囲気でござるな」
「本当ですね、修行場とは思えません」
「神様って割にはどんな育ちをすればあんな事ができるんだか」
「横島クンには反省が足りないわね、お仕置き追加しようかしら」

何時の間にか後ろの四人がジト目でこちらを見ていた。
小竜姫様が慌てて俺から距離を取る。
タマモってついさっき出会ったばかりなのに妙に息が合ってるぞ。
しかし美神さんって昨日はいつも通りだったよな?
いきなり知らない女の子に襲われたり妙神山に連れて来られたことといい今日は朝から理不尽な事ばかり起こる。
皆俺が悪いと言うけれど悪い物でも食ったのか?

「聞こえているわよ!」

いつの間にか声に出してしまったらしい。
おかげで再びお仕置きされる羽目になった。
でも殴り方が優しいのは気のせいかな?
何故か解らないがこれからいろんな事が起こる、俺はそういう予感がした。


私は戸惑っていた。
先程突然パピリオが抱き付いてきて泣いている。

「ルシオラちゃん、ルシオラちゃん…」

「パピリオ?どうしちゃったのよ、泣いていたらわからないわよ?」

理由は全く判らないけど今は姉として彼女の涙をただ受け止める。
腕を背中に回し、優しく抱きしめて頭をよしよしと撫でてあげると一層強く抱き付いてきた。
生まれてほんの一月余り、私と同じ歳でもパピリオだけは子供っぽい。
短命を運命付けられているにも関わらず自分を「将来がある」と言っている。
本当はわかっているくせに、いつも明るく振舞っていた。
しばらくの間そのままでいたが、どうやら泣き止んでくれたみたい。

「ごめんでちゅ、ルシオラちゃんと長い間会ってない気がしたんでちゅ」

「何言っているの?昨日会ったばかりなのよ?」

正直パピリオの言っている事がわからなかった。
でもこの涙と喜びは本物だと断言できる。

「夢を見てたんでちゅ、ルシオラちゃんだけが世界に居なくなった夢でちゅ」

夢というけど、パピリオの言葉には含みがある気がした。
でも今は聞かないでおこう。
必要な時に話してくれるのを待てばいい。
やがて体が離れるとパピリオが一転して強い調子でお願いを言い出した。

「私、日本に行きたいでちゅ」

「日本?随分遠いわね、そんな所に行きたいなんて何か理由があるの?」

ここは南米大陸の秘密基地、日本とは地球の反対にあたる場所なので驚く。
でもその表情はとても真剣で、本気で行きたがっているのが伝わってきた。

「面白い人間を見つけたんでちゅ、絶対ルシオラちゃんも気に入るでちゅよ!」

パピリオはそう行って私の手を引く。
一緒について来て欲しいということだろう。

「パピリオ、今はとても大事な時だとわかっているの?遊びたいのなら近くで我慢しなさい」

アシュ様の計画実行まで後僅かとなり作戦準備も大詰めだ。
特に私は兵鬼関係の調整をしなければならないからとても手が離せない。
けれどパピリオは全然言う事を聞きそうなかった。

「こう言ったらパピリオは聞かないぞ?」

いつの間にやって来たベスパが諦めるんだな、と促した。

「絶対問題起こさないと約束するでちゅ!遊びに行くだけでちゅよ」

「…しょうがないわね、でも私に会わせたい奴ってどんな人間なの?」

やはり妹の頼みは断れない。
それに人間に興味を持ったという事に驚いた。
するとパピリオはじっと私の顔を見つめている。

「と〜ってもバカで、と〜っても優しい人でちゅ!」

そう言い切るパピリオの笑顔は初めて見るほど輝いていた。
彼女にこんな笑顔をさせる人間とはどんな人なのだろうか?
私はまだ見ぬその人に早く会ってみたい、と思った。





後書き

この作品は元々「ある一つの結末」を構想中に、以前より考えていた横島死亡ネタを書きたいという意欲と
「美神等横島以外のメンバー逆行」の構想が結びついて出来上がりました。
当初逆行するのは美神だけかおキヌを加えて2人の予定でしたが書き進めるうちに6人になりました。
設定に幾つか原作との違いがあるかもしれませんが勘弁してください。
内容がアレですので分割して投稿できず、最後まで完成後に一括して投稿することにしました。

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