ザ・グレート・展開予測ショー

もう一つの結末(その5)


投稿者名:金物屋
投稿日時:(05/ 1/ 3)

一方、シロタマの方はパピリオと対戦ゲームの真っ最中だった。

「ようやく操作を覚えたでござる!これ以上負ける訳にはいかないでござるーっ!」

コントローラーを握り締め、興奮してボタンを連打するシロ。

「甘いでちゅ!これで終わりでちゅよ!」

パピリオがコンボ技を決めるとシロの操る選手のライフゲージが一気に下がる。
シロの絶叫とパピリオの雄叫びがスピーカーから発せられるBGMを掻き消した。

「馬鹿犬、嫌がっていた割には夢中じゃない」

コントローラーを独占され蚊帳の外になったタマモが詰まらなさそうに呟いた。
ここはパピリオの私室。
敷地の割に人が少ない妙神山だけあって、今居る居住用の建物は普段小竜姫とパピリオだけで使っていた。
再建した時に以前より大きな建物ができたそうで、必要以上の広さがある。
必要な時は襖で区切って複数の部屋を作るらしいが、今はパピリオの一人部屋だ。
隅っこにテレビとゲーム機が置かれているが、部屋の反対を見るとタマモにも使い道が予想できないガラクタが積まれている。
他人のゲーム画面を見てもしょうがないので暇潰しのつもりでいくつか手に取ってみた。

「これ、首輪?」

こんな頑丈そうな輪っかが必要な動物とは何だろうか、と一瞬考えたがどうでもいいので放り投げる。
手近な箱を開けてみると図鑑で見ただけの魔獣の爪やら牙やら毛皮やらが詰まっており思わず震えが来た。

「それは以前飼ってたペットの思い出の品でちゅ。今は放してあげたでちゅよ」

画面を見ながらパピリオが喋る。

「ち、ちょっと、私は飼われるのは御免よ」

小竜姫もいるしそんな事はしないだろう、と解っていてもつい後さずってしまう。
途端足を何かにぶつけたのだろう、私は急にバランスを失ってガラクタに背中からダイビングする羽目になった。
背中に伝わる衝撃の後、乱雑に積んでいた荷物が崩れ派手な音を立てて私の上に落ちてくる。
不覚!こんなキャラは横島の役割なのに!

「痛〜い」

ガラクタが頭に当たり痛がっていると馬鹿犬がしてやったりという顔でこちらを見ていた。

「ははははっ!女狐がこけたでござる!」
「まあ私でもたまには失敗もあるわよ」

高笑いする馬鹿犬には心の中でムッとするが表情に出すことなく、あくまでクールに振舞った。

(格好悪い所を見られたわね、でもこいつが笑うのは久しぶりだしいいか)

私はよっこらせと起き上がろうとしたが、ふと鼻腔に飛び込む微かな匂いに気が付き体が止まる。
崩れた荷物の奥の方から漂う匂いは非常に微かだが間違えよう無くあの男のもの。
私が気付くということは当然馬鹿犬にも解る訳で。

高笑いしていたシロの体がビクリ、と震える。
握っていたコントローラーを放り出すと目を驚愕で見開いたまま床を蹴って荷物の山に飛び付いた。
何が入っているのか解らないドラム缶を片手だけですくい上げ脇の壁に投げつける。
シロは必死の形相で一抱えもあるガラクタを掴み、投げ、蹴り飛ばしながら匂いの元に向かって行く。

「な、何するんでちゅか!止めるでちゅ!」

パピリオが慌ててシロに掴みかかるが、信じられない力でパピリオを振りほどきガラクタを掻き分け続ける。
何度もパピリオが腕を掴んだり背中を引っ張ったりするがその度に跳ね飛ばされた。
馬鹿力で放り投げられたガラクタが部屋中に散らばってゆく。

「一体何の騒ぎよ!」

騒ぎを聞きつけて美神とおキヌが部屋に駆け込んでくる。
部屋の惨状に驚いたがシロは全く意に介さない。
嗅ぎつけた匂いの元を求めながらただ叫んだ。

「先生の匂いがするでござるー!!」

その言葉に2人は驚愕の表情を浮かべシロと一緒になって掻き分ける。
タマモは美神とおキヌがあんな表情をするのを始めて見た。
やがて辿り着いた匂いの源にあったのは大きめの箱。
シロが飛び付いて開けると中には特撮で使うような衣装が入っていた。
それを見た美神とおキヌは失望の色を隠せなかった。

「それ、あの時横島君が着ていた衣装よね…」

かって横島がパピリオのペットにされた時着せられた衣装だった。
横島にとっては人類の敵扱いされた記憶が蘇る忌まわしいものである。
彼の匂いがするのは当然だが手掛かりになるものではない。

「いきなり何でちゅか!すぐ離れるでちゅ!」

怒りの声を上げて箱から退かせようとするパピリオだがシロはじっとしたまま動かない。

「…違うでござる」

鼻を鳴らしていたシロが特撮衣装を取り出すと箱の底の方を嗅いでゆく。
途端パピリオの顔色が変わる。

「ここでござる!」

拳を叩きつけると底板が割れ、二重底になっていた空間に黒い箱が置かれていた。
表面には魔法文字で描かれた封印と頑丈な鍵のある中型サイズの箱だった。

「返すでちゅ!」

今度はパピリオが必死の表情で箱を取り返そうとした。
だが箱とパピリオの間に美神、おキヌ、タマモが割って入る。

「パピリオ!この箱は何!」

パピリオは動けなかった。
彼女達の自分を見る目。
美神、おキヌ、シロ、タマモのパピリオに向ける眼差しはもはや友や知り合いに向けるものではなかった。
視線だけで人を射抜けそうな視線が四対、こちら睨みつけてくる
全身が硬直し思考すらまともに働かせられない。
パピリオに開ける気が無いと見るや4人はそのまま箱を壊し始めた。

床に置かれた箱はシロの怪力によって軋みを上げ、美神の振り下ろした神通棍が頑丈な鍵を粉砕する。
施された封印は四人がかりの霊波によっていとも容易く打ち消された。

引き裂かれた箱には折り畳まれた衣服が入っていた。
おキヌが震える手を伸ばして触れてみる。
あの日、彼が着ていた学生服とバンダナがそこにあった。

「横島さん…」

持ち主の名前が口から出た瞬間に様々な感情が全身を吹き抜け涙が次から次へと溢れてくる。
おキヌは服を胸に抱きながら体を折って慟哭した。

見た瞬間解った。
横島さんの大切な物がここにあるということはもう横島さんはいないということ。
そんなはず無い、と強がっても涙は一向に止まらない。

シロは呆然としたまま箱の中身を見詰めている。
彼女も見慣れた師の衣装の一揃い。
もはや顔の一部といってよい程馴染んでいたバンダナにいつも着ていたGジャン、Gパン。
シロ自身も体を摺り寄せて匂いを付けた学生服。
それ以外に彼の大事なものが中にある。
金属製のバイザーは一度だけ見せてもらった恋人の形見。
ケースに収められた霊基片の蛍が淡く輝いている。
添い遂げられなかった2人へのせめてもの心遣いだろうか。
そして服から漂うのは死者の匂い。

間違いなく先生の品で、匂いも間違いなく先生のもので。
死の匂いも…、そんなはず無いでござる!

タマモは強いショックを受けていた。
私は何故こんな気持ちになっているのだろう?
アイツとはただの仕事仲間のはずだ。
それなのに心がこんなにも痛い。
何だ、そうだったのか。
ようやく自分の気持ちに気が付いた。
私、横島の事が好きになってたんだ。


美神だけは唇を噛み締めてじっとしたまま動かない。
今は何かを考えれば確実に溢れ出る感情が爆発する。
頭は一つの事実を告げているがどうしても確かめなければ受け入れられる訳が無い。
逃げ腰の少女に向き直ると拳を握り締めて口を開く。

「説明しなさい、パピリオ」

美神が感情を必死に押さえた低い声で詰問した。
空気が急激に冷えてゆく。
あまりの恐怖に下がろうとしたパピリオの背中が何かにぶつかって停止した。
途端肩に手が置かれ魂までもが凍りつく。
そこに立っていたのは小竜姫だった。

「パピリオ、横島さんは何処」

抑揚の無い、感情を感じられない一言。
だが小竜姫の目はパピリオが見たことが無い程鋭かった。
有無を言わせぬその気迫には魔族の少女すら屈服する。
逃げ場を失ったパピリオはその場に力なく座り込んだ。
顔を伏していたおキヌやシロが一斉にパピリオへ眼光を放つ。
パピリオは全身で感じる見えない力の為に体をぶるりと震わせた。

「ポチは、ポチはもういないでちゅ。あの夜私の前から光になって消えたんでちゅ…」

5人の視線の包囲の輪で縮こまっていたパピリオが消え入りそうな声で真実を告げた。
その言葉の意味は一つだけ、予想された最悪の結末。

「嘘、そんなの嘘よ…」

死を告げられたにも関わらず、美神達にはそんな事実は受け入れられなかった。
だがパピリオがここにきて嘘など言える状態でないのは全員が承知していた。

「だったら何故教えてくれなかったの!」

自分でも気付かないまま美神の頬を涙が伝う。

「ポチはそれを望まなかったんでちゅ!そのまま忘れ去られる事が願いだったから言えなかったんでちゅ…」

パピリオは最後は涙声だった。
魔界に戻ったベスパと別れて以来、ずっと一人で抱え込んできたものが溢れ出した。
いきなり声を張り上げて泣き出してしまう。
遠くでゲームのBGMが響く中、足の踏み場も無い程に散らかった室内を次第に慟哭が満たしてゆく。
ふと泣いていたおキヌが仇を見るような目で霊基片の蛍を睨みつけた。

「私はルシオラさんが憎いです!私はルシオラさんよりずっと前から横島さんを見ていたのに!」
「ルシオラさんは横島さんの心だけではなく、命まで持って行ってしまいました!」
「横島さんを返してください!」

それはおキヌが初めて見せる負の感情だった。
嫉妬と憎悪が込められた言葉に対し、やはり泣いていたパピリオがおキヌを睨んで反論する。

「何でちゅ!そもそもルシオラちゃんがいなければポチも世界も助からなかったんでちゅ!」
「それにルシオラちゃんとポチの事は2人の問題でちゅ!他人は関係ないでちゅ!」
「それなのにルシオラちゃんを責めるんでちゅか!」

無言で睨み合う2人だったがやがては悲しみのまま再び号泣する。

「父上も先生も、大事な人は皆拙者を置いていくでござる…」

拙者はあの事件を知識でしか知らないでござる。
ずっと村で過ごしていて先生の助けになれなかった事が悔しいでござる。
こうなる事がわかっていたならば、あの後ずっと先生の元に留まっているんでござった!

(ルシオラ…、横島の恋人だった女。私の知らない横島の過去)

タマモは自分の目覚めが遅過ぎた事を恨んだ。
初めて会った時から横島の心は彼女のものだった。
勝負すらさせてもらえず勝ち逃げされるなど酷く自分が滑稽に思えた。

「何で私はもっと早く出会えなかったのよ!」

その叫びは空しく響くだけだった。

「横島さん…」

結局私は彼に何ができたのだろう?
横島さんを救えなかったどころか悩みを打ち明けてすらもらえなかった。
最後に見た時まで笑顔を見せていた彼の身体の異変さえ気付けなかった。
あの剣と共に生きてきた日々は何の為にあったのか。
彼よりずっと長く生きてきて、こんなに無力だったなんて。

(この気持ち、どこに持っていけば良いのですか?答えてください、横島さん)

涙がそっと、バンダナに落ちた。

どれ程の時が過ぎたのか、やがて美神は顔を上げた。

「何よアイツ!人の気も知らないで勝手に死ぬなんて!おまけに死んでからも秘密にしろなんてふざけてるわ!」

目を泣き腫らしたまま怒りのボルテージを上げてゆく。
横島の身勝手で自分を含めた多くの人間が振り回された。
千年前に引き続き置いてけぼりにされた悔しさがこみ上げる。

「本気で頭にきたわ!絶対に落とし前を付けさせてやる!」

「…でも先生は死んだのでござるよ」

ぐすっていたシロが呟く。
いかにオカルト技術が発達した世界でも死者を蘇らせるなどできはしない。
傍らのおキヌも死者蘇生を考えたが実際の事例は不完全なゾンビでしか無い事を学院で学んでいた。
第一遺体すら無い現状では考えるだけ無駄だった。

「私は美神令子よ!こんな終わりなんて認めない!」

美神が声を張り上げるが他の5人は沈んだままだ。
構うことなくうなだれる小竜姫の肩を掴んで逆転の手段を口にする。

「小竜姫様、私に掛けられた封印を解いてちょうだい!昔に戻ってアイツをとっちめてやるんだから!」

小竜姫はハッとして顔を上げた。
死者を生き返らせる事はできなくとも歴史を変える方法は残されている。
美神と目が合うと強い決意を込めた瞳が見詰め返してくる。

「そうです!美神さんの時間移動能力があれば横島さんの死を防げます!」

おキヌが希望を見つけて涙を拭う。
だが期待を寄せられた小竜姫は硬い表情のままだ。

「美神さん、私には神としての立場があります。私情で上層部の決定を覆すなど到底許される訳ありません」

淡々と言葉を紡ぐ小竜姫の言葉を美神とおキヌは黙って聞いていた。
一度言葉が途切れ、沈黙。

「…でも、今の私には神としての立場よりも一人の女性として生きてみたい」

小竜姫が笑った。
威厳ある妙神山管理人ではなく、ただ一人の少女として笑顔を浮かべた。

「行きましょう美神さん!行って横島さんに会いたいです!」

その言葉に美神が普段の調子で宣言する。

「厄介なライバル誕生ね、でも横島クンは渡さないわ」
「それは私も同じです!」

3人が笑うと沈痛な雰囲気を漂わせていた部屋の空気が吹き飛ばされる。
事情を飲み込めないシロ、タマモ、パピリオはきょとんとしていたが美神達の様子を見て泣くのを止めた。

「どういう事でござるか?」

シロが尋ねると目に輝きを取り戻したおキヌが説明する。

「美神さんの力で横島君が生きている時まで戻って助けてあげるんです!」

時間移動能力について説明するとシロ達もみるみる明るさを取り戻し始めた。

「そんな事ができるんでござるか!ならば今すぐ助けに行くでござる!」
「正直このままの暮らしには耐えられそうないし、私も行くわ」
「私もポチの事助けたいでちゅ!一緒に連れてってほしいでちゅ!」

シロは興奮して美神に掴みかかりそうな雰囲気だ。
タマモとパピリオも賛同し結局全員が過去に行く事を宣言した。
先程まで泣いていた彼女達は今や希望と決意を胸にして笑っている。
今度こそ望む未来を手に入れると。

「問題はどこまで戻るかよ、一番タイミングの良い時期を探す必要があるわ」

「先生の生きている時で良いでござろう?」

焦るシロを制して美神が戻る時期を考え込む。

「治療法が見つからなければ意味が無いわ、魔族の因子を分離できるならとっくに横島君がルシオラを復活させていた筈よ」

あの戦いの後、皆でルシオラ復活の方法を考えたが転生を待つという結論にしかならなかった事を思い出す。

「なら元々の原因を無くすのが一番となるわ」

つまるところ横島が魔族の因子を取り込む事態が起こらなければ死なずに済む。

(ルシオラ…、アナタと横島クンが出会ったりしなければ)

美神の心中に黒い感情がくすぶり出す。
彼女が居なければ横島に一番近いのは自分達のはずだった。
横島と彼女を引き合わせないようにすれば…
そこで美神は慌てて考えを打ち消した。

(何考えてんの!こんなの美神令子じゃないわよ!)

美神は少し考え込んでいたがようやく結論を出した。

「決めたわ!アシュタロス戦の一ヶ月前。そこまで戻るわよ!」

あまり戻り過ぎるとパピリオが生まれる以前になってしまうから、という事だ。

「もう一度あの戦いをやり直す!横島クンの死の原因を作らせない!」

高らかに宣言する美神に対して横槍が入った。

「美神さん、もう一度戦ってまた勝てるのですか?」

「おキヌちゃん、そんな不安そうな顔はしない」

そう言う美神は全く心配してない。

「アシュタロスが死ぬという大きな時間の流れはまず変わらない筈よ、心配無いわ」

「待つでちゅ!すると私はまた敵として戦うのでちゅか?」
「そこまで戻るのでしたらルシオラちゃんの事も助けたいでちゅ!でも敵味方に別れるのも嫌でちゅ!」

パピリオが戸惑って声を上げた。
戦いをやり直すという事はパピリオとも戦うという事になる。

「パピリオ、あなたがいれば戦いはこちらの有利に進みます。つらいでしょうがそれがあなたの役割なのです」

「でもルシオラちゃん、ベスパちゃんを騙すのは気が引けるでちゅ…」

「姉を裏切りなさいと言っているのではありません、皆が幸せになる方向へ導くと思ってみたらどうですか?」

師匠だけあって小竜姫は威厳ある物言いでパピリオの気持ちを落ち着かせる。

「いざという時はこれを使いなさい」

そう言って小竜姫がパピリオに渡したのは霊基片の蛍だった。

「過去のルシオラがこれを吸収すれば記憶も受け継がれると思います、但し最初から使うのは止めた方がいいでょう」

「何故でしゅか?初めからルシオラちゃんに協力してもらう訳にはいかないんでちゅか?」

しかし小竜姫は首を振った。

「戻ってすぐルシオラに霊基片を渡したとしても任務に疑問を持たない時点の彼女は本能的に記憶を拒む恐れがあるんです」

最悪人格崩壊する可能性がある、と言われてパピリオも引き下がる。

「そうなんでちゅか…。じゃあポチと仲良くなるまでは成り行きに任せるしかないんでちゅね」

「今度はこっちも体勢を整えるから随分違った展開になるわよ」

味方を大勢得て美神はあくまで強気だ。

「何を言っているんでちゅか、私も負けないでちゅよ!」

つられて返してしまうパピリオを慌てて小竜姫達が諌める。

「パピリオ!違うでしょう、美神さんも落ち着いて」

「う、ごめんでちゅ。つい熱くなってしまったでちゅ」

今度はおキヌが手を上げた。

「他にも何人か頼りになる人を連れて行くべきじゃないんですか?」

しかし美神の返事は否定的だった。

「6人というのは私の能力でギリギリだと思うの、龍神の武具の助けを借りたとしてもこれ以上は無理だと思うわ」

「ところで過去の自分に私達は未来から来ました、とでも名乗り出て協力を求めるの?」

タマモが過去での行動方針について質問する。

「馬鹿犬が二匹になるとずいぶん騒がしくなりそうだし」
「拙者は狼でござる!」

いつもの反論をするシロは置いといて、美神が2人というのは小竜姫にとっても手に余りそうだ。
思わず引いてしまう他メンバーに美神の眉毛が不機嫌そうにヒクヒクと動く。

「あんたらねぇ…」

それでも気を取り直し説明する。

「以前中世で過去に戻った時、記憶はそのままで過去の同じ時間に戻れたわ!タマモの言うような事は無いはずよ」

美神は中世で横島が一度死んだ時の事を思い出していた。
あの時、電撃によって横島が死ぬ前の自分に戻っている。

「ママの場合過去の自分と未来の自分が同時に存在したみたいだけど、同じ時間移動能力でも違うみたい」

そう言って以前のれーこちゃん登場を思い出す。
あの時から自分は横島に懐いていた。

(何度でも助けてあげるわよ、横島クン)

心の中で彼に言い聞かせる。
かってこの力を恨んだ事もあったが今は彼を助けられる事に感謝した。

「でも私達が過去に行ったらこの世界はどうなるの?」

「強いていえば存在しなかった事になるわ、漫画だから気にしない!」

「それを言うか!」

タマモの突っ込みは無視しておく。

「では始めましょう、我、小竜姫の名において美神令子の封印を解除します!」

小竜姫が印を結び、霊波を送ると美神を包み込む。
これで時間移動能力は復活した筈だ。

「武器庫から何か持ち出せないの?」

タマモが離れた倉を見やる。

「霊基片はともかく、物質まで時間移動させるのは厳しいわ。ただでさえ定員ギリギリなのよ」

美神もこれには残念そうだ。

「私が雷を呼びますので皆さんはできるだけ美神さんに近づいてください」

空は既に雷雲で一杯だった。
皆が外に出て美神を囲み、目を閉じながらもう一度あの日へ、と思いを込めて集中する。

横島クン、会ったらすぐお仕置きだからね!
今度は私を置いていかないよう、根性を叩き直してあげるわ。
私にはあんたが必要なのだから。

横島さん、私は横島さんに救われました。
今度は私があなたを助けます。
そして、ルシオラさんにも負けません!

せんせえ、拙者は村の皆も拙者自身も先生に助けられていたと知って悔しかったでござる。
弟子が師匠の助けになれなかったのでござるから。
でもようやく拙者が先生を助けられる時が来たでござる!

私の知らない過去に振り回されるのは嫌。
それが横島と知らない女との事なら尚更嫌。
もう私の知らないアンタを作らせない。

ポチ、ルシオラちゃん。
今度はみんなで笑って暮らせるようになってほしいでちゅ!
絶対私が幸せにしてあげるでちゅ。

私はあの戦いで何の役にも立てなかった。
その後悔は今日で終わりです。
待っていてくださいね、私の初恋の人。

皆の思いが一つになったその瞬間、雷鳴が轟くと共に稲妻が光る。
その瞬間に世界が暗転した。

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