ザ・グレート・展開予測ショー

もう一つの結末(その3)


投稿者名:金物屋
投稿日時:(05/ 1/ 3)

横島の行方不明から二ヶ月が過ぎた。
日本に戻った横島の両親も息子の行きそうな場所を探し回ったが手ががりは無かった。
美神は腕利きの探偵を何人も雇って調べさせているが芳しくない。
おキヌは知り合いの霊を総動員したものの当時アパートの近くにいた霊はおらず手がかり無しだった。
シロもじっとしていられず時間があれば走り回って横島の匂いを探しつづけては落ち込んで戻ってくる。
美智恵はオカルトGメンを通じて当局に要請し、彼の行方を探させているが未だひっかからない。
雪之丞やタイガー、ピートも必死になって探してくれているが影も形も見つけ出せなかった。
月神族にコンタクトをとったが朧や神無も驚いていた。
小竜姫、ワルキューレ、ジークといった神族・魔族にも協力を求めたものの神界や魔界にも入ったとは思えず、
不信な動きをした神族・魔族もいないと返事が来た。

最近小竜姫の様子が変でちゅ。
あの日から二週間が過ぎた日に美神が無線でポチの事を小竜姫に聞いてきたでちゅ。
当然小竜姫は知らないでちゅ。
私にも聞いてきたでちゅけど首を横に振るしかなかったでちゅ。
最初は小竜姫も気にしてなかったのでちゅが、ぺスの調査でもわからなかった後は首を傾げてまちゅた。
時々神界に出向いては調べ物をしているみたいでちゅがもうポチは何処にも居ないんでちゅ、わかるはずないでちゅ。
そしてこの前の事でちゅが稽古の最中に呆けて怪我をしたんでちゅ。
床の間で目を覚ました小竜姫はうつむきながらあの時ポチの事を考えていたと話してくれまちゅた。

「私は横島さんの事を最初は下品な人、次に見所のある人だと思ってました。」

「でも私達が何度も危ない仕事を依頼して、無茶をしながらも絶対に成功させてくれる彼の姿を見ているうちに
 私の中でどんどんと彼の存在が大きくなっていきました」

「しかし横島さんに沢山お世話になっていたのに肝心な時には私から何もできませんでした」

「今も彼が大変な時かもしれないのに自分はここから動けず何が神様なのでしょうか、と思ってしまって…」

小竜姫はこれ以上話せなくなって泣いてしまいまちゅた。
私もポチの事を知らせるべきか悩みまちゅたけど、話したら小竜姫をさらにつらくしてしまいまちゅ。
結局黙って私の部屋に戻るしかありませんでちゅた。

一方、美神事務所では所長の美神令子が仕事の準備を整えていた。

何でこんなにイライラするのか。
決まっている、あの仕事を放って逃げ出した丁稚のせいだ。
アイツの代りはシロにさせているが何かしっくりと来ない。
よく考えればアイツは私の事をずっと前から見ていたから息が合ったのかもしれないわね。
それにしても自分は何故こんなに怒らなければならないのか。
シロがいるからアイツが居なくなろうと問題は無いはずだ。
なのに気が付けばアイツの事を探している。
ただの荷物持ちだったくせに私をこんな気持ちにさせるなんて絶対許せない。
早く見つけ出してぶん殴ってやるんだから!

響いた音に驚いて皆が駆けつけるとテーブルを拳で陥没させた美神が居た。

「早く帰ってきなさいよ!」

自分でも意識しないまま美神の口から本音が出た。

結局その日の除霊は成功したものの、怒りに任せて先走った美神には危険な場面が多かった。
おキヌ以下の助けがなければどうなっていたかわからない。

「そのくらいにしないと体に障るよ?」

ディナーの席で荒々しくグラスを傾ける令子ちゃんに声を掛ける。
彼が姿を消してこれ幸いとばかり何度か誘っているが日が経つ毎に不機嫌な気がするな。
最初のうちは甘えてくれたと思ったんだが、今思うと彼に対する当て付けのつもりだったのか?

「もう無くなっちゃったわ!どんどん持ってきて!」
(また飲むのか…)

ボーイがプライベートには立ち入らないとばかりの冷静さで程よく冷やされたワインを運んでくる。
格式の高い店は違うなとこんな時なのに感心してしまった。
グラスを持つ彼女の拳に包帯が巻かれているが今の機嫌じゃ聞けそうもないな。
令子ちゃんがお酒に強いのは知っているが5本も開けたんじゃ酔わない訳ない。

「でね、ママったら横島クンがいなくなった事に心当たりは無いのかってしつこく聞くのよ!」

隊長も仕事上で見る限り以前と全く変わらなく見えるが、プライベートでは気に掛けているらしい。
あの人も彼にはいろいろ目を掛けていたみたいだからな。

「そりゃあ血を吐く迄折檻したり、何日か徹夜でこき使った事はあるわよ!」
「ちょ、ちょっと令子ちゃん落ち着いてくれ…」

この発言にはさすがに他の客やボーイも驚いてこちらを見ていた。
もはやこうなった彼女には手がつけられない。

「でも今まで散々無茶な事やらせても、半殺しにしても付いて来てくれたじゃない!」
「卒業したら正社員にしてやろう、と思っていたのに人の気も知らないんだから!」

「と、とにかく店を出よう。話は部屋で聞くからさ」

これ以上は店に迷惑だと判断して勘定を頼むと彼女に肩を貸してやる。
店のムードをぶち壊しにしただけ店員の視線が痛いな。
取ってあったホテルの部屋に連れ込むと令子ちゃんは目の前のベッドに倒れ込む。
望んだ展開のはずなのだが彼の愚痴を吐き出しつづける令子ちゃんを見ていると気分が萎えた。
窓際で見事な夜景を見下ろしながら煙草を吹かす。

「横島君、美神さんは俺のモンじゃーっ、と言っていたくせに放っておくのか?」

一本を吸い終わって振り向くと令子ちゃんはもう寝ていた。
そっとシーツを被せてやりベッドの傍らに腰を降ろす。
指先で顔にかかった髪の毛を取り除いてあげると、令子ちゃんはくすぐったそうに顔を振った。
手を握ってみたところ、力を込めて握り返してきた。

「令子ちゃん…」

そっと顔を近づける。
卑怯だな、と思いつつもキスぐらいなら彼の許しも必要無いだろう。
後少しで互いの唇が触れ合おうとした時、令子ちゃんの唇が動く。

「横島クン…」

思わず動きを止めてしまう。
どうやらキスすらも許してもらえないらしい。
苦笑しながら離れようとする。

「…のバカーッ!!」

そして俺は令子ちゃん渾身のアッパーカットで天井と三途の川を見た。
宙を舞った身体がゆっくりと落下してゆくのを自覚する。
翌朝気が付いた時には令子ちゃんの姿は部屋に無かった。

「結局今回も手掛かり無しですか」

魔法料理「魔鈴」では二ヶ月前横島と共に卒業を祝ったタイガー、ピートが雪之丞、弓かおり、一文字魔理の友人らと顔を合わせていた。
お互い知っている情報を持ち寄ったものの横島の行方は全く掴めない。
ピートがため息をついて落胆すると雪之丞が苦い顔して口を開く。

「横島の奴、一体何処に行っちまったんだ。美神のダンナも最近荒れ気味だし、いい加減姿を見せやがれ!」
「愛子しゃんもわざわざエミさんの所を尋ねて調査の進展を聞いてきたしノー」
「先生も気にしているみたいで、最近頭が薄くなった気がするんです。このままじゃ…」

最後は怒鳴り声になった雪之丞の言葉にタイガーもピートも同意する。
しかし女性陣にとってはいい加減横島探しに見切りをつけたいと言い出した。

「雪之丞ったら最近会うと横島、横島ってあの男の事ばかりなのよ、デートの雰囲気がぶち壊しだわ」
「おキヌちゃんも元気を無くして昨日授業で叱られたんだ。あんな他人に心配かける男なんて忘れた方がいい」

だが、その主張は即座に拒否された。

「いくら魔理しゃんの頼みでもこれだけは聞けませんノー」
「かおり達にはわからないだろうがな、俺は奴にでけえ借りがあるんだよ」
「横島さんを忘れるなんて絶対できませんよ」

普段は魔理にとことん甘いタイガーにさえはっきりと返されて2人は言い分を取り下げる。
横島への印象が悪かっただけあって皆が何故ここまで気にするのか疑問だった。

「バイト先のエミ所長も令子があの通りだからいつもの調子が出ない、とこぼしてたしなんで変態男一人ぐらいでさ」
「氷室さんがあれ程落ち込まなければ私達も手伝わなかったけど、彼ってあんな割には随分人気があったのね」

あのセクハラ男が何故こんなに気にされるのか。
横島捜索に加わるうちにおキヌ以外にも横島の行方を気に掛ける女性の存在を複数知って驚いた。
友人の友人、憧れのお姉様の下僕という薄い関係だった自分達には見えてないものがあったのだろうか、と目の前の男達を見て思う。

「私達、一体彼の何を知っていたんでしょうね」

かおりの独り言に魔理も黙って考え込んでしまう。
普通の友人の関係なら皆これ程執念深く探そうとしない。
多くの人を動かしている彼の魅力とはどんなものだったのだろう。

「あの、いいでしょうか?」

ふと声がかかる。
皆が目を向けると女主人の魔鈴めぐみがいつの間にかテーブル脇に立っていた。
意を決した表情に横島関係の話だ、と察して皆言葉を待つ。

「横島さんの事なのですが…、実はパーティーの帰りに見かけた横島さんの姿は本当に寂しそうでした」

その言葉は意外だったらしく、ピートやタイガーは目を丸くした。

「寂しそう?でもパーティーではあれ程笑っていたじゃないですか」
「そうですのノー、普段も全然悩みなど話してませんでしたノー」

友人の目から見ても横島が普段何か思い詰めている様子には見えなかった。

「はい、ですから私も見間違いかなと最初は思ったんです。でも今から思えば彼は無理していたのかもしれません」

「すると横島さんは誰かに連れられたとかさらわれた訳ではなく自分から姿を消した、と考えているのですか?」

横島が自主的に失踪したのか、何者かに連れ去られたのかははっきりしていない。
書置きや部屋が片付いていた事に関しては、脅迫や術で無理矢理書かされたとも考えられるので自主的な失踪とは断定できなかった。
しかしシロの鼻でも横島の知人以外が部屋を訪れた痕跡は発見されてない。
その誰に聞いても「知らない」という返事のみだった。

「あくまでも私の勘なのですが、そこまでして隠さなければならない悩みだったのではないでしょうか?」

魔鈴はそう言うが皆そんな悩みには心当たりがなかった。
原因となるような事は今までの調査でも調べ尽くしている。

「俺達にさえ相談できねえ悩みだと?けど横島がそんなに嘘をつくのがうまいとも思えないぜ」

雪之丞の言葉に全員が同意する。

「ええ、ですから今まで言いそびれていたのですが…。彼には文珠があります、それを使えば取り繕う事も可能ではないでしょうか」

それには誰も気が付かなかったらしくピートが目を丸くしてぽかんとしている。
雪之丞は黙りこくって考え出した。

(文珠を使ってまで誰からも隠す必要がある事、奴の性格でも無理をする程の悩み、そして姿が見えない理由…)

ふと一つの考えが浮かぶ。
奴らしいといえば奴らしい。

「まさかな、そんな筈は絶対ねえ…」

その微かな呟きは誰にも聞かれる事無く雪之丞自身のみに届いて消えた。


そして三ヶ月目
主を失ったアパートの部屋の中、座って横島の帰りを待つシロの姿があった。
日は完全に落ち、夜の帳が降りている。

「せんせえ…」

何故拙者に一言も言わず姿を消してしまったのでござろう?
拙者にも相談できないような悩みを抱えていたでござるか?
先生の為なら何でもしたでござるよ?
こんなにも逢いたいのに何処におるのでござるか!

ふと人の気配を感じるが横島のものではないと解っていたのでシロは顔を伏せたまま動かない。
そのままじっとしていると力ない声が掛かってきた。

「シロちゃん…」

顔を上げるとお隣の小鳩どのがござった。
拙者と同じく先生をお慕いしている女性でござる。
何の役にも立てないと悩んでいるようでござるがその気持ちだけで充分でござる。

私はそっと横島さんの部屋へと入った。
電灯も点けず、月明かりだけが差し込む室内にはシロちゃんが痛い痛いしいと思える程寂しそうに座っている。
毎朝はちきれそうな程元気だったのに今はこんなにも小さく見える。
貧ちゃんも私が元気無いって励ましてくれるけど心は沈むばかり。
貧乏な時は自分を励まして元気でやってきたけど、今はそんな気持ちにもなれない…。

私はそっとシロちゃんに近づくと両手を広げてギュッと抱きしめる。

「小鳩どの?」

小鳩どのに抱きしめられて拙者はその温かさに心を震わせる。
拙者を励まそうとしてくれているのかと思ったが小鳩どのは泣いておられた。

「大丈夫、大丈夫よシロちゃん…。横島さんはきっと帰ってくるわ」

その言葉は自分に言い聞かせているのでござろう。
小鳩どのも拙者と同じ気持ちでござった。

「そうでござるな…。その時は二人掛かりでお仕置きするでござるよ」

気が付けばシロちゃんと二人で泣いていました。
何処にいるのですか、横島さん?
あなたは気が付いてなかったかもしれませんけど多くの人の支えになっていたのです。
シロちゃんと私も含めてあなたに救われた人は沢山居ました。
どうか、一刻も早く帰ってきてください。

「…やっぱり違う」

タマモは贔屓のうどん屋で一人きつねうどんを啜っていた。
だが好物にも関わらず、箸はなかなか進まない。

どうして以前の美味しさを感じられないのだろう。
味に慣れて私の舌が肥えたのだろうか?
ううん、カップうどんは普通に食べてるし違う気がする。
やっぱり除霊の後で横島の奴に奢らせた時の美味しさには及ばない。
店主の腕が落ちた訳でもダシが悪い訳でもない。
美神やおキヌに奢らせても横島の時程美味しくない。

「ごちそうさま」

すっきりしないまま勘定を済ませて店を出る。
季節は変わって夏となり、夜の空気も暖かい。
でも心の中は冷えている。
最近の美神は以前より金に執着するようになった。
事務所でも暇な時は札束を数え、宝石も時折買っている。
横島の居ない寂しさを埋め合わせるつもりなのかもしれないが、私達にはその姿は見苦しくて堪らない。
結果普段は外で過ごしてばかりの毎日だ。
一般常識はもう覚えた。
今まで居心地が良かったが、今の事務所には居たくない。
でもアイツが戻ってくれば、と思うと出てゆく気が失せてゆく。

書店で閉店まで時間を潰し、街をぶらつきながら美神が帰宅する頃に戻る。
台所で冷蔵庫の油揚げをつまみ、テーブルを見やるとラップのかけられた馬鹿犬の夕食は手付かずだ。
独り自室のベッドに座り続けて眠気を待つ、あの毎日の騒ぎが嘘の様な静寂さ。
いつまでこんな生活が続くのか。
馬鹿犬はどうせ今夜も横島の部屋だろう、一人で夜空を見上げながら私は涙を流していた。
乾いた心が完全に干上がるのはいつだろう。

「私を救えるのはアンタだけなのよ、横島…」

同じ頃、美神令子も闇に居た。
横島が失踪して以来事務所の人間関係が徐々に狂い出した。
シロは仕事より横島を探す事を優先し美神と意見が対立するようになってきた。
おキヌちゃんはシロほど露骨に言い出さないが内心ではシロに同調しているのだろう。
学業の方も最近成績が落ちているし仕事も集中を欠いて足を引っ張る事が増えてきた。
タマモは相変わらずクールだが沈痛な雰囲気の事務所は居心地が悪いらしく仕事以外では姿を見せてない。

最初に美神が「放っておきなさい!」と言い聞かせた事も後を引いている。
あの日にもっと徹底的に探せば何らかの手がかりが掴めたかもしれない。
だが美神の言葉によって調査の開始は一週間以上も遅れてしまった。
あの判断は当時としては責められるものではないがシロが時折恨みがましい目で美神を見ることがある。
このまま横島が見つからなければ破局は時間の問題だ。

その上美神自身横島に対する想いを押さえきれない。
最初は迷惑を掛けたバイトに対する怒りで頭が一杯だったが時間が経つにつれてその怒りに横島への想いが含まれている事を自覚した。
一度自覚すると後は急激に自分の気持ちに向かい合わざるを得なくなり、
前世の記憶に掛けたプロテクトもついに崩壊し、今まで押さえ込んできた気持ちの反動が来た。

美神を支えてきた苛立ちと怒りが一気に横島への想いと喪失感へと変貌する。
急速に心が冷え、寂しさのあまりベッドに突っ伏して泣き続けた。

「バカッ!何故今まで素直にならなかったのよ!今頃これ程アイツが好きだと実感しているのに!」

毎日手入れを欠かさない髪を振り乱して嘆く美神の姿は誰にも見せられないものだった。
その日から三日間マンションに篭った美神が出てきたとき、これが美神かと見まがう程気弱になっていた。

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