ザ・グレート・展開予測ショー

もう一つの結末(その2)


投稿者名:金物屋
投稿日時:(05/ 1/ 3)

横島が居なくても大所帯の美神事務所は仕事を着実にこなしてゆく。
それでも居なくなってわかる大切さというものがあり、事務所の空気は以前より冷え込んでいた。
彼は事務所のムードメーカーでもあり個性的な面々がぶつかり合う場所での緩衝材でもあった。
行方不明からは十日以上が過ぎ、失踪の事実は徐々に周囲の知るところとなった。

美神の吐いた愚痴からオカルトGメンの美智恵、おキヌから弓を通じて雪乃丞へ、シロから小鳩へと伝わり
誰もが心当たりが無いと答えて騒ぎは次第に広がってゆく。

美智恵が手を回して出国記録や旅客機の乗客名簿を調べさせても該当者は居なかった。
第一パスポートは部屋で発見されている。
なけなしの金が入った財布は所在不明であるが推測される金額からして遠くには行けそうも無い。
失踪当時の周辺の監視カメラの記録には魔鈴の店からまっすぐアパートに帰る横島の姿が確認された。
だがそれ以後の記録には彼は全く写ってない。
アパート住民の証言ではときおり叫び声がしたというがいつもの事なので気にも留めなかったという。

ここにきて不機嫌な表情の美神にも言い知れぬ不安が押し寄せていた。
妙神山にも連絡を取ってみたが小竜姫も驚いていた。
天界にいるヒャクメを呼び出してみるそうで、その結果を皆で待っている。

『オーナー、ヒャクメ様がいらっしゃいました』

人工幽霊一号からの報告に事務所に居た全員が玄関に向かう。
だが美神はヒャクメを一目見て失望した。
疲れて落ち込んでいるその姿はどう見ても朗報があるとは思えない。
それでも手がかりは無いかと皆ヒャクメを質問攻めにした。

「文珠で姿を変えているとか隠しているという事は無いんですか?」

「横島さんの霊波はよく知っているのね〜、私ならわかるはずなのね〜」

「でも文珠なら霊波を全く他人のものに見せかけることも可能でござろう!」

「その可能性も考えて調べたのね〜、でも骨格や遺伝子配列までは誤魔化せないのね〜」

次第にシロやおキヌの表情が暗くなる。
結局ヒャクメですら探せないという事しか解らなかった。
その疲れきった姿を見ると美神はこれ以上問い詰めても仕方ないとわかっていたが役立たず、と思ってしまった。

「ごめんなのね〜」

それを察知したのかヒャクメが謝る。
心を見られたと感情が高ぶったが振り上げた拳はソファにめり込んだ。


私は何度目かわからない程その便箋に目を通す。
美神さんが一度破り捨てた継ぎ接ぎだらけの書置きだ。
一行だけの内容で、姿を消す理由は何も書かれてない。
結局畳んで引き出しに戻した。
一月経っても横島さんは未だに戻ってこなかった。

「こんな手紙じゃ私達にはわからないですよ」

愚痴の一つも言いたくなる。
何故私達の前から姿を消してしまったのだろう。
せめて一言言って欲しかった。
私はいつもの様にアパートに向かう。
横島さんがいつ姿を見せても良いように。

「横島の部屋に行くんでしょ?一緒に行くわ」

外でタマモちゃんから声がかかる。
そのまま2人一緒に行く事にした。
道を歩きながらタマモちゃんと話す。
彼女は横島さんの事をどう思っているのだろうか?
あくまで仕事上の関係者?

「今私が横島をどう思っているのか考えているでしょ」

いきなり思っていた事を言われて驚いた。

「目を見ればまるわかりよ。おキヌは正直者だから」

あくまでクールなタマモちゃんだが私の顔は真っ赤になっていると思う。
タマモちゃんはあっさりと疑問に答えてくれた。

「正直見損なったわね。仕事も放り出して誰にも知らせず行方不明なんて無責任過ぎるわ」

冷たく吐き捨てる口調にタマモちゃんが怒っている事がはっきりとわかった。

「でも…、何か事件に巻き込まれたとか、やむを得ない理由があったのかもしれないです」

「理由って何よ!それに事件とかだったら尚更悪い。何の為に仲間がいると思ってんのよ」

ああ、タマモちゃんは横島さんが自分にも話してくれなかった事を怒っているんだ。

「助け一つ求めないで自分一人で抱え込むなんて偽善者は大嫌いだわ」

自分の言葉で機嫌が悪くなったのか、タマモちゃんは吐き出しつづける。
でも横島さんが助けを呼べない状態だとしたら…

「連絡が取れない状態かもしれないという事もわかっている」

「でもアイツはそう簡単にくたばる奴じゃない!それは私がよく知っているわ!」

その言葉に胸がチクリと痛んだ。パートナーといっていい関係だけにその言葉は贔屓目無しの本音に違いない。

「信頼しているんだ、横島さんの事」

するとタマモちゃんはツンと拗ねた。
彼女は彼女で心配しているのだ。
その後は2人とも黙ったまま歩くだけとなりやがて横島さんのアパートに着く。
あの日から部屋には鍵がかかってない。
ドアノブに手を伸ばそうとしたところ部屋から人の気配を感じ、慌てて開ける。
大きめの音がして中の人がこちらを向いた。

「横島さんっ!?」

部屋の内外から同時に声が上がる。
残念な事に部屋の人物は横島さんではなかった。

「小鳩ちゃんだったの…」

自分でも気が付かないうちに酷くがっかりした声が出てしまう。

「おキヌちゃんの他にタマモちゃんも来てくれたのですね」

小鳩ちゃんは全然気にしてないように気を取り直して招いてくれた。
あの日シロちゃんによって散らかった部屋はすっかり片付けられている。
私や小鳩ちゃんの他に机妖怪の愛子さんも時々訪れては掃除を行ったので、今は横島さんが居た時よりも綺麗な状態なのですよ。
掃除が終わるとそのまま横島さんを待ってみます。
やっぱり帰ってきてくれませんでした。

掃除してわかったのだけどあの数々のHな本やビデオなどは残らず消えてました。
クラスの人に貸したと聞いて、これは準備された失踪なのだと理解しました。
他にもいろんな物が消えていて、事前に不要品を処分したのだというのが隊長ら観測でした。
それと横島さんの大切な物も残されていませんでした。

私達は畳の上で座布団に座ってお喋りする。

「ところで小鳩さんは何か見ていたみたいだけど?」

タマモちゃんが質問する。

「これですよ、私のとても大切な思い出なんです」

そう言って小鳩ちゃんは写真を手渡した。

「これって結婚式じゃない、写っているのは横島と小鳩ちゃん!?」

唐巣神父の教会を背景にタシキード姿の横島さんとウエディングドレス姿の小鳩ちゃんの写真でした。
初めて知る事実らしくタマモちゃんが戸惑っている。

「タマモちゃんは知らなかったんですね。私は以前横島さんと結婚した事があるんですよ」

引っ越してすぐ、貧乏神の縁で横島さんと近づけた事を小鳩ちゃんは嬉しそうに話す。
タマモちゃんはちょっと不機嫌そうだ。

「結局は元のお隣さんの関係に戻ったのですが、本当は貧乏のままでも夫婦を続けたかったです」

そっと小鳩ちゃんは指輪が付けられた手を眺めていた。
あの時まだ幽霊だった私は、何もできず指をくわえるだけだった。
体を取り戻した今でもそれは変わらない。
ちょっと涙が出てしまった。

「おキヌちゃん?どうしたんですか?」

2人が怪訝そうに私を見ている。

「いえ、何でもないんです。目にゴミが入っちゃって…」

「そういう事にしといてあげるわ、でもおキヌは充分横島の支えになっていたわよ」
「私もそう思います、お料理だって何度負けたと思ったかわかりません」

何も言わなくても私の考えなんてお見通しなんだ。
恥ずかしくなって俯いてしまう。

「タマモちゃんはどうなのですか?」

小鳩ちゃんが話題を変えてタマモちゃんにに質問を投げかける。
短くてもそれが横島さんをどう思っているのかという意味なのは伝わっている筈。

「…正直、よく解らない。人間の中では好きな方かな?」

タマモちゃんの年齢では自分自身の感情さえ掴めてないのでしょう、考え込んでしまいました。

「復活した時横島に助けられて、その後仕事仲間として付き合ってきて、普段はからかい甲斐のある男だと思ってた」

「でもアイツ、私が危ない時は必ず助けてくれるのよね」

そう言ってタマモちゃんは何かを思い出すような遠い目をしました。

「側にいなくなってみると何故か腹が立って、気が付けばアイツの姿を探してしまう」

「今は断言できないけど、私にとってどうでもいい存在じゃ無いのは確かだわ」

そう言って言葉を切ったタマモちゃんの目は、先程の私の様に潤んでいた。
私達はいつの間にか3人で笑ってしまい、この声を横島さんに聞かせたいと思ってしまった。

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