ザ・グレート・展開予測ショー

もう一つの結末 その1(ある一つの結末からの分岐)


投稿者名:金物屋
投稿日時:(05/ 1/ 3)

外へ連れ出そうとしてくれたベスパを押し留め、布団に横たわって静かに最後の時を待つ。
傍らのパピリオはただ泣きじゃくるだけだ。

俺は今夜、18年という短い人生の最後の時を迎えようとしていた。
思えば実に波乱万象な日々だったな。
特に二年になってからは何度も正月やクリスマスを過ごした気がするが気のせいだろう。
三年の時は普通に季節が過ぎたしな。

「お前はこれで満足なのか?」

ベスパが問い掛けてくる。
いや、全然満足してなんかない!
正直やりたい事は山ほどある、キスはともかく一度も経験できなかったのは非常に悔いが残る。

「ううっ!童貞のまま死ぬのはイヤじゃーーっ!!」

心の底からの叫びだったがベスパも少し呆れたようだ。

「お前がその気になれば誰かと一緒になるのは難しくなかったと思うぞ?」

姉の心を捉えた程の男なら新たな恋人を探すのも簡単だとベスパは思っていた。
だがパピリオから聞いた限りでは姉が死んで以来、新たな恋人は作ってないらしい。

「…すぐ死ぬ俺なんかとしたら女の子に失礼じゃ!そこまで人間捨ててないぞ!」

その答えを聞いて、姉さんがこいつを選んだのは間違ってなかったと実感した。

「ふうっ、お前は最後まで横島という訳か。だがいつかは知られる事だ。その時悲しむ奴らが大勢いる事は解っているのか?」

ベスパは横島の交友関係には疎いものの先程のパーティーで彼が多くの人の心を捉えている事に気付いていた。

「そうでちゅよ!小竜姫だってポチの事をとっても大事に思っているのを知ってまちゅ!」
「そんな事ないさ、俺なんてただのバカでスケベで役立たずで…。大事な人も守れなかった情けない男だ」

横島は自嘲するように力無く笑うとパピリオの頭に手を伸ばした。
泣くパピリオを繰り返し撫でて慰めつつ笑ってやると最後の我侭を口にする。

「俺の事は秘密にしといてくれ…」

「何故でちゅか!ポチの事を何故隠す必要があるんでちゅか!」

とても納得できないとパピリオが問い詰める。

「ルシオラの事を悪く言われたくないからな。俺が死ぬよりその方が辛い」

この男にとっては自分の命よりも姉の名誉が大事なのだ。
ベスパは自分がこんなに涙を流せるとは思っても見なかった。
でも姉さんもこの様な結末の為に自分を犠牲にしたんじゃない、私は運命を呪う。

「それに俺の事なんてどうせみんな直ぐ忘れてしまうからさ、心配掛けるよりその方がいい」

ポチはいつも自分の事を馬鹿にするでちゅ。
世界の誰よりも自分の価値を知らないのかもしれまちぇん。
ポチが居なくなれば皆どんなに心配するのかわかってないんでちゅ!

「そんなこと!」

何か言おうとするベスパを横島が手で制した。
頼むと言いたげな目で見詰め返され、2人は何も言えなくなってしまう。
こうなったらこの男は聞かない事は承知していた。

「わかったでちゅ、それがポチの願いでしゅたら小竜姫にも言わないでちゅ!」
「正直私は反対だ。だがお前が本気でそう頼むなら、私は決して口外しない」

承諾の返事を聞いて横島が弱弱しく笑う。
パピリオの精神は強い訳ではない。
彼女に秘密を負わせる事は非常な負担をかけるだろうとわかっていた。
横島はそんなパピリオに対してすまなそうに見つめ返すと最後の一言を口にする。

「我侭言ってすまん」

小さいながらもはっきりと意思の込められた言葉だった。
そう言って横島の体はふわっと崩れて消滅した。
一瞬蛍火の乱舞と見紛う程の光の粒が部屋を照らし、直ぐ闇へと戻る。
後に残されたのは彼がいつも身に付けていたバンダナに制服。
髪の毛一本も残さずに世界を救った英雄はこの世から消えた。
涙する2人の魔族の少女はそのまましばらく動けなかった。
それでも静寂の時を抜け出し、気力を振り絞って彼の形見を胸に抱いて部屋から去る。
頭上では月と星が冷たく輝く中、一つの流れ星が夜空を切り裂いて落ちた。


やがて空が白み、再び太陽が東の空から街を照らし始める。
早朝の時間帯に疾走する少女は既にこのあたりでは日常の出来事だ。

「せぇんせ〜♪」

これからは今まで以上に先生の側に居られる。
そう思い込んでいるシロが敬愛する師匠の部屋へと駆けて来る。
ドアを開けると布団にはまだ寝ている先生がいて。
強引に起こしてもあれこれ言いながらも散歩には必ず付き合ってくれる。
そんないつも通りの光景を思い浮かべながらシロは横島の部屋に飛び込んだ。

「さあサンポに行くでござる〜!」

だがそこにあったのは床に敷かれた布団だけ。
一瞬キョトンとしたシロは「隠れていても無駄でござるよ!」と押し入れやらトイレを探し始める。
以前より片付いた部屋を隅々、床下から屋根裏まで調べた後でこの部屋にはもう居ないと判断した。

「逃げられたでござるか」

それでもめげずに鼻を使って匂いを嗅ぐ。
クンクンと鼻を鳴らすと横島の匂いがより強く感じられる。
シロにとって横島の匂いは付いた時期まで簡単に判別できる自信がある。
だが布団に鼻を近づけていたシロは直ぐ首を捻った。
昨夜の匂いが一番感じられるのはこの布団だがその匂いは夜中までしか遡れない。
つまり一度横島はここに来たものの直ぐ出て行った事になる。
そんな用事も思い浮かばないままそっと匂いを追ってゆく。

「…消えたでござる」

ドアの外すぐで目的の匂いは途切れていた。
目の前は二階の高さの空間で歩く所など何処にも無い。
しかもその匂いは何故かかなり弱い。
横島の一部としか思えない程少ないのだ。
シロの胸中に急激に不安が押し寄せた。
先生の身に何かあったのではないか、先生の実力は知っている筈だけど不安はますます大きくなってゆく。
考えるより先に体が動き、居候している事務所へと力の限り駆け出した。

美神もおキヌも出勤してない為に叩き起こされる事になったタマモは明らかに不機嫌な表情でシロを睨みつける。

「大変でござる!先生が何処にもいないんでござる!」

「何よ、どうせ馬鹿犬から逃げたんでしょ。毎日引っ張りまわしてりゃ誰だって逃げたくなるわよ!」

わめくシロを訝しげに見ながら吐き捨てる。
折角のまどろみを邪魔されたと布団に戻ろうとするがシロは全然納得しない。
油揚げを奢らせる事を約束させてようやくタマモはベッドから降りた。
といってもタマモにも横島の行きそうな場所に心当たりは無い。
すると事務所の電話の短縮ダイヤルを押し、彼を良く知る上司に知らせる事にした。
早朝に起こす不機嫌の犠牲には馬鹿犬の師匠がなるだろうと判断して。

案の定美神は「あのバカ〜!」と愚痴を言いながらも事務所までコブラを飛ばしてやって来た。
おキヌも一緒だったがこっちの方は横島の事が心配そうだ。

「とにかくアイツの部屋に行くわよ!もう戻ってるならぶっ叩いてやるんだから!」

シロとタマモを乗せるとスピンターンして横島のアパートへと走り出す。
美神が飛ばすとコブラはたちまちのうちにアパートに到着する。
全員で不機嫌そうにドカドカ騒がしく階段を昇ると、横島の部屋の扉は開いたままだった。
馬鹿犬が閉め忘れたらしいが誰も気にせず部屋に入る。
部屋の中は畳がひっくり返り、天井も天板が外されて屋根裏が見えるなど荒れていた。

「これシロちゃんがやったの?」

おキヌが聞くと馬鹿犬が力無く頷く。

「やっぱりいないでござる…」

落胆する馬鹿犬は放っておいて部屋を見渡すと机に置かれた封筒が目に付いた。
手に取って中を見ると折り畳まれた紙が入っている。
広げて目を通すと黙って美神にそれを渡す。

「今までお世話になりました。探さないでください」

単純明快なアイツらしい書置きだった。
美神は便箋を握り締めるとただでさえ不機嫌な顔が一層歪む。

「ふざけんなーーーっ!!」

怒りを爆発させた美神は便箋を引き裂くとそのまま部屋を出て行った。
呆然とするおキヌと馬鹿犬は部屋の中で置いてけぼりだ。
一人でマンションに帰ろうとする美神の車に慌てて乗り込むと来た時以上のスピードでコブラを飛ばす。
帰る途中の美神は輪を掛けて不機嫌だった。

「心配して損したわ!あの恩知らず!」
「でも何故?横島さんが出て行く理由なんて浮かびませんよ?」
「そんなの知ったこっちゃないわよ!戻ってきて謝っても許してやらないんだから!」

この状態の美神には何を言っても無駄だ。
戸惑っているおキヌもそれ以上言えない。
それでも馬鹿犬は諦めきれずお願いする。

「先生を探してはくれないんでござるか?」
「放っておきなさい!これ以上アイツの話題は禁止!」

結局しっくりこないおキヌも馬鹿犬も美神には何も言えず今日の仕事をこなすしかなかった。
美神は終日不機嫌で荷物持ちは馬鹿犬の役割になりギスギスした雰囲気のまま一日が終わった。

アイツに対する日頃の扱いからして出て行かない方がおかしいと思っていたからアタシは別に驚かない。
1日2日家出したとしても心配することは無いしひょっこり戻ってくるだろう。
心配したままの馬鹿犬を放っておいてアタシは眠りについた。

しかしそれから一週間もの間横島からは連絡一つ来なかった。
馬鹿犬は連日朝晩横島のアパートに行ってはいつも落ち込んで帰ってくる。
からかってもあまりかかって来なくなりいつもの調子が狂ってしまう。

横島さんがいなくなった。
始めは仕事がつらくなったのかなとも思ったんですけど少ししたら戻ってくると自分に言い聞かせた。
今までだって同じような事はあったし、横島さんにとってもここに居るのが当たり前のはず。
でも今までははっきり解る原因がありました。
美神さんに厳しくされたり、仕事で失敗して落ち込んだりと。
思い出してみてもあのパーティーでの横島さんに逃げようとする素振りは見当たりませんし、心当たりもありません。
何故か胸が騒ぎます…。

2,3日すれば戻ってくるだろうと高をくくっていた横島のバカは一週間過ぎても姿を見せてない。
仕事だって少なくないのに何やってんのよ!アイツ!
そりゃあ使えるようになってから無茶をさせたのは認めるけどそれは以前から同じじゃない!
あんな根性無しとは思わなかったわ!
おキヌちゃんもシロも元気が無いし帰ってきたら百叩きじゃ済まさないんだから!

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