ザ・グレート・展開予測ショー

ある一つの結末(その5)


投稿者名:金物屋
投稿日時:(05/ 1/ 3)

「よーし、今日はここまでだ」

俺は雪之丞兄ちゃんのその言葉で、ようやく腕を降ろす事ができた。
朝からの稽古で正拳突き、蹴り、投げなどの動作を何百回もやらされてヘトヘトだ。
タオルで汗を拭いて道場の畳に座り込んでいると雪之丞兄ちゃんが俺にポカリを投げてよこす。

「少し見ないうちに随分上達してきたじゃねえか」

どっか、と俺の隣に腰を降ろして一緒にポカリを飲みはじめる。
雪之丞兄ちゃんの稽古は一月振りだった、けどその間にも俺は別の人から休む暇なく色んな稽古をやらされていた。

「だって小竜姫様や美智恵おばさんの練習も凄くキツいんスよ、本当に死ぬかと思いました」

両親はただの会社員と主婦なのに何故か俺は肉体的な習い事をさせられている。
いや、周りの人が自分から教えてくれるというのが正しいのかな?
この雪之丞兄ちゃんは凄く強くて会うたび格闘技を教えてくれる。
夫婦揃ってGSなんだけど時々海外に出掛けては色んなお土産を買って来てくれたりと退屈しない人なのだ。
普段厳しいだけあって、俺は誉められた事が嬉しくてたまらなかった。

「そういや横島の誕生日は来週だったよな?」

「はい、もうすぐ俺も12歳です」

来年から中学生なので小学生最後の誕生日になる。
友達もぎょうさん呼びたいわ。
おっと、何故か俺は時々関西弁が出てしまう。
向こうに住んだ事なんかないのにどうしてだろう?お袋の影響なんか?

「本当は…歳だけどな」

ボソリと雪之丞兄ちゃんが呟いた。
ただ物凄く小さな声だったので何と言ったのか良く聞こえなかった。

「プレゼント楽しみにしてろよ!」

そう言って頭をポンポン叩かれる。
俺はその時兄ちゃんのプレゼントが楽しみで、聞き返す事なんかすっかり忘れてしまった。

「どうやらあっちも終わったようだぜ」

道場の反対方向で稽古していたひのめとルシオラが奥さんのかおりさんと一緒に戻ってきた。
家族ぐるみで付き合いがあるひのめと居候のルシオラとは稽古も勉強もいつも一緒に過ごしている。

「忠夫〜!タオル寄越しなさい!」
「私にはポカリをお願いね」

ひのめにはタオル、ルシオラにポカリを渡すと俺は早速かおりさんに話し掛けた。

「いや〜、相変わらず美しいっスね。どうです?この後どこかに出掛けません?」

実際、子持ちとはいえ若くて美人なかおりさんと会うのは稽古の密かな楽しみだ。

「あら?そんな事言うと2人が怒るわよ?」

ちくしょ〜、わかっていたけど全然相手にされてないぞ!
にしても、汗を拭くかおりさんって本当に色っぽいな。

「ガキなんかに興味無いっスよ、俺が興味あるのはかおりさんのような大人っス」

そこまで言ったところで突然耳を引っ張られる。

「誰がガキよ!忠夫にはもっと稽古が必要みたいね!」
「かおり先生、今から組み手を行っていいですか?」

そう言って2人掛かりで無理矢理道場の中央まで引きずられる。
ガキなのは本当の事やないか〜

「何か言った?」

2人の顔に青筋がピクピク動いている。
これは非常にまずい、大ピンチだぞ。
何で俺は思ったことを口に出してしまうんや〜

「兄ちゃん!助けてくれぇ!」

だが無情にも雪之丞兄ちゃんは指一本動かしてくれない。

「お前が悪いな、人のワイフを口説く奴には罰が当たるぜ!」

俺は目の前が暗くなった気がした。

「さぁ、覚悟はいいかしら?」
「ヨコシマ、教わったばかりの新しい技を見せてあげる」

何故かルシオラは時々ヨコシマなんて俺を呼ぶ。
無意識に口から出るそうで俺の関西弁みたいなもんだ。
て、現実逃避してる場合じゃなかった。
結局そのまま2人掛かりでボコられる。

「何でこの歳だと女の方が強いんや〜」

俺にできるのは人体の理不尽さを呪うことだけだった。

その後兄ちゃんの車で送ってもらう。
車内では2人がふて腐れた顔して俺の事を睨んでいた。

「最近胸が膨らんできたし、アレだってとっくに来てるんだから…」

まだ不機嫌なひのめの奴が何かブツブツ言っている。
ルシオラも胸をさすってはため息付くし、女という奴は解らない。
俺からは触らぬ神に祟りなしと一言も話せない内に車が停まった。

「着いたぜ」

到着したのはひのめの住まいがあるでかいマンションだ。
これからまた稽古というか勉強があるのでウンザリする。
美智恵おばさんは仕事なのでおらず、代わりに待っていてくれたのは愛子姉ちゃんとおキヌ姉ちゃんだった。
俺の家とひのめの家を一回ごとに場所を変えて家庭教師をしてくれる。
ひのめの家は部屋が広くて多いので快適に勉強できるし羨ましい。

「じゃあ今日は英文のヒアリングとおキヌちゃんによる古文の授業、そしてテストを行うわよ」

「え〜!私は電気工学とか物理の方をやりたいです」

ルシオラは苦手科目で不満そうだ。
機械とか工作は滅法強くてそっち方面で飛び級の話もある程だ。
但し今日のような英語や国語方面はひのめの方が向いている。
俺はといえば一番好きなのは体育だ!

「文句言わない!ひのめちゃんだけでなく横島君にも抜かれるわよ」

それは嫌らしく、ルシオラは口を閉じて机に向かう。
どうせ俺は馬鹿ですよ。

「横島さん、この文章の意味は前後から判断するんですよ」

そんな俺はおキヌ姉ちゃんから優しく指導を受けていた。
正直勉強は嫌いだがきれいな姉ちゃんが教えてくれると頑張れてしまう。
愛子姉ちゃんは中学校の先生をしているのでひょっとすると来年からは毎日会う事になるかもしれない。
机が邪魔だけどあのスーツ姿は実にそそる!

「今は勉強中ですよ?余計な事を考える悪い生徒には課題を増やします!」

げっ!口に出してしまったのか?
これ以上増やされたら遊ぶ時間が無くなってしまうやんけ。
俺は慌てておキヌ姉ちゃんの機嫌を取る。

「堪忍してや〜、おキヌ姉ちゃんだってごっつうべっぴんさんやで」

揉み手で上目遣いしながらゴマをする。

「駄目です」

一言で済まされてしまった。
しょうがなく机に向き直って頭が痛くなる問題用紙と睨みあう。
いくらやんでもこれは小学生のレベルやない、教育熱心なお袋一味が恨めしい。

何とかテストも済ませて勉強会が終わると頭はすっかり蕩けていた。
いかん、頭がトコロテンになりそうや…
グロッキー状態でいると、夕飯らしい匂いが漂ってきた。
どうやらテストの間におキヌ姉ちゃんが作っていたらしい。
キッチンに行くとテーブルには美味そうな料理が並べられ、エプロン姿のおキヌ姉ちゃんが出迎えてくれた。
全員揃うまで箸を付けるのは許されなかったが、その後はもう夢中で食べ続ける。
稽古と勉強で栄養をすっかり使ってしまい、いくら食べても足りないぐらいだ。
しかもそっとデザートまで出してくれてほんまいい人やで。
でも何で結婚してへんのやろ?男の方から言い寄ってきそうなものやけど。
まあ、その分俺にもチャンスは残されているんや。

「おキヌ姉ちゃんって素敵な人やな〜〜」

思わず口にするとひのめとルシオラがムッとする。
愛子もピクッと僅かに眉をひそめたものの平静を装った。
おキヌの方といえば満面の笑みを浮かべて横島を見つめている。

いつも優しくて料理も上手で、GSとしてもネクロマンサーという珍しい能力を持っている憧れの人や。
普段は優しくてええんやけど怒らせるとえらい怖い人なんで。

「…にしても先週の風邪であそこまで怒るのは理不尽やないか」

先日体調が悪いのを隠して学校に行ったら授業中に倒れてしまった。
ただの風邪だったのにあんなに凄い騒ぎになるとは思いもしなかった。
それ以上に皆の怒りを向けられて俺は訳も解らず謝り続けるしかなくて。

「今度嘘をついたら絶対許さないわよ!」
「あんなに体の調子が悪かったら言いなさいと言ってあったじゃないですか!」
「これはお仕置きが必要なようね!」
「堪忍やーっ!皆勤賞の為には仕方なかったんやーっ!」

いつもは優しい姉ちゃん達の凄い怒りように寿命が何年か縮まった気がする。
あの後学校を早退させられて家で天界から駆けつけたヒャクメ姉ちゃんから調べられ
小竜姫様から竜神族の秘薬とかシロ姉ちゃんから天狗の薬とかいろいろ飲まさせて寝かされた。
昔から嘘と病気には何故かみんな敏感だ。
嘘は絶対許さないと日々きつく言われている。
みんながみんな同じ調子だけどその目は凄く真剣で、何だか悲しんでいるようにも見えるので正直をモットーに生きてきた。
でもたまの嘘ぐらいいいじゃないか、悪い事しようと思った訳ではあらへんで。

「横島さん」

するとおキヌ姉ちゃんは何やら悲しそうな顔で俺の事を見詰めていた。
そんな顔されて俺は思わず固まってしまう。
よく見ると愛子姉ちゃんも硬い表情になっていて、ひのめとルシオラもこの雰囲気に黙ってしまった。
少しの沈黙の後、おキヌ姉ちゃんがゆっくりと話し出した。

「横島さんは覚えてないと思いますけど…昔、横島さんは皆に大事な事を隠した結果、命に関わった事があるんです」

そんな事は初耳だった。
いくら記憶をたぐり寄せても心当たりは一切無い。
物心が付く前の話だとしても、嘘が付けた歳じゃないはずだ。
ひのめとルシオラもそんな事があったのかという顔でじっと話を聞いている。

「その時は結局助かったんだけど、それ以来横島君の嘘と体の事には皆敏感なのよ」

愛子姉ちゃんが続きを言ってくれた。
言い方からしてかなり重大な事だったとわかる。
でも詳しい話を聞いても2人共口をつぐんで結局教えてもらえなかった。

「そのうち両親の方から教えてくれると思うから、この話はこれでお終い」

すっきりしない言い方だったが、それより俺は2人の姉ちゃんにあんな顔をさせた申し訳無さで一杯で、
再びこの話題を出すのは止めようと決めた。

「じゃ、また明日」

ひのめに見送られ、俺とルシオラは黙ったまま家に帰る。
後は稽古も勉強も無かったがとても遊ぶ気になれず、いつもより早く布団に潜り込んであの顔を忘れる事にした。


「散歩の時間でござるよ、起きるでござる!」

次の日、俺はシロ姉ちゃんに起こされて目を覚ました。
お袋から家の合鍵を渡されているので毎朝こうして起こしに来る。
どうやら昨夜の気分の悪さは消えていた。

「シロ姉ちゃん、今日はいつもより遠くまでお願いや!」

するとシロ姉ちゃんの尻尾がパタパタと一層動きが激しくなる。
シロ姉ちゃんとの散歩は去年から毎朝の日課になっていた。
といっても背中におんぶされるだけなのだが、しがみ付くだけでも命がけだ。
何しろ山でも何処でも道無き道まで気ままに走るのだからたまらない。

「では出発でござる!」

カタパルトのような加速に一瞬息苦しくなるが腹に力を込めて耐える。
邪魔な道路を跳躍で越えると視界が開けて町全体が見渡せた。
そうして最短コースで都内を抜け、自然の残る奥多摩方面を目指してシロ姉ちゃんが走ってゆく。
風圧がキツいけど、シロ姉ちゃんの背中はあったかくて、サラサラの髪の毛はとてもいい匂いがした。
しがみ付く腕も時々大きなおっぱいに触れてしまう。
意識すると心臓がドキドキしてしまい、周りの景色なんで全然見てる余裕が無い。
こんなに密着しているのだから絶対気付いているはずだけど、シロ姉ちゃんはどう思っているのだろう?
剣術の先生なのに時々逆に「せんせぇ〜」なんて俺の事を呼ぶんだよな。
そんな時は年上の筈なのに子供っぽくてかわいい人に見えてしまって…

「シロ姉ちゃん、将来結婚してくれーー!」

思わず叫ぶとシロ姉ちゃんが突然足を止める。
勢いが付いているのでそのままドリフト走行してやっと道端に停まった。

「本気にするでござるよ…?」

振り向いたシロ姉ちゃんの顔は今まで見たことがないぐらい輝いていて…
煩悩からの叫びだったため、俺はとても恥ずかしくて真っ赤になって黙っているしかなかった。

(令子姉ちゃんもタマモ姉ちゃんも俺に対して「じゃあこの書類にサインして!」「約束破ると怖いわよ?」と言ってくれたよな…)
(すぐ後でひのめとルシオラにしばかれたけど…)

シロ姉ちゃんはそんな俺の反応を見ると微笑みながら再び道路を蹴って走り出した。
思わず落ちそうになって必死に抱き付くと、一陣の風が吹き抜けてゆく。

「今度は逃がさないでござるよ」

小さな呟きは誰にも聞かれることなく風の音にかき消された。


私は毎朝恒例の犬塚シロさんの早朝訪問を目覚まし代わりに布団の中から起き出した。
パジャマを着替えて庭に降り、朝の稽古を開始する。
体をほぐして霊力(というより魔力)を高めながら正拳突きの構えを取る。
ここで精神を集中させなければいけないのだが、私の頭の中は別な事を考えてしまう。

何故か忠夫お兄ちゃんは女の人によく好かれる。
ひのめちゃんもそうだし、令子さんやおキヌさん、シロさん、タマモさん、愛子さん、小鳩さん…
前は単純に可愛がってもらっているとしか思ってなかったけど最近違うと気付いてしまった。
忠夫お兄ちゃんを見る時は好きな人を見るような目をしてるって事に。
クラスでも初恋の話題は盛んなために、そんな目をする子を何人か見ていなければ解らなかった。
それを知った時は胸がとっても苦しくて、私じゃ敵わないと泣いてしまった。

「でも負けない!」

拳先で魔力が弾けた。
庭にはベスパ姉さんが結界が張ってくれているので家やお隣に迷惑は掛からない。
一発一発に気合を乗せて突きを繰り出す。
踏み込んだ足が次第に土にめり込んで足型を作ってゆく。
ラストの一発に渾身の力を込めて宙を叩いた時、弾けた魔力で結界が軋みを上げた。
何時の間にか結界の中に魔力が溜まりすぎてしまったらしい。
放電するように所々でスパークしていた。
アースの限界を超えたのだろう。
私は稽古を切り上げると縁側に座ってまた別の考えを頭に浮かべる。

もう一つ、皆私にライバル心を持っていると思う事がある。
お兄ちゃんは気付いてないけど私との微妙な態度の違いを見れば一目瞭然だ。
何故胸も小さく、お兄ちゃんのタイプからかけ離れている私をライバル視するのかわからない。
でもそれは近い内にわかる気がする、そういう予感がある。

「ただいま〜」

考えている間にかなり時間が経ったのか、お兄ちゃんが帰ってきた。
私はすぐ玄関に走るが何かいつもと様子が違う。
シロさんもお兄ちゃんも照れたような表情を浮かべて笑っていた。

「じゃあ夕方の稽古にまた会うでござるよ」
「うん、シロ姉ちゃんもお仕事頑張ってな」

そう言って2人は手を振りながら玄関先で別れる。
私の姿が全く見えてないようで、何だかムッとした。

「お兄ちゃん…、シロさんと何かあったの?」

ジト目を作って聞いてみると、お兄ちゃんはのろけながら話してくれた。

「いや〜、シロ姉ちゃんて俺に惚れてたんかいな?」

頭をかきながら笑っているお兄ちゃんを見ていると段々腹が立ってきた。

「ヨコシマ!」

怒鳴りつけるとお兄ちゃんはビクッとして真っ直ぐになる。

「うぬぼれるのもいい加減にしなさい!シロさんがヨコシマなんか相手にする訳ないじゃない!」

本当は違うとわかっているけど嘘を付く。
今の私ではとても正攻法ではかないそう無いから。
一転してがっかりしたお兄ちゃんは台所の方につまらなそうに歩いてゆく。
その背中を見ながら、私は早く大人になりたい、そしてお兄ちゃんに見て欲しい、なんて思っていた。
朝食の席ではお母さんがそんなお兄ちゃんと不機嫌な私を比べ、含みのある顔で私を見ていて恥ずかしかった。
やっぱり全部見抜かれている。
お父さんといえば、お兄ちゃんを自分の体験を交えながら励ましてたけどお母さんに殴られた。
このやり取りにお兄ちゃんもすっかりいつも通りに戻っている。

「じゃ、学校言ってくるわ!」
「行って来ます」

朝食を食べるとすぐ学校に行かなければならない。
通っている学校が少し遠く、早く出ないと遅刻してしまうのだ。
しかも自転車通学は禁止されているのに送り迎えもしてくれない。
修行の一環なんて言われているけどお兄ちゃんは不満そうだ。
でも私は、こうして2人で走るのも悪くない、と思える。

「よぉ、ひのめ!」
「忠夫、ルシオラちゃんおはよう」

途中でやはり走ってきたひのめちゃんと合流する。
走りながら普通に挨拶してるけどクラスの子には難しいそうだ。
おかげで中学の陸上部に勧誘された事もある。
当然習い事を理由に断ったけど。

「手、握ってもいい?」

お兄ちゃんにそう聞くと恥ずかしがってそっぽ向かれた。
私は強引に手を握るとスパートをかけてお兄ちゃんを引っ張ってゆく。
ひのめちゃんは少し悔しそうだったけど私は最高の気分で学校を目指した。

私は前を走るルシオラちゃんと忠夫を見ながら考えていた。
昨日のおキヌさん達から語られた忠夫の命に関わる過去の話。
だけど物心付いた時から付き合いがある私にもそんな事があったとは初耳だった。
あの後お母さんに聞いてみたが、はぐらかされてしまってわからない。
それに令子お姉ちゃんが時々見ている大事そうなあの写真。
若いお姉ちゃんとおキヌさん、それに写った男の人は誰なのか。
かなり忠夫の奴に似てる気がするが、兄とか親戚なのだろうか。
でも、写真を見る目とお姉ちゃんが忠夫を見る目が似てる気がして気になってしまう。
ううん、関係ない。
大事なのは忠夫の一番近い人には私がなるという事だ。
ルシオラちゃんも強敵だがお姉ちゃん達にも負けたくない。

「急ぐわよ、忠夫!」

私は忠夫のもう片方の手を握ると、ルシオラちゃんとの間に一瞬火花を散らしてスパートする。
ゴールの校門はもう目の前。
このレース、勝ちは譲れないと全力を出して駆け込んだ。


「それにしても20歳も年下の妹がライバルになるとは思ってもみなかったわ…」

3人の師匠でもあり、落ち着いた大人の女性で優秀なGSの美神はそっとため息を付く。
あの日から彼の友人達は協力して横島とルシオラを育ててきた。
特に美智恵は後ろめたさもあったのかもしれないがひのめと同様に可愛がり、百合子と2人のママの状態だ。
その過程でひのめと横島が毎日の様に顔を合わせた結果、ひのめはすっかり横島に惹かれている。

「ひのめは若いから手強い相手ね〜」

事務所の所長室のソファで当の美智恵が娘を茶化す。

「私だって肌の張りや体型は二十歳の時から全然変わってないわよ!」

エステ通いや特注の美用品で若さを維持している美神が声を荒げる。

「その性格も変わってないんじゃ勝負にならないわよ」

美智恵の方が上手らしく美神が黙ってそっぽ向く。
実際は随分性格が丸くなったと思っているがもっと丸くするよう仕向けたのだ。
そんな娘を微笑ましく見詰めながら別の話題を振ってみる。

「もうすぐあの子達の誕生日ね、ひょっとすると話してあげるのが早まるかもしれないわ」

自分の前世ともいえる出来事は大人になったら伝えようと思っていたが、昨夜ひのめから聞かれた事もあって
美智恵はその予定を早めることも考えていた。
遠い過去ではなくほんの十数年前の事だ。
言わなくてもいずれは知るだろうが、それならばしっかりと話しておくべきだろう。
日々成長してゆく娘と兄妹同然に育った2人はもう強い心を身に付けている。
今すぐ知ったとしてもそれを受け入れられるかもしれない。

「そしたらアイツに償いをさせてやるわ!人をこんなに待たせた代償は大きいわよ」

そう言って美神は不敵に笑う。
過去でも何でも利用してとにかく横島を手に入れるつもりなのだろう。
美智恵はそんな娘を見ながら、彼の将来の伴侶を姉妹のどちらが務めるのか微笑ましく考えていた。





後書き

横島とルシオラが子供状態で分離という思い付きを形にしてみたのですが
虫の知らせとか、死ぬはずだった横島がこの状態になった理由付けとかでかなり強引な展開をする事になってしまいました。
話も長くなってしまい、最後まで読んでいただけた方はありがとうございます。

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