ザ・グレート・展開予測ショー

ある一つの結末(その4)


投稿者名:金物屋
投稿日時:(05/ 1/ 3)

深夜の病院の廊下には連絡を受けて先程のパーティー参加者の殆どが駆けつけていた。
皆、横島の体の事を聞いて驚き、あるいは隠していた事や気付けなかった自分達を怒り出して体を震わせている。

「あの馬鹿野郎!」

怒りのままに壁を殴りつけた雪之丞を弓かおりがたしなめる。
だが雪之丞は殴るのを止めようとせず、数人がかりで押さえ込んで止められた。

「これが怒らずにいられるかよ!俺達ダチだったんだぜ!なのにあいつは裏切りやがったんだ!」

怒りが収まらない雪之丞とは対照的に、ピートとタイガーはうつむいて沈んでいる。

「横島サンがそんな状態だったのに、全然気付けなかった自分が情けないじゃケン」

「体調が悪いと言っていた時に気の毒としか思ってなかった僕にも罪はあります」

2人とも高校生活で頻繁に顔を合わせていながら今の今まで知らなかった自分を責めた。
唐巣神父がそんなピートの肩を叩いて静かに首を振る。

「罪が有るというなら私達も同罪だ、大人が揃いも揃って彼の異変を見過ごしてしまったのだからね」

「魔族の霊基を取り込んだ例なんか少ないのに、定期検査すらしなかった私も原因だわ」

美智恵も自分への怒りで唇を噛み締めていた。
事件後に一度検査しただけで解決したと思い込んでこの結果だ。
原作で事件のアフターケアがいい加減だと言っても程がある。
期待を掛けて時々捜査協力をさせていたくせに謝礼は殆ど娘の懐に直行し、彼には殆ど残らなかった。
結局母娘揃って彼に甘えていたのかもしれない。
連絡を受けて明日には駆け付けて来る筈の彼の両親への申し訳無さで唇を一層強く噛み締めた。

一方で既に横島に対して言いたい事を言った美神達は比較的落ち着いていた。
霊基は安定しており、少なくとも今は命に別状は無いでしょうという小竜姫の見立てもあって静かに精密検査の結果を待つ。

「診断の結果が出ました」

雪之丞が落ち着いた頃、ようやく医師が出てくると皆の視線が一斉に向けられた。
後ろからは検査に加わっていたヒャクメやジークも出てきて医師の後ろに待機する。

「結論から言います、2人とも一才相当の身体的特徴、精神状態であり健康に異常ありませんでした」
「鑑定の結果間違いなく横島さんとルシオラさんだと判明したのね〜」

淡々と医師が結果を報告し、ヒャクメも後ろから口を出す。
幼児になったという事態はともかく、健康だという言葉に安堵の溜息があちこちで出た。
するとヒャクメが言い難そうに言葉を続ける。

「ただ2人とも今までの記憶が全然無いのね〜」

その言葉に皆がざわつき口々に質問が寄せられた。

「それって横島さんは元に戻らないって事なんですか!?」

「みんな落ち着くのね〜!2人とも寝ているから静かにするのね〜」

ヒャクメが質問を遮るとようやく皆が静かになる。
そして全員が集中治療室に招き入れられると、ベッドで安らかに眠る幼子の姿があった。
起こさないよう気を使いながら、かっての煩悩少年と魔族少女の今の姿を覗き込む。

「この可愛いガキが横島か、畜生、これじゃ怒れねえじゃねえかよ」
「姉さんの方が可愛いぞ。横島の奴は馬鹿っぽいところがそのままだ」
「この子供が大人になったらまたあんなセクハラを働くワケ?」
「神よ、この2人に祝福あれ」

2人の寝顔に癒されたのか、先程の重い空気は次第に払拭されてきた。
落ち込んでいたピートやタイガー達にも少しずつ笑顔が戻り始める
少し下がった後方では美神がヒャクメ達の説明を聞いていた。

「つまり分離したって事?」

美神の質問にヒャクメはゆっくりと頷く。

「分離というか、生まれ変わりといっていいのね〜。横島さんはあの時一度死んでまた生まれたのね〜」

「元々2人の霊基はお互い一人分には足りない量だったのね、そのためにこの状態になってしまったのね〜」

今までの体が縮んだのではなく、あの時崩壊した霊基が再構成されて受肉したというのが正しいそうだ。
結果として生まれた状態、一からやり直しという訳だ。

「あのままでは横島さんは彼女の霊基ごと消滅していました、美神さん達の力が奇跡を起こしたんですよ」

ジークが引き継いで話を続ける。
崩壊する寸前の霊基が不安定な状態だからこそ分離できたという事らしい。
奇跡を起こしたと言われてくすぐったい気がしたが、ジークが放った次の言葉に息が止まりかけた。

「検査したところ、横島さんは魔族の霊基を持っています」
「再構成された時の構成物として完全に横島さんの霊基と一体化して分離はできません」

それでは今までの状態と変わらない。
美神は慌てて問い詰めた。

「ち、ちょっと!するとまた横島クンの命は危険な状態なの!?」

その言葉にベッドを囲んでいた面々も驚いた表情でこちらを向く。

「いえ、魔界とも連絡を取り合いながら確認したのですがその心配はありません」

今度は多数に注目されたジークが慌てて横島の危機を否定する。

「前回は人間の体に後から魔族の霊基が入り込んだ結果でしたが、生まれた時からこの状態なら安全だそうです」

でなければ魔族とのハーフは存在しないはずだ、とはっきりとした返答にようやく美神は安心した。

「ルシオラちゃんの場合はどうなんでちゅか?」

美神に変わってパピリオが質問を投げかける。

「彼女は完全復活する程の霊基片が集まりませんでした」

「元々横島さんの体には完全復活するに足る霊基片があったのですがあの時かなりの部分が失われました」

説明しているジークも辛そうな表情で説明を行う。
しかしある程度ルシオラの霊基が崩壊して抜けなければ横島は助からなかったそうだ。
ルシオラだけが完全復活するか、今のように2人が一種の転生で復活するかの二つに一つだったらしい。

「残りの部分もある程度横島さんの構成物として利用されたので本来なら復活は難しかったんです」

霊基が不足したまま復活すれば全くの別人になってしまう。
だが今の状態は本人に間違いないとの結果が既に出ていた。

「逆にルシオラさんも横島さんの構成物の影響を受け、魔族ながら人間に近い存在に変わりました」

分離してもお互い混ざり合った影響があるらしく横島は魔族、ルシオラは人間に少し近くなったそうだ。

「以前横島さんの子供として生まれる可能性に賭けましたが、今が生まれ変わった状態と言えるでしょう」

以前なら霊基の量が増えれば一気に以前の姿に戻れるはずだが、今後は人間同様育っていくしかないという。

「じゃあ記憶とかは戻らないんでちゅか?」

「前世の記憶という形で目覚める可能性はありますが、無理はしない方がいいでしょうね」

前世は前世、現世は現世だ。
彼女のこれからの人生は過去に囚われず新しく歩ませるのが一番良いと諭される。

「そうでちゅか…、あのルシオラちゃんはもう戻らないんでちゅね」

パピリオは一瞬寂しそうな顔をしたが、すぐ笑顔を取り戻した。

「じゃあ今度は私がルシオラちゃんの姉として面倒見るでちゅ!」

ベスパもやはり寂しそうだったが、笑うパピリオを見て気を取り直す。

「パピリオにだけ任せたらどんな子に育つか分からないぞ、私も目が離せないな」

美神達も寂しそうだった。
ルシオラの記憶が戻らないという事はそのまま横島にも当てはまるのだから。
美神自信、前世の記憶を持っているがそれは成人してから思い出したものだ。
幼少の時からその記憶があったとしたら確実に混乱していたとわかる以上、無理はできなかった。

「拙者達、これからどうすれば良いんでござるか?」

悩んでいるシロと裏腹に美神は既に立ち直っていた。

「シロ、横島クンは何度生まれ変わっても必ず横島クンになるわ」

美神には間違い無くそうなるだろうという確信があった。
だってアイツ、前世の時からそのままだもの。

「アンタが諦めても私は待つつもりよ」

そう言い切ると、シロもようやく迷いが吹っ切れたようだ。

「拙者も待つでござる!今度は拙者が先生として剣を教えるでござる」

そしてそのままベッドに駆け寄って小さな先生を眺めていた。

「早く大きくなるでござる〜」

そんなシロを微笑ましく思いつつ、美神もすやすやと眠る横島を見下ろした。

「あの煩悩少年が今はこんなにかわいいなんてね」

自分達の想いや周囲の人間の心配など全く知らずに幸せそうに眠っている。

「いい男に育つのを待っているわよ。感謝しなさい、こんないい女が待ってあげるのだから」

自分でも気の長い話だと思う。でも前回は千年も待ったのだ。
あと十数年の時間を彼の成長を手伝いながら見守るのも悪くない、と思う。

「そしてルシオラ」

隣で気持ち良さそうに眠る幼女に視線を移す。

「今度は私も本気で横島クンを狙うわ、前回は勝ち逃げされちゃったけど今回は負けないんだからね!」

指先を向けてきっぱりと言い放った。
途端にルシオラが寝返りを打って横島に寄りかかる形になる。
しかも腕まで抱きしめてしっかりと捕らえていた。
美神の宣戦布告の意味を理解したはずもないだろうが、迅速な反撃をされて美神も苦笑せざるを得ない。

「戦いはもう始まっているようですね」

横に居た小竜姫が笑い出す。
寿命の長い彼女は待つ事はお手の物だ。
それに彼女は若いままだ、必ず強力なライバルになるだろう。

「負けたくないのは私も同じですよ」

そう言って横島の頭を優しく撫でてやると気のせいかルシオラが一層強く腕を抱き締めたように見えた。
小竜姫は相変わらず笑みを浮かべながら頭を撫で続けている。

「はぁ、これじゃ先が思いやられるわ」

ライバルはまだまだ数多い。
十数年の時間を物ともせずに彼の成長を待つだろうと確信を持って言える。
美神は溜息を吐きながらそれでも負けないと自分に言い聞かせた。

次の日、病院に到着した横島の両親は誰一人責めたりはしなかった。
横島を見て驚くような事も無く、平然と抱き上げて親子3人自然と笑っている。
むしろ土下座する覚悟だった美智恵の方が戸惑った程だった。

「ほんまにちっちゃくなったんやね、今度は迷惑駆けへん子に育ててやるわ」

そう言って逆に頭を下げさせる。

「ほら、皆さんに謝るんや。ウチの馬鹿息子がご迷惑をお掛けしましたわ」

「そう言われましても…、そもそも原因は私の方にあるんです」

美智恵はあくまで悪いのは自分だと主張した。

「いや、それは違うわ。コイツが嘘を付いた結果なんですから一番悪いのはこの馬鹿息子ですわ」

反論を許さない口ぶりで強引に謝罪は打ち切られる。

「それでこれからの事なんやけど、良ければそこに居るルシオラちゃんも一緒に暮らさへんか?」

「えっ!?」

「話を聞いたんやけど、この子には忠夫の体の一部が入り込んでいるんやろ?それならもう他人やないわ」

話を振られたパピリオ達は考え込んだ。
正直一緒に暮らしたいが、小竜姫も自分も子育て経験など皆無であり彼女の為にもその方が良いかもしれない。

「そうでちゅね…、寂しいけどヨコシマと離れ離れになるのはルシオラちゃんにとっても嫌だと思いまちゅし」

この2人なら自分達よりも遥かに上手く育ててくれる、あの横島の両親だからと任せる事を決断した。

「だったら何時でも会いに来ればいいやないか。何ならウチで暮らしても構わへんで」

その言葉に興味を惹かれたパピリオだったが今の彼女は修行中の身であり勝手な行動は許されない。

「申し訳ありません、彼女は今私の所で修行中ですのでお世話になる訳にはいかないんです」

即座に小竜姫が断りを入れるとパピリオは本当に残念がった。

「外出の許可はちゃんとあげますから我慢しなさい」

そっと耳打ちするとパピリオはたちまち機嫌を直す。

「最低でも週一回は譲れないでちゅよ!」

はいはいとなだめる小竜姫に対し、逆にパピリオが耳打ちした。

「…それに、どうせ小竜姫だってヨコシマに会いに行くんでちょ?」

「な、何を言っているんですか!私は彼に対する神としての責任を果たす為に…」

慌てる小竜姫としてやったりと笑顔のパピリオの一方で、もう一人の肉親であるベスパは寂しげだった。
魔界軍所属の彼女は人間界で育つ姉と会う機会は極めて限られてしまう、新たな存在理由の為に自分が選んだ道である分辛かった。
そこに突然声が響く。

「敬礼!!」
「はっ!!」

ワルキューレによる命令が下った途端、反射的にベスパが直立不動で敬礼する。
病院の廊下での突然の出来事に、看護婦や周囲の人間は目を白黒させていた。

「魔界軍第一警戒部隊所属ベスパ曹長!現在をもって人間界に駐留し、和平状態の監視を命ずる!」

「さしあたっては先の大戦の功労者である横島忠夫を害するような不届き者が現れないか目を光らせておく事だ」

その命令内容はパピリオよりもむしろベスパの方がルシオラに会う機会が多くなるといっていいものだった。

「これは正式な命令だ!拒む事は許さんぞ!」

そう言ってワルキューレがニヤッと笑う。

「はっ!第一警戒部隊所属ベスパ曹長、ただ今より和平状態の監視任務に着任致します!」

瞬時に命令の意味を理解したベスパは感謝を込めて復唱した。
パピリオもベスパと会う機会まで出来て本当に喜んでいる。
ワルキューレもこれまた笑顔でジークと共に彼女の様子を眺めていた。

「魔界軍も粋な事をなさいますね〜」

ヒャクメも笑ってルシオラと遊ぶベスパを見やる。
するとまた突然の声が病院の廊下に響いた。

「俺達も忘れてもらっちゃ困るぜ!横島との勝負のケリはまだ付いてねえんだよ」
「彼が道を踏み外さないよう、今度は私達が見守ってあげなければなりませんからね」

何時の間にかやって来ていた雪之丞や唐巣神父など、多くの横島の知人が次々に彼の今後に協力する事を宣言してゆく。
皆に頭を撫でられたり、説教される内に横島は次第に好奇心旺盛な表情を浮かべて積極的になりはじめた。
タイガーの巨体によじ登ろうとしたり、シロの尻尾やジークの耳を触り出したりとやんちゃ振りを見せている。
そんな彼を皆は笑顔で見詰めていた。

「良かったやな忠夫。こんなにもお前の事を気にかけてくれる人達が居るんやで、二度と困らせるんやないで」

百合子は息子が本当に多くの友人を得ていた事を実感し、必ず良い子に育つだろうと胸が熱くなるのを押さえられなかった。

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